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Interlude
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さて、ウィリウスが気絶してしまったので、さすがに今日は続けられない。しばらく休んだ後、後始末をして使い魔に清掃をお願いしておく。適当に作ってあった炒め物とパンを食べて腹を満たし、それから改めて屋敷の中を探索してみた。あの初期化薬以外に拠点で発見できる隠し要素はないので、本当に見学だけ。
現在は随分狭いし、物も設備も最低限しかない。調整部屋とリビングダイニングがあって、倉庫があって、それで終わりだ。玄関も質素な作りで、自分が想像できる『貴族』の邸宅ではない。ゲームをやっている時は気にならなかったけれど、この世界の貴族の三男ってそんなものなんだろうか。奴隷1人と使い魔付きの家だけ受け取って、ダンジョンへ潜って生活しろと放り出される世界観はとても厳しい気がした。使い魔のおかげで多少家事が免除されるのくらいが貴族要素じゃないか?
ゲーム内の街に出てみたいとも思ったけれど、拠点内やダンジョンと違って詳しくマップが作られていたわけではない。迷っても困るし、低級の奴隷がどういう扱いをされるのかも分からない。そういう方面でウィリウスに迷惑がかかるのは本意でないので、彼が起きて世界観に慣れるまでは大人しくしていることにする。
寝具に腰掛けて、辞書をめくる。屋敷は一番初めの最小、住人は2人。機能も最小限で、倉庫に少々の備蓄がありはするけれどほぼその日暮らしと言って良い。ウィリウスがどのくらいこの暮らしをしているのか、今の自分には分からない。が、なかなかにしんどい生活をしているようだ。
「……のど、かわいた」
「ん? おはようウィリウス。平気?」
後ろからぼそりと声が聞こえてきた。振り返れば、ぽやっと目を開けたウィリウスがこちらを見ている。乱れた赤毛を梳いてやると、大人しく目を細めた。猫みたいだ。
「水でいい?」
「うち水しかないだろ」
ベッドサイドから瓶を取って飲ませてやる。両手と片足が拘束されているから少し大変だった。寝起きで少し幼い彼は特別文句も言わずに水を飲み、それからぼやくように空腹を訴えた。
「拘束してんだから世話してくれるだろ、俺肉食いてぇ」
「あーんしてあげるよ」
炒め物を温め直し、パンと一緒に調整部屋へ持っていく。少しずつ食べさせてやっていると、なんだか鳥の雛に餌をあげている気分だった。ウィリウスが無防備に口を開けて待っているものだから余計に。
「昨日までより不味い」
「そりゃごめん」
昨日までの自分は料理上手だったようだ。自分も知識はあれど、昨日までしていた調理のことを覚えているわけではない。ウィリウスの料理は期待できないから、他の仲間が入るまでは我慢してもらいたい。
「やっぱ意外と余裕あるよなウィリウス……」
ぽつりと言ったら、そんなことより、と食事の続きを促される。気位は高いし気が強いのは確かなのだけど、奴隷に下克上されたにしては悲壮感が薄いというか……。ゲームキャラの中には、悲しみに満ちた様子の元貴族とかもいたから以外だ。
「ダンジョン潜って冒険者なんてやってるんだから、モンスターに殺されたり犯されたりなんて覚悟の上だろ。死ぬより軽い」
「お、もうちょっと激しいのしても大丈夫?」
「それはマジで死ぬからやめろ」
カシャリと手錠が鳴る。ウィリウスが思いの外ドン引きの顔をしていたので本当に嫌なのだろう。気持ち良さそうにしてたんだけどな。ただ、撫でるのは拒絶されない。それは彼の中でセーフの部類らしい。
「まぁあれだ、めちゃくちゃ酷い扱いとかされたら反抗しようって気にもなるけどよ……別にそういうわけじゃないんだろ。ダンジョンで生きたまま食われるとか、野盗に掴まって達磨にされるとか、そういうのに比べりゃだいぶマシだ」
「そこまで酷いことする気はないかなぁ」
「ならいいや」
「いいのかぁ」
自分はストーリーやら考察やらにあまり興味がなかったから曖昧だが、相当に過酷な世界感だ。BL版でも彼の他にお気に入りだったキャラは数人いるし、生活基盤が安定したら出来るだけ仲間にしたいなぁ。自分が手を伸ばせる範囲で幸せに生きたい。
「別に家計簿でもつけるかあ……俺もダンジョン潜りたいし」
「えっ、お前ダンジョン潜んの?」
「だめ? 荷物持つくらいはしたいなって」
低級奴隷のステータスは最低と言っていい数値だ。けど、慎重に行動すれば浅い階層で死ぬことはなかろう。人数が多いほど成果は増えるし、危険も分散する。経験値を溜め続ければそれなりのステータスにはなるから、ウィリウスにくっついて荷物持ちくらいはできるはずだ。
「……まず防具付けて動く練習からした方が良いんじゃないか。お前がどうだか知らんが、シシ―は運動苦手だったぞ」
「じゃあ調整終わったら色々教えてね、ウィリ兄さん」
「ん」
まず最初の目標は2人暮らしを安定させること。初期ダンジョンに安定して潜れるようになればこれは達成できるだろう。ウィリウスが今なんとか自転車操業出来てるくらいだ。それから無理せず仲間を増やして屋敷をアップグレードしたい。寝室というか、それぞれ個室くらいは欲しいもんな。ストーリーが進行しているならそちらも解決しないといけないのだけど……、それはまあ、ある程度生活が出来るようになってから考えたい。
「それじゃ、飯の後片付けして、休憩取ったらもっかいえっちしよっかー」
「……鬼かよ」
正直早く拘束外していちゃつきたい気持ちはあります、はい。
現在は随分狭いし、物も設備も最低限しかない。調整部屋とリビングダイニングがあって、倉庫があって、それで終わりだ。玄関も質素な作りで、自分が想像できる『貴族』の邸宅ではない。ゲームをやっている時は気にならなかったけれど、この世界の貴族の三男ってそんなものなんだろうか。奴隷1人と使い魔付きの家だけ受け取って、ダンジョンへ潜って生活しろと放り出される世界観はとても厳しい気がした。使い魔のおかげで多少家事が免除されるのくらいが貴族要素じゃないか?
ゲーム内の街に出てみたいとも思ったけれど、拠点内やダンジョンと違って詳しくマップが作られていたわけではない。迷っても困るし、低級の奴隷がどういう扱いをされるのかも分からない。そういう方面でウィリウスに迷惑がかかるのは本意でないので、彼が起きて世界観に慣れるまでは大人しくしていることにする。
寝具に腰掛けて、辞書をめくる。屋敷は一番初めの最小、住人は2人。機能も最小限で、倉庫に少々の備蓄がありはするけれどほぼその日暮らしと言って良い。ウィリウスがどのくらいこの暮らしをしているのか、今の自分には分からない。が、なかなかにしんどい生活をしているようだ。
「……のど、かわいた」
「ん? おはようウィリウス。平気?」
後ろからぼそりと声が聞こえてきた。振り返れば、ぽやっと目を開けたウィリウスがこちらを見ている。乱れた赤毛を梳いてやると、大人しく目を細めた。猫みたいだ。
「水でいい?」
「うち水しかないだろ」
ベッドサイドから瓶を取って飲ませてやる。両手と片足が拘束されているから少し大変だった。寝起きで少し幼い彼は特別文句も言わずに水を飲み、それからぼやくように空腹を訴えた。
「拘束してんだから世話してくれるだろ、俺肉食いてぇ」
「あーんしてあげるよ」
炒め物を温め直し、パンと一緒に調整部屋へ持っていく。少しずつ食べさせてやっていると、なんだか鳥の雛に餌をあげている気分だった。ウィリウスが無防備に口を開けて待っているものだから余計に。
「昨日までより不味い」
「そりゃごめん」
昨日までの自分は料理上手だったようだ。自分も知識はあれど、昨日までしていた調理のことを覚えているわけではない。ウィリウスの料理は期待できないから、他の仲間が入るまでは我慢してもらいたい。
「やっぱ意外と余裕あるよなウィリウス……」
ぽつりと言ったら、そんなことより、と食事の続きを促される。気位は高いし気が強いのは確かなのだけど、奴隷に下克上されたにしては悲壮感が薄いというか……。ゲームキャラの中には、悲しみに満ちた様子の元貴族とかもいたから以外だ。
「ダンジョン潜って冒険者なんてやってるんだから、モンスターに殺されたり犯されたりなんて覚悟の上だろ。死ぬより軽い」
「お、もうちょっと激しいのしても大丈夫?」
「それはマジで死ぬからやめろ」
カシャリと手錠が鳴る。ウィリウスが思いの外ドン引きの顔をしていたので本当に嫌なのだろう。気持ち良さそうにしてたんだけどな。ただ、撫でるのは拒絶されない。それは彼の中でセーフの部類らしい。
「まぁあれだ、めちゃくちゃ酷い扱いとかされたら反抗しようって気にもなるけどよ……別にそういうわけじゃないんだろ。ダンジョンで生きたまま食われるとか、野盗に掴まって達磨にされるとか、そういうのに比べりゃだいぶマシだ」
「そこまで酷いことする気はないかなぁ」
「ならいいや」
「いいのかぁ」
自分はストーリーやら考察やらにあまり興味がなかったから曖昧だが、相当に過酷な世界感だ。BL版でも彼の他にお気に入りだったキャラは数人いるし、生活基盤が安定したら出来るだけ仲間にしたいなぁ。自分が手を伸ばせる範囲で幸せに生きたい。
「別に家計簿でもつけるかあ……俺もダンジョン潜りたいし」
「えっ、お前ダンジョン潜んの?」
「だめ? 荷物持つくらいはしたいなって」
低級奴隷のステータスは最低と言っていい数値だ。けど、慎重に行動すれば浅い階層で死ぬことはなかろう。人数が多いほど成果は増えるし、危険も分散する。経験値を溜め続ければそれなりのステータスにはなるから、ウィリウスにくっついて荷物持ちくらいはできるはずだ。
「……まず防具付けて動く練習からした方が良いんじゃないか。お前がどうだか知らんが、シシ―は運動苦手だったぞ」
「じゃあ調整終わったら色々教えてね、ウィリ兄さん」
「ん」
まず最初の目標は2人暮らしを安定させること。初期ダンジョンに安定して潜れるようになればこれは達成できるだろう。ウィリウスが今なんとか自転車操業出来てるくらいだ。それから無理せず仲間を増やして屋敷をアップグレードしたい。寝室というか、それぞれ個室くらいは欲しいもんな。ストーリーが進行しているならそちらも解決しないといけないのだけど……、それはまあ、ある程度生活が出来るようになってから考えたい。
「それじゃ、飯の後片付けして、休憩取ったらもっかいえっちしよっかー」
「……鬼かよ」
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