上 下
2 / 27

Start ♡

しおりを挟む
よろしくお願いします。だめそうだったら逃げてください。
――――――――――――――――――――

「あーーーー……あ……あああぁあ……ぁあーーーー」

 呆けたような声が聞こえる。荒く甘い吐息と粘着音。ギシギシと寝具の軋む音。腹を中から押し広げる圧迫感と、全身に何度も強く響く快楽の波。恍惚と涙に滲む視界の端で、橙色の灯りがゆらゆら揺れている。ふと、そんなことに意識が向いた。はて、と内心首を傾げて、だけどそれも絶え間無く襲う快に流されていく。

「あぅ、ぁ、あ、っぁあ……」

 はふ、と息をして、蕩けた声が自分の喉から出ているのに気が付いた。あれ、と思って、それも内臓を抉るような苦しい快感で塗られていく。目の前にいるのが誰かも分からない。ただ、見覚えの……ここで暮らしている、という意味ではなく……見覚えのあるような、寝具からの景色。自分に覆い被さる、美しい赤毛の男性。

「んぁっ……ァ、う、にぃさ……?」

 覚えがある。ちょっと固くて跳ねた赤毛に、きゅっと険に眇められた眉根。滲んだ視界でも分かる、強い緑の瞳。大きく舌打ちが聞こえて、腹の中の物が強く打ち付けられた。ぎゅうと腹の中に力が入り、勝手に腰が浮かぶ。

「ッぁああ!」

「てめーと兄弟なんて冗談じゃねぇ」

 低くてキツい声。覚えがある。自分はこれを覚えている。イヤホン越しで聞いた声と、液晶越しに見た景色。

「あー……出る」

 これ、昔めっちゃやってたエロゲのベッドシーンだ。

 じんわりと腹の中にあたたかな物が広がる。あ、と思った途端、腹を押し広げていた物がずるりと抜けていく。散々に突き上げられた体はそれにすらびくりと反応して、絶頂から下りていくのさえ緩慢だった。中から力が抜けないのに、四肢は震えるだけで動いてくれない。さっさと身なりを整えた相手は、ただこちらを不快げに見下ろしただけで踵を返し、靴を鳴らして部屋を出て行った。

 しん、と静かになった部屋は、先ほどまでの淫臭に満ちてねばつくようだった。なんとか動くようになった体を引きずって、どろどろに汚れたシーツから起き上がる。近くに設置された姿見に、自分の姿が写っていた。ああ、見覚えがある。画面の向こうで散々見た姿だ。

「BLの方かよ……」

 あからさまに、プレイ用として設置された鏡を見つめて、思わず漏れた声は掠れていた。散々喘がされた後だから、仕方ないと言えば仕方ない。喉が渇いたし、頭も腰も痛い。身動ぎするたびに、出された物が中から漏れてくる。考えたいことは山とあれど、一旦この現状をどうにかしなければなるまい。幸いと言うべきか、裏ルートまで何度もやり込んだゲームの間取りは覚えている。のろのろとシャワーを浴び、事後処理を済ませてシーツを洗濯籠に放り込む。きっちりとベッドメイクする余裕はなく、しわくちゃのまま適当に広げて終わらせた。

「……あ、辞典あった」

 眠い目を擦ってサイドテーブルを漁り、分厚い本を見つける。これがあるなら後はいいやと、一旦それだけ持ってシーツに飛び込んだ。

 自分が数年前に散々やり込んだ18禁ゲーム、『肉欲の館』。ありがちな剣と魔法の世界が舞台のエロゲーで、ダンジョンへ潜っていろんな素材を集めつつ、主人公の所有する屋敷を改築装飾したり、所有する奴隷や召使・仲間たちを屋敷に配置して色々エロい事ができるしエロでいろんな恩恵が得られる、というゲームだった。主体にR要素が据えられているだけあってエロ方面の機能が充実しており、基本パックで男女その他人外を含めた全ての組み合わせに対応してあるという、いろんな性癖に優しい仕様。メインストーリーは短いがしっかりしていて、その方面でも人気が高かったと記憶している。

 自分はどうやら、そのゲームのチュートリアル的存在になってしまっているらしい。しかもBLモードの初期キャラ。自分がプレイしていた時は特にそれが好きというわけでもなく、ゲーム自体に惚れて全てのモードに手を出していた。何の因果でこのモードを実体験しているのかは全く分からない。先程の男にも見覚えがあり、初めての部屋でも困惑せず使用出来ている。万が一の可能性として盛大に酔っ払って彼とラブホに入った可能性もなくはない、が、それにしたってこれだけ合致するのは有り得ないと思う。予想通りの所に予想通りのアイテムも見つけてしまったことだし……小説やら漫画やらでありがちな展開を認めるしか無かろう。

「どうしよう。帰りたい」

 チュートリアル初期キャラのステータスなんて最低値も良いところだ。自分を使うということは、さっきのキャラだって高レベルというわけではあるまい。ダンジョンの1、2階層をやっとこ探索できる、そんな程度の能力値しかないはずだ。それよりも低い、己の能力値。わりとあっさり多種多様なイベントでゲームオーバーになるこのゲームで、それはかなりいただけない。

 ついでに言うなら、何がどうなって今ここにいるのかは分からないが、自己認識としての自分は、あまり掘られて喜ぶ質ではない。散々やり込んだ知識を活用して、どうにか下克上を目指したいものだ。

「とりあえず……あいつが帰ってくる前にアイテム回収したいな」

 今にも寝落ちそうに疲れているが、休めるのは随分先になりそうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

ダンス練習中トイレを言い出せなかったアイドル

こじらせた処女
BL
 とある2人組アイドルグループの鮎(アユ)(16)には悩みがあった。それは、グループの中のリーダーである玖宮(クミヤ)(19)と2人きりになるとうまく話せないこと。 若干の尿意を抱えてレッスン室に入ってしまったアユは、開始20分で我慢が苦しくなってしまい…?

処理中です...