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悪の王妃15
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そこからは早かった。
山と言えど、その物珍しさから観光地として発展しているその『裁きの谷』までの道は舗装されていて、馬車で進む事ができる。
わたくしはそのままの恰好で、手には今から行くグラスト地方で作られたグラスト・レッドのピアスを手に握りしめて馬車の中にいる。
どの生でも、死ぬ際にはこのピアスを身に着けていた。
耳につけている事もあれば、手に持っていたり。服に縫い付けて持ち歩く事もあった。
今は亡き先々代王妃であったお婆様の形見のピアスは、何年経ってもその血のような赤は色褪せない。
「そんなに強く握られては、手をお怪我なさいますよ、王妃様」
そっとわたくしの手に温かい手が触れて握りしめた手をやんわりと開かせようとする。
この侍女は最後の最後までわたくしについて来てくれるらしい。
微笑んだその目元は、もう記憶の底になってしまったお婆様に似ている気がする。
最後にお婆様にお会いしたのはわたくしが4歳か5歳の頃だから、似ているかどうかよりも顔をまったく覚えていないのですけれど。なんとなく、そんな気がしたの。
国内と言えど、中央にある王都から最南東への移動は時間が掛かった。
途中何度か町に寄り泊まる事で七日を費やしてやっと到着した。
途中の町でリリアンヌが逃げ出そうとして捕まったりと色々な事があったけれど、いろんな町を見て、その土地土地の食べ物を知ってわたくしはかなり楽しかった。
今までは王女だから…王妃だからと城から出られず、貴族のお茶会などもわたくしが主催側にしかなれなかったから、見るもの全てが新鮮だった。
その度にわたくしの様子を見た旦那様が目を丸くするのがとても楽しかったのは、わたくしの心の中だけの秘密。
山の頂。
思った以上に風は強く、騎士に掴まれて立っているのがやっとだ。
鍛えていない旦那様も風に揺られて少しゆらゆらしているように見える。
「では王妃アルティメルダ。その侍女リリアンヌの刑の執行を始める」
風の音でなんとなくしか聞こえない声。
場所が場所だから刑の見届け人はほとんどいない。
旦那様と騎士達。それと数人のお付きの者。あとはたまたま観光に来ていた一般市民。
旦那様の執行の声よりも、隣で泣き叫んでいるリリアンヌの声の方が大きくて、笑ってしまいそうになる。
『王女なのですから人前で泣くことは許されません。いつでも毅然となさってください』
その通りね、リリアンヌ。
わたくしは王族。毅然と微笑んで逝きましょう。
「それでは御前、失礼致します。国王陛下……いいえ。旦那様」
身体に染み付いた完璧なカテーシーをする。
髪は侍女が整えてくれた。わたくしの耳を飾るのはお婆様のピアス。
服は王妃らしいドレスをと言われたけれど、コルセットのない締め付けのない自由を知ってしまったから、途中の町で購入した簡素なワンピース。
死に行く者が華美に振舞っても意味がないから、化粧もいらない。
「先に行くわね。リリアンヌ」
簡素な恰好であっても、気品は忘れずに優雅に微笑んで。
わたくしは、風に誘われるままに谷底へと飛び降りた。
山と言えど、その物珍しさから観光地として発展しているその『裁きの谷』までの道は舗装されていて、馬車で進む事ができる。
わたくしはそのままの恰好で、手には今から行くグラスト地方で作られたグラスト・レッドのピアスを手に握りしめて馬車の中にいる。
どの生でも、死ぬ際にはこのピアスを身に着けていた。
耳につけている事もあれば、手に持っていたり。服に縫い付けて持ち歩く事もあった。
今は亡き先々代王妃であったお婆様の形見のピアスは、何年経ってもその血のような赤は色褪せない。
「そんなに強く握られては、手をお怪我なさいますよ、王妃様」
そっとわたくしの手に温かい手が触れて握りしめた手をやんわりと開かせようとする。
この侍女は最後の最後までわたくしについて来てくれるらしい。
微笑んだその目元は、もう記憶の底になってしまったお婆様に似ている気がする。
最後にお婆様にお会いしたのはわたくしが4歳か5歳の頃だから、似ているかどうかよりも顔をまったく覚えていないのですけれど。なんとなく、そんな気がしたの。
国内と言えど、中央にある王都から最南東への移動は時間が掛かった。
途中何度か町に寄り泊まる事で七日を費やしてやっと到着した。
途中の町でリリアンヌが逃げ出そうとして捕まったりと色々な事があったけれど、いろんな町を見て、その土地土地の食べ物を知ってわたくしはかなり楽しかった。
今までは王女だから…王妃だからと城から出られず、貴族のお茶会などもわたくしが主催側にしかなれなかったから、見るもの全てが新鮮だった。
その度にわたくしの様子を見た旦那様が目を丸くするのがとても楽しかったのは、わたくしの心の中だけの秘密。
山の頂。
思った以上に風は強く、騎士に掴まれて立っているのがやっとだ。
鍛えていない旦那様も風に揺られて少しゆらゆらしているように見える。
「では王妃アルティメルダ。その侍女リリアンヌの刑の執行を始める」
風の音でなんとなくしか聞こえない声。
場所が場所だから刑の見届け人はほとんどいない。
旦那様と騎士達。それと数人のお付きの者。あとはたまたま観光に来ていた一般市民。
旦那様の執行の声よりも、隣で泣き叫んでいるリリアンヌの声の方が大きくて、笑ってしまいそうになる。
『王女なのですから人前で泣くことは許されません。いつでも毅然となさってください』
その通りね、リリアンヌ。
わたくしは王族。毅然と微笑んで逝きましょう。
「それでは御前、失礼致します。国王陛下……いいえ。旦那様」
身体に染み付いた完璧なカテーシーをする。
髪は侍女が整えてくれた。わたくしの耳を飾るのはお婆様のピアス。
服は王妃らしいドレスをと言われたけれど、コルセットのない締め付けのない自由を知ってしまったから、途中の町で購入した簡素なワンピース。
死に行く者が華美に振舞っても意味がないから、化粧もいらない。
「先に行くわね。リリアンヌ」
簡素な恰好であっても、気品は忘れずに優雅に微笑んで。
わたくしは、風に誘われるままに谷底へと飛び降りた。
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