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のちの悪役女帝と剣奴隷とステーキ ①

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 およそ3年前の出来事

 第二皇女・・・・ エイルは、自身が設立した女性だけの部隊『白銀騎兵軍』の指示を取っていた。

 敵は帝国の友好関係を結んでいた隣国の1つ。 カガリア連邦国。

 ―――否。

 連邦が帝国と友好関係を築き上げてきたのは、先代までのは話だ。

 ダンジョンなどの魔力的資源の独占を秘密裏に行い、潤った資源を武器に、いずれは帝国に弓を引く事は予想の範囲内であったが――――

「今の連邦指導者は若すぎるわね。 若さと勢いをそのままに帝国に勝てると誤った判断を決しています。おそらく、先代からの中核は渋っていたのでしょうが……たぶん、粛清されちゃったのでしょうね」

 エイルは、小首を傾げるように言った。

「凄い物騒な事を可愛らしく言いますね」とリンリンは苦笑しながら、言葉を続ける。

「若さゆえの暴走と言うには、洗練された部隊ではありますが……少々古いですね」

「うん、左右に騎兵隊。中央に歩兵。後衛に魔導部隊……か。古いと言うよりも兵の練度が低くて最新の用兵術が使えないのね。急いだ世代交代の弊害ね」

「うんうん」と頷き合う2人に対して、困っているのは軍を率いる人間だった。

 なんせ、この軍で将軍の地位を与えられているのは、まだ10代の少女なのだ(エイルもリンリンも10代であるのは同じではあるが)。

「わかるかしら? ユリア将軍・・・・・

「い、いえ、すいません。どういう事なのか、さっぱり……」

「考え続けなさい」とエイル。

「貴方を将軍にしたのは伸びしろを感じたから。だから、戦場で考え続けて成長しなさい。ただし、成長のために思考の誘導くらいなら私が助けてあげるわ」

「はい」と片膝をつくユリアをエイルは微笑ましく見た。

「いいかしら、我が軍……『白銀騎兵軍』の特徴は何かしら?」

「えっと……速さでしょうか?」

「そうね、それが我が軍の戦闘教義《ドクトリン》ね。はい! リンリン、補足して」

「我が兵は、騎兵を中心とした部隊と隠蔽していますが、実は騎兵として高速移動しているのは魔法使いです」

「高速移動している魔法使い」とユリアは繰り返す。

「歩兵は、身体強化の魔法によって騎兵たちと並走。哨戒と護衛が主だった役割です」

「つまりね」とエイルはリンリンから、話の主導権を戻した。

「私たちは、とっても速い魔法使い。相手の魔法使いたちは、騎兵隊や歩兵に守られた軍単位の極大魔法を放とうとするのを簡単に阻止できてるの。 理解はOKかしら? ユリア?」

「は、はい!わかりました!」

 ユリアは自陣の兵。それから、離れた場所の敵影を見つめた。

 広大な草原に陣形を整えた軍。

 対する敵軍は小さな川を隔てて待ち構えていたが……既に戦いが始まる前から勝敗は決していたと言ってもいいだろう。

「それで、現状はどうなっているのかしら?」とエイル。

「左翼騎兵隊は指揮の部隊長が急な病死で、三男が引き継いだ……という事になっています」

 エイルの問いにリンリンは淡々と答える。

「敵遊撃隊は?」

「手筈通り、帝国背後を迂回して攻撃する直前に停止して静観。罠を見破る……という筋書きを用意しています」

「そう……いくら必要でしたか?」

「左翼部隊長は戦後に帝国への亡命を。遊撃部隊には、帝国支配化でも領土の維持持続を確約しました」

 裏切り工作である。 

 カガリア連邦内部の人間でありながら、近い将来、連邦は瓦解すると予測している者が多い。

 先代からの急な政策変換。古くから仕えている側近たちの粛清。

 ダンジョン利益を見越し、あまりにも早いうちから帝国への反旗。

 若きカリスマが国内で勝利を重ね、王座に就いた勢いをそのままに帝国の勝てると勘違いした。

だから人心は離れる。 

 そして――――非常にも戦いは始まった。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 リンリンは戦場を分析してエイルに報告する。 

「敵、左翼騎兵隊、動きが鈍いですね。右翼騎兵隊が先行、歩兵がついて行き……あっようやく左翼が動き出します。醜い陣形ですね、魔導部隊が置いてけぼりですよ」

「それって斜線陣じゃないの?」

「偶然だと思いますよ。部隊と部隊の切れ目が、どんどん広がっていますから」

「そうね……一応、後退。ただし、低速でね。十分に敵を引き付けてから単純魔法で一斉射撃を狙いましょう」

「敵兵……流石に早いですね。 圧力に負けて先走る兵が出るかもしれませんよ」

「大丈夫、私たちが作った精鋭を信じましょう」

「はい、引き付けて、引き付けて……


  今です!」


 それは、閃光。

 1000以上の騎兵から放たれる攻撃魔法。

 ただ敵の命を奪うためだけに先鋭化された魔力の弾丸を打ち込む。

 それは、轟音と殺傷力。
 
 あまりにも簡単に敵が屍を晒していく。

 主力であるはずの敵騎兵隊は沈み、動揺は後方の歩兵を襲う。

 しかし、撤退するわけにはいかない。 そのまま乱戦になだれ込もうと前に前に……

 だが、ここでエイルが号令を発動させた。

 「我が精鋭よ、私の勝利を確実にするため――――さぁ、一歩だけ前進しなさい」

 蹂躙。 

 それは圧倒的な戦力差。

 元より練度の高い兵。戦術の理解度も高く装備も良い。

 それは、カガリア連邦国の若き勢い……いや、脱帝国を旗印に掲げ、信念により上乗せされた武ですらも容易に砕け散る。

――――そのはずだった。しかし――――

「この戦場に鳴り響く音……何か、来ます!」

 エイルの叫んだ。 
 
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