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気になる
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日差しがポカポカと温かな午後。夕暮れまでにはまだ少し時間がある。田おこしの作業がひと段落着いたところで、鋤を担いだまま弥助は一人散歩にでかけた。昨日の母の話が気になり、小次郎爺さんの家まで行ってみようと思ったのだ。
一本残った桜は、爺さんの家よりも背が高い。幹はどっしりと太く弥助一人では腕を回しても手が届かないだろう。つぼみはふっくらとしており、明日にも咲きそうだった。
弥助はその桜の木を、初めて意識してよく見た。とても立派だと思った。村にある他の桜の木とは風格が違った。まだ花開いていないのに、佇まいに華があった。
小次郎爺さんは家にいるのかいないのか、弥助は姿を見ずに帰路に着いた。
今日はもしかしたらもう咲いているかもしれない…次の日も農作業の後に弥助は小次郎爺さんの桜を見に行った。
「お、きれいだな。」
ほんの数個だが、開花していた。薄い紅色の今にも消えてしまいそうな儚い小さな花びらが、ちょんちょんとくっついているさまがとてもかわいらしかった。弥助はこんなに桜って美しかったのか、とこの歳になって改めて驚いた。
弥助は毎日小次郎爺さんの桜を見に行き続けた。何だか気になって仕方がなかったのだ。
見に行き初めて一週間程経った日、とうとう桜は満開となった。村の他の桜とはやはり雰囲気が違う、と弥助は思った。青空に映える花を見上げながら、どうしてか弥助は切ない気分になった。
「お前、そんなにその木が好きか。」
突然声を掛けられた弥助は飛び上がった。小次郎爺さんだ。むすっと不機嫌そうな顔をしている。桜の花には目もくれない。
「亀助(きすけ)んとこの次男坊だな。ここんとこ毎日来とるよな。」
小さい村だから当然と言えば当然だが、身元はばれている。弥助は正直に答えることにした。
「うん、何だか惹かれるんだ。最初はただ立派な木だと思っとったんだけど…。」
どう表現すべきか、弥助は少し考えた。桜を見る。小次郎爺さんは弥助の言葉を待っているようだった。
「見ていると、何だか少し…悲しい気持ちになる。この桜が、誰かに会いたいって願っているかのような。でもそれが叶わないって思っているかのような。」
変なことを言ってしまった、と弥助はおそるおそる小次郎爺さんの方へ目をやった。爺さんは弥助の想像とは違った顔をしていた。
「そんなこというやつぁ、お前が初めてだな。」
爺さんは、泣きそうな表情だった。
「爺さん、何で桜が嫌いなんだい?」
以前母から聞いた話を思い出し、思わずきいてしまった。爺さんの表情からは桜が嫌いという感情は読み取れない。むしろ逆だと弥助は感じた。
立ち話もなんだから、と小次郎爺さんは弥助を家へ招き入れた。
一本残った桜は、爺さんの家よりも背が高い。幹はどっしりと太く弥助一人では腕を回しても手が届かないだろう。つぼみはふっくらとしており、明日にも咲きそうだった。
弥助はその桜の木を、初めて意識してよく見た。とても立派だと思った。村にある他の桜の木とは風格が違った。まだ花開いていないのに、佇まいに華があった。
小次郎爺さんは家にいるのかいないのか、弥助は姿を見ずに帰路に着いた。
今日はもしかしたらもう咲いているかもしれない…次の日も農作業の後に弥助は小次郎爺さんの桜を見に行った。
「お、きれいだな。」
ほんの数個だが、開花していた。薄い紅色の今にも消えてしまいそうな儚い小さな花びらが、ちょんちょんとくっついているさまがとてもかわいらしかった。弥助はこんなに桜って美しかったのか、とこの歳になって改めて驚いた。
弥助は毎日小次郎爺さんの桜を見に行き続けた。何だか気になって仕方がなかったのだ。
見に行き初めて一週間程経った日、とうとう桜は満開となった。村の他の桜とはやはり雰囲気が違う、と弥助は思った。青空に映える花を見上げながら、どうしてか弥助は切ない気分になった。
「お前、そんなにその木が好きか。」
突然声を掛けられた弥助は飛び上がった。小次郎爺さんだ。むすっと不機嫌そうな顔をしている。桜の花には目もくれない。
「亀助(きすけ)んとこの次男坊だな。ここんとこ毎日来とるよな。」
小さい村だから当然と言えば当然だが、身元はばれている。弥助は正直に答えることにした。
「うん、何だか惹かれるんだ。最初はただ立派な木だと思っとったんだけど…。」
どう表現すべきか、弥助は少し考えた。桜を見る。小次郎爺さんは弥助の言葉を待っているようだった。
「見ていると、何だか少し…悲しい気持ちになる。この桜が、誰かに会いたいって願っているかのような。でもそれが叶わないって思っているかのような。」
変なことを言ってしまった、と弥助はおそるおそる小次郎爺さんの方へ目をやった。爺さんは弥助の想像とは違った顔をしていた。
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爺さんは、泣きそうな表情だった。
「爺さん、何で桜が嫌いなんだい?」
以前母から聞いた話を思い出し、思わずきいてしまった。爺さんの表情からは桜が嫌いという感情は読み取れない。むしろ逆だと弥助は感じた。
立ち話もなんだから、と小次郎爺さんは弥助を家へ招き入れた。
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