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敵
同じ匂い
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よく見ると、シュートの目は焦点が定まっていない。正気ではないようだ。
「はっ!」
ベルの手刀がシュートの首の後ろに炸裂した。ううっとうめき声がしてシュートはその場に倒れた。
「もう大丈夫…かな。ミックは?」
ディルが倒れたシュートの脈や眼球の動きを確認しながら、ミックを見やった。
「私は大丈夫。シュート、どうしちゃったのかな。」
「誰かの魔法かも。他人を操るような…でも、それには何かしらの形で、相手と接触していなきゃいけないはずよ。魔法をかけるような言葉を伝えるとか、自分の魔力を込めたものを渡すとか…。」
ベルがスカートの上から巻き付けている飾り布を取り、折り畳んでシュートの枕にしながら言った。
ミック達は操られていない。ということは、シュートが一人で行動しているときに魔法の使い手と会って話をしたか何か受け取ったかだ。ミックははっとした。
「シュート、本読んでた!行商の人から買ったって。」
本は部屋にあるので確認はできないが、恐らくそれが媒介で間違いなさそうだった。
その本売りの行商と火炎瓶を投げ込んだもの、そして門番に扮した老人が別々の人物かは分からないが、多く見積もるなら今わかってる時点で敵は三人いることになる。
「これが、俺たちを狙ってのものなのか、そうでないのかはわからない。でも、タイミングから考えて前者の可能性は高い。とすると俺たちは…。」
「町の人達を守らなきゃね。私達のせいで酷い目に遭うなんて、そんなの…許せない。」
ミックの言葉に、ディルとベルは顔を見合わせた。迷わず保身ではなく他人の安全を優先する決断を下すミックに驚いていたのだが、ミックは気が付いていない。
ミックは自分のせいで誰かが傷つくのは、もう嫌だった。怒りや悲しみに混ざって、吐き気を催すような嫌悪感のようなものが湧き上がってくる。
「そうだね。シュートはここで見てもらおう。ラズが行った方向には俺が行って、合流を試みる。姉さんとミックは二人組であっちの方角へ。夜明けにまたここに集まろう。」
ミックは矢をいつでもうてるよう構えて、ベルとともに走り出した。
こんなことになるなら、昼間無理矢理にでもあの門番に扮したガラを倒しておくべきだった。なぜガラだとわかったかなんて、理由はどうとでもできたはずだ。ラズは自分の判断の甘さに腹が立った。
ラズは目的の路地へと駆け込んだ。フードを被った人影が見える。こちらを見ていない。ラズは剣がつっかえないよう気を付けつつ、心臓を狙って斬りかかった。
「うわっ、びっくりしたなぁ。」
「ちっ。」
かわされた。今のを反応できるとは、相当上位のガラだ。
「お、もしかして君は旅の仲間の一人かな?」
ひらりとかわした瞬間にフードが落ちたガラが笑顔で言った。もともと話をするつもりはなかったが、ガラの顔を見たラズは言葉を失った。
「はは、この顔を見てその反応ってことは、そうみたいだね。」
ミックだ。青い髪、翡翠色の瞳。背格好も声も同じだ。違うのは、髪がとても長いことぐらいだった。しかし、白目部分は黒いし、気配は間違いなくガラだ。
「貴様…何者だ。目的はなんだ。」
しっかりと剣を構え直した。他人の姿かたちを写し取れる魔法もあるのかもしれない。しかし、それにしては、中途半端だ。髪の長さだけ違うというのはおかしい。そして向かい合ってみてわかったが、このガラ、魔力の量が尋常ではない。得体のしれない存在に、ラズは久々に恐怖心を覚えた。
「そんなに身構えなくていいよ。今回はちょっとしたいたずらと、様子見だから。」
ラズは相手が言い切る前に心臓めがけて剣を突いた。しかし、またもかわされてしまった。
「話を振っておいて聞く気なし、か。ん…?ちょっと待って、君は『こっち側』じゃないの?」
ラズをまじまじと見て、ガラは不思議そうな顔をした。ラズは一瞬、息ができなくなった。
やめろ、違う!俺は…
「うおおお!」
渾身の力を込めて斬撃を繰り出したが、結果は同じだった。
「またね!同じ匂いのする、剣士さん♪」
謎のガラは、狭い路地の向かい合う壁を蹴った反動で往復しながら上へと移動し、屋根の上へ逃げてしまった。ラズは構えを解いた。どっと汗が出てきた。呼吸が上手くてきていない。
こっち側、同じ匂い…まさか、知っているのか?そんなはずはない。誰も話すメリットがない。気配で悟られた?そんなバカな。呪(まじな)いは効いているはずだ。ラズは左手首を確認したが、数珠はきちんと付いていた。
心を落ち着かせようと小声でまじないの言葉を唱えながら路地から出ると、ディルに呼び止められた。
「いた!ラズ、無事?」
「誰に物を言っている。無事に決まっているだろう。」
苦笑いをして、ディルは端的に今わかっていることと、行っていることとを話した。ラズもたった今ガラと対峙したが、逃げられたことを伝えた。
「ラズが?それ、相当やばい奴だね。」
ディルは察しが良い。これがシュートだったらきっと、これみよがしにバカにしてきたことだろう。二人は大通りを進み、被害状況の確認とガラの捜索を行った。
「こっちだ!」
ラズはスピードを落とさず大通りから細い脇道に曲がった。ディルは慌てて付いてきた。
「はっ!」
ベルの手刀がシュートの首の後ろに炸裂した。ううっとうめき声がしてシュートはその場に倒れた。
「もう大丈夫…かな。ミックは?」
ディルが倒れたシュートの脈や眼球の動きを確認しながら、ミックを見やった。
「私は大丈夫。シュート、どうしちゃったのかな。」
「誰かの魔法かも。他人を操るような…でも、それには何かしらの形で、相手と接触していなきゃいけないはずよ。魔法をかけるような言葉を伝えるとか、自分の魔力を込めたものを渡すとか…。」
ベルがスカートの上から巻き付けている飾り布を取り、折り畳んでシュートの枕にしながら言った。
ミック達は操られていない。ということは、シュートが一人で行動しているときに魔法の使い手と会って話をしたか何か受け取ったかだ。ミックははっとした。
「シュート、本読んでた!行商の人から買ったって。」
本は部屋にあるので確認はできないが、恐らくそれが媒介で間違いなさそうだった。
その本売りの行商と火炎瓶を投げ込んだもの、そして門番に扮した老人が別々の人物かは分からないが、多く見積もるなら今わかってる時点で敵は三人いることになる。
「これが、俺たちを狙ってのものなのか、そうでないのかはわからない。でも、タイミングから考えて前者の可能性は高い。とすると俺たちは…。」
「町の人達を守らなきゃね。私達のせいで酷い目に遭うなんて、そんなの…許せない。」
ミックの言葉に、ディルとベルは顔を見合わせた。迷わず保身ではなく他人の安全を優先する決断を下すミックに驚いていたのだが、ミックは気が付いていない。
ミックは自分のせいで誰かが傷つくのは、もう嫌だった。怒りや悲しみに混ざって、吐き気を催すような嫌悪感のようなものが湧き上がってくる。
「そうだね。シュートはここで見てもらおう。ラズが行った方向には俺が行って、合流を試みる。姉さんとミックは二人組であっちの方角へ。夜明けにまたここに集まろう。」
ミックは矢をいつでもうてるよう構えて、ベルとともに走り出した。
こんなことになるなら、昼間無理矢理にでもあの門番に扮したガラを倒しておくべきだった。なぜガラだとわかったかなんて、理由はどうとでもできたはずだ。ラズは自分の判断の甘さに腹が立った。
ラズは目的の路地へと駆け込んだ。フードを被った人影が見える。こちらを見ていない。ラズは剣がつっかえないよう気を付けつつ、心臓を狙って斬りかかった。
「うわっ、びっくりしたなぁ。」
「ちっ。」
かわされた。今のを反応できるとは、相当上位のガラだ。
「お、もしかして君は旅の仲間の一人かな?」
ひらりとかわした瞬間にフードが落ちたガラが笑顔で言った。もともと話をするつもりはなかったが、ガラの顔を見たラズは言葉を失った。
「はは、この顔を見てその反応ってことは、そうみたいだね。」
ミックだ。青い髪、翡翠色の瞳。背格好も声も同じだ。違うのは、髪がとても長いことぐらいだった。しかし、白目部分は黒いし、気配は間違いなくガラだ。
「貴様…何者だ。目的はなんだ。」
しっかりと剣を構え直した。他人の姿かたちを写し取れる魔法もあるのかもしれない。しかし、それにしては、中途半端だ。髪の長さだけ違うというのはおかしい。そして向かい合ってみてわかったが、このガラ、魔力の量が尋常ではない。得体のしれない存在に、ラズは久々に恐怖心を覚えた。
「そんなに身構えなくていいよ。今回はちょっとしたいたずらと、様子見だから。」
ラズは相手が言い切る前に心臓めがけて剣を突いた。しかし、またもかわされてしまった。
「話を振っておいて聞く気なし、か。ん…?ちょっと待って、君は『こっち側』じゃないの?」
ラズをまじまじと見て、ガラは不思議そうな顔をした。ラズは一瞬、息ができなくなった。
やめろ、違う!俺は…
「うおおお!」
渾身の力を込めて斬撃を繰り出したが、結果は同じだった。
「またね!同じ匂いのする、剣士さん♪」
謎のガラは、狭い路地の向かい合う壁を蹴った反動で往復しながら上へと移動し、屋根の上へ逃げてしまった。ラズは構えを解いた。どっと汗が出てきた。呼吸が上手くてきていない。
こっち側、同じ匂い…まさか、知っているのか?そんなはずはない。誰も話すメリットがない。気配で悟られた?そんなバカな。呪(まじな)いは効いているはずだ。ラズは左手首を確認したが、数珠はきちんと付いていた。
心を落ち着かせようと小声でまじないの言葉を唱えながら路地から出ると、ディルに呼び止められた。
「いた!ラズ、無事?」
「誰に物を言っている。無事に決まっているだろう。」
苦笑いをして、ディルは端的に今わかっていることと、行っていることとを話した。ラズもたった今ガラと対峙したが、逃げられたことを伝えた。
「ラズが?それ、相当やばい奴だね。」
ディルは察しが良い。これがシュートだったらきっと、これみよがしにバカにしてきたことだろう。二人は大通りを進み、被害状況の確認とガラの捜索を行った。
「こっちだ!」
ラズはスピードを落とさず大通りから細い脇道に曲がった。ディルは慌てて付いてきた。
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