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12、証拠のこと

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証拠を得るために準備を整えたい回です。
最近tipsをさぼっています。申し訳ない。
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「やあ、ブルーム先生! お久しぶりでございます。お変わりありませんか?」

「こんにちは、ベルクラフト君。変わらず隠居生活を楽しんでいるよ。君も元気そうだね」

「はい、おかげさまで」

 シシリー卿を部屋へ案内し、彼の分のお茶を用意する。久しぶりに会ったらしい講師2人はしばらく歓談していた。本当に旧知の仲だったらしい。シシリー卿が「先生」と呼んでいるあたり、年齢的にも現役時代の師弟なのだろうか?

「それで、ブルーム先生? 今回は何を作らせていただけるんですか?」

 明るい黄色の瞳を楽しげに輝かせて、シシリー卿は首を傾げた。私たちへ魔術を教える時のような、脱線して魔術理論を説く時のような、そんな顔だった。

「おや。私は教え子の屋敷へお邪魔する予定があるから待っているだけだよ。ただ、若様方との授業を見学させてもらおうと思ってね」

「! そうですか、緊張しちゃいますね」

 ちりん。

 一瞬、きゅっと口を窄めて意外そうな顔をした彼は、だけどすぐに元通り笑って、自身の持つ魔導具をひとつ鳴らした。ふわりと魔術が部屋を包み、私とコンラッド様は2人して視線を巡らせる。

「防音と検知のついでに適当な魔導具の解説を流しておきましたので、内緒話が出来ますよ。さあ坊っちゃんたち! どんな悪戯をお考えですか?」

 にっこり。いつも通りの優しげな顔で微笑まれて、もう一度どうしようとコンラッド様とお互いを見る。察しが良いですねと言うべきか、どうして察せるんですかと言うべきか。

「ええ……と。何から説明したら……。と、とりあえずですね、記録の魔導具の作り方を教えていただきたくて」

「ほう! 良いですね、複数の魔術を使いますから、魔導具作りの練習になります」

 コンラッド様が困惑しつつ答える。シシリー卿はにこにこしていた。

 使用人たちの不敬やら、ゴードン伯爵の悪事やらをどうにかして客観的に資料におさめたい、という話になったのだ。きちんと映像を記録できる物を提出されれば誤魔化しは効かないだろうし、授業の一環で設置しました、と言えばどうしてこんな場所にの疑問も流せるだろう。ついでに、構造を調べてもらえば偽造が不可能なことも証明可能だ。子供の作った道具にそんな高度な機能が付くわけもない。

「……聞かないんですか」

「?」

 ただ、私たちの使える魔術をいくつか挙げ、記録と再生を行うには何を組み合わせるべきかとぶつぶつ思案しているシシリー卿へ、さすがに尋ねないわけにはいかなかった。たしかに私たちへ優しくしてくれ、魔術にしか興味のなさそうな彼なら教えてくれるだろうとふんで話を持ちかけたわけだが……一応、ヘンウッド卿に口添えしてもらう覚悟もしていたのだ。どう考えても怪しいもの。

「何に使うのかとか、どうしてこれなのかとか」

「必要なのでしょう? 大丈夫、私は坊っちゃんたちの味方ですよ。私はただ、授業で分かりやすく複数の魔術を組み込む実践をしてみるだけです。それを習った坊っちゃんたちが、それをどう使うかはまた別の話。違いますか?」

 ことり、と早速拳サイズの魔石を取り出して、シシリー卿はいかにも先生らしく微笑んだ。眼鏡の奥の黄色い瞳は楽しげに笑っていて、きっと嘘ではないのだろうと思う。

「さあ、善は急げと申します。まずは魔石へ魔術を定着させる方法から、実技で学んでまいりましょうね!」

 私たちの前へ1つずつ置かれた魔石。いつも通り、ぱらりと本を捲って、シシリー卿はいつも通り授業を始めた。部屋に満ちていた魔術の気配がいつの間にか消えている。

 彼は、きっと私たちに逃げ道をくれたのだ。彼自身が『授業で教えただけ』と逃げるためではなく。『授業で作った魔導具を、使ってみよと言われたから』とか、そんな言い訳を私たちに許すために、彼は『授業の一環』というていを取った。
 重たげなローブが、なんだかいつもより立派に見えた。

「ありがとうございます」

「ええ! クロード君ももちろん一緒に実践していただきますからね」

「はい」

 ヘンウッド卿は口を挟むことなく楽しそうに私たちを見ていた。しょっちゅう脱線しながら魔導具の作り方を話す講義は、いつも通りに面白かった。
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