1 / 13
第一話 もうすぐ夏休み
しおりを挟む
――地球のために、何ができるか。
終業式前日のホームルームが始まったとたん、野上先生が黒板に大きな文字で書いた。
ぼくは意味が解らず首をかしげる。みんなも不思議そうに隣同士で顔を見合わせた。今日のテーマは夏休みの過ごし方じゃなかったっけ?
「先生、それはどういう意味ですか?」
隣の席で手が上がると同時に、凛とした声が教室に響く。ナチュラルカールをツインテールにし、制服をビシッと整えている岡村麻衣だ。
野上先生はズレた眼鏡の中央を中指で直しながら、大胆不敵な笑みを浮かべる。そして軽く息を吸ったかと思うと、
「これは作文のテーマ。すなわち夏休みの宿題です」
と、嬉しそうに答えた。
「宿題だってええっ!」
教室中から、蝉の鳴き声をかき消すほどのブーイングが巻き起こる。
ただでさえ各教科から大量の宿題が出ているのに、どうしてそんなややこしい作文を書かなくちゃいけないんだ。
みんなは同じ思いを抱いているのだろう。ざわめきは一向に休む気配がない。もちろんぼくも、不満を口にしているひとりだ。
野上先生は、ぼくたちが大騒ぎしているのをしばらく見守ったあとで、
「はい、静かにするっ」
と手をたたいた。
驚いたみんなが一斉に口を閉じると、再び蝉の声が教室を彩る。
「夏休みだってえのに、なにワケ解んねえ宿題出すんだよ」
一番後ろの席からショウこと久保翔太が、あきらめ悪く文句をつけた。
さすがは我がロックバンド、ザ・プラクティスのベーシストだ。ぼくの気持ちをきっちりと代弁してくれる。以心伝心、バンドメンバーの絆は固い。
「宿題ひとつで文句を言わないこと。優秀な作文は賞に応募するからがんばれよ。入賞したら賞品ももらえるぞ」
ぼくたちの文句なんて聞こえなかったように翔太の不平をスルーし、野上先生はプリントを配った。
賞品という言葉に惹かれたぼくは、受け取るなり目を通す。あ、音楽プレイヤーだ。ずっとほしいって思っていたやつだ。
でも、地球のために何ができるかなんて考えたこともないぼくが、作文にまとめるなんてできるのか? 商品が手に入らないのは、火を見るより明らかだ。
だってぼくは平和な日本に住んでいる中学二年生だよ。地球のために働けって言われても、何をすればいいのか急には思いつかない。
外国の女の子のように、国連で主張するなんてことはできないし、第一やりたくもない。
「それからこれが夏休みの注意事項と、おうちの人に渡すプリントだ。通知表は明日のお楽しみにとっとくんだな」
みんなの不満げな表情に喜々としながら、野上先生は次々とプリントを配る。その間ぼくは、地球のためになることを考えてみた。だがアイディアはちっとも浮かんでこない。
当然といえば当然だ。頭の中は明日渡される通知表や、夏休みの宿題、そして部活動のロックバンドのことなんかで一杯で、地球のことを考えるだけの余裕はないからね。てか、常日頃そんなことを考えている中学二年生なんているのか?
何も思いつかなかったら「一介の中学生が、地球のためにできることなんてありません。代わりにウルトラマンや仮面ライダーに質問してください。世界で一番地球のことを考えているのは、スーパー・ヒーローたちです」と書いて提出しようかな。
こんな内容の作文を提出されたら野上先生は激怒するかな。この春教師になりたての新米先生がどんな説教をするか、興味あるかも。
プリントの内容を説明している先生をよそに、ぼくはそんなことを考えてニヤニヤしながら、残りの時間を過ごした。
☆ ☆ ☆
「南野ハヤトくんっ」
「は! はいっ」
放課後、カバンに荷物を入れていると、突然名前を呼ばれてぼくは首をすくめる。先生の話をろくに聞いてなかったので、ほんの一瞬、叱られると思ったんだ。
でも変だな。野上先生は男なのに、聞こえたのは女性の声だぞ。
「宿題を配られてからホームルームのあいだずっとにやけてたけど、何考えてたの? もしかして先生をからかうネタ?」
声をかけてきたのは、何かといえば口出ししてくるお節介な麻衣だ。しっかり者の彼女だからこそ、さっきのように先生にもズバズバと質問をする。
ぼくらは幼稚園からのつきあいだから、もう十年近くの腐れ縁だ。小さいころはうっとうしかったが、いつのまにかそれがないと寂しくなってしまった。
「そんなこと考えてないよ。解ってるくせに、ひどいな」
ぼくは反撃の意味でウィンクしながら答えると、麻衣は少しだけ頬を赤らめて、ぷいっとそっぽを向く。そうやって照れるところは昔から変わらない。
「よっ、おふたりさん。またいちゃついてんのか」
後ろからぼくらに声をかけてきたのは翔太だ。ベースの入ったケースを背負ってニヤついている。
「あら、翔太くん。軽音も午後から部活なの?」
「まあな。吹奏楽部は、大会に向けて追い込みだっけ?」
「そうなの。今日は給食がないから、近所のコンビニでお弁当を買ってこなきゃ。じゃあまた明日ね」
麻衣は荷物を持つと、教室を出て行った。
「ほう。岡村は弁当持ってきてねえのか。だったら明日からはハヤトが作ってやれよ」
「ぼくが?」
「今日みたいに給食のない日は、いつも自分で作ってんだろ? ついでに岡村のも作りゃいいじゃねえか。好きな彼女のためなら、なんてこたあねえぜ」
翔太はぼくの肩に腕をまわし、だれにも聞こえないように耳元に口を近づけた。
「岡村に惚れてんだったら、それくらいしてやれよ」
ぼくは翔太の腕を外し、鞄とギターケースを手にした。
「残念ながら片思いってことも知ってるよね。もし両思いでも、男子から差し入れなんて嫌だよ」
荷物を持って教室を出ると、翔太はあわててついてくる。
たしかにぼくはお弁当男子だ。でも夢はある。好きな女子の手料理を食べることも、そのひとつだ。
もちろん作ってあげるのはいいけれど、できれば差し入れしてもらう方を体験したい。
そしてぼくは信じている。いつかそんな日が来ることを。
だってぼくは幼稚園のとき、麻衣にプロポーズされたからね。
麻衣は忘れているかもしれないけれど、ぼくはあの日のことを今でも覚えている。命がけで守ったときから、麻衣はぼくの中で大切なプリンセスになった。
あれ? だったら姫のためにお弁当を作るのもありなのかな。
そんなことを考えながら理科室に向かっていると、途中の階段で女子が騒いでいるのに出くわした。
「ハヤト、ライバルのお出ましだぜ」
「ライバル? ふん、どうってことないよ」
翔太の手前強がりを言ったが、ぼくは内心穏やかじゃない。
女子の視線をひとり占めしているのは、三年の倉田浩一先輩。吹奏楽部の部長でクラリネット奏者だ。線が細くて背は高く、やや茶色がかった髪に色白ときた。
これで残念な顔だったらなんてことないんだけど、悔しいことに少女マンガに出てきそうな、それも主人公が好きになるタイプだ。
うちの中学で人気ナンバーワンなのはもちろん、隣の中学や近くの高校、そしてなんと小学生にまでファンがいる。
というのも、去年吹奏楽部が全国大会で準優勝したとき、ローカルニュースで特集が組まれたからなんだ。それがきっかけで倉田先輩はご当地アイドルになった。
いったいどんな世界なんだ?
そして麻衣も倉田先輩に夢中だ。
敵はあまりに大きすぎる。でもそれだけに、あのふたりが両思いになる確率は限りなくゼロに近い。
より取り見取りの女子の中で、麻衣が選ばれることはないだろう。あの子がいくら魅力的でも、さすがに一番ではないさ。いや、ぼくには一番だよ。
そう、ぼくは麻衣の失恋を期待している。
これじゃ地球のためになにかできるどころか、ただの嫉妬男だ。
倉田先輩とファンたちを横目で見ながら、ぼくは翔太と階段を四階までかけ登り、一番奥にある理科室の扉を開けた。ここがぼくら軽音楽部の部室だ。
「ふたりとも遅かったな。待ちわびたよ」
マサルこと乾優は机の上に弁当をおいて、ぼくたちの到着を待っていた。食べざかりのドラマーにはいつも「先に食べて」って言っているのに、毎回律儀に待ってくれる。
隣に座るのは、キーボーディストのヒデこと戸田英嗣。腹が減ったとぼやく優を無視して、楽譜を見ながら両手を動かしている。
エア・キーボードは今日も健在だ。暇さえあれば練習している。
ぼくと翔太は鞄からお弁当を取り出し、机の上に広げた。四人で手をあわせて「いただきます」と挨拶をする。このハモり具合がいい。ぼくらの絆はばっちりだ。
「にぎやかだな。今から昼飯か?」
理科準備室から出てきたのは佐野先生だ。大学時代にバンドを経験したという縁で、軽音楽部の顧問になってくれた。
たった四人のぼくらが「部」を名乗れるのは、軽音楽部が元々学校に登録されていたからだ。長らく部員がゼロ状態で廃部寸前だったが、ぼくたちが入部したことで存続が決まった。
この中学で音楽をやりたい子は、吹奏楽部に入る。ぼくたち四人はそれを蹴って軽音を選んだ。でも活動しようにも部室がない。そんなぼくたちを見かねた佐野先生が顧問を引き受け、理科室を活動場所に提供してくれた。
「先生、このあとの練習では一緒にギターを弾きませんか?」
「おお、それは嬉しい誘いだな。今日は時間もあるし、久しぶりにバンドさせてもらうか」
ぼくが誘うと佐野先生はうれしそうに頷き、準備室に戻った。
先生が一緒のときは、ぼくはボーカルに専念する。弾き語りもいいけれど、歌に集中したいときもある。
ほらね。こんなふうに、ぼくの頭の中は、音楽や麻衣のことでいっぱいなんだ。
だから、地球のためにできることを考えたことはなかった。
☆ ☆ ☆
終業式前日のホームルームが始まったとたん、野上先生が黒板に大きな文字で書いた。
ぼくは意味が解らず首をかしげる。みんなも不思議そうに隣同士で顔を見合わせた。今日のテーマは夏休みの過ごし方じゃなかったっけ?
「先生、それはどういう意味ですか?」
隣の席で手が上がると同時に、凛とした声が教室に響く。ナチュラルカールをツインテールにし、制服をビシッと整えている岡村麻衣だ。
野上先生はズレた眼鏡の中央を中指で直しながら、大胆不敵な笑みを浮かべる。そして軽く息を吸ったかと思うと、
「これは作文のテーマ。すなわち夏休みの宿題です」
と、嬉しそうに答えた。
「宿題だってええっ!」
教室中から、蝉の鳴き声をかき消すほどのブーイングが巻き起こる。
ただでさえ各教科から大量の宿題が出ているのに、どうしてそんなややこしい作文を書かなくちゃいけないんだ。
みんなは同じ思いを抱いているのだろう。ざわめきは一向に休む気配がない。もちろんぼくも、不満を口にしているひとりだ。
野上先生は、ぼくたちが大騒ぎしているのをしばらく見守ったあとで、
「はい、静かにするっ」
と手をたたいた。
驚いたみんなが一斉に口を閉じると、再び蝉の声が教室を彩る。
「夏休みだってえのに、なにワケ解んねえ宿題出すんだよ」
一番後ろの席からショウこと久保翔太が、あきらめ悪く文句をつけた。
さすがは我がロックバンド、ザ・プラクティスのベーシストだ。ぼくの気持ちをきっちりと代弁してくれる。以心伝心、バンドメンバーの絆は固い。
「宿題ひとつで文句を言わないこと。優秀な作文は賞に応募するからがんばれよ。入賞したら賞品ももらえるぞ」
ぼくたちの文句なんて聞こえなかったように翔太の不平をスルーし、野上先生はプリントを配った。
賞品という言葉に惹かれたぼくは、受け取るなり目を通す。あ、音楽プレイヤーだ。ずっとほしいって思っていたやつだ。
でも、地球のために何ができるかなんて考えたこともないぼくが、作文にまとめるなんてできるのか? 商品が手に入らないのは、火を見るより明らかだ。
だってぼくは平和な日本に住んでいる中学二年生だよ。地球のために働けって言われても、何をすればいいのか急には思いつかない。
外国の女の子のように、国連で主張するなんてことはできないし、第一やりたくもない。
「それからこれが夏休みの注意事項と、おうちの人に渡すプリントだ。通知表は明日のお楽しみにとっとくんだな」
みんなの不満げな表情に喜々としながら、野上先生は次々とプリントを配る。その間ぼくは、地球のためになることを考えてみた。だがアイディアはちっとも浮かんでこない。
当然といえば当然だ。頭の中は明日渡される通知表や、夏休みの宿題、そして部活動のロックバンドのことなんかで一杯で、地球のことを考えるだけの余裕はないからね。てか、常日頃そんなことを考えている中学二年生なんているのか?
何も思いつかなかったら「一介の中学生が、地球のためにできることなんてありません。代わりにウルトラマンや仮面ライダーに質問してください。世界で一番地球のことを考えているのは、スーパー・ヒーローたちです」と書いて提出しようかな。
こんな内容の作文を提出されたら野上先生は激怒するかな。この春教師になりたての新米先生がどんな説教をするか、興味あるかも。
プリントの内容を説明している先生をよそに、ぼくはそんなことを考えてニヤニヤしながら、残りの時間を過ごした。
☆ ☆ ☆
「南野ハヤトくんっ」
「は! はいっ」
放課後、カバンに荷物を入れていると、突然名前を呼ばれてぼくは首をすくめる。先生の話をろくに聞いてなかったので、ほんの一瞬、叱られると思ったんだ。
でも変だな。野上先生は男なのに、聞こえたのは女性の声だぞ。
「宿題を配られてからホームルームのあいだずっとにやけてたけど、何考えてたの? もしかして先生をからかうネタ?」
声をかけてきたのは、何かといえば口出ししてくるお節介な麻衣だ。しっかり者の彼女だからこそ、さっきのように先生にもズバズバと質問をする。
ぼくらは幼稚園からのつきあいだから、もう十年近くの腐れ縁だ。小さいころはうっとうしかったが、いつのまにかそれがないと寂しくなってしまった。
「そんなこと考えてないよ。解ってるくせに、ひどいな」
ぼくは反撃の意味でウィンクしながら答えると、麻衣は少しだけ頬を赤らめて、ぷいっとそっぽを向く。そうやって照れるところは昔から変わらない。
「よっ、おふたりさん。またいちゃついてんのか」
後ろからぼくらに声をかけてきたのは翔太だ。ベースの入ったケースを背負ってニヤついている。
「あら、翔太くん。軽音も午後から部活なの?」
「まあな。吹奏楽部は、大会に向けて追い込みだっけ?」
「そうなの。今日は給食がないから、近所のコンビニでお弁当を買ってこなきゃ。じゃあまた明日ね」
麻衣は荷物を持つと、教室を出て行った。
「ほう。岡村は弁当持ってきてねえのか。だったら明日からはハヤトが作ってやれよ」
「ぼくが?」
「今日みたいに給食のない日は、いつも自分で作ってんだろ? ついでに岡村のも作りゃいいじゃねえか。好きな彼女のためなら、なんてこたあねえぜ」
翔太はぼくの肩に腕をまわし、だれにも聞こえないように耳元に口を近づけた。
「岡村に惚れてんだったら、それくらいしてやれよ」
ぼくは翔太の腕を外し、鞄とギターケースを手にした。
「残念ながら片思いってことも知ってるよね。もし両思いでも、男子から差し入れなんて嫌だよ」
荷物を持って教室を出ると、翔太はあわててついてくる。
たしかにぼくはお弁当男子だ。でも夢はある。好きな女子の手料理を食べることも、そのひとつだ。
もちろん作ってあげるのはいいけれど、できれば差し入れしてもらう方を体験したい。
そしてぼくは信じている。いつかそんな日が来ることを。
だってぼくは幼稚園のとき、麻衣にプロポーズされたからね。
麻衣は忘れているかもしれないけれど、ぼくはあの日のことを今でも覚えている。命がけで守ったときから、麻衣はぼくの中で大切なプリンセスになった。
あれ? だったら姫のためにお弁当を作るのもありなのかな。
そんなことを考えながら理科室に向かっていると、途中の階段で女子が騒いでいるのに出くわした。
「ハヤト、ライバルのお出ましだぜ」
「ライバル? ふん、どうってことないよ」
翔太の手前強がりを言ったが、ぼくは内心穏やかじゃない。
女子の視線をひとり占めしているのは、三年の倉田浩一先輩。吹奏楽部の部長でクラリネット奏者だ。線が細くて背は高く、やや茶色がかった髪に色白ときた。
これで残念な顔だったらなんてことないんだけど、悔しいことに少女マンガに出てきそうな、それも主人公が好きになるタイプだ。
うちの中学で人気ナンバーワンなのはもちろん、隣の中学や近くの高校、そしてなんと小学生にまでファンがいる。
というのも、去年吹奏楽部が全国大会で準優勝したとき、ローカルニュースで特集が組まれたからなんだ。それがきっかけで倉田先輩はご当地アイドルになった。
いったいどんな世界なんだ?
そして麻衣も倉田先輩に夢中だ。
敵はあまりに大きすぎる。でもそれだけに、あのふたりが両思いになる確率は限りなくゼロに近い。
より取り見取りの女子の中で、麻衣が選ばれることはないだろう。あの子がいくら魅力的でも、さすがに一番ではないさ。いや、ぼくには一番だよ。
そう、ぼくは麻衣の失恋を期待している。
これじゃ地球のためになにかできるどころか、ただの嫉妬男だ。
倉田先輩とファンたちを横目で見ながら、ぼくは翔太と階段を四階までかけ登り、一番奥にある理科室の扉を開けた。ここがぼくら軽音楽部の部室だ。
「ふたりとも遅かったな。待ちわびたよ」
マサルこと乾優は机の上に弁当をおいて、ぼくたちの到着を待っていた。食べざかりのドラマーにはいつも「先に食べて」って言っているのに、毎回律儀に待ってくれる。
隣に座るのは、キーボーディストのヒデこと戸田英嗣。腹が減ったとぼやく優を無視して、楽譜を見ながら両手を動かしている。
エア・キーボードは今日も健在だ。暇さえあれば練習している。
ぼくと翔太は鞄からお弁当を取り出し、机の上に広げた。四人で手をあわせて「いただきます」と挨拶をする。このハモり具合がいい。ぼくらの絆はばっちりだ。
「にぎやかだな。今から昼飯か?」
理科準備室から出てきたのは佐野先生だ。大学時代にバンドを経験したという縁で、軽音楽部の顧問になってくれた。
たった四人のぼくらが「部」を名乗れるのは、軽音楽部が元々学校に登録されていたからだ。長らく部員がゼロ状態で廃部寸前だったが、ぼくたちが入部したことで存続が決まった。
この中学で音楽をやりたい子は、吹奏楽部に入る。ぼくたち四人はそれを蹴って軽音を選んだ。でも活動しようにも部室がない。そんなぼくたちを見かねた佐野先生が顧問を引き受け、理科室を活動場所に提供してくれた。
「先生、このあとの練習では一緒にギターを弾きませんか?」
「おお、それは嬉しい誘いだな。今日は時間もあるし、久しぶりにバンドさせてもらうか」
ぼくが誘うと佐野先生はうれしそうに頷き、準備室に戻った。
先生が一緒のときは、ぼくはボーカルに専念する。弾き語りもいいけれど、歌に集中したいときもある。
ほらね。こんなふうに、ぼくの頭の中は、音楽や麻衣のことでいっぱいなんだ。
だから、地球のためにできることを考えたことはなかった。
☆ ☆ ☆
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
寒い夜だから
須賀マサキ(まー)
ライト文芸
塾講師のバイトを終えたワタルは、いつものようにいきつけの喫茶ジャスティを訪れる。そこにいたのは沙樹だった。普段ならこんな遅い時間に見かけることはない。
違和感を覚えながらも話しかけると、沙樹から思わぬ答えが返ってきた。
それを聞いたワタルは、自分の本当の気持ちに少し気づき始める。
☆ ☆ ☆
オーバー・ザ・レインボウシリーズです。
結婚話を書いたあとですが、時間を戻して大学時代のエピソードを書きました。
今回はふたりが互いの気持ちに気づき始めるきっかけとなったエピソードです。
☆ ☆ ☆
ほっこりじんわり大賞の関係で、エピローグのみ6月中に公開しました。
先に公開した『夕焼けと花火と』の連載終了後に続きを公開していきますことをご了承ください。
狼になりたい
須賀マサキ(まー)
青春
いつも女子三人組に振り回されてばかりの直貴。店にあったハロウィンマスクを見たのがきっかけで、狼のように強くなって、彼女たちの執事役から抜け出そうと決意した。
そんなとき、奏音という音大生にデートに誘われる。
ところがデート当日になって、とんでもないトラブルに巻き込まれる。
バンド小説「オーバー・ザ・レインボウ」シリーズの一作です。
他の作品を読んでいなくてもわかるように書いていますので、お好きな順番でお読みください。
☆ ☆ ☆
縦書き表示推奨。アルファポリスさん専用アプリを使えば、簡単に表示できます。
【完結】Trick & Trick & Treat
須賀マサキ(まー)
青春
アルファポリス青春ジャンルで最高4位を記録しました。応援ありがとうございます。
バンド小説『オーバー・ザ・レインボウ』シリーズ。
ハロウィンの日。人気バンドのボーカルを担当している哲哉は、ドラキュラ伯爵の仮装をした。プロのボーカリストだということを隠して、シークレット・ライブを行うためだ。
会場に行く前に、自分が卒業した大学のキャンパスに立ち寄る。そこで後輩たちがゲリラライブをしているところに遭遇し、群衆の前に引っ張り出される。
はたして哲哉は、正体がバレることなく乗り切れるか?!
アプリを使って縦読み表示でお読みいただくことをお勧めします。
夕焼けと花火と
須賀マサキ(まー)
ライト文芸
夏休みに実家に帰省した玲子は、久しぶりに幼なじみと会う。驚いたことに彼女は、中学時代のクラスメートで初恋の相手とつきあいはじめていた。
彼氏はいないのかという問いかけに、玲子は武彦を思い浮かべる。だがこれが恋心なのか、自分でもよく解らなかった。
懐かしい夕焼け空を見ながら、玲子は自分の気持ちを見つめなおす。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】ライブ喫茶ジャスティのバレンタインデー
須賀マサキ(まー)
ライト文芸
今日はバレンタインデー。おれは自分の店であるライブ喫茶ジャスティを、いつものように開店した。
客たちの中には、うちでレギュラー出演しているオーバー・ザ・レインボウのバンドメンバーもいる。入れ代わり立ち代わり店にやってきて、悲喜交々の姿を見せてくれる。
今年のバレンタインデーは、どんなことが起きるだろう。
いずれにしても、みんなにとっていい一日になりますように。
キミのいないクリスマス・イヴ
須賀マサキ(まー)
ライト文芸
クリスマス・イヴをめぐる出来事を、第一部では沙樹の視点、第二部ではワタルの視点で書いてみました。
以前は独立した話として発表していましたが、改稿するにあたって一部と二部にして、一つの話にまとめました。同じハプニングに対し、二人がどのように感じたかを読み比べてみてくださいね。
☆ ☆ ☆
【第一部:キミの来ないクリスマス・イヴ】
クリスマスを直前に迎えた日、沙樹は親友から「来月結婚する」というメールを受け取った。気がつけば友人たちは次々と結婚し、独身は少数派になっている。
だが沙樹には学生時代からつきあっているワタルがいる。しかしいまだに結婚話は出てこない。このままの関係がいつまで続くのか、ときとして不安を覚える。
そんな気持ちを知ってか知らずか、仕事仲間で一番気の合う友也は、ある行動を起こす。それは沙樹の不安を増大させ、やがてワタルまで巻き込んでいく。
☆ ☆ ☆
【第二部:キミに会えないクリスマスイブ】
クリスマスを直前に迎えたある日のこと。ワタルは恋人の沙樹に、仕事仲間であるDJトミーに高級レストランに連れていかれたと聞かされた。仕事の打ち合わせだと誘われたらしいが、どこまで信じていいのか解らない。
というのもワタルは、トミーが沙樹を好きになっていることに気づいているからだ。
仕事の関係で会いたくても会えないワタルと、近くにいられるトミー。沙樹は友情以上の感情を抱いていないというが、ワタルは気が気でない。
そんなときワタルは、トミーにある挑戦状をつきつけられる……。
☆ ☆ ☆
縦書き表示推奨のため、余分な改行は入れていません。専用アプリを使ってお読みいください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる