勇者は発情中

shiyushiyu

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第十七エロ 実戦あるのみ

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夜遅くになってからくびちたちは戻ってきた。

夜まで粘ったのに人攫いに関する情報は無かった。

もっとも、そう簡単に情報が手に入るとは考えていない。

ましてや、ヒソカな酒飲みの客の誰かが人攫いと繋がっているなら尚更だ。

助態も時間が経って頭を冷やしたことでようやく立ち直っていた。

「ティーパンさんは、俺たちのところにいてくれるんですか?」

「そうね。少なくともぷーれいが攫われたのは私のせいだし、人攫いから彼女を救出するまでは一緒にいるわ。それにモンスターに占拠された村ってのも気になるしね。」

改めてティーパンが一緒に居ると言った。

「それにしても助態さんは、自分が原因で純純さんたちが攫われたと思ってたんすねー?自惚れにも程があるんじゃないっすか?」

ぱいおがにやにやしながら助態をいじる。

「やめてあげなさい。助態が泣いてるわよ?」

くびちが助態を胸の中にうずめる。

「で、これからどうする?」

もふともが問題突きつける。

「ちょっと整理しておきましょう。」

そう前置きして、ティーパンが今起きてる問題を指を立てながら挙げた。

「まず仲間が人攫いに攫われている。」

指を1本立てる。

「人攫いの情報が皆無。」

もう1本指を立てる。

「モンスターに占拠された村がある。」

さらにもう1本。

「モンスターに占拠された村の情報も皆無。」

4本目の指を立てる。

「そして、モンスターが活発化して、生態系が変わった。」

手がパーの形になった。

「え?最後のも?」

助態がくびちの胸から顔を出して訊ねる。

「そりゃそうよ。勇者のせいで生態系が乱れてるって言われてるなら、それを解決しないわけにはいかないでしょ?」

ずいっと一歩前に踏み出してティーパンが驚いた表情で言う。

それまでは一緒に居てあげるわ。と最後に付け足した。

「当面の目標は人攫いの情報っすね。てことは助態さんは役立たずってことになるっすね。」

またもや底意地の悪い笑みでぱいおが助態をいじる。

「そんなことないよ。勇者には外でモンスターを狩ってもらう。私も同伴するしアンアンとあへも一緒にね。ヒソカな酒飲みの客の1人が言ってたでしょ?この街周辺にモンスターがうようよ発生しているせいで他の街に商売しに行けなくなったって。どうせならその問題も解決させちゃおう。」

ビッと親指を立ててティーパンが助態にウインクする。

「あー、それいいっすねー。助態さんの評判も上がって一石二鳥じゃないっすか。」

「それに、モンスターの生態系が変わった問題を解決することに繋がる可能性もあるわね。」

ぱいおがニシシ。と笑いながら言い、くびちがそれに同意した。

こうして当面の行動予定が確定した。

助態はティーパン、あへと一緒にモンスター退治。売れそうな物の収集などだ。

他のメンバーが人攫いの情報を聞き込みすることにした。



翌朝、助態は早くに起こされてそのまま街の外に出た。

アンアンとあへはまだ宿屋で寝ている。

「こんな早くにですか?」

あくびを押し殺しながら助態がティーパンに言う。

「モンスターはいつどのタイミングで現れるか分からないからねー。今日から暫くは野営もするよ。」

そう言ってティーパンはサラマンダーを召喚した。

「私の修行にもなるんだ。召喚獣を召喚したままにしておくと、ずっと魔力が減り続けるからさ。魔力の総量が少しずつ増やせるんだ。」

にこっとティーパンが笑う。

「長距離を走るとスタミナが付くのと同じ感じですか?」

そっ。と軽く返事をしてティーパンが木の棒を2本拾った。

「さ、勇者。早速だけど修行しよっか。私がパーティーから外れた時に戦力が下がりすぎるでしょ?」

ぽんと1本の棒を投げて助態に寄こす。

助態は突然投げられた木の棒を、持ち前の運動神経の良さで見事にキャッチし、そのまま構える。

「お見事!やっぱ君はそれなりに運動神経があるようだね。」

ニコリと笑ってティーパンは後ろ姿を見せる。

「あ、あれ?修行するんじゃないんですか?」

てっきりティーパンと戦うのかと思っていた助態が、拍子抜けしたような声を出す。

「ん?するよ?ほらあそこ。」

そう言って目の前を指さすと、そこには緑色で不細工な顔立ちのゴツゴツした生き物が立っていた。

「あれはゴブリン。危険度はDだけど知能が高くて人間並みに武器を扱えるわ。あれを倒してみましょ。修行なんて実戦あるのみだから!」

ポンとティーパンが助態の背中を押す。

目の前のゴブリンは武器を何も持っていない。

一方の助態は木の棒が武器だ。

武器での優劣は無いに等しい。

勝敗を分けるのは実戦経験ということになる。

「戦いってのはさ。」

助態の隣を走るティーパンが口を開く。

「慣れが全てなんだ。理論とかで、敵がこうきたらこうするとか頭で理解しても実際にその場面に出くわしたらその通りになんて動けやしない。経験がモノを言う世界なんだよ。誰かと1対1の戦いをするのもいいけどそれだけじゃ培われない。実際にモンスターと戦って経験を積む。これ以外の方法はあくまでもサブだよ。」

指を前方に指して、ほら来るよ。と最後に付け加えた。

助態がゴブリンを正面から木の棒で迎え撃とうとすると、ティーパンが呼び止めた。

「ストーップ!君は自分を殺そうとしているモンスターに対して正々堂々と勝負をするのかい?」

そう言われて助態ははっと気が付いた。

カローンの村を攻めるとき、ティーパンは予め召喚獣を召喚して召喚獣に攻撃をさせていた。

詠唱の時間を邪魔されないようにだと思っていたが、よく考えたらその方法も正々堂々ではないし自分は安全性が高い場所で戦っていた。

「分かったかい?今私たちは今2人いる。私を囮に使って背後から攻撃する方がいいに決まってるだろ?」

にやっとティーパンが笑って、ゴブリンの目の前で木の棒を構える。

そのすきに助態はゴブリンの背後に回る。

ゴブリンが視線の端で助態の行動を追っているのが分かる。

『これが――戦い…』

敵対するゴブリンが、ティーパンから視線を外さずに、助態にも気を張っているのを肌で感じる。

「こういったこと全てが、実戦でないと培われないものよ。分かった?」

ティーパンに言われて助態も何となく分かった気がする。

頭では2対1の場合はどう動くのが有利だとか理解しているつもりでも、実際の戦闘では全く違うものだ。

よく考えればスポーツなどもそうだ。

いくら練習をしても、実際の試合に出てこそ経験が培われる。それこそ試合慣れとか試合勘と呼ばれるものだ。

――ガサッ。

ティーパンが一歩前に出る。

ゴブリンの意識が一瞬ティーパンの方に向く。

今だ――

まさに絶好のタイミングだと分かる。分かるが体はそう簡単に動いてくれなかった。

少しタイミングが遅れてから体が動くが、戦いでの一瞬は命取りだ。

助態が棒で叩こうとするのを気取られ、ゴブリンが助態の方を向く。

「一瞬、判断が遅いね。これも経験しなければ培われない。」

ゴブリンが助態の方を向いた隙をついてティーパンがゴブリンを倒す。

「すげ…」

一発でゴブリンを倒したのを見て、助態が素直に感想を述べる。

「今の戦い、1対1なら確実に君は負けていた。分かるよね?実戦でいかに経験を積むかで戦い方は全く変わってくる。」

ここでティーパンは一息ついた。

「さて、これからの私たちの目標だが、勇者にはバンバンモンスターと戦ってもらう。アンアンとあへはその間売れる物を探してもらう。宿屋もただじゃないからね。そして夜は私たちは野営だ。神経を高ぶらせることも大事だからね。何事も経験さ。」

最後にボソリと、モンスターを倒す感覚もね。と付け足したが助態には聞き取れなかった。



ティーパンが提案した実戦での修行が始まってから数週間が経過した。

今回は前回みたいに急ぎの旅ではないので、時間を気にしなくていい。

くびちたちは相変わらず人攫いの情報を探しているが、未だに情報は無いらしい。

街に買い出しに行くアンアンとあへが、くびちたちと情報交換しているので間違いない。

情報さえあればすぐにでも人攫いの場所へ向かうのだが、どうすることもできない。

ティーパンが言うには、どうせなら誰かを囮に使って人攫いにわざと捕まった方が速いとのことだが、門番が今のメンバーは誰も人攫いのお目にかからないだろうと笑っていた。

(「アタイが可愛くないってことかい?」ともふともがめちゃくちゃキレてた。)

助態はゴブリンは粘着スライム相手になかなかの修行の成果をあげていた。

モンスターを倒す時も、最初こそはためらいがあったが、ためらったがために反撃されたのを期に、倒す時に躊躇わなくなった。

「これも経験だね。」

とその時にティーパンに言われた。

モンスターによって、攻撃する時の感触が違うので、それも経験がものを言うと改めて分かった。

合わせてティーパンがなぜ、召喚獣になるべく戦わせているのかも分かった気がした。

気持ちのいいものではない。

自分の身を守るためとはいえ、相手がモンスターとはいえ、倒す時の感覚は気分が悪くなる。

「ま、それも経験だよ。私も未だに慣れないからね。」

気持ち悪さに吐いていると、ティーパンが背中をさすってくれた。

もう夕暮れ時だ。

いつもならアンアンとあへが今日の収穫を換金して、必要な物を買い、残りのお金をくびちたちに渡して戻ってきて夕食の準備をしている時間だ。

街の入り口付近へ向かうと、アンアンとあへは夕食の準備も野営の準備もしていなかった。

「人攫いの情報があったわ。」

助態とティーパンが近づくと、アンアンがそう言った。

すぐに宿屋に戻り、くびちたちから詳しい情報を聞くことにした。

助態たちが街の中へ入る様子を、遠くから巨大なモンスターが見て去っていった。

――ありゃあ一体?

門番の言葉に全員が振り返った時にはもう、そのモンスターはいなかった。
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