紅眼の殺人鬼

チョーカ-

文字の大きさ
上 下
10 / 12

 嗅覚

しおりを挟む
 嗅覚。 これは比喩ではありません。

 私、鷲見朋は思い出します。

 アメリカなどで一流の鑑識は、現場についた時に重視するのは

 第一印象《ファーストインプレッション》

 先入観のない状態。それならば、犯人が現場に到着した感覚に近づく。

 そのため、鑑識の中には臭いを重視する人もいる……らしいです。

 おそらく、文くん……禅野文という少年は知識から身に着けた技術ではなく天性の感覚で行っているのでしょう。

 その技術は、所謂プロファイリングのような事も……

「誘拐という行為はリスクが高い。家族がいる家に被害者を連れ帰る……そんな実例もないわけではないが……コイツは計画的。それなら事前に準備もしているか……」

 ブツブツと彼は呟き、スマホの地図アプリを開きます。

「それは何を?」と私は聞きます。

「ん? あぁ、犯人の潜伏先。その条件に該当する場所に記録している」

 横から覗き込むと、3か所の建物が赤い丸で囲まれています。

 私は酷く驚きました。

「これは犯人が……礼がいる場所が3か所まで絞られているという事でしょうか?」

「……まだ3か所。もう少し絞れる――――いや、ここだ」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 廃ビル。 埃の臭い。

 そして、山の臭いだ。

 窓ガラスもなく、吹き込んだ雨と風はコンクリートの床に土をばら撒いている。

 腐った植物と昆虫の死体が混ざった異臭。

 田舎では当たり前のソレは都会では異物となり、不快感を生み出している。

 廃ビルでも、そこは高い階層だ。

 吹き抜けで、声を障害する物はないが、叫んでも人の耳に届く事はない。

 そういう場所だ。 そういう場所を選んだ。

 は少女を見下ろした。

 廃ビルには似つかわしくない豪勢なベッドの上。 彼女は寝ている。

 微動だにしない美しさは、時折――――

(死んでいるのではない?)

 そう不安に駆られるが、規則正しく上下している胸の呼吸が否定をしてくれる。

 彼女――――花牟 礼は天才だ。少なくともは、そう思っている。

 彼女の作品を見た瞬間、自分の胸を抉り取られたような錯覚に陥った事を思い出す。

 自分の中に潜む闇――――邪悪なる本質を見せられた感覚。

(いやだ。自分は異常者なんかじゃない)

 心は、そう叫んでいた。

 だが、痛みは慣れる。 一度、我慢できると言う事は一生、我慢できると言う事だ。

 鈍化した異常は肥大化する。まるで――――

「まるで、異常者である自分が肯定されいくような心地よさだ」

 口にした事で不意に思ってしまう。

「どうして、自分は彼女を攫ったのだろうか? こんなにも慎重に、計画と立てて?」

 だから、自覚してしまう。 どうやら、自分は彼女を――――

 いや、彼女が表現する自分の異常性を独り占めしたくなった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

Hermit【改稿版】

ひろたひかる
恋愛
【毎日更新】優は普通の女子高生だった――半年前まで。持っている能力ゆえに追われる身になった彼女は、行き倒れたところを偶然拾われる。彼女を助けたのは一平、彼にも大きな秘密があった。優は一平や彼の家族に助けられながら、彼女を追う組織と対峙していく。☆★☆★組織に追われ追いかけるヒロインをめぐるラブサスペンス☆★☆★以前完結済の作品の改稿版になります。大きなあらすじは変わりませんが、全面的に書き直しています。細かいエピソードの追加等あり。☆★☆★途中バトルシーンもありますので、R15タグつけております。暴力シーンの苦手な方は飛ばして読むか回れ右でお願いします。☆★☆★本編完結済、時々番外編を更新しています。本編はシリアスですが、番外編は割とお気楽に読める内容です☆★☆★小説家になろう様にも投稿しています。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

【完結】虐げられた男爵令嬢はお隣さんと幸せになる[スピラリニ王国1]

宇水涼麻
恋愛
男爵令嬢ベルティナは、現在家族と離れて侯爵家で生活をしている。その家の侯爵令嬢セリナージェとは大の仲良しだ。二人は16歳になり貴族の学園へ通うこととなった。 3年生になる年の春休み、王都で遊んでいたベルティナとセリナージェは、3人の男の子と出会う。隣国から来た男の子たちと交流を深めていくベルティナとセリナージェだった。 ベルティナは、侯爵家での生活に幸せを感じている。その幸せはいつまで続くのか。いや、まずその幸せは誰から与えられたものなのか。 ベルティナが心の傷と向き合う時が迫ってくる。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

処理中です...