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第3話
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しおりを挟む永宵の言うとおり、もしも践祚の宴までに転化が済んでいたなら、あの場で翠玲を献上されたのは仁瑶だったかもしれない。
「ですが、翠玲公子の意思は……」
「阿仁との縁を賜りたいと、五公子から永宵に申し出があったそうよ。妻の立場で嫁ぎたいと言っていたそうだし、夫君を持ちたがらない貴方にはちょうどよいじゃない、阿仁。仕える人間がひとり増えるだけで、なにも変わらないわ」
「そうだよ、哥哥。父上だって、とにかく哥哥が身を固めればうるさく言わなくなるよ」
皇太后と永宵から言い含められ、仁瑶は眉宇を寄せた。
翠玲が本心から望んだとは到底思えなかった。しかも天陽種の男が妻の座に納まるなど、聞いたこともない。
「私は誰とも婚姻する気はありません。孕めない下邪との縁など賜っても、翠玲公子が哀れなだけです。どうかお考え直しください」
「哥哥こそ考え直して。翠玲と婚儀を挙げないと、琅寧の太子との婚儀を挙げなくちゃいけなくなるんだよ」
「は……?」
わけがわからず、仁瑶は皇太后と母太妃を見やった。
「どういうことですか。琅寧の太子と婚儀など、私は嫌です」
「父上の決定だよ」
答えたのは永宵だった。
「翠玲は母親の身分こそ低いけど、あの美貌だからね。琅寧の国内外から、ひっきりなしに求婚されてたみたい。中には有益な相手がいたかもしれないのに、琅寧王は煌蘭へ献上することを選んだ。しかも一度は俺の妃嬪に加わった身で、そこらの女と結婚なんかさせてごらんよ。琅寧にしてみれば、せっかくの貴重な宝石を溝に捨てられたも同然でしょ」
「っ、それは」
「哥哥が翠玲の世話を焼いてたのは皇宮の外でも周知の事実だし、皇兄の嫡妻になるなら琅寧だって文句は言わない。翠玲を拒みたいなら拒んでもいいけど、その時は琅寧に誠意を示すためにも王太子と婚約するようにって、父上は言ってたよ」
仁瑶はあまりのことに二の句が継げなかった。
翠玲か、王太子か。どちらを選んでも、行きつく先は不幸しかない。
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