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カゴ
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気の置けないDomに遊んでもらうSubの話です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「れーし、あそんで」
長い腐れ縁の彼に電話口でそう甘えれば、返ってくるのは深い溜息。それでもいくらかの葛藤と思案のあと、
「いつですか」
なんて応えてくれるのだから、彼はとっても優しい。
「いつでも、れーしの都合が良い日に」
例えば最上位のDomに「Come」を言われたって、その日だけは空けてみせよう。なんたって彼は、俺にとって極上のSwitchなんだから。端末の先ではぺらぺら紙を捲る音。それから、朗らかな声。
そして、これみよがしに聞こえる、軽い金属音。
「じゃあ、来週の土曜にしましょう」
「うん。わかった、用意しとくね」
間を開けず応えた俺が喜ばしかったのか、彼はくすりと笑った。それから、とろりと絡むように声が落ちる。
「それまで良い子にできるでしょう?」
ぞくり。あたりまえみたいにくれた、鞭とも飴ともつかない言葉が背中を伝って染みる。これだから彼を諦められない。いつだってサービス精神旺盛に、俺の1番欲しいものをくれる。
「うん、できる」
褒めるみたいに鳴る金属音を聞きながら、あと10日、指折り数えて待とうと思った。
「カゴさん」
待って、待って、ようやっと迎えた土曜日に、彼はいつも通り優しげな笑みを浮かべて俺に手を振った。それだけで蕩けそうになる。待ち合わせ場所でそんなことすれば彼にご褒美が貰えなくなるから、頑張って堪えるけど。
「れーし、久しぶり」
「はい、お久しぶりです」
暗い青の瞳はにこにこと穏やかだ。彼は優しい。それこそ誰にだって。
「新調したんですか? それ」
ああ、気付いてくれた!
彼が指差したのは、俺の首元。着けているのは先日買ったばかりのチョーカーだ。誰かの首輪、というわけではない。シンプルな濃い灰色の布地に、小さな三日月の銀細工が付いている。
「うん。気に入っちゃったからこないだ自分で買ったんだぁ。似合う?」
「ええ。良く似合います。リードを着けたくなりますね」
「ほんと? れーしなら良いよ、つけて欲しいなぁ」
Collorじゃないんだよ。そんな意味を込めて言えば、零治はそっと具合を確かめるようにチョーカーへ触れた。ちょうど喉仏のあたりにある三日月を指先で触って、それからすっと手を引く。
彼が良いなら、本当に繋いでくれたって良いんだけどな。そんなふうに思うけど、彼はきっと、誰かにCollorを着けるなんてしないんだろう。
「それじゃ、今日はどうしましょうか?」
「部屋取ってあるんだ、前も使ったとこ」
「ああ、あそこですか」
スマホで地図を見せながらここへ行こうと提案する。以前遊んだ場所を覚えていてくれたらしい。それじゃあ行こうと歩き出した彼に付いて、俺もその背を追いかける。
今からのことを思うとそれだけでぞくぞくした。震えそうになる足を必死で動かして付いていく。
「……近いですから、徒歩で良いですよね。散歩しましょう」
少し遅れていそいそ付いていく俺を振り返って、彼は言った。俺が今どんな状態かわかっているのに、早くおいで、とばかりに軽く手を動かしながら。
「う、ん」
はやく、はやく、はやく欲しい。10日も待ったのだ。彼のDom性に支配されたくて堪らない。
「ほら、カゴさん」
「ご、ごめ……待ってぇ」
気は急いているのに、身体は言うことを聞いてくれなかった。Come、とも呼んでくれない彼にぞくぞくしながら震える足を動かす。くい、と彼が肩越しに緩く俺を手招いた。
「置いてきますよ、ほら」
大通りを逸れて、そういうホテルのある通りに人は少ない。そもそも真っ昼間だから余計に。だから急いだり人目を気にしたりする必要はないはずなのに、零治はくいと手を動かして、Command抜きで俺を急かした。何度も何度も招かれる。小さな子を見張るように……。
「っ、あ」
あ、違う。唐突に思った。彼のあれは、違う。緩く曲げた指を上にしてくいと引くのは、手招きじゃなくて。
「カゴさん? ほら行きますよ」
足が止まってしまった俺に向かって、くいくいと手を動かして見せる。深くて暗い青の瞳を細めて、優しく笑いながら。
引いているのだ、あれは。俺の首にあるチョーカーに、着けたいと言ってくれたリードを。犬みたいに繋いで、俺を散歩させているのだ。
「ひ、ぁ、あ、あぁっ」
やばい。ふわふわする。トびそう。恥ずかしい。全身が喜ぶみたいにぞくぞくして、道端にへたり込みそうになる。喉元を押さえる俺を見て零治は察したのかにっこりと笑ってくれたけど、くいと柔らかく引く手を止めてはくれなかった。
「どうしました?」
なんて白々しい! 全部わかっているくせに!
足を止めて待つ彼のところへ、力の抜けた身体を動かして向かう。差し出された腕に縋るように抱きついた。
「はい。じゃあ手を繋いで歩きますか」
「こ、こ……道路」
「ええ、そうですね」
ああずるい、ずるい! だって彼は確かに、「俺を手招いただけ」なんだから。勝手に解釈してSpaceまで入りかけたのは俺の方なんだから。
それでも、俺が膝をついてKneelしちゃわないぎりぎりを狙ってくれるあたり、零治だってなかなかにマニアックだと思うんだ。ここ道路だってば。
その後、ホテルに行くまでのことなんてほとんど覚えてない。はやく欲しくて、もっとはっきり支配されたくて、頭の中はその想像でいっぱいだったから。
だから部屋に入った途端、気が抜けて彼の足元へKneelしてしまったって、悪い子ではないと思うのだ。
「れーし、れーしぃ……」
「はいはい、準備しますからね。カゴさん、セーフワードは?」
「こ……『殺してください』」
「よろしい。シャワーくらい浴びますか?」
「ふぁ……ぁい……」
もう何十回と繰り返したやり取り。彼はいつだって、これだけは曖昧にしてくれない。ぽんと俺の頭を叩いて、彼はさっさと中へ入ってしまった。座り込んで靴を脱いで、どうにも腰が抜けたようなので這うようにして風呂へ向かう。立ち上がっても転ぶ未来しか見えないし。
「犬みたい」
後ろからそんな声が聞こえて、また蕩けてしまいそうになった。ぺたぺたと風呂場へ行き、四苦八苦しながら服を脱ぐ。下着はべとべとだった。いやだって、零治が上手いのが悪い。
むずむずして、触りたくて仕方なかったけれど、自分で着けた器具のせいでアレは萎えたまま。いやあいくら俺でも10日はしんどい。すぐ気持ち良くなっちゃう。
ひぃひぃ言いながら身体を洗って準備を済ませる。なんとかトばずに、バスローブだけ羽織って部屋へ戻った。いや、簡易なものだから清潔さを保つのは難しくないんだけども、洗うってことはつまり触るってことだからね、しんどい。
「あ、お疲れ様ですカゴさん」
縄の用意をしながらのほほんと出迎えてくれる零治。今日の縄は黒のようだ。
そして、ベッドの上に置かれた小さな鍵。無理言って零治に渡してある、俺を戒めている玩具の鍵。
貞操帯の中身がぎちりと張った。
「れー、し。れーしぃ、ねぇ」
「はいはい、なんですか? 今日の縄はチョーカーに合わせて黒にしましょうねぇ。きっと似合いますよ」
少し期待してたのだけれど、やっぱり彼はCommandを使ってくれなかった。俺と遊ぶときはいつもそう。それで俺が堪らなく興奮するのまで分かっていて、零治は俺に、命令してくれない。
「う、ん。あの、足元……Kneelしていい?」
「ええどうぞ、ここで良いですか?」
「うん……」
ベッドに腰掛けた零治の足元へ、ぺたりと座り込む。ぎゅうと抱きついて縋る。彼はまたぽんぽんと頭を撫でて、それから、俺が待ち望んでいた鍵を手に取った。思わず視線が向く。こくりと喉が鳴った。
「ちゃんと我慢できました?」
「うん、うんっ。我慢した、俺我慢してたよ。ねぇはやく、れーし、お願いぃ」
彼は俺をよくよく知っている。かのSwitchは、俺というSubを知っている。だからこんな懇願は叶えられないと、俺は知っている。でも、言わないわけにはいかないのだ。10日も戒められた欲は一刻も早くと開放を待っている。
「そうですか。それじゃ、縛りますから頭上げてくださいね」
ほぅら。足に抱きついた俺を剝がして、零治は俺の顎をくいと上げた。決して命令形ではないのに、自然と背筋を正して彼を見上げる。するり、とチョーカー越しに喉を撫で、引っ掛けるようにしてするすると縄が巻き付けられる。いつも通り手際が良い。
「ぁ、う。ぁああっ、ふぁ」
「動くと危ないですよ」
「あっ、無理、動いちゃ……止まんないぃ」
しゅるり、しゅるりと縄が巻かれる。優しく腕を取られ、彼の望むように戒められる。緊縛が進むたびにぞくぞくして、身体が、腰が跳ねるのを止められない。
「……しょうがない人ですねぇ」
わざとらしく溜め息をついた彼は、ぐいっと俺の背を押して床へ押し付けた。腰あたりにずしりと重みがかかる。ほとんど床しか見えない視界と、押さえつけられて動けない身体に、今までとは違った感情が沸いた。
「ひ、や、これやだ、これ怖い、見えないのこわい。れーし」
「あなたがじっとできないからでしょう。暴れると終わりませんよ」
聞こえる声は冷たい。俺が悪い。分かってる。でも気持ち良いんだからしょうがないじゃあないか。ずっと我慢して、ようやく会えたから我慢できなくなっただけじゃないか。
「だって、だってぇ……やだ、やだぁ怖いよぉ、顔見たい、れーしの顔見たい」
「縛り終わるまで待てないんですか?」
しゅるり、しゅるり。身体の自由はどんどん奪われていく。興奮に震える背中へ縄が走る。きっと、今、零治に首を締められたら俺は死んでしまう。
「ひ、ひぃッ、れーし怖い、怖いぃい! これやだ、やだぁああ!」
「はいはい、もうすぐできますからね」
じたばたとパニックを起こしたように暴れる俺を上から乗るように押さえつけて、零治は俺の身体を縛り終えた。後ろ手に両腕を拘束されて、バスローブもはだけてぎっちり縄が食い込んでいる。首元に余った真っ黒な麻縄が、リードのようだと思った。
「はい、起きて良いですよ。縄こんな感じでどうです? 大人しくできない駄犬ですからね、しっかり繋いでおかないと」
「ぁひ、あう……っごめん、なさい」
零治はCommandをくれない。たった一言、Stopと言ってくれれば俺は我慢できたのに。せめて「待て」と言ってくれたら。ちゃんと命令なら聞けたのに。
だけど、黒いチョーカーへ結ばれたように伸びる縄に、興奮しているのも確かで。
「あはぁ……! ほんと、犬みたいぃ……。ね、躾してぇ、れーしぃ。俺できるよぉ」
「ええ、もちろん。勝手に腰振る発情犬ですからね、あなた」
ぞくぞくする。満たされる。ああもっと、もっと、手酷い鞭をくれないだろうか?
「それじゃあどれが良いですか? 選んで良いですよ。……取って来て」
ばらばらと頭の上にひっくり返された道具たち。相変わらず、優しい顔した彼が持つには似合わない。ひそりと囁かれた、犬にするような一言は、飴のような鞭のような、たまらない味がした。
「ぁ、う。んん……」
両の手は使えないから、膝で這って目的の道具を口で咥える。これ、と零治に差し出した。ぽん、と一度だけ頭に置かれた手は大きくて暖かかった。
「これで良いんですね?」
「うん、それ…っそれが、いい」
「変態」
「ふぁ、ぁ、ひ……ぃ」
しゅるりと鞭をなぞって具合を確認する零治は、いつもどおり冷たい顔で笑う。青みのある瞳は優しく俺を見下ろしていて、多分まだ、ご褒美はくれない。
「さ、どこに欲しいんですか? 一本鞭だから考えて答えてくださいね」
しなやかな鞭。バラとかじゃないガチ目のやつ。零治は上手だから、俺はこっちで打たれる方が好きだ。手遊びに、なんにもない床へパシッと打たれるのを聞くだけでもスペースまで入れそうな気がする。
「あのね、」
「Shush」
ぴと、と唇を人差し指で塞がれる。喉が詰まったみたいに言葉も止まった。にこ、と笑った彼は、そのまま、とっても楽しそうに目を細める。
「今、あなたは、私の犬ですね?」
いじわる、いじわるだ。もっとちゃんと、命令をくれたら全部気持ち良くなれるのに。ぞくぞくと震えるような心地良さが背中をなぞる。こんなんじゃトべない。イケないのに。
「…………わん」
返事をしたら、本当に犬みたいに撫でてくれた。ちょっと乱暴。気持ち良い。あたまふわふわする。手は使えないから、ぺたっと床に伏せて腰だけ上げた。恥ずかしい、より、もうはやく欲しい気持ちの方が強くて格好なんてどうでも良い。
「もっと足開いて」
「わぅ……わふ、ッきゃぅん!」
もぞもぞ体勢を整える。するすると固い持ち手みたいなのが背中からお尻にかけて触れて、それからソコに、パシッと弱いのが振り下ろされた。ほんとに犬みたいな声が出た。
「きゃう、くぅん……ぎゃんっ! はふ、わぅう……」
背中とお尻に何発か。それから2、3回俺からも見えるように床へ。痛い。いたいしこわい。気持ち良い。
「Shush」
「ッ」
ひゅ、と喉が鳴る。静かに落とされたCommandに息が止まった。ぎゅっと口を閉じて歯を食いしばって、頑張って耐える準備をする。のに、予想していた痛みと快感はやってこない。瞑っていた目を開ける。
「……? んンッ! ぅ、く……ぁっ……」
すこし緩んだところに、バチンッ、と強いのがきた。びくんと身体が跳ねる。しっかり縛られた身体は上手く快感を逃してくれなくて、呼吸と一緒に喘ぎが漏れる。
言いつけを破りたくなくて、床に顔を押し付けた。口を閉じる。息も止める。
「Good boy。良く出来ましたね」
暖かい手が頭に触れた。身体を引き起こされて、ぎゅっと抱き締めて貰った。あ、だめ。これだめ、はいっちゃう。あたまとんじゃう。
ああ、幸せ、しあわせ。すき。だいすき。
「っ……、……ん、ん」
ほっとして、ぐいぐい身体を押し付けた。優しく撫でてくれる。いっぱいいっぱい虐めた後はいっぱい甘やかしてくれるんだ。だから零治とのプレイが好き。零治がだいすき。
「あは、カゴさん良い子」
バチンッ
「ぁアああっ!」
ぽやぽやと思考をトばしていたところに強烈な衝撃がきた。モノは戒めたはずなのに、てっぺんに抜けるような快感で頭が真っ白になった。思わず声が出る。
え、なに、なに? なんで? 叩かれた? あ、多分そうだ。スパンキングされた。声出しちゃった。どうしよう、勝手にイッちゃった。言いつけ破って声出しちゃった。
「ぅ……ぇ、ぅ……」
「あは、声出ちゃいましたねぇ。おもちゃ使わない方が気持ち良かった? あぁ泣かないでください、かわいいですよカゴさん。ほんっと……ダメなコでかわいい」
違う、違うよ。俺ちゃんとできるよ。良い子にできる。もう約束破らないからおねがい。お仕置きして? おれできる、次は全部できるから。
「ん? あぁ良い子ですね、まだShushですもんね。……じゃあ、言いつけ破るBad boyはコーナータイムしましょうか」
声は出せないから、ぶんぶん首を振って訴える。楽しそうに笑いながら、零治はぐいと縄を引いた。チョーカーに繋がれたリードのように、引いて立たせて部屋の角へ。
ああ繋がれてる。そう思うだけでも足がガクガクして力が入らなかった。けど、お仕置きをやらせてくれるのが嬉しくて必死について行く。冷たい壁に寄りかかった。彼の顔は見えなくなる。怖い。やっぱり俺これ嫌いだ。でも、今日は悪い子だったから頑張らないと。
「振り向いちゃ駄目ですよ。うるさく鳴くのも駄目。上手に出来たら、顔見てちゅーしながらイかせてあげましょうね?」
ちゃり、と、ソコに付けた戒めが鳴った。ちゃりちゃりと遊ぶみたいに触られて、耳元で囁かれて、それだけでもうイきそう。
なにするんだろ……なんてぼんやりしてたら、閉じた足の間にぬるりと固いモノの感触。おもちゃでも、後ろからぐりぐりされるとぞくぞくしちゃう。器具付けたままなんだから、普通にイケるはずないのに。
「落とさないように」
それだけ言って、彼はバイブのスイッチを入れた。
「…………ッん! ふっ、ふっぅ……んっ」
ヴヴヴ、と低い音が腿の付け根あたりから聞こえる。器具ごと、後ろから持ち上げられたモノがキツいコックのせいで痛いくらい張る。苦しい。ちゃんと準備はしてあるんだから、せめて挿れてくれたら楽にイケたのに。
もどかしい外からの刺激はそれでも、散々に鞭で打たれてSpace入るような俺にはキツすぎて、すぐにでも果てそうな欲求が込み上げてくる。
「んんんッ……ぅ、ゔっ……ぅぐ」
「ほら頑張って。得意でしょう、出さないでイッちゃうの」
たしかに得意というか、メスイキする癖はついている。だけど挿れもしないで、貞操帯着けたままイくのはちょっと難易度が高い。零治が後ろから支えてはくれているけれど、気を抜いたら座り込んでしまいそうだ。
「ふっ、ふーっ、んっ、く、ァう」
ぐいと縄を引かれる。主張していた胸の飾りを手遊びに摘まれる。それから、軽く首を絞めるみたいに、チョーカーを大きな手がなぞっていく。
苦しい。くるしい。イキたい。イキたい、くるしい、イキたい、イキたいイキたいイキたい。ぁ、あ、イき、イきそう、イきそ、イく。これイく、もうイく、イける、イく、
「……イけ」
「ーーーーーーッ!」
耳元で聞こえた低い声に、全部がまっしろになった。声を我慢できたのかも分からなかった。お腹の中にきゅんと力が入る。溜め込んだいっぱいの気持ち良さに痙攣してへたり込む俺を、零治が抱えて抱き締めてくれた。
「Great! Good boy! 上手にできましたよ。良い子にはたっぷりRewordをあげましょうね」
抱き締めて褒められるだけでたまらない。鼻の頭にキスをくれた。それだけでびくびくと腰が跳ねて、全身に快感が走る。さっきの命令なんて忘れたみたいな優しい笑顔。その瞳が俺を見ている、その事実だけでずっと絶頂にいるように気持ち良い。
「腕の縄も下のおもちゃも外しましょうね。ああそうだ、もう喋って良いですよ?」
「……っん、ぁあれーし……あああっ……う、ひあぁあぁぁ、れぇ、ア、ぁひいぃっ……ああぁあれぇし、れーしぃ」
許可をくれた、その途端に情けない声が出る。ずっと続く快感を逃したくて、とにかく目の前のDomが愛おしくて、意味もなく喘ぎ、名前を呼ぶ。
「よしよし、頑張りましたね。えらいですよ。Good boy」
とろり、と。青くて濃い瞳が柔らかに艶めいている。だいすきなDomが俺を見て喜んでる。いつもあんなに理性的な目が、俺がSub性晒して、涎垂らしながら喘いでイッたの見て、Dom性に濡れている。
「ぁ、あっあっれーしッ……ぁあ、あ、あぅああぁああ……っ! ひ、ッひぃ、ぅひぁああ……ぁぁ、あー、あああーーーー……」
「ん、良い子。ベッド行きましょうね」
完全に力が抜けて、ずっと絶頂し続けているように幸福のあふれる俺を抱き上げ、零治はベッドへ戻った。優しく下ろしてもらった。それから、約束のとおりに拘束を全部外してくれる。
ずっとずっと解放を求めていた場所の貞操帯も。
「ぁ、ぁ、ぁ、れぇ、れーし……っはず、はずしたらぁ……でるぅ……!」
イキっぱなしの時みたいに全身気持ち良いのに、ソコを解放されて我慢できるわけない。そう訴えたのに、彼はにぃっと意地悪に笑って、そのまま拘束を解いてしまった。
「あぁああアアぁぁ……! ぉッ、ぉおっ……んあぁあ……ひっひぃっ、でて、でてぅ……ふぁあああああ……! く、ぅ、んくぅううううう……ッひぃいいいい……!」
ずるり、と。やっと、やっと戒めの解かれたソレはみるみるうちに硬く張り、今身体中に溜まった快楽を逃がすようにダラダラと精液を溢した。零治の大きな手が容赦なく扱くものだから、悲鳴じみた声が鼻に抜ける。
「ぁー、今日、ちょっと、駄目ですね」
「ぅ……? ん、」
掠れた声。良く聞き取れなくて少し不安になる。俺は何か間違えただろうか?
だけどそれを尋ねる前に、ちゅう、と。柔らかい唇が、唾液でどろどろになった俺の唇へ触れた。間近で見えた瞳は、じっと俺を見ていた。
「んぁ、れ、んぷ、っうんん……、むぐ」
あ、むり。もうむり。しあわせ、こんな、こんな口の中ぐちゃぐちゃされて。ぎゅーしてもらって。気持ち良いのしあわせ。だいすきなDomにこんな、おれ、もう。あ
とても、とてももったいないことに、快楽と幸福で蕩けて深くふかくスペースに入った俺はそこで理性をトバして、意識と記憶が戻ったのは、それから数時間経ったあとだった。
でもまあ、たっぷり遊んでもらったし、リード着けたみたいなプレイしてもらったし、いっぱいちゅーしてもらったし。何より、珍しく零治のちょっとだけDom性に濡れた顔が見えたから、俺は満足です。
「カゴさん」
「はぁい、なに、れーし?」
後片付けをして部屋を出る前、零治に呼び止められた。目が合って、あ、と思う。とろりと溶けた瞳。見つめられるだけで、また跪きたくなるような目。
「…………延長する?」
足りなかっただろうか? そういえばしてもらうばっかりで、彼のしたいことをさせてもらっていなかった気がする。最後はちゅーでぶっ飛んだところまでしか覚えてないし。
満足してくれるまで付き合うつもりで、彼のCommandに応える準備をした。
「いえ、」
ああ、俺はどうやったって目の前のSwitchがだいすきなSubなのに、彼はどうにも、俺を優しく扱いたがる。もっともっと酷くして、好きなように使ってくれたって俺はスペース入れる自身があるのになぁ。
ちゃら、と。彼の大きな手の中で、小さな鍵が鳴った。
「コレ、預かっておきますね」
「……っ」
「また、遊ぶ時には着けて来なさい?」
「ぁ……ぅん」
「ちゃんと返事して」
「ッ、は、い。分かり、ました」
「Good」
短いRewordの後、彼はすっと目を細めてわらった。ぞく、と背中から鳥肌が立ちそうな色っぽい顔だった。
それから視線を逸らした彼はいつもどおり、理性的で柔らかな男に戻っていた。きっとまだシ足りなかっただろうに、隠すのが上手いひとだ。
先に部屋を出た彼を追いかけて、俺は、俺の極上のSwitchの、手をそっと握ってみた。
「れーし、また遊んでね」
「ええ、ぜひ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「れーし、あそんで」
長い腐れ縁の彼に電話口でそう甘えれば、返ってくるのは深い溜息。それでもいくらかの葛藤と思案のあと、
「いつですか」
なんて応えてくれるのだから、彼はとっても優しい。
「いつでも、れーしの都合が良い日に」
例えば最上位のDomに「Come」を言われたって、その日だけは空けてみせよう。なんたって彼は、俺にとって極上のSwitchなんだから。端末の先ではぺらぺら紙を捲る音。それから、朗らかな声。
そして、これみよがしに聞こえる、軽い金属音。
「じゃあ、来週の土曜にしましょう」
「うん。わかった、用意しとくね」
間を開けず応えた俺が喜ばしかったのか、彼はくすりと笑った。それから、とろりと絡むように声が落ちる。
「それまで良い子にできるでしょう?」
ぞくり。あたりまえみたいにくれた、鞭とも飴ともつかない言葉が背中を伝って染みる。これだから彼を諦められない。いつだってサービス精神旺盛に、俺の1番欲しいものをくれる。
「うん、できる」
褒めるみたいに鳴る金属音を聞きながら、あと10日、指折り数えて待とうと思った。
「カゴさん」
待って、待って、ようやっと迎えた土曜日に、彼はいつも通り優しげな笑みを浮かべて俺に手を振った。それだけで蕩けそうになる。待ち合わせ場所でそんなことすれば彼にご褒美が貰えなくなるから、頑張って堪えるけど。
「れーし、久しぶり」
「はい、お久しぶりです」
暗い青の瞳はにこにこと穏やかだ。彼は優しい。それこそ誰にだって。
「新調したんですか? それ」
ああ、気付いてくれた!
彼が指差したのは、俺の首元。着けているのは先日買ったばかりのチョーカーだ。誰かの首輪、というわけではない。シンプルな濃い灰色の布地に、小さな三日月の銀細工が付いている。
「うん。気に入っちゃったからこないだ自分で買ったんだぁ。似合う?」
「ええ。良く似合います。リードを着けたくなりますね」
「ほんと? れーしなら良いよ、つけて欲しいなぁ」
Collorじゃないんだよ。そんな意味を込めて言えば、零治はそっと具合を確かめるようにチョーカーへ触れた。ちょうど喉仏のあたりにある三日月を指先で触って、それからすっと手を引く。
彼が良いなら、本当に繋いでくれたって良いんだけどな。そんなふうに思うけど、彼はきっと、誰かにCollorを着けるなんてしないんだろう。
「それじゃ、今日はどうしましょうか?」
「部屋取ってあるんだ、前も使ったとこ」
「ああ、あそこですか」
スマホで地図を見せながらここへ行こうと提案する。以前遊んだ場所を覚えていてくれたらしい。それじゃあ行こうと歩き出した彼に付いて、俺もその背を追いかける。
今からのことを思うとそれだけでぞくぞくした。震えそうになる足を必死で動かして付いていく。
「……近いですから、徒歩で良いですよね。散歩しましょう」
少し遅れていそいそ付いていく俺を振り返って、彼は言った。俺が今どんな状態かわかっているのに、早くおいで、とばかりに軽く手を動かしながら。
「う、ん」
はやく、はやく、はやく欲しい。10日も待ったのだ。彼のDom性に支配されたくて堪らない。
「ほら、カゴさん」
「ご、ごめ……待ってぇ」
気は急いているのに、身体は言うことを聞いてくれなかった。Come、とも呼んでくれない彼にぞくぞくしながら震える足を動かす。くい、と彼が肩越しに緩く俺を手招いた。
「置いてきますよ、ほら」
大通りを逸れて、そういうホテルのある通りに人は少ない。そもそも真っ昼間だから余計に。だから急いだり人目を気にしたりする必要はないはずなのに、零治はくいと手を動かして、Command抜きで俺を急かした。何度も何度も招かれる。小さな子を見張るように……。
「っ、あ」
あ、違う。唐突に思った。彼のあれは、違う。緩く曲げた指を上にしてくいと引くのは、手招きじゃなくて。
「カゴさん? ほら行きますよ」
足が止まってしまった俺に向かって、くいくいと手を動かして見せる。深くて暗い青の瞳を細めて、優しく笑いながら。
引いているのだ、あれは。俺の首にあるチョーカーに、着けたいと言ってくれたリードを。犬みたいに繋いで、俺を散歩させているのだ。
「ひ、ぁ、あ、あぁっ」
やばい。ふわふわする。トびそう。恥ずかしい。全身が喜ぶみたいにぞくぞくして、道端にへたり込みそうになる。喉元を押さえる俺を見て零治は察したのかにっこりと笑ってくれたけど、くいと柔らかく引く手を止めてはくれなかった。
「どうしました?」
なんて白々しい! 全部わかっているくせに!
足を止めて待つ彼のところへ、力の抜けた身体を動かして向かう。差し出された腕に縋るように抱きついた。
「はい。じゃあ手を繋いで歩きますか」
「こ、こ……道路」
「ええ、そうですね」
ああずるい、ずるい! だって彼は確かに、「俺を手招いただけ」なんだから。勝手に解釈してSpaceまで入りかけたのは俺の方なんだから。
それでも、俺が膝をついてKneelしちゃわないぎりぎりを狙ってくれるあたり、零治だってなかなかにマニアックだと思うんだ。ここ道路だってば。
その後、ホテルに行くまでのことなんてほとんど覚えてない。はやく欲しくて、もっとはっきり支配されたくて、頭の中はその想像でいっぱいだったから。
だから部屋に入った途端、気が抜けて彼の足元へKneelしてしまったって、悪い子ではないと思うのだ。
「れーし、れーしぃ……」
「はいはい、準備しますからね。カゴさん、セーフワードは?」
「こ……『殺してください』」
「よろしい。シャワーくらい浴びますか?」
「ふぁ……ぁい……」
もう何十回と繰り返したやり取り。彼はいつだって、これだけは曖昧にしてくれない。ぽんと俺の頭を叩いて、彼はさっさと中へ入ってしまった。座り込んで靴を脱いで、どうにも腰が抜けたようなので這うようにして風呂へ向かう。立ち上がっても転ぶ未来しか見えないし。
「犬みたい」
後ろからそんな声が聞こえて、また蕩けてしまいそうになった。ぺたぺたと風呂場へ行き、四苦八苦しながら服を脱ぐ。下着はべとべとだった。いやだって、零治が上手いのが悪い。
むずむずして、触りたくて仕方なかったけれど、自分で着けた器具のせいでアレは萎えたまま。いやあいくら俺でも10日はしんどい。すぐ気持ち良くなっちゃう。
ひぃひぃ言いながら身体を洗って準備を済ませる。なんとかトばずに、バスローブだけ羽織って部屋へ戻った。いや、簡易なものだから清潔さを保つのは難しくないんだけども、洗うってことはつまり触るってことだからね、しんどい。
「あ、お疲れ様ですカゴさん」
縄の用意をしながらのほほんと出迎えてくれる零治。今日の縄は黒のようだ。
そして、ベッドの上に置かれた小さな鍵。無理言って零治に渡してある、俺を戒めている玩具の鍵。
貞操帯の中身がぎちりと張った。
「れー、し。れーしぃ、ねぇ」
「はいはい、なんですか? 今日の縄はチョーカーに合わせて黒にしましょうねぇ。きっと似合いますよ」
少し期待してたのだけれど、やっぱり彼はCommandを使ってくれなかった。俺と遊ぶときはいつもそう。それで俺が堪らなく興奮するのまで分かっていて、零治は俺に、命令してくれない。
「う、ん。あの、足元……Kneelしていい?」
「ええどうぞ、ここで良いですか?」
「うん……」
ベッドに腰掛けた零治の足元へ、ぺたりと座り込む。ぎゅうと抱きついて縋る。彼はまたぽんぽんと頭を撫でて、それから、俺が待ち望んでいた鍵を手に取った。思わず視線が向く。こくりと喉が鳴った。
「ちゃんと我慢できました?」
「うん、うんっ。我慢した、俺我慢してたよ。ねぇはやく、れーし、お願いぃ」
彼は俺をよくよく知っている。かのSwitchは、俺というSubを知っている。だからこんな懇願は叶えられないと、俺は知っている。でも、言わないわけにはいかないのだ。10日も戒められた欲は一刻も早くと開放を待っている。
「そうですか。それじゃ、縛りますから頭上げてくださいね」
ほぅら。足に抱きついた俺を剝がして、零治は俺の顎をくいと上げた。決して命令形ではないのに、自然と背筋を正して彼を見上げる。するり、とチョーカー越しに喉を撫で、引っ掛けるようにしてするすると縄が巻き付けられる。いつも通り手際が良い。
「ぁ、う。ぁああっ、ふぁ」
「動くと危ないですよ」
「あっ、無理、動いちゃ……止まんないぃ」
しゅるり、しゅるりと縄が巻かれる。優しく腕を取られ、彼の望むように戒められる。緊縛が進むたびにぞくぞくして、身体が、腰が跳ねるのを止められない。
「……しょうがない人ですねぇ」
わざとらしく溜め息をついた彼は、ぐいっと俺の背を押して床へ押し付けた。腰あたりにずしりと重みがかかる。ほとんど床しか見えない視界と、押さえつけられて動けない身体に、今までとは違った感情が沸いた。
「ひ、や、これやだ、これ怖い、見えないのこわい。れーし」
「あなたがじっとできないからでしょう。暴れると終わりませんよ」
聞こえる声は冷たい。俺が悪い。分かってる。でも気持ち良いんだからしょうがないじゃあないか。ずっと我慢して、ようやく会えたから我慢できなくなっただけじゃないか。
「だって、だってぇ……やだ、やだぁ怖いよぉ、顔見たい、れーしの顔見たい」
「縛り終わるまで待てないんですか?」
しゅるり、しゅるり。身体の自由はどんどん奪われていく。興奮に震える背中へ縄が走る。きっと、今、零治に首を締められたら俺は死んでしまう。
「ひ、ひぃッ、れーし怖い、怖いぃい! これやだ、やだぁああ!」
「はいはい、もうすぐできますからね」
じたばたとパニックを起こしたように暴れる俺を上から乗るように押さえつけて、零治は俺の身体を縛り終えた。後ろ手に両腕を拘束されて、バスローブもはだけてぎっちり縄が食い込んでいる。首元に余った真っ黒な麻縄が、リードのようだと思った。
「はい、起きて良いですよ。縄こんな感じでどうです? 大人しくできない駄犬ですからね、しっかり繋いでおかないと」
「ぁひ、あう……っごめん、なさい」
零治はCommandをくれない。たった一言、Stopと言ってくれれば俺は我慢できたのに。せめて「待て」と言ってくれたら。ちゃんと命令なら聞けたのに。
だけど、黒いチョーカーへ結ばれたように伸びる縄に、興奮しているのも確かで。
「あはぁ……! ほんと、犬みたいぃ……。ね、躾してぇ、れーしぃ。俺できるよぉ」
「ええ、もちろん。勝手に腰振る発情犬ですからね、あなた」
ぞくぞくする。満たされる。ああもっと、もっと、手酷い鞭をくれないだろうか?
「それじゃあどれが良いですか? 選んで良いですよ。……取って来て」
ばらばらと頭の上にひっくり返された道具たち。相変わらず、優しい顔した彼が持つには似合わない。ひそりと囁かれた、犬にするような一言は、飴のような鞭のような、たまらない味がした。
「ぁ、う。んん……」
両の手は使えないから、膝で這って目的の道具を口で咥える。これ、と零治に差し出した。ぽん、と一度だけ頭に置かれた手は大きくて暖かかった。
「これで良いんですね?」
「うん、それ…っそれが、いい」
「変態」
「ふぁ、ぁ、ひ……ぃ」
しゅるりと鞭をなぞって具合を確認する零治は、いつもどおり冷たい顔で笑う。青みのある瞳は優しく俺を見下ろしていて、多分まだ、ご褒美はくれない。
「さ、どこに欲しいんですか? 一本鞭だから考えて答えてくださいね」
しなやかな鞭。バラとかじゃないガチ目のやつ。零治は上手だから、俺はこっちで打たれる方が好きだ。手遊びに、なんにもない床へパシッと打たれるのを聞くだけでもスペースまで入れそうな気がする。
「あのね、」
「Shush」
ぴと、と唇を人差し指で塞がれる。喉が詰まったみたいに言葉も止まった。にこ、と笑った彼は、そのまま、とっても楽しそうに目を細める。
「今、あなたは、私の犬ですね?」
いじわる、いじわるだ。もっとちゃんと、命令をくれたら全部気持ち良くなれるのに。ぞくぞくと震えるような心地良さが背中をなぞる。こんなんじゃトべない。イケないのに。
「…………わん」
返事をしたら、本当に犬みたいに撫でてくれた。ちょっと乱暴。気持ち良い。あたまふわふわする。手は使えないから、ぺたっと床に伏せて腰だけ上げた。恥ずかしい、より、もうはやく欲しい気持ちの方が強くて格好なんてどうでも良い。
「もっと足開いて」
「わぅ……わふ、ッきゃぅん!」
もぞもぞ体勢を整える。するすると固い持ち手みたいなのが背中からお尻にかけて触れて、それからソコに、パシッと弱いのが振り下ろされた。ほんとに犬みたいな声が出た。
「きゃう、くぅん……ぎゃんっ! はふ、わぅう……」
背中とお尻に何発か。それから2、3回俺からも見えるように床へ。痛い。いたいしこわい。気持ち良い。
「Shush」
「ッ」
ひゅ、と喉が鳴る。静かに落とされたCommandに息が止まった。ぎゅっと口を閉じて歯を食いしばって、頑張って耐える準備をする。のに、予想していた痛みと快感はやってこない。瞑っていた目を開ける。
「……? んンッ! ぅ、く……ぁっ……」
すこし緩んだところに、バチンッ、と強いのがきた。びくんと身体が跳ねる。しっかり縛られた身体は上手く快感を逃してくれなくて、呼吸と一緒に喘ぎが漏れる。
言いつけを破りたくなくて、床に顔を押し付けた。口を閉じる。息も止める。
「Good boy。良く出来ましたね」
暖かい手が頭に触れた。身体を引き起こされて、ぎゅっと抱き締めて貰った。あ、だめ。これだめ、はいっちゃう。あたまとんじゃう。
ああ、幸せ、しあわせ。すき。だいすき。
「っ……、……ん、ん」
ほっとして、ぐいぐい身体を押し付けた。優しく撫でてくれる。いっぱいいっぱい虐めた後はいっぱい甘やかしてくれるんだ。だから零治とのプレイが好き。零治がだいすき。
「あは、カゴさん良い子」
バチンッ
「ぁアああっ!」
ぽやぽやと思考をトばしていたところに強烈な衝撃がきた。モノは戒めたはずなのに、てっぺんに抜けるような快感で頭が真っ白になった。思わず声が出る。
え、なに、なに? なんで? 叩かれた? あ、多分そうだ。スパンキングされた。声出しちゃった。どうしよう、勝手にイッちゃった。言いつけ破って声出しちゃった。
「ぅ……ぇ、ぅ……」
「あは、声出ちゃいましたねぇ。おもちゃ使わない方が気持ち良かった? あぁ泣かないでください、かわいいですよカゴさん。ほんっと……ダメなコでかわいい」
違う、違うよ。俺ちゃんとできるよ。良い子にできる。もう約束破らないからおねがい。お仕置きして? おれできる、次は全部できるから。
「ん? あぁ良い子ですね、まだShushですもんね。……じゃあ、言いつけ破るBad boyはコーナータイムしましょうか」
声は出せないから、ぶんぶん首を振って訴える。楽しそうに笑いながら、零治はぐいと縄を引いた。チョーカーに繋がれたリードのように、引いて立たせて部屋の角へ。
ああ繋がれてる。そう思うだけでも足がガクガクして力が入らなかった。けど、お仕置きをやらせてくれるのが嬉しくて必死について行く。冷たい壁に寄りかかった。彼の顔は見えなくなる。怖い。やっぱり俺これ嫌いだ。でも、今日は悪い子だったから頑張らないと。
「振り向いちゃ駄目ですよ。うるさく鳴くのも駄目。上手に出来たら、顔見てちゅーしながらイかせてあげましょうね?」
ちゃり、と、ソコに付けた戒めが鳴った。ちゃりちゃりと遊ぶみたいに触られて、耳元で囁かれて、それだけでもうイきそう。
なにするんだろ……なんてぼんやりしてたら、閉じた足の間にぬるりと固いモノの感触。おもちゃでも、後ろからぐりぐりされるとぞくぞくしちゃう。器具付けたままなんだから、普通にイケるはずないのに。
「落とさないように」
それだけ言って、彼はバイブのスイッチを入れた。
「…………ッん! ふっ、ふっぅ……んっ」
ヴヴヴ、と低い音が腿の付け根あたりから聞こえる。器具ごと、後ろから持ち上げられたモノがキツいコックのせいで痛いくらい張る。苦しい。ちゃんと準備はしてあるんだから、せめて挿れてくれたら楽にイケたのに。
もどかしい外からの刺激はそれでも、散々に鞭で打たれてSpace入るような俺にはキツすぎて、すぐにでも果てそうな欲求が込み上げてくる。
「んんんッ……ぅ、ゔっ……ぅぐ」
「ほら頑張って。得意でしょう、出さないでイッちゃうの」
たしかに得意というか、メスイキする癖はついている。だけど挿れもしないで、貞操帯着けたままイくのはちょっと難易度が高い。零治が後ろから支えてはくれているけれど、気を抜いたら座り込んでしまいそうだ。
「ふっ、ふーっ、んっ、く、ァう」
ぐいと縄を引かれる。主張していた胸の飾りを手遊びに摘まれる。それから、軽く首を絞めるみたいに、チョーカーを大きな手がなぞっていく。
苦しい。くるしい。イキたい。イキたい、くるしい、イキたい、イキたいイキたいイキたい。ぁ、あ、イき、イきそう、イきそ、イく。これイく、もうイく、イける、イく、
「……イけ」
「ーーーーーーッ!」
耳元で聞こえた低い声に、全部がまっしろになった。声を我慢できたのかも分からなかった。お腹の中にきゅんと力が入る。溜め込んだいっぱいの気持ち良さに痙攣してへたり込む俺を、零治が抱えて抱き締めてくれた。
「Great! Good boy! 上手にできましたよ。良い子にはたっぷりRewordをあげましょうね」
抱き締めて褒められるだけでたまらない。鼻の頭にキスをくれた。それだけでびくびくと腰が跳ねて、全身に快感が走る。さっきの命令なんて忘れたみたいな優しい笑顔。その瞳が俺を見ている、その事実だけでずっと絶頂にいるように気持ち良い。
「腕の縄も下のおもちゃも外しましょうね。ああそうだ、もう喋って良いですよ?」
「……っん、ぁあれーし……あああっ……う、ひあぁあぁぁ、れぇ、ア、ぁひいぃっ……ああぁあれぇし、れーしぃ」
許可をくれた、その途端に情けない声が出る。ずっと続く快感を逃したくて、とにかく目の前のDomが愛おしくて、意味もなく喘ぎ、名前を呼ぶ。
「よしよし、頑張りましたね。えらいですよ。Good boy」
とろり、と。青くて濃い瞳が柔らかに艶めいている。だいすきなDomが俺を見て喜んでる。いつもあんなに理性的な目が、俺がSub性晒して、涎垂らしながら喘いでイッたの見て、Dom性に濡れている。
「ぁ、あっあっれーしッ……ぁあ、あ、あぅああぁああ……っ! ひ、ッひぃ、ぅひぁああ……ぁぁ、あー、あああーーーー……」
「ん、良い子。ベッド行きましょうね」
完全に力が抜けて、ずっと絶頂し続けているように幸福のあふれる俺を抱き上げ、零治はベッドへ戻った。優しく下ろしてもらった。それから、約束のとおりに拘束を全部外してくれる。
ずっとずっと解放を求めていた場所の貞操帯も。
「ぁ、ぁ、ぁ、れぇ、れーし……っはず、はずしたらぁ……でるぅ……!」
イキっぱなしの時みたいに全身気持ち良いのに、ソコを解放されて我慢できるわけない。そう訴えたのに、彼はにぃっと意地悪に笑って、そのまま拘束を解いてしまった。
「あぁああアアぁぁ……! ぉッ、ぉおっ……んあぁあ……ひっひぃっ、でて、でてぅ……ふぁあああああ……! く、ぅ、んくぅううううう……ッひぃいいいい……!」
ずるり、と。やっと、やっと戒めの解かれたソレはみるみるうちに硬く張り、今身体中に溜まった快楽を逃がすようにダラダラと精液を溢した。零治の大きな手が容赦なく扱くものだから、悲鳴じみた声が鼻に抜ける。
「ぁー、今日、ちょっと、駄目ですね」
「ぅ……? ん、」
掠れた声。良く聞き取れなくて少し不安になる。俺は何か間違えただろうか?
だけどそれを尋ねる前に、ちゅう、と。柔らかい唇が、唾液でどろどろになった俺の唇へ触れた。間近で見えた瞳は、じっと俺を見ていた。
「んぁ、れ、んぷ、っうんん……、むぐ」
あ、むり。もうむり。しあわせ、こんな、こんな口の中ぐちゃぐちゃされて。ぎゅーしてもらって。気持ち良いのしあわせ。だいすきなDomにこんな、おれ、もう。あ
とても、とてももったいないことに、快楽と幸福で蕩けて深くふかくスペースに入った俺はそこで理性をトバして、意識と記憶が戻ったのは、それから数時間経ったあとだった。
でもまあ、たっぷり遊んでもらったし、リード着けたみたいなプレイしてもらったし、いっぱいちゅーしてもらったし。何より、珍しく零治のちょっとだけDom性に濡れた顔が見えたから、俺は満足です。
「カゴさん」
「はぁい、なに、れーし?」
後片付けをして部屋を出る前、零治に呼び止められた。目が合って、あ、と思う。とろりと溶けた瞳。見つめられるだけで、また跪きたくなるような目。
「…………延長する?」
足りなかっただろうか? そういえばしてもらうばっかりで、彼のしたいことをさせてもらっていなかった気がする。最後はちゅーでぶっ飛んだところまでしか覚えてないし。
満足してくれるまで付き合うつもりで、彼のCommandに応える準備をした。
「いえ、」
ああ、俺はどうやったって目の前のSwitchがだいすきなSubなのに、彼はどうにも、俺を優しく扱いたがる。もっともっと酷くして、好きなように使ってくれたって俺はスペース入れる自身があるのになぁ。
ちゃら、と。彼の大きな手の中で、小さな鍵が鳴った。
「コレ、預かっておきますね」
「……っ」
「また、遊ぶ時には着けて来なさい?」
「ぁ……ぅん」
「ちゃんと返事して」
「ッ、は、い。分かり、ました」
「Good」
短いRewordの後、彼はすっと目を細めてわらった。ぞく、と背中から鳥肌が立ちそうな色っぽい顔だった。
それから視線を逸らした彼はいつもどおり、理性的で柔らかな男に戻っていた。きっとまだシ足りなかっただろうに、隠すのが上手いひとだ。
先に部屋を出た彼を追いかけて、俺は、俺の極上のSwitchの、手をそっと握ってみた。
「れーし、また遊んでね」
「ええ、ぜひ」
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