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34、段取りのこと
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おじさんの仕事内容と段取りの話をする回です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「クロード、うるさい」
「あ、すみません。でも話してくれるみたいですよ」
物置きを空けていたコンラッド様がひょいと顔を出す。幸いなことに弟妹様たちは起きなかったようだ。半泣きでまだ怯える男を見て、彼は眉を寄せて私を見る。
「……何したんだ」
「ちょっと新作の魔術を」
……コンラッド様までこわいものを見る目で見ないでほしい。今後はこの魔術控えようと思う。
「まぁ良いや、あとで教えてくれ」
「はい」
「で? おじさん何話してくれるの」
コンラッド様にさえびくりと怯えた男は、それでも宣言を違える気はないらしい。ちゃんと白状してくれるようだ。
「お、俺は、ここにいる金髪の子供を始末しろって言われてきたんだ。……ガキがまともに応戦してくるなんて聞いてねぇ」
ふむ。どうやら情報はろくに貰っていなかったようだ。ちょっと調べれば、我々が複数名の刺客を撃退しているのは分かるはずなのだが。
なお、あの家令が握り潰しているかもというのは考えないでおく。キリがないからな……。
「名前はアニキたちしか知らねぇけど、どっかの偉ぇ貴族サマからの依頼でよ……結構貰ったって聞いたぞ」
「へー。おじさんの取り分どんくらい? 僕らでも出せるかな」
ひょいと行儀悪く机へ腰掛けたコンラッド様は、ナイフを手に取って遊びだした。毒とか仕込んでそうだし危ないから止めてほしいな……こいつ解毒薬持ってなかったんだよな。
「危ないですよコンラッド様」
「んー、クロード、お腹空いた」
「分かりましたから、ほら」
弟妹様がするように足をパタつかせながら言うので、じゃがバターでも作ることにした。やった、と嬉しそうに笑うコンラッド様は、いつもと変わらない。隣で椅子に縛られた半裸の男が複雑そうな顔をしていなければ。
「貴方も食べます? じゃがいも」
「は?」
「骨浮いてたんで。お腹空いてるかなって」
「…………食う」
「素直で宜しい」
ふと思い付いて、貧相な体型の男へ話を振ってみる。怪訝そうな顔をされたけれど、食欲には勝てなかったらしい。ぽつりと向けられた視線と言葉は単純だが分かりやすかった。
ここは狭い場所なので、リビングから台所へ移動しても十分に声が通る。小さめのじゃがいもを選びながら、ぽつりぽつりと男が話すのを聞く。
「毎回、ちゃんと仕事終わらせたら金が貰えんだ。今日は面倒くせぇ仕事って聞いてっから、払いも良かったはず……いつもなら半月は贅沢に食えるしイイ女も買えるくらいだ」
「ふーん。扉、鍵閉まっちゃったけど?」
「そこに笛あんだろ。終わってそれ吹いたら開けてくれるらしい」
「これ? ……魔導具じゃないな」
「俺は詳しく知らねぇからな」
夜遊びが出来てしっかり食べられる程度……ふむ、大きめサイズの魔石が5個くらいかな? コンラッド様がいればなんとかなりそうだな。私だと1個でひぃひぃ言わなければならないのでちょっと金銭的な懐柔は難しかったのだけど、どうにかなるんじゃないか?
切れ込みを入れたじゃがいもを皿に乗せ、それを水を張った鍋へ入れる。蓋をして、軽く沸騰させつつ待機。
「吹いてみます? それ」
「んんー……誰が来るか分かんないしなぁ」
「結構良い布着た覆面の男だったぞ」
「あ、じゃあ駄目ですね。怪しまれない時間で準備は無理です。悪いけどお給料は諦めてくださいねおじさん」
小さな笛は、見る感じでは犬笛に似てシンプルだった。相手から渡されたものだろう。
良い布、ということは貴族かそれに近しいもので、つまり魔術を使う可能性がある。私たち2人で大人の魔術師を相手取るのはちょっと怖いし、1人だけを伸して無事に外まで出られるとも思えない。ので、とりあえず笛は放置しようとコンラッド様と共に頷きあった。
「…………なんですかおじさん」
「いや……なんでもねぇ」
不意打ちからの袋叩きでいけそうだなとか思っただろう、暗殺者のおじさん。私たちは戦闘の出来る貴族の恐ろしさを嫌というほど知っているのだ。体が大きい、力が強い、経験値が多い、そして備えが万全である大人相手に我々は勝てない。……この場合、「怪我をせずに」という前提が付く。
余計な事を言わない賢いおじさんを一睨みして、私はひとまずバターと塩の準備を始めた。
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「クロード、うるさい」
「あ、すみません。でも話してくれるみたいですよ」
物置きを空けていたコンラッド様がひょいと顔を出す。幸いなことに弟妹様たちは起きなかったようだ。半泣きでまだ怯える男を見て、彼は眉を寄せて私を見る。
「……何したんだ」
「ちょっと新作の魔術を」
……コンラッド様までこわいものを見る目で見ないでほしい。今後はこの魔術控えようと思う。
「まぁ良いや、あとで教えてくれ」
「はい」
「で? おじさん何話してくれるの」
コンラッド様にさえびくりと怯えた男は、それでも宣言を違える気はないらしい。ちゃんと白状してくれるようだ。
「お、俺は、ここにいる金髪の子供を始末しろって言われてきたんだ。……ガキがまともに応戦してくるなんて聞いてねぇ」
ふむ。どうやら情報はろくに貰っていなかったようだ。ちょっと調べれば、我々が複数名の刺客を撃退しているのは分かるはずなのだが。
なお、あの家令が握り潰しているかもというのは考えないでおく。キリがないからな……。
「名前はアニキたちしか知らねぇけど、どっかの偉ぇ貴族サマからの依頼でよ……結構貰ったって聞いたぞ」
「へー。おじさんの取り分どんくらい? 僕らでも出せるかな」
ひょいと行儀悪く机へ腰掛けたコンラッド様は、ナイフを手に取って遊びだした。毒とか仕込んでそうだし危ないから止めてほしいな……こいつ解毒薬持ってなかったんだよな。
「危ないですよコンラッド様」
「んー、クロード、お腹空いた」
「分かりましたから、ほら」
弟妹様がするように足をパタつかせながら言うので、じゃがバターでも作ることにした。やった、と嬉しそうに笑うコンラッド様は、いつもと変わらない。隣で椅子に縛られた半裸の男が複雑そうな顔をしていなければ。
「貴方も食べます? じゃがいも」
「は?」
「骨浮いてたんで。お腹空いてるかなって」
「…………食う」
「素直で宜しい」
ふと思い付いて、貧相な体型の男へ話を振ってみる。怪訝そうな顔をされたけれど、食欲には勝てなかったらしい。ぽつりと向けられた視線と言葉は単純だが分かりやすかった。
ここは狭い場所なので、リビングから台所へ移動しても十分に声が通る。小さめのじゃがいもを選びながら、ぽつりぽつりと男が話すのを聞く。
「毎回、ちゃんと仕事終わらせたら金が貰えんだ。今日は面倒くせぇ仕事って聞いてっから、払いも良かったはず……いつもなら半月は贅沢に食えるしイイ女も買えるくらいだ」
「ふーん。扉、鍵閉まっちゃったけど?」
「そこに笛あんだろ。終わってそれ吹いたら開けてくれるらしい」
「これ? ……魔導具じゃないな」
「俺は詳しく知らねぇからな」
夜遊びが出来てしっかり食べられる程度……ふむ、大きめサイズの魔石が5個くらいかな? コンラッド様がいればなんとかなりそうだな。私だと1個でひぃひぃ言わなければならないのでちょっと金銭的な懐柔は難しかったのだけど、どうにかなるんじゃないか?
切れ込みを入れたじゃがいもを皿に乗せ、それを水を張った鍋へ入れる。蓋をして、軽く沸騰させつつ待機。
「吹いてみます? それ」
「んんー……誰が来るか分かんないしなぁ」
「結構良い布着た覆面の男だったぞ」
「あ、じゃあ駄目ですね。怪しまれない時間で準備は無理です。悪いけどお給料は諦めてくださいねおじさん」
小さな笛は、見る感じでは犬笛に似てシンプルだった。相手から渡されたものだろう。
良い布、ということは貴族かそれに近しいもので、つまり魔術を使う可能性がある。私たち2人で大人の魔術師を相手取るのはちょっと怖いし、1人だけを伸して無事に外まで出られるとも思えない。ので、とりあえず笛は放置しようとコンラッド様と共に頷きあった。
「…………なんですかおじさん」
「いや……なんでもねぇ」
不意打ちからの袋叩きでいけそうだなとか思っただろう、暗殺者のおじさん。私たちは戦闘の出来る貴族の恐ろしさを嫌というほど知っているのだ。体が大きい、力が強い、経験値が多い、そして備えが万全である大人相手に我々は勝てない。……この場合、「怪我をせずに」という前提が付く。
余計な事を言わない賢いおじさんを一睨みして、私はひとまずバターと塩の準備を始めた。
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