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41、魔術のこと
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塔から脱出するための方法を考える回です。
知らない人が真っ先に気付くことってままあると思うんです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……あとはこれですかね、入り口」
「いやどう見たって無茶だろ」
大人の力というのはすごいもので、私たちがひいこら言いながらやっと半分ほどやっつけた作業を、あっさり終わらせてしまった。高い所の物を下ろすだとか、重い物を運ぶだとか、あるいは力があれば開きそうな場所の確認をするだとか、そんな作業だ。
そうして、もうあとは良かろうかと思って、試しに正規の出入り口が開かないかとやって来ている。私の身長の倍はあろうかという大きな扉はおそらく石材で作られており、ひどく重そうだ。そこへさらに魔術が掛けられ、通常は魔術回路によって開閉するものらしい。
その回路の仕組みが読み解けず、私たちはこうして幽閉されているわけだ。ここが開けば、まあ、それ以外にも問題は山積みされているが、ともかく餓死に怯えながら食事の献立に悩む必要は無くなるわけだ。
……原作では1年保った。運び込まれた物の量を計算した感じ、そこまで切り詰めていないからもう少し早く無くなるかな、程度だろう。料理なんぞ出来ないコンラッド様たちは、きっとそのまま食べられて保存の効く物だけ細々と食べていたはずだし。
ともかく、さっさと出て行くに越したことはない。そこからトルクたちの所へ転がり込んで隠れておけば、先生たちとの連絡も取れる。私のへそくりがあるから当分の生活費は工面出来るし、なにより私たちにはこの生活の記録がある。然るべき所へ提出すれば、セルウィッジ伯爵も処罰を免れないだろう。
「重ってぇ……なあ無理だって、これなんか魔術とか掛かってんだろどうせ」
「そうみたいですねぇ。古いし物理で壊せればと思ったんですが」
「だぁからそりゃ無茶だって。そもそも俺はそんな馬鹿力じゃねぇよ」
ふむ。ディーンおじさんでも無理らしい。まあ魔術で封をしたものが怪力で突破出来たら苦労しないし、当然か。
「こうして見ると普通のでけぇドアなんだけどなぁ……魔術ってなぁよく分かんねぇや」
「きちんと習わないと触れられない学問ですからねぇ。回路見てみます?」
「あ?」
大きな扉の開閉スイッチが、ドアノブに付いた水晶であることまでは解析済みだ。そこから魔力を流し、ドアの内側に走る回路を使ってどうにかすれば魔術が発動し、扉の鍵が開くことまでは分かるのだが……いかんせん、この扉の魔力回路は蛇足と蛇行が過ぎる。作り手が下手なのかそもそも解析防止にそういう作りなのか、要らん回り道や意味のない付属品が多すぎて、扉に食われる魔力が跳ね上がっている。ついでに用途の分からない回路が付随して走っているようで、回路図を書き写すだけでも一苦労だった。
そっと水晶に触れ、少しだけ魔力を流す。コンラッド様ならともかく私がやると途端にぶっ倒れてもおかしくないので慎重に。そこへちょっとばかり別の魔術を乗せれば、魔力の通る道が光って浮かんでくる。これと同じ方法で回路図を写し取った後、けろっとした顔で空腹を訴えたコンラッド様はやっぱり天才だと思う。
「うお……こりゃすげぇ。下水の配管みてぇだな」
驚いたように扉から離れたディーンおじさんは、興味深げにドアノブの付近を眺めている。見慣れない人には珍しいものなのだろう。
「なかなか面白いでしょう。ほんとはこんなに複雑にする必要ないはずなんですけどね。どれがどこに繋がってるのか分かりゃしない」
「へー……これがドア全部にあんのか。迷いそうだな」
「実際迷ってます。どの道が正解なのか皆目分からなくて……」
コンラッド様と一緒に、暇があれば回路図とにらめっこしているのだが、今の所1割も解析できていない気がする。必死に教科書と照らし合わせて読み解いた回路がなんの意味も無かった、なんてことが数度あって心が折れそうだった。
「ん? 入り口と出口があんだろ? こう、繋げりゃ良いんじゃねぇの? 下水みてぇに」
「いやー……その間に挟むものが問題でして……下水だって途中でゴミとか汚れとか取り除くでしょ、『扉を開ける』って設備が要るんですよ」
「はぁ、面倒くせぇなあ……適当に上から貼っ付けて作れねぇの?」
するすると荒れた指が回路の上をなぞる。私が可視化した回路の、少し上を指が通っていく。
はた、と。前世に見た立体の機械たちを思い出した。
「……なるほど」
「ん?」
「いや、いける。多分いけます。余分なシーツがいくらかあるから、あれなら他の回路と干渉しないはず……! コンラッド様ー!」
なんだなんだと後ろで慌てるディーンおじさんを置いて、リビングへ戻った。シシリー卿に習った回路がどれも平面だったから、そういうものだと思いこんでいた。扉自体を壊すとなれば建物にダメージが入るし、おとなしく回路を読み解くしかないと。……もしかしたら、案外早く出られるかもしれない。
知らない人が真っ先に気付くことってままあると思うんです。
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「……あとはこれですかね、入り口」
「いやどう見たって無茶だろ」
大人の力というのはすごいもので、私たちがひいこら言いながらやっと半分ほどやっつけた作業を、あっさり終わらせてしまった。高い所の物を下ろすだとか、重い物を運ぶだとか、あるいは力があれば開きそうな場所の確認をするだとか、そんな作業だ。
そうして、もうあとは良かろうかと思って、試しに正規の出入り口が開かないかとやって来ている。私の身長の倍はあろうかという大きな扉はおそらく石材で作られており、ひどく重そうだ。そこへさらに魔術が掛けられ、通常は魔術回路によって開閉するものらしい。
その回路の仕組みが読み解けず、私たちはこうして幽閉されているわけだ。ここが開けば、まあ、それ以外にも問題は山積みされているが、ともかく餓死に怯えながら食事の献立に悩む必要は無くなるわけだ。
……原作では1年保った。運び込まれた物の量を計算した感じ、そこまで切り詰めていないからもう少し早く無くなるかな、程度だろう。料理なんぞ出来ないコンラッド様たちは、きっとそのまま食べられて保存の効く物だけ細々と食べていたはずだし。
ともかく、さっさと出て行くに越したことはない。そこからトルクたちの所へ転がり込んで隠れておけば、先生たちとの連絡も取れる。私のへそくりがあるから当分の生活費は工面出来るし、なにより私たちにはこの生活の記録がある。然るべき所へ提出すれば、セルウィッジ伯爵も処罰を免れないだろう。
「重ってぇ……なあ無理だって、これなんか魔術とか掛かってんだろどうせ」
「そうみたいですねぇ。古いし物理で壊せればと思ったんですが」
「だぁからそりゃ無茶だって。そもそも俺はそんな馬鹿力じゃねぇよ」
ふむ。ディーンおじさんでも無理らしい。まあ魔術で封をしたものが怪力で突破出来たら苦労しないし、当然か。
「こうして見ると普通のでけぇドアなんだけどなぁ……魔術ってなぁよく分かんねぇや」
「きちんと習わないと触れられない学問ですからねぇ。回路見てみます?」
「あ?」
大きな扉の開閉スイッチが、ドアノブに付いた水晶であることまでは解析済みだ。そこから魔力を流し、ドアの内側に走る回路を使ってどうにかすれば魔術が発動し、扉の鍵が開くことまでは分かるのだが……いかんせん、この扉の魔力回路は蛇足と蛇行が過ぎる。作り手が下手なのかそもそも解析防止にそういう作りなのか、要らん回り道や意味のない付属品が多すぎて、扉に食われる魔力が跳ね上がっている。ついでに用途の分からない回路が付随して走っているようで、回路図を書き写すだけでも一苦労だった。
そっと水晶に触れ、少しだけ魔力を流す。コンラッド様ならともかく私がやると途端にぶっ倒れてもおかしくないので慎重に。そこへちょっとばかり別の魔術を乗せれば、魔力の通る道が光って浮かんでくる。これと同じ方法で回路図を写し取った後、けろっとした顔で空腹を訴えたコンラッド様はやっぱり天才だと思う。
「うお……こりゃすげぇ。下水の配管みてぇだな」
驚いたように扉から離れたディーンおじさんは、興味深げにドアノブの付近を眺めている。見慣れない人には珍しいものなのだろう。
「なかなか面白いでしょう。ほんとはこんなに複雑にする必要ないはずなんですけどね。どれがどこに繋がってるのか分かりゃしない」
「へー……これがドア全部にあんのか。迷いそうだな」
「実際迷ってます。どの道が正解なのか皆目分からなくて……」
コンラッド様と一緒に、暇があれば回路図とにらめっこしているのだが、今の所1割も解析できていない気がする。必死に教科書と照らし合わせて読み解いた回路がなんの意味も無かった、なんてことが数度あって心が折れそうだった。
「ん? 入り口と出口があんだろ? こう、繋げりゃ良いんじゃねぇの? 下水みてぇに」
「いやー……その間に挟むものが問題でして……下水だって途中でゴミとか汚れとか取り除くでしょ、『扉を開ける』って設備が要るんですよ」
「はぁ、面倒くせぇなあ……適当に上から貼っ付けて作れねぇの?」
するすると荒れた指が回路の上をなぞる。私が可視化した回路の、少し上を指が通っていく。
はた、と。前世に見た立体の機械たちを思い出した。
「……なるほど」
「ん?」
「いや、いける。多分いけます。余分なシーツがいくらかあるから、あれなら他の回路と干渉しないはず……! コンラッド様ー!」
なんだなんだと後ろで慌てるディーンおじさんを置いて、リビングへ戻った。シシリー卿に習った回路がどれも平面だったから、そういうものだと思いこんでいた。扉自体を壊すとなれば建物にダメージが入るし、おとなしく回路を読み解くしかないと。……もしかしたら、案外早く出られるかもしれない。
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