上 下
16 / 56

16、調査のこと

しおりを挟む
報告と秘密アイテムの回です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


さて、しておかなければならないことは多い。レンドル家使用人の話は夜にでもアルフへ聞くとして……私は街へ出て貧民街へ向かっていた。少し早いが、ともかく早いうちにトルクへ調査の結果を聞いておかなければならない。

「あらクロード、また来てくれたの? 美味しいリンゴがあるんだけど見てかない?」

「ミカさん、こんにちは。すみません、ちょっと今日は急いでるんです。それに、まだ分からないんですけど、しばらく来られなくなるかもしれなくて……ごめんなさい」

 貧民街への道中、声をかけてくれた八百屋のおかみさんに手を振る。どうなるのかはほんとに分からないからな……上手くいったら来週も普通に下りてくる可能性だってあるんだし……。

「あら! そうなの、寂しくなるわね。ちょっと待ってね……ほらこれ! 持って行って!」

「良いんですか?」

「良いのよぉ、ほら、こないだ窓直してくれたでしょ、そのお礼。ねっ」

「あ、ありがとうございます」

 あの時その場でお駄賃貰ったような気が……いや、いいか。貰えるものは貰っておこう。リンゴをいくつか差し出してくれた彼女にお礼を言い、ありがたく持っていたバッグへ入れておく。トルクたちにあげよう。

「また落ち着いたら遊びに来てね」

「はい、ぜひ」

 彼女へ伝えておけば、そのうち街の人には広がるだろう。もう一度頭を下げ、手を振って先へ進む。人が少なくなってきたあたりで、いつも通りマントを被った。

「あっ。クロード様」

「やあ、トルク」

「まだ1週間じゃない……です、よね?」

「うん。ちょっと事情が変わってね。それで、こないだの話なんだけど……」

 ちょうど拠点へ帰って来ていたトルクと鉢合わせる。やあ、と手を上げると彼は少し慌てたような顔をして、ともかく中へと案内される。

「あー……すみません、まだ、半分くらいしか……」

「いいよいいよ、私の方が予定早めただけだから」

 しょぼんと眉を下げている。貧民街でそこそこ遣り手の子供なはずなのに、なんとなく素直でかわいいんだよなぁ、トルク。

「ええと……煉瓦造りの塔? ってか、建物ならいくつか見つけたけど、あんたが言うみたいな魔術がかかってるのはまだ。探せる奴が少ねぇから、確認に時間かかってる」

「そっか、ありがとう」

 よって来た子に、先程貰ったリンゴを手渡す。わぁい、と声を上げて、切り分けようと小さな子らが嬉しそうに台所へ向かう。

 トルクと他数名の子に勧められて椅子へ座り、事情が変わったことと、しばらく来られなくなるかもしれないことを説明。……まあ、この子らは自分たちで生きていけるから、私がいなくなってもどうにかするだろうけど。

 元々自分たちだけで生きてた子だしね。彼らの心配はあまりしていない。

「それでね、私たちの予想なら、貧民街の何処かに監禁されると思うんだ」

「……あ、それで、煉瓦の塔?」

「そう。早めに逃げられるように探しておきたかったんだけど、時間が足りなかったね」

「お、俺! まだ探すから! あんたらが捕まったらすぐ助けられるように……」

 便利な魔導具やらがなくなると言っても、それだけに頼っているはずもあるまい。心配そうな顔で宣言してくれるトルクと、同意を示して頷いている彼らはとても良い子たちだ。貧民街生まれでさえなければ、いろんな未来を夢見たはずなのだけど……階級社会は残酷だ。

「ありがとう。それで、今日は私たちが捕まったら連絡が取れるようにしたいと思って魔導具を持ってきたんだ」

 バッグからレターセットを取り出して机に置く。こちら、いつもの古道具屋に破格の値段で取り扱われていた訳有り品だ。魔導具、と聞いて若干体を引いたトルクたちに、大丈夫だからと手を振って説明を続ける。

「た、高いんじゃ……」

「訳有り品だから大丈夫だよ。これ、登録した相手の所に自動で飛んで行ってくれる紙とインクなんだけどね。飛距離がちょっとしかなくて安かったんだ」

 有効距離、なんと100mちょっと。どこでも飛んでいく手紙と言うにはちょっと頼りない。ただ、相手が近くにいるときや、ちょっと捻って相手がどこにいるのか確認したい時なんかはきっと便利だと思う。

「こないだ、文字は教えたよね。ちょっとしたやり取りならもうできるし、私たちがいそうな建物の周りでこれを飛ばしてみて欲しいんだ」

「……あんたらがそこにいたら、ちゃんと届くからか」

 は、とレターセットから顔を上げ、私を見るトルクはやっぱり頭が良い。

「そう。届けばお願いも会話もできるし、上手く行けば脱出も出来る」

「分かった、大事に持っておく」

「次は1週間後に来るよ。……来なかったら、そういうことだと思ってほしい」

「…………おう」

 真剣な顔で使い方を確認し、絶対に見つけるから、と私の手を取ってくれた彼らは、ちょっと飽き始めていた文字の勉強をまたやる気になったようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

処理中です...