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「まなちゃん!いつまでグズグズしてるの!もう学校行く時間でしょ!ほら、はやく歯磨きしなさい!」
学校に行きたくないからのそのそと動いてみるけど、お母さんにピシャリと叱られるだけだった。
まなちゃんの精一杯の反抗。それは、いつも”返事は はい !”と口を酸っぱくして教えられている母に対して、無言でうなずく、というものだった。
この小さな反抗も、本当は胸がドキドキなって、やっちゃった…怒られる…返事すればよかった。とグルグル後悔するくらいまなちゃんにとって大きな反抗だったのだけれど、忙しい朝、まなちゃんの反抗はお母さんには届かなかった。
「なにしてるの!歯磨き終わったらとっとと出なさい!」
もう一度お母さんに怒られて、渋々まなちゃんは家を出た。
まなちゃんがこんなに学校に行くのを渋っているのには理由がある。学校でいじめを受けているのだ。いじめといっても小学3年生のいじめ。無視をしたり、陰でクスクス笑ったり、嫌味を言われたりするくらいだ。それでも小さな女の子の子供の心を壊すには十分だった。 お母さんにはいじめのことは言っていない。きっと、
『まなちゃんにも悪いところがあったのよ。謝ってごらんなさい。』
とはなからまなちゃんが悪いと決めつけるに違いないのだ。
うつむきながらのそのそ通学路を歩いていると、ふ、と視界が薄暗くなった。塀の上をっ見ると、大きな狐…?がしゃきしゃき歩いていた。
「え…?えっすごい!! ごんぎつねの狐さんだ!!」
カーっと胸が熱くなって、なんだかポカポカした。さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいに、学校や母のことなんか忘れて狐に夢中になった。
狐はちら、とまなちゃんを振り返ると、かまわず歩いて行った。
「あ、まって!!」
まなちゃんも必死でついていった。狐は今度は振り返りもせずにひらりと塀から降りて、家と家の間に入った。小学3年生のまなちゃんでも狭いと感じる場所で、ちょっとだけ怖かったけど、それでも追いかけた。やっとのことで家と家の間を通り抜けると、狐は待っていてくれたのかまなちゃんを見るとまた進みだした。
まなちゃんも半分、意地になっていた。
(こうなったら絶対狐さんをなでてやるんだから!)
ふかふかの毛並みに一度触れてみたかったのだ。
狐についていくと、小さな川と、そこにかかる細い橋があった。
狐は何事もなくわたると、試すようにまなちゃんを見た。
「な、なによ!渡れるわよ!」
もちろん、やせ我慢だった。 いつものまなちゃんならもうとっくに諦めて学校に行っていた。でも、なぜか今日、この日はまなちゃんには勇気がいっぱいあった。
頼りなさげな橋に足を乗せると、キシ、と音が鳴った。もちろん怖い。このまま狐を追いかけて何になるんだ。学校にも行かずに、お母さんに怒られてしまう…。ようやく学校のことを思い出したが、頭を振り、また追い出した。
そして意を決して足を踏みだした。
キシ…キシ…まなちゃんはゆっくり、ゆっくり。でも確実に進み、なんとか向こう側にたどり着いた。
「やるじゃねえか。」
狐はそういうと、すっくと立ちあがり、二本の足で歩きだした。
「しゃ、喋った…!?嘘…」
喋った。しっかりと口を開き、狐が言葉を発したのだ。そしてあろうことか、二本の足で歩きだしたではないか。これがありえないことは、まなちゃんにも分かった。ぐわぁんと頭をたたかれた衝撃がまなちゃんを襲った。まなちゃんが思考を停止させている間にも、狐は二本の足でスタスタ遠のいていく。
「あっ…」
やっと頭が回りだし、まなちゃんは狐についてきたことを思いだした。少し歩いた先に、赤い屋根が可愛い小さな小屋があった。
「入りな」
やっぱり喋る狐に言われるがまま、ゆっくりを戸を開けた。
「お邪魔しまーす…」
「おや、いらっしゃい。珍しいね、人間じゃないか。」
そこにはしわくちゃで少し太ったおばあちゃんがいた。それも普通のおばあちゃんじゃない。大きくて立派なしっぽが生えているおばあちゃんだ。
「俺が見えているみたいだったから連れてきたぜ。此奴にゃあなかなか芯がある。」
狐はカカカ、と笑うと瓶を煽った。
まなちゃんはさっきまで怖い思いをしていたのも忘れ、ボーっとおばあちゃんを見つめた。
「さあ、よくきたね。そこへお座り。お茶でも飲むかい?」
しわくちゃの顔をもっとしわくちゃにしておばあちゃんが笑った。まなちゃんは差し出された湯のみを両手でつかみ、一気に飲んだ。体験したことのないことをいっぺんに目の当たりにして、喉が渇いていたのに気が付いたのだ。
***
キャラ文芸大賞に参加します。よろしくお願いします。
学校に行きたくないからのそのそと動いてみるけど、お母さんにピシャリと叱られるだけだった。
まなちゃんの精一杯の反抗。それは、いつも”返事は はい !”と口を酸っぱくして教えられている母に対して、無言でうなずく、というものだった。
この小さな反抗も、本当は胸がドキドキなって、やっちゃった…怒られる…返事すればよかった。とグルグル後悔するくらいまなちゃんにとって大きな反抗だったのだけれど、忙しい朝、まなちゃんの反抗はお母さんには届かなかった。
「なにしてるの!歯磨き終わったらとっとと出なさい!」
もう一度お母さんに怒られて、渋々まなちゃんは家を出た。
まなちゃんがこんなに学校に行くのを渋っているのには理由がある。学校でいじめを受けているのだ。いじめといっても小学3年生のいじめ。無視をしたり、陰でクスクス笑ったり、嫌味を言われたりするくらいだ。それでも小さな女の子の子供の心を壊すには十分だった。 お母さんにはいじめのことは言っていない。きっと、
『まなちゃんにも悪いところがあったのよ。謝ってごらんなさい。』
とはなからまなちゃんが悪いと決めつけるに違いないのだ。
うつむきながらのそのそ通学路を歩いていると、ふ、と視界が薄暗くなった。塀の上をっ見ると、大きな狐…?がしゃきしゃき歩いていた。
「え…?えっすごい!! ごんぎつねの狐さんだ!!」
カーっと胸が熱くなって、なんだかポカポカした。さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいに、学校や母のことなんか忘れて狐に夢中になった。
狐はちら、とまなちゃんを振り返ると、かまわず歩いて行った。
「あ、まって!!」
まなちゃんも必死でついていった。狐は今度は振り返りもせずにひらりと塀から降りて、家と家の間に入った。小学3年生のまなちゃんでも狭いと感じる場所で、ちょっとだけ怖かったけど、それでも追いかけた。やっとのことで家と家の間を通り抜けると、狐は待っていてくれたのかまなちゃんを見るとまた進みだした。
まなちゃんも半分、意地になっていた。
(こうなったら絶対狐さんをなでてやるんだから!)
ふかふかの毛並みに一度触れてみたかったのだ。
狐についていくと、小さな川と、そこにかかる細い橋があった。
狐は何事もなくわたると、試すようにまなちゃんを見た。
「な、なによ!渡れるわよ!」
もちろん、やせ我慢だった。 いつものまなちゃんならもうとっくに諦めて学校に行っていた。でも、なぜか今日、この日はまなちゃんには勇気がいっぱいあった。
頼りなさげな橋に足を乗せると、キシ、と音が鳴った。もちろん怖い。このまま狐を追いかけて何になるんだ。学校にも行かずに、お母さんに怒られてしまう…。ようやく学校のことを思い出したが、頭を振り、また追い出した。
そして意を決して足を踏みだした。
キシ…キシ…まなちゃんはゆっくり、ゆっくり。でも確実に進み、なんとか向こう側にたどり着いた。
「やるじゃねえか。」
狐はそういうと、すっくと立ちあがり、二本の足で歩きだした。
「しゃ、喋った…!?嘘…」
喋った。しっかりと口を開き、狐が言葉を発したのだ。そしてあろうことか、二本の足で歩きだしたではないか。これがありえないことは、まなちゃんにも分かった。ぐわぁんと頭をたたかれた衝撃がまなちゃんを襲った。まなちゃんが思考を停止させている間にも、狐は二本の足でスタスタ遠のいていく。
「あっ…」
やっと頭が回りだし、まなちゃんは狐についてきたことを思いだした。少し歩いた先に、赤い屋根が可愛い小さな小屋があった。
「入りな」
やっぱり喋る狐に言われるがまま、ゆっくりを戸を開けた。
「お邪魔しまーす…」
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まなちゃんはさっきまで怖い思いをしていたのも忘れ、ボーっとおばあちゃんを見つめた。
「さあ、よくきたね。そこへお座り。お茶でも飲むかい?」
しわくちゃの顔をもっとしわくちゃにしておばあちゃんが笑った。まなちゃんは差し出された湯のみを両手でつかみ、一気に飲んだ。体験したことのないことをいっぺんに目の当たりにして、喉が渇いていたのに気が付いたのだ。
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