上 下
104 / 144

ジェルとレオの物語 ②

しおりを挟む
剣と剣がぶつかり合う。 それは、すなわち――――

 バインド勝負

 剣の刃と刃は噛み合う。 刃同士が交わると、そこで固定されて力勝負となるのだ。

 加えて――――ジェルが仕掛ける。 

 一瞬の力の揺らぎ。それを感じ取ったレオの力が増していく。

 そのタイミングを狙う。 前に出ようとするレオの動きを利用して、左右――――あるいは下から上に向けて――――

「投げ技だとッ!」とすぐさまレオが反応。

 バランスと整え直し、ジェルの投げを拒否した。

「体幹が強すぎるのか? それに反射神経だけで投げを無効化して見せた?」

 ジェルとレオ。 互いに互いの技と肉体に驚愕する。

 驚きから、精神が帰還したのはレオが速かった。

 蹴り。

 剣と剣をぶつけた状態で前蹴りをジェルに放った。

 避けれるはずもない一撃。ジェルの肉体は、凄まじい浮遊感に襲われ、後ろへ下がる。

 鍔競合いに似て非なるバインド勝負は互いの肉体が離れたことで終わる。

 間合いが離れる。ジェルとレオの両者は――――

 呼吸を忘れていたかのように欠如していた空気を肺へ取り込む。

 熱を抑えるための汗が遅れて湧き出ていく。

 休憩時間とも言えない僅かな回復時間。 呼吸は1つ……2つ……3つ……いや、3回の呼吸が終わるよりも早く、互いが動いた。

 警戒すべきは体力勝負。 腕力勝負。

 先ほどのバインド勝負のように、技が関与する余地があれば、ジェルにも勝機がある。

 だが、純度の高い前衛戦士であるレオは、巨大な魔物を相手に盾と鎧だけ……あとは自分の腕力だけ魔物の動きを封じ込んできた。

 もはや、その腕力は人類とは別次元の存在だと言える。

(だったら、どうする? どうやって戦う?)

 ジェルは必至に考える。 脳を回転させる。 

 思考に頭が高熱を感じる――――いや、それは錯覚だ。

 なぜ、ならジェルの思考は刹那の時間で動き続けているのだから、熱を感じるよりも早い。

 レオの一撃。 それをジェルは回避する。

 一気に防戦に追い込まれたジェルだったが――――その光景は奇妙。

 およそ人間とは思えない速度領域でジェルは、レオの周辺を飛ぶように動き回る。

 その速度の翻弄され、レオには焦りが見える。

 ――――いや、?  

 違う! 実際に飛んでいるのだ。

 飛翔魔法。

 ジェルが持つ魔法の才能――――つまりは魔力の精密操作。

 それは空を飛ぶと言う本来の魔法を捻じ曲げ、接近戦で高速で移動し続けるという――――もはや、魔法ではなく技として昇華させたのだ。

「こ、このっ!」とレオの剣はジェルには当たらない。

 代わりにカウンターで刺突が放たれる。

 剣。 

 頑丈な鎧に身を守られているレオであるが、打たれればダメージは刻まれていく。

 剣は刃物として殺傷能力がなくとも鉄の棒である。

 その刺突は、致命傷にならなくとも衝撃と共に痛みを打ち付けていく。

「――――っ! この――――」とレオは言葉が続かない。

 辛うじて、無防備である頭部だけはジェルの刺突から防御及び回避に徹底している。

(反撃……その方法が思いつかねぇ。負ける? この俺がジェルに2回も? あり得ねぇ……あり得ねぇだろうが!)

 レオの選択はシンプルだった。

 頭部を狙うジェルの刺突。 それに合わせて、防御も回避も捨てる。

 ギリギリ……僅かで良い。 ダメージを受けて生存できるギリギリのライン。

 すなわち――――死線。 

 死線を超えた先の一撃――――その一撃を狙って――――レオは拳を握る。

 そのため、すでに剣は捨ててある。 剣を操るよりも――――

「殴った方が速いからな!」

  剛腕。 狙いに狙った拳による一撃がジェルの体を捉えていた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

神を助けて異世界へ〜自重知らずの転生ライフ〜

MINAMI
ファンタジー
主人公は通り魔に刺されそうな女の子を助けた 「はじめまして、海神の息子様。私は地球神ティエラです。残念ながら貴方はなくなりました。」 「……や、知ってますけど…」 これは無駄死にした主人公が異世界転生してチートで無双するというテンプレな話です。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

全裸追放から始まる成り上がり生活!〜育ててくれた貴族パーティーから追放されたので、前世の記憶を使ってイージーモードの生活を送ります〜

仁徳
ファンタジー
テオ・ローゼは、捨て子だった。しかし、イルムガルト率いる貴族パーティーが彼を拾い、大事に育ててくれた。 テオが十七歳になったその日、彼は鑑定士からユニークスキルが【前世の記憶】と言われ、それがどんな効果を齎すのかが分からなかったイルムガルトは、テオをパーティーから追放すると宣言する。 イルムガルトが捨て子のテオをここまで育てた理由、それは占い師の予言でテオは優秀な人間となるからと言われたからだ。 イルムガルトはテオのユニークスキルを無能だと烙印を押した。しかし、これまでの彼のユニークスキルは、助言と言う形で常に発動していたのだ。 それに気付かないイルムガルトは、テオの身包みを剥いで素っ裸で外に放り出す。 何も身に付けていないテオは町にいられないと思い、町を出て暗闇の中を彷徨う。そんな時、モンスターに襲われてテオは見知らぬ女性に助けられた。 捨てる神あれば拾う神あり。テオは助けてくれた女性、ルナとパーティーを組み、新たな人生を歩む。 一方、貴族パーティーはこれまであったテオの助言を失ったことで、効率良く動くことができずに失敗を繰り返し、没落の道を辿って行く。 これは、ユニークスキルが無能だと判断されたテオが新たな人生を歩み、前世の記憶を生かして幸せになって行く物語。

処理中です...