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39、昼食のこと
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とりあえずご飯は食べることにした回です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…………美味しいんですよね」
元暗殺者の彼が炒めたウインナーと、弟妹様たちが千切った葉野菜の挟まれたパンを飲み込んで、私は自分でも苦い顔をしていると思いながら呟く。あとおじさんが片手間に作っていたスープも良い匂いがする。絶対美味しい。
「なら良いんじゃないかしら?」
「……そうですねぇ」
きょとん、とした顔でメアリお嬢様が首を傾げるので、曖昧に笑って同意を返した。元々自分たちを殺しに来た暗殺者の手料理を食べて美味しいと思えることがなんとなく納得いかない。
それでも、まあ皆美味しそうに食べているし良いかなと思ってしまうので、私も疲れているのかもしれない。もう少し寝ていれば良かった。
なお、名前の音が似ている、とディーンおじさんに懐いたジョン坊ちゃんとジェーンお嬢様は、オレンジのお手玉がいたく気に入ったらしい。今もお強請りをしてメアリお嬢様に注意されている。
「あー、後でな…………まぁメシは下っ端の仕事だから。アニキたちは良いモン食ってっし、扱いなんかは叩き込まれてんだ」
「あぁ、なるほど……あなたさては向いていませんね」
「うるせぇ放っとけ」
食材の切れ端と余ったスープを食べながら、ディーンおじさんはどこか自慢げだった。仮にも貴族への刺客としてやってきてるんだから、もうちょっとなんというか、気位みたいなものを備えておいて欲しかった。
この人絶対弟妹様たちに絆されただけだろ。妹がちょうどメアリお嬢様くらいの年齢で亡くなったらしいし、人懐っこいジョン坊ちゃんとジェーンお嬢様を無下にできないと見た。私としてはありがたいが、ほんとにそれで良いんだろうか。
「レンドル領内に黒いネズミがどのくらいいるとか、教えてくれたから信用はしていいと思うぞ」
コンラッド様も色々聞いてくれたらしい。食事の合間に情報を共有してくれる。
……ああ、ディーンおじさんをしばらくここに置いておくなら、きちんとマナーを仕込む必要があるな。コンラッド様はともかく、弟妹様たちが真似したら大事だ。
「賃金交渉と一緒にマナー講座も必要ですね」
「ん? あー……うん、そうだな」
「真似しちゃ駄目ですからね? コンラッド様」
「分かってるよ」
サンドイッチにしたものならともかく、余った具材そのままを手掴みで食べるのは少々問題がある。誰も見ていないといえど、一度付いた習慣は直すのが大変なのだ。皆さまが近いうち外へ逃げて貴族らしい生活へ戻る予定である以上、ある程度の『いつもどおり』は必要である。
「なんだ、人を不審者みてぇに」
「実際そうでしょう?」
「そうだけどよ」
口を尖らせる前に、物を食いながら喋るのをやめてもらいたい。真似したらどうしてくれる。飲み込んでから喋れ、とジェスチャーすれば、彼は一旦不快げな顔をしたあとぱくりと口を閉じた。一応大人しく言うことは聞いてくれるようだ。
「……でよぉ、お前らどうやってこっから出る気だ?」
もぐもぐ、ごくん。律儀にパンを飲み込んで、彼は尋ねる。私とコンラッド様は一度顔を見合わせ、それが分かれば苦労しない、と口を揃えて返した。
「ごちそうさまでした。今外の味方と連絡取ってるんで、その内容によって色々考えてみますよ。……それともあなた、ここからロープ1本で下りられたりします?」
「無茶言うない」
「でしょう? 大人しく洗い物手伝ってください」
ディーンおじさんはまた妙な顔をしたけれど、黙って使い終わった食器を片付け始めた。
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「…………美味しいんですよね」
元暗殺者の彼が炒めたウインナーと、弟妹様たちが千切った葉野菜の挟まれたパンを飲み込んで、私は自分でも苦い顔をしていると思いながら呟く。あとおじさんが片手間に作っていたスープも良い匂いがする。絶対美味しい。
「なら良いんじゃないかしら?」
「……そうですねぇ」
きょとん、とした顔でメアリお嬢様が首を傾げるので、曖昧に笑って同意を返した。元々自分たちを殺しに来た暗殺者の手料理を食べて美味しいと思えることがなんとなく納得いかない。
それでも、まあ皆美味しそうに食べているし良いかなと思ってしまうので、私も疲れているのかもしれない。もう少し寝ていれば良かった。
なお、名前の音が似ている、とディーンおじさんに懐いたジョン坊ちゃんとジェーンお嬢様は、オレンジのお手玉がいたく気に入ったらしい。今もお強請りをしてメアリお嬢様に注意されている。
「あー、後でな…………まぁメシは下っ端の仕事だから。アニキたちは良いモン食ってっし、扱いなんかは叩き込まれてんだ」
「あぁ、なるほど……あなたさては向いていませんね」
「うるせぇ放っとけ」
食材の切れ端と余ったスープを食べながら、ディーンおじさんはどこか自慢げだった。仮にも貴族への刺客としてやってきてるんだから、もうちょっとなんというか、気位みたいなものを備えておいて欲しかった。
この人絶対弟妹様たちに絆されただけだろ。妹がちょうどメアリお嬢様くらいの年齢で亡くなったらしいし、人懐っこいジョン坊ちゃんとジェーンお嬢様を無下にできないと見た。私としてはありがたいが、ほんとにそれで良いんだろうか。
「レンドル領内に黒いネズミがどのくらいいるとか、教えてくれたから信用はしていいと思うぞ」
コンラッド様も色々聞いてくれたらしい。食事の合間に情報を共有してくれる。
……ああ、ディーンおじさんをしばらくここに置いておくなら、きちんとマナーを仕込む必要があるな。コンラッド様はともかく、弟妹様たちが真似したら大事だ。
「賃金交渉と一緒にマナー講座も必要ですね」
「ん? あー……うん、そうだな」
「真似しちゃ駄目ですからね? コンラッド様」
「分かってるよ」
サンドイッチにしたものならともかく、余った具材そのままを手掴みで食べるのは少々問題がある。誰も見ていないといえど、一度付いた習慣は直すのが大変なのだ。皆さまが近いうち外へ逃げて貴族らしい生活へ戻る予定である以上、ある程度の『いつもどおり』は必要である。
「なんだ、人を不審者みてぇに」
「実際そうでしょう?」
「そうだけどよ」
口を尖らせる前に、物を食いながら喋るのをやめてもらいたい。真似したらどうしてくれる。飲み込んでから喋れ、とジェスチャーすれば、彼は一旦不快げな顔をしたあとぱくりと口を閉じた。一応大人しく言うことは聞いてくれるようだ。
「……でよぉ、お前らどうやってこっから出る気だ?」
もぐもぐ、ごくん。律儀にパンを飲み込んで、彼は尋ねる。私とコンラッド様は一度顔を見合わせ、それが分かれば苦労しない、と口を揃えて返した。
「ごちそうさまでした。今外の味方と連絡取ってるんで、その内容によって色々考えてみますよ。……それともあなた、ここからロープ1本で下りられたりします?」
「無茶言うない」
「でしょう? 大人しく洗い物手伝ってください」
ディーンおじさんはまた妙な顔をしたけれど、黙って使い終わった食器を片付け始めた。
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