俺と私の公爵令嬢生活

桜木弥生

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8話 俺と私のオトモダチってナンデスカ④

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 男達に連れられて、男達が出てきたカーテンの奥に入ると……外…?

 あー…うん…ハリボテだったのか…
 カーテンから出たら見知った路地で、前をマッチョ、そして俺、俺の後ろに青髭、青髭に続いてハゲが並んで狭い道を歩いている。
 路地は思った以上に狭く縦に並んでしか歩けない。そして少し広い道に出ても、俺の後ろにいる青髭が腰の辺りにナイフをチラつかせているもんだから、逃げることもできない。
 というか、ヒールで走れる気がしない。ってか無理。絶対無理。

 そして俺に場所がわからないようにする為か、逃げられないようにする為か、もしくは人に見られないようにする為かはわからないが、人が一人通れる分くらいの細い路地を進んだと思ったら裏通りのちょっと広めの通りに出て、暫く進んだらまた細い路地に入ったりを繰り返している。

 30分以上は歩いただろうか。
 幾度と無く路地と裏通りを抜けたら、今度は青々とした木々が目に映った。

 この王都を囲う壁の内側には壁に沿うように木々が植えてあり、ちょっとした森になっている。
 現在いる場所はその森のどこかだろう。色々歩いたから詳しい場所はわからない。
 周りを見ようにも、キョロキョロすると不信に思われるからそう頻繁には見れないし。

 でも、ここならちょっと広いから靴を脱げば走って逃げられるかもしれない。
 敵も三人だけだし、頑張れば撒けるかも…
 ハゲは細いからタックルでもすれば飛びそうだし、マッチョと青髭に脱いだ靴を蹴り飛ばしてハゲにタックルして逃げれば…イケル!!

 …なんて、そんな都合よく行く訳はないわなぁ…

 逃げる算段を立てていたら、先頭のマッチョが足を止めて右手を上げた。
 すると、木の間から二人の男が増えた。

「おかしらぁ。随分可愛い子連れてんじゃなぁい?」

 マッチョ男と同じくらいの身長にショッキングピンクのふんわりとカールを施したロングヘアー、マッチョ男よりは細身だがやっぱり筋肉質な身体つき。顔は濃い化粧に真っ赤な口紅が塗られ、その顔の中央にある鼻は顔の三分の一くらいが鼻なんじゃないだろうかと思うくらいの大きな鷲鼻の男が、女言葉で手をヒラヒラとさせながら寄ってきた。

 …この世界にもオカマっているのかぁー…

 前世でもテレビでしか見たことの無かったオカマという存在に思わずボーっと見ていると、その横の大きな木の陰から今度は小っちゃい丸っこいのが出てきた。

 身長は…多分俺くらい?…160とかそのくらいだと思う。
 そして横は…俺の…三倍?…それ以上?…
 一見して丸く見えるくらいの巨体。小さいけど巨体。所謂『デブ』というやつだ。
 しかも生半可なやつじゃなく、ガチなデブ。走るより転がった方が速そうっていう表現の合うやつだ。

 「…オカシラ…オカエリナサイ…」

 声ちっさ!声ちっさ!!!
 もっと出せよ声!!身体でかいんだから出るだろもっと!!!

 …なんなのこの人攫い集団…なんかメンバー濃すぎだろ…絶対これ他のメンバーもキャラ濃いだろ…ガチで突っ込みいれたくなるからマジやめてくれよ…

「おう。とりあえず目的のヤツじゃねぇが、他の獲物はかかったぜ。とりあえずイイトコのお嬢様みてぇだから丁重にもてなせよ」
「やっだー!この子すっごいイイ服着てるうー!飾りも可愛いしー!おかしらぁー、この子の装飾品貰っちゃだめぇー?」

 オカマがグイっと俺の着ている服の襟を引っ張って着けていたペンダントを確認するや興奮したように声を上擦らせて言うと、他にも無いかとばかりに全身をくまなく探し始めた。って、脱がすんじゃねぇええ!!

「……剥ぐなら何か着れる物見繕ってやってからにしろ…」

 俺の服の中を確認する為に脱がそうとするオカマと、後ろ手で縛られたまま身体を捩って必死に服をめくられまいとする俺を交互に見、小さく溜息をついたマッチョに言われると、「はぁい」と残念そうに服を剥ぎ取ろうとしていた手を離した。

「とりあえずアジトに戻るぞ」

 他の4人にそう言うとマッチョが先頭を歩き、少し離れて他の4人は俺を囲むように、前に青髭、左にデブ、右にオカマ、そして後ろにハゲが付いて歩き出した。

 これ確実に逃げられない陣形や…
 さて…これ…万事休す…か?…

 ゲームでは攫われると同じく攫われたサラがいて、一緒に逃げ出すっていうストーリーだったけど、尽くフラグ折ったっぽいしな…
 まぁ、この王都から出るには兵士の立つ南門からしか出られないから、街の外に行く事はないだろう。兄様が探してくれるのを大人しく待つか…
 それまでは、怖がって震えて名前も言えないという体でいれば少しは時間稼げるかな…

 はぁ…と小さく溜息をついて、大人しく男達に着いて歩く。
 歩かないと後ろからハゲが尻を剣の柄で突いてくるから歩くしかない。

 大分進むと同じ森の風景の奥に街を囲む壁が見えた。
 そして壁の一箇所。見たことがない扉があった。

 そう。見たことはない。けれどもその扉は知っている。
 上部に赤銅色の板が嵌め込まれた頑丈そうな鉄で出来た扉は、確か緊急避難用の扉だったはずだ。

 戦争時、もし万が一王都に攻め込まれて袋の鼠になった際に脱出する為の緊急避難用扉。
 北東・南東・西南・北西の4箇所にあり、外からは入れないよう鍵が掛けてあり、外からの開錠はできないと歴史の先生に聞いた。そしてその鍵も複製はできない特殊な鍵だと。
 その特殊な鍵は、四家ある公爵家の主が管理していて、有事の際には脱出先の鍵を持つ公爵家当主が先頭に立って国民の非難誘導をするのだと。

 鍵は悪人や、他国の密偵に渡ってしまったら誰でも国に入り放題になってしまう為、国民の命だけでなく王の命も危うくなる。
 だからこそ公爵家当主だけが責任を持って厳重に保管しているはずで……なのに、何で先を歩くマッチョはその右手に赤銅色の鍵を持っているのか…

 ザっと顔から血の気が引くのを感じた。
 ありえない…あっちゃいけない事だ…
 きっとあの鍵は別の建物の鍵だ…壁の扉の鍵じゃない…なのに何でそっちに向かうんだ…

「…カオ…アオイ…ダイジョウブカ?…」

 あっちゃいけない事が目の前で起ころうとしているのを目の当たりにして、ぶるぶると身体が震えた。
 左にいたデブが俺の顔を覗き込むようにして話しかけてくる。
 俺の耳にはその心配そうな小さな声は届かなかった。
 鍵の存在に驚愕し、そして外に連れ出されるという恐怖で身体は震える。
 そしてその震えは自分では抑えることができなかった。

 振るえながらも後ろからハゲがせっつくから歩かなくちゃいけない。

 誰か…誰か!!

「るぁあアアアアア!!」

 助けてくれと、祈ったその時だった。
 背後からの雄叫びに振り返った俺の視界に映ったのは、両手を上げて横なぎに飛んでいく菫色のドレスと、その中の普段は隠されているはずの白いパンツを身に付けた赤茶髪の美少女と、美少女の土で汚れた白いハイヒールを背中に受け、その反動で海老反りになって一緒に飛んでいく、最後尾を歩いていたハゲの姿だった。
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