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6 祖父の目覚め(1)
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一月もまだ正月気分の抜けきらない頃、〈喫珈琲カドー〉に一つの朗報がもたらされた。
祖父が目を覚ましたのだ。
意識が回復してからしばらくは母が付き添い、俺が見舞いに行ったのは、連絡があってから数日後のことだった。
〈喫珈琲カドー〉を休業にして見舞いに出かける前、俺とハナオの間でちょっとした悶着があった。
「コーヒーを持って行け? 何言ってんだよ、まだ意識が戻ったばっかりだぞ。さすがに飲めるわけねぇだろ」
「もちろん、飲ませるためじゃないよ」
「じゃあ何のために」
「いいから。病室で蓋を開けるだけでいい。絶対に、持って行ってよかったと思うから」
その自信はどこから来るんだろう。とにかくハナオは言いきった。時々見せる一歩も引かない態度。そこまで言われると、持って行かなかった場合にどんな後悔をするのだろうと空恐ろしくなる。
俺は渋々、腕を通しかけたコートを脱いで、カウンター内に移動した。コーヒーを持って行くとなると、魔法瓶が必要だ。俺が探しはじめると、
「そこの棚の奥から出して」
ハナオの指示。どうやら発見ずみだったらしい。
「右から二番目をスプーンに半分くらい。次はその隣……」
準備が整うと、ハナオは営業中同様にコーヒー豆のブレンドから指示を出しはじめる。
(……あれ、このブレンド)
ここ二ヶ月ほどの間、俺は言われるままに行動し、どの豆をどんな配合で使っているかなんて気にかけたことはなかった。どうせわからないからだ。ハナオも俺の関心のなさを感じ取っているらしく、今のように位置とおおよその分量しか言わない。だから普段どんなブレンドをしているかなんていちいち覚えてはいなかったのだが。
今回のブレンドには覚えがあった。最初にハナオが指示したブレンドだ。
淹れ終えたばかりのコーヒーの入ったサーバーを眺め、ハナオは満足げに言った。
「うん、まぁ上出来かな。ミツもだいぶ慣れたね」
「何に?」
「コーヒーの抽出に、だよ」
「そうか? ハナオの指示が上手いんだろ?」
「それもあるかな」
否定はしないらしい。手早く魔法瓶に注いで蓋をし、念のため傾かないように気をつけながら鞄に入れる。今度こそコートを羽織ったところで、俺はいつもと様子の違うハナオを振り返った。
「……行かねぇの?」
「今日は僕、留守番しているよ。――後できみが、カドーのマスターの様子を教えてくれたらいい」
気を遣ってくれたのだろうか。「いってらっしゃい」と手を振るハナオを店内に残して、俺は扉を閉めた。
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「もちろん、飲ませるためじゃないよ」
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その自信はどこから来るんだろう。とにかくハナオは言いきった。時々見せる一歩も引かない態度。そこまで言われると、持って行かなかった場合にどんな後悔をするのだろうと空恐ろしくなる。
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「そこの棚の奥から出して」
ハナオの指示。どうやら発見ずみだったらしい。
「右から二番目をスプーンに半分くらい。次はその隣……」
準備が整うと、ハナオは営業中同様にコーヒー豆のブレンドから指示を出しはじめる。
(……あれ、このブレンド)
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