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自意識的には初めて訪れた市場では、大勢の人が行き交いとても賑わっていた。 入口からでも多様な種族が混在し、それぞれいろんなものを売ったり買ったりしている。聞こえてくる言葉も様々で、半分くらいは意味が分からない言語だった。
「おい、はぐれるなよ」
ぐいとウィリウスに手を引かれ、改めて歩き出す。ここではぐれたら本当に合流できなさそうだ。荷物と手をしっかり握って、それでも好奇心が抑えられずに視線は忙しなく周りを廻っている。
「ウィリウス、あれ何?」
「鳥肉の串焼きだな。後で買ってやるから」
路上の屋台からは良い匂いがするし、御座に広げられた商品はどれも魅力的だ。まんまおのぼりの若人らしくあれはこれはと尋ねていれば、良いから先に仕事だと強く腕を引かれた。
今から行くのは冒険者の組合で、素材を買い取って貰える場所があるらしい。買い取り基準なんかもあるから、精査するのに一旦持ち帰っていたアイテムを売却するそうだ。ゲームだと探索後にささっと売ったり、倉庫から直接売却できたんだけどな。
手を引かれてやって来たのは、市場をまっすぐ通り抜けた先にある大きな建物だった。石造りですごくしっかりしている。装飾も最低限、商館というより砦と言った方が良い。少し奥にはもっとデカくてごっつい門が据えられており、いかにも厳重ですといった様子で何人も兵士さんが警備している。
「買い取りはこっちだ、臭いが結構酷いから気を付けろ」
「はーい……ん、うわ」
表ではなく裏へ回るように案内され、出来心で鼻をひくつかせた。途端に生臭い鉄と、腐ったような甘ったるい臭いがツンと鼻に抜ける。ぎゅっと顔を顰めたのを見て、ウィリウスが呆れた顔をしていた。
「こんちは、買い取りお願いします」
「お、いらっしゃい」
ウィリウス、顔は認知されているらしい。倉庫がたくさん並んでるみたいな広い場所で、そこそこの人数が作業をしている。手前にいた男性がウィリウスに声をかけ、手元を確認して手招きをした。
「5番が空いてるんで、荷物出して待っててください。後ろの人は?」
「知人です。そのうちパーティーに入る予定なんで、見学に」
ウィリウスが相手をしてくれるので、頭を下げるだけに留める。彼は特に疑うこともなく、初めましてと言って通してくれた。簡単な仕切りで区分けされた、5番と表示のある区画へ2人で入る。革のマットと低い机が置いてあるだけのスペースで荷物を置いた。
「買い取りの職員が来てくれるから、今のうちに荷物出しておくぞ」
「はぁい」
ウィリウスが持っていた袋には、そのまま売れそうな武器やアイテムが入っている。こちらの袋はモンスターの素材を入れてあるマジックバックらしい。大きさにしては軽いなぁと思っていたので、道中話を聞いて納得した。ゲームのアイテム欄はめちゃくちゃ物入るもんね。
「こっちもここに出してい、うっわ……うぇ」
「あ、あーあー……大丈夫か? 処理前だから結構えぐい臭いすんだろ」
軽い調子でぱかっと袋を開けたら、ぶわっと臭いが溢れた。目に染みる。すぐに顔を逸らしたのにえづくほど酷くて、ウィリウスが背中を擦ってくれた。ウィリウスは慣れているらしくて平気そうだけど、この臭いがどうやってこの袋で遮断されていたのか分からないくらいきっつい臭い。処理前のモンスター素材ってこんな臭いするの? ダンジョンの中とかめっちゃ臭そう。
「離れて見てろよ、そのうち慣れるだろ」
「ごめん……」
臭いで涙目になっているのを見て、ウィリウスが袋を受け取ってくれた。血というか腐った肉というか、獣臭いというか。ちょっと甘く見ていたかもしれない。机に出される素材たちも見た目がえぐくて……、顔とか肉とか毛皮とかそのまんまで、アイテムって感じではない。ほぼ死体まんまって感じだ。
そうこうしてる間に職員の人がやって来て、ちょっと離れたところで見学している間にも買い取りが進んでいく。ガタイの良い職人って感じの職員さんもちらっとこちらを見ただけで、特に言及はしなかった。エロゲーの登場人物らしく顔面偏差値の高い職員さんと、同じくイケメンなウィリウスが、グロ画像も真っ青な状態の素材を広げたり解体したりしているのはあまり良い眺めではない。これに慣れるのは……ちょっと時間がかかりそうだ。
「保存状態も良いし、このぐらいかな」
「ありがとうございます」
結局、かなりの時間をかけて行われた査定と買い取りの間に慣れが来ることはなく、アイテムが全部仕舞い込まれるまで、スペースの隅でじっとしている羽目になった。以前にどういう生活をしていたのかは覚えていないけど、グロ耐性はないらしい。
「じゃ、代金は受付で貰ってください」
「はい。シン、大丈夫か? 終わったから行くぞ」
ウィリウスが背中を撫でてくれる。職員さんは慣れてる様子で気にしてなかったけど、情けない男って思われてないかな。金持ちのボンボンだなって呆れられてそう。
「ごめん。普通に手伝うつもりだったのに」
「大丈夫だって、俺も初めて解体した時は吐くかと思ったから」
連れられてスペースの外に出て、新鮮な空気の中で深呼吸する。臭いのしない場所で呼吸していたら少し気分が良くなった。……画像として見るのと現実の物として見るのとではかなりの差がある。貴重な学びだった。
さて、ウィリウスから水を貰ったり背中を撫でられたりと甲斐甲斐しく世話してもらって、胸の悪さが落ち着いたので建物の中へ入る。大きな玄関をくぐるとこれもまた大きなロビーがあり、ずらっとカウンターが並んでいた。ウィリウスは迷わず歩いているので、要件によってカウンターが分けられているらしい。
「どうも。買い取りの料金受け取りに来ました」
「はい、ありがとうございます。用意いたしますね、しばらくお待ちください」
いつ用意したのか気が付かなかったけれど、アイテムの内訳が書かれた用紙をウィリウスが受付のお兄さんに渡す。さっきの職員さんから貰ったのだろうか、グロッキーになっていたから覚えていないけど。お兄さんも手慣れた様子でそれを確認し、カウンターの下から貨幣を取り出していた。それらをきちんと並べ、用紙と一緒に確認を求める。結構しっかりと双方で確認するんだな。そのあたりの仕組みはゲームでは分からなかった。案外ちゃんとしたシステムがあるらしい。
「はい、たしかに。ありがとうございます」
「またよろしくお願いしますね」
手続きはさくさくと進み、10分もかからず完了した。銀貨と銅貨の入った袋を大事に仕舞い込んで、ウィリウスはまた手を差し出してくる。そこまで混んでいるわけでもなし、迷いはしないと思うんだけど。ただ、さっきの醜態があるので拒絶し辛い。次はどこへ向かうのだろうと周囲を見回しつつ、大人しく手を引かれた。
「おい、はぐれるなよ」
ぐいとウィリウスに手を引かれ、改めて歩き出す。ここではぐれたら本当に合流できなさそうだ。荷物と手をしっかり握って、それでも好奇心が抑えられずに視線は忙しなく周りを廻っている。
「ウィリウス、あれ何?」
「鳥肉の串焼きだな。後で買ってやるから」
路上の屋台からは良い匂いがするし、御座に広げられた商品はどれも魅力的だ。まんまおのぼりの若人らしくあれはこれはと尋ねていれば、良いから先に仕事だと強く腕を引かれた。
今から行くのは冒険者の組合で、素材を買い取って貰える場所があるらしい。買い取り基準なんかもあるから、精査するのに一旦持ち帰っていたアイテムを売却するそうだ。ゲームだと探索後にささっと売ったり、倉庫から直接売却できたんだけどな。
手を引かれてやって来たのは、市場をまっすぐ通り抜けた先にある大きな建物だった。石造りですごくしっかりしている。装飾も最低限、商館というより砦と言った方が良い。少し奥にはもっとデカくてごっつい門が据えられており、いかにも厳重ですといった様子で何人も兵士さんが警備している。
「買い取りはこっちだ、臭いが結構酷いから気を付けろ」
「はーい……ん、うわ」
表ではなく裏へ回るように案内され、出来心で鼻をひくつかせた。途端に生臭い鉄と、腐ったような甘ったるい臭いがツンと鼻に抜ける。ぎゅっと顔を顰めたのを見て、ウィリウスが呆れた顔をしていた。
「こんちは、買い取りお願いします」
「お、いらっしゃい」
ウィリウス、顔は認知されているらしい。倉庫がたくさん並んでるみたいな広い場所で、そこそこの人数が作業をしている。手前にいた男性がウィリウスに声をかけ、手元を確認して手招きをした。
「5番が空いてるんで、荷物出して待っててください。後ろの人は?」
「知人です。そのうちパーティーに入る予定なんで、見学に」
ウィリウスが相手をしてくれるので、頭を下げるだけに留める。彼は特に疑うこともなく、初めましてと言って通してくれた。簡単な仕切りで区分けされた、5番と表示のある区画へ2人で入る。革のマットと低い机が置いてあるだけのスペースで荷物を置いた。
「買い取りの職員が来てくれるから、今のうちに荷物出しておくぞ」
「はぁい」
ウィリウスが持っていた袋には、そのまま売れそうな武器やアイテムが入っている。こちらの袋はモンスターの素材を入れてあるマジックバックらしい。大きさにしては軽いなぁと思っていたので、道中話を聞いて納得した。ゲームのアイテム欄はめちゃくちゃ物入るもんね。
「こっちもここに出してい、うっわ……うぇ」
「あ、あーあー……大丈夫か? 処理前だから結構えぐい臭いすんだろ」
軽い調子でぱかっと袋を開けたら、ぶわっと臭いが溢れた。目に染みる。すぐに顔を逸らしたのにえづくほど酷くて、ウィリウスが背中を擦ってくれた。ウィリウスは慣れているらしくて平気そうだけど、この臭いがどうやってこの袋で遮断されていたのか分からないくらいきっつい臭い。処理前のモンスター素材ってこんな臭いするの? ダンジョンの中とかめっちゃ臭そう。
「離れて見てろよ、そのうち慣れるだろ」
「ごめん……」
臭いで涙目になっているのを見て、ウィリウスが袋を受け取ってくれた。血というか腐った肉というか、獣臭いというか。ちょっと甘く見ていたかもしれない。机に出される素材たちも見た目がえぐくて……、顔とか肉とか毛皮とかそのまんまで、アイテムって感じではない。ほぼ死体まんまって感じだ。
そうこうしてる間に職員の人がやって来て、ちょっと離れたところで見学している間にも買い取りが進んでいく。ガタイの良い職人って感じの職員さんもちらっとこちらを見ただけで、特に言及はしなかった。エロゲーの登場人物らしく顔面偏差値の高い職員さんと、同じくイケメンなウィリウスが、グロ画像も真っ青な状態の素材を広げたり解体したりしているのはあまり良い眺めではない。これに慣れるのは……ちょっと時間がかかりそうだ。
「保存状態も良いし、このぐらいかな」
「ありがとうございます」
結局、かなりの時間をかけて行われた査定と買い取りの間に慣れが来ることはなく、アイテムが全部仕舞い込まれるまで、スペースの隅でじっとしている羽目になった。以前にどういう生活をしていたのかは覚えていないけど、グロ耐性はないらしい。
「じゃ、代金は受付で貰ってください」
「はい。シン、大丈夫か? 終わったから行くぞ」
ウィリウスが背中を撫でてくれる。職員さんは慣れてる様子で気にしてなかったけど、情けない男って思われてないかな。金持ちのボンボンだなって呆れられてそう。
「ごめん。普通に手伝うつもりだったのに」
「大丈夫だって、俺も初めて解体した時は吐くかと思ったから」
連れられてスペースの外に出て、新鮮な空気の中で深呼吸する。臭いのしない場所で呼吸していたら少し気分が良くなった。……画像として見るのと現実の物として見るのとではかなりの差がある。貴重な学びだった。
さて、ウィリウスから水を貰ったり背中を撫でられたりと甲斐甲斐しく世話してもらって、胸の悪さが落ち着いたので建物の中へ入る。大きな玄関をくぐるとこれもまた大きなロビーがあり、ずらっとカウンターが並んでいた。ウィリウスは迷わず歩いているので、要件によってカウンターが分けられているらしい。
「どうも。買い取りの料金受け取りに来ました」
「はい、ありがとうございます。用意いたしますね、しばらくお待ちください」
いつ用意したのか気が付かなかったけれど、アイテムの内訳が書かれた用紙をウィリウスが受付のお兄さんに渡す。さっきの職員さんから貰ったのだろうか、グロッキーになっていたから覚えていないけど。お兄さんも手慣れた様子でそれを確認し、カウンターの下から貨幣を取り出していた。それらをきちんと並べ、用紙と一緒に確認を求める。結構しっかりと双方で確認するんだな。そのあたりの仕組みはゲームでは分からなかった。案外ちゃんとしたシステムがあるらしい。
「はい、たしかに。ありがとうございます」
「またよろしくお願いしますね」
手続きはさくさくと進み、10分もかからず完了した。銀貨と銅貨の入った袋を大事に仕舞い込んで、ウィリウスはまた手を差し出してくる。そこまで混んでいるわけでもなし、迷いはしないと思うんだけど。ただ、さっきの醜態があるので拒絶し辛い。次はどこへ向かうのだろうと周囲を見回しつつ、大人しく手を引かれた。
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