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「…わかりました。では婚約破棄を致しましょう」
「なっ…なんでそうなる!?」

 ワタワタと慌てるジェスター様ですが、まず、何故婚約破棄にならないと思っていらっしゃるのかしら?

「なんでもなにも、御子がいらっしゃるのでしょう?ならアリス様とご結婚されなくてはならないのでは?」
「それとこれとは話が別だろう!?」
「では、わたくしと結婚して、アリス様を側妃に…とでも?」
「違う!アリスは正妃、きみが側妃になればいいじゃないか!だから結婚はしてやる!!」

 何故上から目線なのでしょう…
 わたくしの後ろの護衛達がかなり怒っているようで、背中が暑く感じますわ…

「わたくしは浮気者の側妃なんてお断りですわ」
「やっぱり正妃を狙っていらっしゃるのですね!だから私を殺そうと!?」

 うるうるしながら叫ぶ姿は子犬のようですけれど…色々と勘違いなさっているような気がしてなりません。

「だから僕はこんな冷血漢な女なんて嫌なんだ!アリスの方が優しく可愛い、良い王妃になれるだろう!」
「私、ジェスター様をずっと隣で支えますっ!」

 二人で手を取り合うのは良いのですが…周りの視線にも気付いてくださいませね…

「正妃であるアリスを殺そうとした罪はあるが、僕は寛大だ。婚約破棄なんてしたらお前は相手がいなくて行かず後家になるだろう?だから側妃として貰ってやると言っているんだ」
「ジェスター様…なんてお優しいの…」

 確かにすでに18歳。早ければ15で結婚する貴族世界でこの年は晩婚になってしまいますし、他の殿方はすでに婚約者や奥様がいらっしゃる身。けれどこの方々は忘れているようですわね…

「お言葉をはさんでも宜しいですか?」

 わたくしの後ろで護衛をしていた一人がそっとわたくしに許可を求めました。

「えぇ。よろしくてよ」

 許可を得てわたくしの少し前に出たその人は、護衛らしくしっかりとした身体付きで、階段の段差があるというのにわたくしはすっぽりとその背中に隠れてしまいました。

「アリス・イズルーン令嬢。この場を借りて、貴女の不貞行為により、私、グレン・ダグラスは婚約破棄を申し上げる」
「え????私???」

 きょとんとしていらっしゃるけど、アリス様、貴女ですわ。
 まるで「私に婚約者いたの?」とでも言いたげな目をこちらに向けるのはやめてくださる?
 アリス様も男爵令嬢ですし、婚約者はいらっしゃいましてよ。
 まぁ、その婚約者はわたくしの護衛でしたから、お会いした事はほとんどないでしょうけれど。

「ではわたくしも。ジェスター・アルディージャ様。貴方の不貞行為により、わたくし、プロミティシア王女ジルドレシアは婚約破棄を言い渡します」

 そう。わたくしはこの国、プロミティシアの王女。
 ですので公爵子息が上から目線で物申すのは大問題ですのよ。

「許さないぞ!!僕は婚約破棄なんて認めない!!」

「静まれ」
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