通りすがりの王子

清水春乃(水たまり)

文字の大きさ
23 / 28
番外編

須藤君の じれったい二人

しおりを挟む
クリスマスパーティー後の週明け、人々の好奇心の矢面に立たされた須藤君。
適当にあしらうものの、隣の席の千速には、またまたこんな話題をふられて……

********************************************

「はぁっ? ……いや、僕はたまたま隣の席に座っているだけで、皆さんが見ているもの以上のものを見ているわけじゃないですから。特別な事情なんて知りませんよ。僕の方がどうなってんのか聞きたいくらいですよ」

何度目かわからない「で、そこんトコどうなってんの?」的な質問に、これまた同じ答えを返しながら、僕はため息をつきました。
突然あんな格好で現れて話題をさらった当人は、翌日にはいつもの「薄墨の君」仕様で出社し、何があったのー? と簡単に聞ける雰囲気ではなくなってしまったのです。
策士ですねー、加藤さん。
いや、たぶん、無意識なんでしょうけど。
……は は は。

元婚約者(笑)久世課長は、「俺に何か聞いてみろ、その度胸があったらな」という黒いオーラを放出しており、もちろん誰も近付けず。
常盤さんは、例の調子で「どうなってるんだろうねー。僕もこの先楽しみでさー」と、肝心なことは何ひとつ口にせず。
谷口さんに至っては「んふふ。そうよねー興味深いわよねー。でも、教えてあげなーい」とか、余計興味を煽るようなことを言い。
何も情報を掴めなかった人たちが、一番聞きやすそうで、丸め込みやすそうな僕のところへやってくるのです。
で、僕はこう答えるわけ。

「本人に直接聞いてみたらどうです? 加藤さん、隠すつもりなんてサラサラ無さそうですし」

いや、実際の所、結構面白いものを間近で見聞きしていたとは思いますが、それは、もちろん秘密です(笑)
あ、因みに、直接聞こうとする勇者は現れていないようです。
凄いですねー、加藤さん。



 * * *



時刻は六時過ぎ。
加藤さんが、隣の席でため息をつきました。
まずい展開です。
ここはひとつ、席を立って脱出……

「須藤君」

きたーーーーーっ。
脱出失敗です。

「……はい、何でしょう」

この時間帯、そしてこの口調、OFFモードの加藤さんです。
このヒトは、OFFモードの時の方が厄介なのです、僕の経験則からいって。

「指輪って、やっぱり意味があるわよね?」

指輪って、あの・・噂のシロモノですかね?

「そりゃ、あるんじゃないですかね」
「……そうよね」

うーーーーんっ! 気になるじゃないですかっ! そこで切られたら。

「指輪は、そう簡単にプレゼントできませんよ」

特に、アナタがつけていたような、一粒石のモノとかはね。

「加藤さんだって、あの指輪をもらった時に、何かひとこと言われたんじゃないんですか?」

くるりっと勢いよく椅子をこちらに向けて、僕に向かって身を乗り出した加藤さんが、目を大きく見開いてこう言いました。

「それがね。目が覚めたら、はめてあったの」

どういったシチュエーションか、妄想が暴走しそうですーーーっ。
しかし、赤面する僕を歯牙にもかけず、

「でね、ビックリして暫く眺めていたら、『それは、保険だ』って言われたのよ」

そう言って加藤さんは、腕を組んでふーむ、と唸っています。

「私だって馬鹿じゃないから、あの指輪がどんな意味をもっているかくらい、わかります。わからないのは『保険』のほうで」

首をかしげながら呟くのです。

「それって、指輪を渡すのに、正しい言葉なのかしら?」

いや、正しいとか正しくないとか……そういう問題?

「つまり加藤さんとしては、指輪自体がどうこうじゃなくて、言葉の選択に疑問を感じていると?」
「そうっ! 何『保険』って。私が心変わりしないための保険ってこと?」

……そこは盛大に「そりゃ、違いますっ!」と、森さんのためにも言っておくべきなんでしょうか。
加藤さんは、ずいっと僕ににじり寄って、

「っていうか、その渡し方にも、問題アリじゃない? 私、YESもNOも言ってないもの。もし、NOだったらどうするつもりだったのかしら?」

と眉を顰めた。
いや、断らせるつもりは、これっっっぽっちも、繰り返しますが、これっっっぽっちもなかったと思いますよ(断言)
僕はため息をついて、加藤さんに言い聞かせるのでした。

「あのですね。『保険』ていうのは、他の男が加藤さんに手を出さないようにっていう意味の保険ですよ。心変わりなんて、ハナから許されてないんですよ」

誰が相手だと思ってるんですか、全く。
すると、少し拗ねたような表情で、

「……お伺いぐらいたてるのが、筋ってもんじゃない?」

とか言うんですよっ!
断る気なんて、ないんじゃないんですかっ!
うう……甘すぎて、砂を吐きそうです。
なんで、僕にのろけてるんですか?
これ、のろけてるんですよね??
違う???
っていうか、本人は全力で否定すると思いますけど、加藤さんにご執心であるがゆえに、いまひとつ、照れて言葉にすることが出来ない森さんの男心、わかってあげてほしいですよ……

照れる、森瑞穂……うーん、俄かには信じがたいですけど(笑)

傍から見れば、これほどあからさまなお互いへの好意が、どうやら、当人同士にはダイレクトには伝わっていないという……
なんとも傍迷惑な、なんともじれったい二人なのです。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ガネット・フォルンは愛されたい

アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。 子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。 元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。 それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。 私も誰かに一途に愛されたかった。 ❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。 ❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています

玖羽 望月
恋愛
 役員秘書で根っからの委員長『千春』は、20年来の親友で社長令嬢『夏帆』に突然お見合いの替え玉を頼まれる。  しかも……「色々あって、簡単に断れないんだよね。とりあえず1回でさよならは無しで」なんて言われて渋々行ったお見合い。  そこに「氷の貴公子」と噂される無口なイケメン『倉木』が現れた。 「また会えますよね? 次はいつ会えますか? 会ってくれますよね?」  ちょっと待って! 突然子犬みたいにならないで!  ……って、子犬は狼にもなるんですか⁈ 安 千春(やす ちはる) 27歳  役員秘書をしている根っからの学級委員タイプ。恋愛経験がないわけではありません! ただちょっと最近ご無沙汰なだけ。  こんな軽いノリのラブコメです。Rシーンには*マークがついています。  初出はエブリスタ(2022.9.11〜10.22) ベリーズカフェにも転載しています。  番外編『酸いも甘いも』2023.2.11開始。

処理中です...