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あれから5年

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 ――――あれから5年後――――

 冒険者は息を殺して進む。 

 死の森と言われる場所。

 緑色の装備を土で汚した冒険者の姿。 森と一体となり、肉眼では限りなくとらえられない。

 しかし――――

(……妙だな。魔物と遭遇しない)

 死の森と呼ばれているのは伊達ではない。

 危険な魔物の出現ポイント。 

 冒険者ギルドから認められた者だけが、現地調査――――奥地にある城を調査をする依頼を行える。
 
 幾多の冒険者たちが城まで到達できずに引き返してる。

 それでも、依頼達成とされるのは難易度の高さ。

 だから、だろうか? 彼――――この冒険者の青年にも欲がでた。

 (もう少し先に、城まで行けるか?)

 地図……とも言えない完成度の低い地図で位置を確認した。

 前に一歩、踏み出した直後に、

「なんだ、アイツではないのか。どうやら……ただの冒険者か」

 声。それも背後から聞こえて来た。前ぶりも、気配もなく……

 冒険者は逃げるように距離を取る。 そして、その人物を確認するために振り返った。

 声の主は、黒衣を身に纏っている。 武器、腰にぶら下がっている剣は3本。

 どこか不吉な、そんな空気を身に付けた男だった。

「――――ッ! まさか、魔族か?」

 冒険者は腰に帯びた剣に手をかける。 しかし、鞘から剣を抜かない。

(――――抜けば殺される。それほどの戦力差。逃走に専念するには……)

 対峙しただけでわかる実力差。 

 逃げるための方法? 脳内には幾つもの選択肢が浮かび消えていく。 

 そんな冒険者に対して、男は――――

「見事だ。良い腕だね」

 そんな場違いな誉め言葉を口にした。

「え? 何……を、言って?」

「俺と対峙しておきながら、生き延びるために考えを巡らせている」

それから不気味なほどに笑顔で「うんうん、冒険者とはそうでないと」と1人、頷いている。  

(油断しきっている……逃走するなら、ここ!)

 そう決めてからの行動は早かった。

 冒険者は地面に何かを叩きつける。 瞬時に眩い光が周囲に覆った。

 強敵に遭遇した時のために準備していた目潰しの道具。

 そのまま全力で逃走を――――できなかった。

「逃がさないさ。久々に話せる人間だからね」

 背後から首を掴まれ浴びせ倒された冒険者。

(う、動けない。軽く、押さえられているだけなのに!)

「そう急がないでくれよ。そうだ……自己紹介がまだだったね。俺の名前は――――ジェル。ジェル・クロウだ」

「ジェル……ジェル・クロウ! 魔王ジェルか!」

「あぁ、世間じゃそう呼ばれているらしいね」

 そう言って笑う彼の顔には狂気が隠されていた。
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