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番外編
ダリルの日常1
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「シール様…ちょっと気分が優れませんの…宜しければ休憩室まで連れて行って頂けません?…」
煌びやかなシャンデリアの下、シャンデリアに負けないくらいに煌びやかに着飾った令嬢が口元を扇で隠しながら上目遣いでしなだれかかってきた。
またか、と溜息を付きそうになるが、それに気付いた隣にいたアーサーが肘でつついてくれたおかげで吐き出しかけた息を吸い込んで止める。
そのせいで、無駄に振りかけたのだろう今流行りだと言う甘ったるい香水の匂いを吸い込んでしまい、思わず眉を顰めてしまう。
「申し訳ございません。今日は皇太子殿下と皇太子妃殿下の護衛としております故、他の者をお呼びしますので少々お待ち下さい」
確かこの令嬢は侯爵家のご令嬢だったはず。
失礼がないようにと右手を左胸に当てて礼をし、会場内で警備に当たっている部下に視線をやると慌てたように俺の腕から令嬢が離れた。
「いっいえ!もう大丈夫ですわ!!」
裏返った声でそう言うとそそくさと会場内の人込みの中へ消えていく。
「別に、行っても良かったのに。美しい人だったじゃないか」
何が楽しいのか含み笑いをしながらアーサーは言うと、そっと隣に居るロベリアの腰を抱いた。
悪阻の期間とやらが終わって、やっと公のパーティーに出席できるようになったロベリアを伴って始めての夜会。まだ妊娠中とあって大事を取らなくてはいけないけれど、それでも「皇太子妃としての勤めですから」とアーサーの反対を押し切って出たロベリアに、万が一何かあったら大変だと言う事で騎士団の内の私が率いる部隊が会場内の警護を任された。
「仕事中だし好みではないですから」
そう。好みではなかった。
確かに美しくはあった。美女、と呼ばれる程度には。
けれど「具合が悪い」と嘘をついて媚びてくる様は、まるでエリーのようで好きにはなれない。
それ以前に、エリーの件のせいであのタイプの女はできれば近寄りたくもない。
「枯れてるねぇ。まぁ、仕方がないか」
苦笑しながら歩を進め、来賓の他国の王族達と会話をしはじめたアーサーを視線で追いつつ、後ろで控える事に徹する。
◆◆◆◆◆
「たーいっちょーう!」
片手に酒の入ったグラスを抱え上げながら背中におぶさるように飛びついて来たのは部下のノリス。正しくはノリューズというらしいが、隊の中ではノリスと呼ばれている。
「ノリス!酒が掛かるから暴れんな!」
俺の隣に座っていた、俺の父で俺の上司である騎士団長のダグラス・シールが叱る。
「あー!だんちょーもいるー!おとーさーん!!」
「誰がお父さんだ誰が!お前みたいな息子を持った覚えはない!!」
ケラケラと酔っているのか、真っ赤な顔で笑いながら親父に抱きつこうとするノリス。怒鳴りながら嫌がるそぶりを見せながらも大人しく抱きつかせている親父は、部下にかなり慕われている。
貴賎の別なく、むしろ「人材は宝」と言って皇帝陛下に直訴して、腕が立ち信頼できる者ならと平民でも騎士団に入れるようにした人だった。
「えー?だって、だんちょーは、たいちょーのおとっつぁんでしょー?そーしたらー、たいちょーはおれらのおとっつぁんだからー、おとっつぁんのおとっつあんはー…おじーちゃんだー!」
部屋にドっと笑い声が響いた。
「違いない!おじいちゃんだな!」
「ってか、隊長がおとっつぁんって…ぶほっ」
「おいこら!!誰がおじいちゃんだ誰が!!まだ若い!ってか誰だノリスに飲ませたヤツは!?」
他国の王族を呼んでの夜会が終わり、会場内警備に当たっていた俺の部隊と、城の警備部隊、それとその統括である団長の親父とで軽く打ち上げをしていたはずだった。
けれど、我も我もと非番の騎士団員全員集まり、酒盛り大会になっていた。
「ったく。誰だよノリスを騎士団に入れたのは?」
「親父だろ」
酔っ払いノリスは他の席にふらふらと移動していき、親父はそれを視線だけで見送ると不服そうに俺に愚痴る。
「親父じゃないだろ、ここでは団長と呼べ」
「仕事中じゃねぇんだからいいだろ」
伯爵という上位貴族になるにも拘らず口の悪い親父は、ノリスの酒で少し濡れた白髪交じりの赤銅色の髪をかき上げるように後ろに撫で付け、俺をジッと見る。
赤いその瞳に映るのは、目の前の男を若くしたような、赤銅色の瞳と、赤銅色の短髪を後ろに撫で付けた男だった。
「ダリル…お前……ホモなのか?…」
「ぶほっ!」
思いっきり飲んでいた酒を噴出してしまった。って、何言うんだこの親父!?
「何でそうなる!?」
「いや、だって、俺、お前の年の位にはお前すでにいたし、十代後半頃には女の子達にキャーキャー言われてめっちゃモテたもん。なのにお前は今年24歳だというのに未だに一人身…婚約者どころか彼女すら連れてこない。おかしいだろ?で、パパは考えた。お前はホモなんじゃないか?と」
「パパとか言うな気持ち悪ぃ。そしてホモじゃない!!」
持っていたグラスをダン!!とテーブルに強く置く。
偏見はない方だけど、断じてホモではない!
「大体さー、お前、いっつも殿下か、神官長の倅か、公爵家の倅。もしくはノリスと一緒だろ?親としては心配なわけよ。ちゃあんと嫁に行けるか、ってさ」
「いやいやいや、待てよ。嫁じゃないし他にも友達的なのいるから。そいつらだけと一緒なわけじゃないから」
「だーいじょうぶですよー。だんちょー。もしたいちょーが売れ残ったら、俺が嫁に貰いますから!」
いつの間にか戻ってきていたノリスが俺と親父の後ろで仁王立ちになって、ドンと自らの胸を叩いている。
「ちょっとまて、だから何で俺が嫁に!?」
「ひゅーひゅー」
「ひゅーひゅーじゃないから!!」
「「「ひゅーひゅー」」」
「お前ら!?」
周りの部下達も聞いていたらしく、親父がひゅーひゅーとか言い出したら、部下達も混じって言い出した。
勘弁してくれ!!!!
―――――――
お読み頂きありがとうございます。
毎時間増えていくお気に入り登録にソワソワしつつ、番外編を書いています。
沢山の人に読んで頂けるのが本当に嬉しくて嬉しくてありがとうございますという言葉だけで足りないくらいです!!
ダリル編如何でしたでしょうか?ダリル編もタイトルを見て頂いた通り、2に続く予定です。
また読んでいただけましたら幸いです。
ありがとうございました。
煌びやかなシャンデリアの下、シャンデリアに負けないくらいに煌びやかに着飾った令嬢が口元を扇で隠しながら上目遣いでしなだれかかってきた。
またか、と溜息を付きそうになるが、それに気付いた隣にいたアーサーが肘でつついてくれたおかげで吐き出しかけた息を吸い込んで止める。
そのせいで、無駄に振りかけたのだろう今流行りだと言う甘ったるい香水の匂いを吸い込んでしまい、思わず眉を顰めてしまう。
「申し訳ございません。今日は皇太子殿下と皇太子妃殿下の護衛としております故、他の者をお呼びしますので少々お待ち下さい」
確かこの令嬢は侯爵家のご令嬢だったはず。
失礼がないようにと右手を左胸に当てて礼をし、会場内で警備に当たっている部下に視線をやると慌てたように俺の腕から令嬢が離れた。
「いっいえ!もう大丈夫ですわ!!」
裏返った声でそう言うとそそくさと会場内の人込みの中へ消えていく。
「別に、行っても良かったのに。美しい人だったじゃないか」
何が楽しいのか含み笑いをしながらアーサーは言うと、そっと隣に居るロベリアの腰を抱いた。
悪阻の期間とやらが終わって、やっと公のパーティーに出席できるようになったロベリアを伴って始めての夜会。まだ妊娠中とあって大事を取らなくてはいけないけれど、それでも「皇太子妃としての勤めですから」とアーサーの反対を押し切って出たロベリアに、万が一何かあったら大変だと言う事で騎士団の内の私が率いる部隊が会場内の警護を任された。
「仕事中だし好みではないですから」
そう。好みではなかった。
確かに美しくはあった。美女、と呼ばれる程度には。
けれど「具合が悪い」と嘘をついて媚びてくる様は、まるでエリーのようで好きにはなれない。
それ以前に、エリーの件のせいであのタイプの女はできれば近寄りたくもない。
「枯れてるねぇ。まぁ、仕方がないか」
苦笑しながら歩を進め、来賓の他国の王族達と会話をしはじめたアーサーを視線で追いつつ、後ろで控える事に徹する。
◆◆◆◆◆
「たーいっちょーう!」
片手に酒の入ったグラスを抱え上げながら背中におぶさるように飛びついて来たのは部下のノリス。正しくはノリューズというらしいが、隊の中ではノリスと呼ばれている。
「ノリス!酒が掛かるから暴れんな!」
俺の隣に座っていた、俺の父で俺の上司である騎士団長のダグラス・シールが叱る。
「あー!だんちょーもいるー!おとーさーん!!」
「誰がお父さんだ誰が!お前みたいな息子を持った覚えはない!!」
ケラケラと酔っているのか、真っ赤な顔で笑いながら親父に抱きつこうとするノリス。怒鳴りながら嫌がるそぶりを見せながらも大人しく抱きつかせている親父は、部下にかなり慕われている。
貴賎の別なく、むしろ「人材は宝」と言って皇帝陛下に直訴して、腕が立ち信頼できる者ならと平民でも騎士団に入れるようにした人だった。
「えー?だって、だんちょーは、たいちょーのおとっつぁんでしょー?そーしたらー、たいちょーはおれらのおとっつぁんだからー、おとっつぁんのおとっつあんはー…おじーちゃんだー!」
部屋にドっと笑い声が響いた。
「違いない!おじいちゃんだな!」
「ってか、隊長がおとっつぁんって…ぶほっ」
「おいこら!!誰がおじいちゃんだ誰が!!まだ若い!ってか誰だノリスに飲ませたヤツは!?」
他国の王族を呼んでの夜会が終わり、会場内警備に当たっていた俺の部隊と、城の警備部隊、それとその統括である団長の親父とで軽く打ち上げをしていたはずだった。
けれど、我も我もと非番の騎士団員全員集まり、酒盛り大会になっていた。
「ったく。誰だよノリスを騎士団に入れたのは?」
「親父だろ」
酔っ払いノリスは他の席にふらふらと移動していき、親父はそれを視線だけで見送ると不服そうに俺に愚痴る。
「親父じゃないだろ、ここでは団長と呼べ」
「仕事中じゃねぇんだからいいだろ」
伯爵という上位貴族になるにも拘らず口の悪い親父は、ノリスの酒で少し濡れた白髪交じりの赤銅色の髪をかき上げるように後ろに撫で付け、俺をジッと見る。
赤いその瞳に映るのは、目の前の男を若くしたような、赤銅色の瞳と、赤銅色の短髪を後ろに撫で付けた男だった。
「ダリル…お前……ホモなのか?…」
「ぶほっ!」
思いっきり飲んでいた酒を噴出してしまった。って、何言うんだこの親父!?
「何でそうなる!?」
「いや、だって、俺、お前の年の位にはお前すでにいたし、十代後半頃には女の子達にキャーキャー言われてめっちゃモテたもん。なのにお前は今年24歳だというのに未だに一人身…婚約者どころか彼女すら連れてこない。おかしいだろ?で、パパは考えた。お前はホモなんじゃないか?と」
「パパとか言うな気持ち悪ぃ。そしてホモじゃない!!」
持っていたグラスをダン!!とテーブルに強く置く。
偏見はない方だけど、断じてホモではない!
「大体さー、お前、いっつも殿下か、神官長の倅か、公爵家の倅。もしくはノリスと一緒だろ?親としては心配なわけよ。ちゃあんと嫁に行けるか、ってさ」
「いやいやいや、待てよ。嫁じゃないし他にも友達的なのいるから。そいつらだけと一緒なわけじゃないから」
「だーいじょうぶですよー。だんちょー。もしたいちょーが売れ残ったら、俺が嫁に貰いますから!」
いつの間にか戻ってきていたノリスが俺と親父の後ろで仁王立ちになって、ドンと自らの胸を叩いている。
「ちょっとまて、だから何で俺が嫁に!?」
「ひゅーひゅー」
「ひゅーひゅーじゃないから!!」
「「「ひゅーひゅー」」」
「お前ら!?」
周りの部下達も聞いていたらしく、親父がひゅーひゅーとか言い出したら、部下達も混じって言い出した。
勘弁してくれ!!!!
―――――――
お読み頂きありがとうございます。
毎時間増えていくお気に入り登録にソワソワしつつ、番外編を書いています。
沢山の人に読んで頂けるのが本当に嬉しくて嬉しくてありがとうございますという言葉だけで足りないくらいです!!
ダリル編如何でしたでしょうか?ダリル編もタイトルを見て頂いた通り、2に続く予定です。
また読んでいただけましたら幸いです。
ありがとうございました。
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