俺と私の公爵令嬢生活

桜木弥生

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23話 俺と私のおしのび大作戦⑥

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 裏通りを歩く。
 やっぱり表通りと違って人相の違うのが若干歩いている。

 一応門兵もいたりして、かなり厳重な警備のはずの王都なのにどこからか紛れ込んだのか。
 それとも元々王都で暮らしていた人達が何かしらでこうなったのか。
 明らかに盗賊や海賊のような風貌の男達が歩いていると、この国の門兵の警備を疑ってしまう。

 裏通りに来たことは一回だけ。
 兄様と一緒に、兄様の護衛付きで来た事がある。しかももう少し幼い頃。
 だから裏通りの店の並びなんて憶えているわけもなく、刀の店がどこにあるかなんてわからない。中身もアンリエッタの頃だから興味もなかったし。
 ただ、そんなに苦も無く見付かるだろう。

 この王都の裏通りは、外から来た人間でも解り易いようにと区間区間で店の種類を区切っているから探してる種類の店は見付け易いんだ。

 まず、俺が表通りから入って来た道は、服屋街、宝飾街、靴屋街、と並んでいる。
 俺の求めている剣は多分防具屋の隣になるだろうからこの並びかな、なんてあたりをつけてここを歩いているわけだ。

 現に靴屋が立ち並ぶ靴屋街を抜け、目の前には防具屋が並ぶ防具街。
 と言っても、この国で各家で防具を持つことはほとんどないから店自体少ない。
 唯一買うのは、騎士団に入団したい市民が稽古のために買うくらいか。

 そして案の定、防具屋の奥に見えるのは剣のマークのドアプレートが下がった店達。
 防具屋4件の奥にあるのは、剣とかの武器屋街だった。

 ちょっと興奮して早歩きになる。
 男としては武器とか浪漫だろ!

 一軒目。ショーウインドウに飾られているのは、表通りにあった宝飾がたっぷり付けられた飾る為の剣。
 けれど、中には普通の剣も置いてあるようだ。
 とりあえず中に入って見てみる事にする。

 カランカランと小さなベルを鳴らして入った店内は、武器屋としては表通りに一番近い場所にあるせいか綺麗に掃除されている。
 外から見える場所には刃のつぶされた装飾剣。うん。いらねぇ。
 中に行くと、大剣、短剣、湾曲した剣…なんだっけこれ?海賊とかが持ってそうな…カトラスだかカットラスって名前だった気がする。
 それに斧やハンマーなんかも置いてある。ファンタジーか!
 ハンマーなんて現実に使うのは鍛冶屋とかしかないだろ!実践にいらないだろこれ!?
 一応ゲームの中の世界だけど、しかもファンタジーな感じだけど、「愛と友情の円舞曲」は剣と魔法の世界じゃなかったはず。誰が使うんだこんなもん!

「いらっしゃいませ!お目が高いですね!お客様!そのヒックリハンマー、今一番人気なんですよ!」

 ハンマーを見ていた俺の背後にいつの間にかピンクのエプロンをかけた可愛らしい女の店員が顔に笑顔を張り付かせていた。

「ヒックリハンマー…?」

 なんだその謎ネーミング。

「はい!ヒックリさんという方が丹精こめて作っているハンマーです!他のお店にはめったにないんですよー!」

 そりゃないだろうよ。つか名前かよ!

 他に気になる物もないし他の店にでも行ってみるか。
 外に出ようとする俺の背中に「他では手に入らないですよー」とさっきの店員が言っているが聞こえないことにして店から出た。

 なんだろうな。前世から服屋とか行って店員に話しかけられると、どんなに気に入った物があっても買う気が失せるんだよな。
 店員も仕事なんだから仕方ねーんだけど、どうしてもあの微妙な空気が苦手だ。
 そしてそれは転生て記憶が戻った今もだ。
 記憶が戻る前は平気だったんだけど。

 ってことで二件目に入る。
 一軒目より小さな店だ。外に飾ってあるのは一軒目と同じで宝飾の付いた剣。
 中は一軒目と同じくらいに綺麗ではあるが、店が小さいせいかゴチャゴチャと置かれている。

 一応目玉商品は壁に飾られてはいるけど、刃が潰していない実用の剣で若干高めだ。
 てかこれ何かあったら危なくないか?
 刃、潰してないから落ちてきたら完全にアウトだ。
 ここの店員は話しかけてはこないようで、会計カウンターに座ったまま本を読んでいる。仕事しろ。いや、話しかけられても困るけど。

 実用剣でもいいんだけど、ちょっと予算オーバーだ。
 持ってる金、全額持ってくれば良かったかな。
 この世界の金は金貨とか銅貨とかの貨幣だから多くなると重くなるし、変なのに絡まれる可能性が高まるから金貨9枚と銀貨9枚、銅貨10枚しか持ってこなかった。

 ちなみに銅貨は10枚で銀貨1枚に。銀貨は10枚で金貨1枚になる。その下に鉄貨がありそれは10枚で銅貨になる。
 この世界の物価を日本円にすると鉄貨が10円だから、現在俺の持ってるのは10万円分だ。
 てっきりこの金額で買えると思ったのに、目の前に飾ってある剣は装飾もなしで金貨13枚となっている。

 他のも大体金貨11枚以上。うん。無理。

 ってことでそそくさと店を出る。一軒目より出るのが早かったけど気にしない。

 さて。三件目だ。
 流石に予算足りなくてまた出てくるのは恥かしいので、ショーウインドウから中の価格を確認する事にしよう。
 まずショーウインドウには他の店舗と同じように宝飾剣が飾ってある。
 店の大きさは一番大きいかもしれないけど、ショーウインドウの隅に埃が溜まっていたりで、他の店よりはちょっと汚い。
 ベタリとショーウインドウに張り付くようにして中を確認すると、中は薄暗くあまり見えない。
 かろうじて見える奥の支払いカウンターの横の木の樽に木刀が刺さっていたのが見えた。
 木刀ならまだ安いかもしれない。

 軋む木のドアを開けて中に入ると、支払いカウンターの椅子に座った爺ちゃんにジロリと睨まれた。
 あれか。頑固爺の経営する店的なあれか。
 視線が痛いけど、カウンター横の樽を見ると樽には銅貨23枚と書かれていた。
 めっちゃ予算内。てか安すぎ。
 
 他にも無いかと壁に掛かった剣を見るが、ここもやっぱり刃有りの剣が壁に掛かっている。ただ、さっきの店は剣だけで鞘はなかったが、ここは鞘も付いたままでかかってるからまだ安全かもしれない。
 金額は…金貨10枚…一応予算内ではある…あるけど…できれば刃がつぶしてある物がいい。あとさっきの木刀も欲しいから両方買うと完全に予算オーバーだ。

「…なんか探してるんかい?…嬢ちゃん…」

 金額とにらめっこしていた俺にカウンターから声が掛かった。

「剣を探してるんです。剣をまた始めようかと思って」

 女騎士もいるから女でも剣をと求めても違和感はない。
 でもお嬢様言葉だと怪しまれるから普通の女言葉で話す。

「嬢ちゃんが?…」

 爺ちゃんはジロジロと上から下まで何度も視線を巡らすと、椅子から「よっ」と声を上げて立ち上がった。
 結構年齢がいっているようで腰を曲げたまま近寄ってくる。
 店員に話しかけられるのは苦手だったけど、この爺ちゃんはなんか平気だ。

「ふん…」

 隣に来てまた上から下まで見ると「ちょっと待ってろ」と、カウンター横のドアから裏に入って行ってしまった。
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