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番外編
マダム百合の 魔法の効かせ方
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瑞穂に「コレよろしく」と、千速を丸投げされたマダム百合の呟き。
********************************************
魔法にかけるつもりだったのに、自分が魔法にかかってしまった、極上の男の子。
美しく装った千速ちゃんを見て呆然と佇む様子は、最初、そんな風に見えたのだけれど。
次の瞬間に表れたのは、焦がれていたものをようやく見つけた、という安堵と、諦めていたものを再び見つけた、という歓喜だったように思うの。
あっという間に、怒りに変わってしまったけれど、ね。
熱に浮かされた瞳を見て、これはもう既に恋は始まっていたのだ、と私は確信したけれど。
それなのに、あの娘ときたら。
「百合さん、期待されていたのはこっち方面じゃなかったんじゃない? もっとイケてない感じに仕上げるように言われなかった?」
なんて言うのよ。
わかっていないったら。
そうね、こういう場所――老舗ホテル――で、フォーマルウェアのセレクトショップなんて長いことやっていると、今日みたいなことは、珍しくはないのよ。
魔法の杖の一振りで、シンデレラになることを、させることを願う人もいるの。
でもね。
私は魔法使いじゃないから。
ここに置いてある物は、単なる道具に過ぎないわ。
煌びやかなドレスも、アクセサリーも、メイクも、非日常の中で輝く、ほんの一瞬のまやかしでしかないもの。
でも、そのまやかしの中から自分への自信が芽生えたり、誰かへの想いで美しくなりたいと願い、実際美しく輝く、そんな魔法はあると思っているの。
そして、誰かへの想いで輝くだけじゃなくて、誰かの想いを身に受けることで輝く魔法もね。
――魔法は誰かにかけるものじゃないと思うの。
物語の世界じゃない、この世の魔法は、自分が自分にかけるしかないと思うのよ。
今日も今日とて千速ちゃんは、まるっきりヤル気ゼロな状態だったわけだけれど、――ちなみにちょっと前に、お母様(私の友人なんだけれど)に連れられて、しぶしぶドレスを選んでいった時も、気乗りしないオーラを遠慮なく放出していたわね――彼女の場合、自分に魔法をかける理由を
今のところ持ち合わせていないようだったわ(笑)
ラベンダーのドレスも。
7cmのヒールも。
シャンデリアピアスも。
緩やかに波打つ髪も。
華やかなメイクも。
彼女自身には魔法をかけられなかった。
美しく装った、いつもの加藤千速がそこにいるだけだったように思うの。
だけど、あの男の子は。
どこにいた、と問い詰めた時も。
なぜ黙っていた、と咎めた時も。
そのままの千速ちゃんから目を離せないようだった。
まるで、自分自身の想いを確認するかのように。
掻っ攫うようにここから連れ出して行った彼の想いが、正しく千速ちゃんに伝わるといいのだけれど。
そんな彼の想いが、千速ちゃんを輝かせていると、彼女が気付くといいのだけれど。
なかなかに手強いお嬢さんだしね。
――でも。
ロマンスの香りがしませんこと?
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魔法にかけるつもりだったのに、自分が魔法にかかってしまった、極上の男の子。
美しく装った千速ちゃんを見て呆然と佇む様子は、最初、そんな風に見えたのだけれど。
次の瞬間に表れたのは、焦がれていたものをようやく見つけた、という安堵と、諦めていたものを再び見つけた、という歓喜だったように思うの。
あっという間に、怒りに変わってしまったけれど、ね。
熱に浮かされた瞳を見て、これはもう既に恋は始まっていたのだ、と私は確信したけれど。
それなのに、あの娘ときたら。
「百合さん、期待されていたのはこっち方面じゃなかったんじゃない? もっとイケてない感じに仕上げるように言われなかった?」
なんて言うのよ。
わかっていないったら。
そうね、こういう場所――老舗ホテル――で、フォーマルウェアのセレクトショップなんて長いことやっていると、今日みたいなことは、珍しくはないのよ。
魔法の杖の一振りで、シンデレラになることを、させることを願う人もいるの。
でもね。
私は魔法使いじゃないから。
ここに置いてある物は、単なる道具に過ぎないわ。
煌びやかなドレスも、アクセサリーも、メイクも、非日常の中で輝く、ほんの一瞬のまやかしでしかないもの。
でも、そのまやかしの中から自分への自信が芽生えたり、誰かへの想いで美しくなりたいと願い、実際美しく輝く、そんな魔法はあると思っているの。
そして、誰かへの想いで輝くだけじゃなくて、誰かの想いを身に受けることで輝く魔法もね。
――魔法は誰かにかけるものじゃないと思うの。
物語の世界じゃない、この世の魔法は、自分が自分にかけるしかないと思うのよ。
今日も今日とて千速ちゃんは、まるっきりヤル気ゼロな状態だったわけだけれど、――ちなみにちょっと前に、お母様(私の友人なんだけれど)に連れられて、しぶしぶドレスを選んでいった時も、気乗りしないオーラを遠慮なく放出していたわね――彼女の場合、自分に魔法をかける理由を
今のところ持ち合わせていないようだったわ(笑)
ラベンダーのドレスも。
7cmのヒールも。
シャンデリアピアスも。
緩やかに波打つ髪も。
華やかなメイクも。
彼女自身には魔法をかけられなかった。
美しく装った、いつもの加藤千速がそこにいるだけだったように思うの。
だけど、あの男の子は。
どこにいた、と問い詰めた時も。
なぜ黙っていた、と咎めた時も。
そのままの千速ちゃんから目を離せないようだった。
まるで、自分自身の想いを確認するかのように。
掻っ攫うようにここから連れ出して行った彼の想いが、正しく千速ちゃんに伝わるといいのだけれど。
そんな彼の想いが、千速ちゃんを輝かせていると、彼女が気付くといいのだけれど。
なかなかに手強いお嬢さんだしね。
――でも。
ロマンスの香りがしませんこと?
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