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ジェルたちの『北国迷宮』攻略③

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 ジェルは前言を撤回する。
 
『ファイアボール』

 突如、現れた亀の魔物『フロスト・タートル』の群れ。

「敵勢力の大量物質を前。だったら、天井は崩れろ。床に大穴が空いてしまえ」

 それが理由の1つ。多勢に無勢……と言うほどの戦力差か? この2人には疑問ではあるが……

 地形を破壊するほどに攻める方が有利になる数の差。

 もう1つは――――

「来いッ!」

 前線に踏み込んだシズクは、迫り来る魔物たちに大剣を振るう。

 その大剣は――――魔剣。

 距離を歪め、時間を省略して、因果律を操作する。

 相手の攻撃に合わせて振れば、必ず先に当たる。

 ジェルの魔法は、そのためだ。

 万全の状態で、魔剣を振り回せるようにするため。滑らかな床を炎で溶かして、踏ん張りが効くようにするためだった。

 そんな魔剣をぶち込まれた最初の1匹は、床を滑り襲い掛かって行く速度のままに――――いや、シズクの力は加わり、逆方向に加速して吹き飛ばされていく。

 つまり、その方向には、大量の『フロスト・タートル』たちが次々に攻撃を狙っていた。そんな場所だ。

 1匹目は2匹目に当たり、2匹目は3匹目に――――いや、最初の1匹目が他の亀に衝突する。

 雪国である、氷上の石に石をぶつける競技のように、亀の魔物たちは互いにぶつかり合っていく。

 こうなっては、彼等の頑丈な甲羅は、仲間たちと傷つけ合う武器と化した。

 それに事前に放ったジェルの火系魔法によって、天井は崩れて、床には穴が空いている。

 結果――――

 『フロスト・タートル』たちの一部は、穴の底へ。 一部は、天井から瓦解した氷に埋もれて動かなくなった。

「よし! 一振りだぜ? 一振りだけで、コイツ等を蹴散らしてやったぜ!」

「うん。俺も支援したつもりだけどな」

「わかってる。わかってるから、不貞腐れるなよ」

「いや、別に不貞腐れているわけでも……」

「そんな事よりもアレだよ、アレ!」とシズクは、親指で示す。

「あれは――――隠し部屋か?」

 ジェルは声を上げる。 この場所『北国迷宮』で、今まで誰にも発見される事がなかった隠し部屋だ。

 こんな場所に誰が隠し部屋を作ったのか?

 古代の魔術師が、ここで隠れて怪しげな儀式や研究をしていたのか?  

 それとも時の権力者が作った墓が、呪詛を集めてダンジョン化したのか?

 もしくは、犯罪王が死を前に、財宝を隠すために作らせたのか?

 それはわからない。全ては推測だ。 だが――――

「だけど、とんでもない財宝なり、魔術の痕跡が残ってる。ダンジョンの隠し部屋は、そうと決まってる」

 ジェルも、財宝を前に頬を緩ませる。 

 念のため、今回の目的――――新たな自動販売機の魔道具が隠されている場所か、地図で確認する。

「――――やっぱり違う。本当に、ここは後世に伝わっていない未踏の場所だ」

気分が高揚したハイテンション状態で悪いけど……私は嫌な予感がするぜ」

 シズクは、何かと感じたのか? 警戒している。 

「罠の可能性? それもあるな」とジェル。 そういう時こそ、彼の本領発揮する場だ。

 ジェルの本職の斥候。精神を平坦《フラット》にして、彼は「少し待っててくれ」と先行して隠し部屋に入った。

「……」と無言で歩く。ゆっくりと前に進む速度。

 その速度のままに、すぐさま隠し部屋から外へ戻ってきた。  

「早かったなぁ。……と言うよりも早すぎないか? 中に何があった?」

「何があったというより……

「いた? 魔物がいたのか? お前が、そんなに引き返していくような大物が?」

「うん、亀の化け物がいた。 氷漬けにされて……ありゃ、太古の英雄が殺そうとして殺しきれずに封印した部類の化け物だ。関わらないようにしよう」

「いや、そんな怪物なら、私も見ておきたいだが……」

「あれは見学するとか、そういうレベルじゃ……」とジェルは、最後まで言えなかった。

 なぜなら――――

「誰だ!」とジェルとシズクは、同時に叫ぶ。

 謎の人物。 それも悪意と殺意を煮込んだような感情をぶつけて来た。

(何者か? こんな国外で怨まれる心当たりは――――)

 ジェルにはある。 自分が追放され、逆に町から追放し返した人物なら、あるいは――――

(レオ・ライオンハート? そんな馬鹿なことはない。偶然にしても――――)

 そんな動揺の隙を突かれたのか? 謎の人物は、攻撃を開始してきた。

『ファイアボール』

 基本的とも言える火の魔法。ただし――――笑えるくらい巨大な炎だった。

「避けろ、シズク!」

「おう!」 

 2人は反射的に回避。炎の塊をやり過ごす。

 しかし、次の瞬間には――――

「気配が……消えた?」

「あぁ」とシズクも気配が遠ざかった事を理解して、それから――――

「一発、攻撃をしてきて、何が目的だったんだ? 新発見した部屋にあるだろう財宝を横取りしようとしたのか?」

 そう言って小首を傾げる。
  
 彼女は気づかなかった。 真の敵の目的は、隠し部屋。

 その奥で封印を――――氷によって封印されていた怪物を炎によって蘇らせる事だった。

 「シズク! なにか、とんでもない圧力が来るぞ!」

  隠し部屋から現れたのは亀の怪物……そのフォルムは、先ほどの『フロスト・タートル』とはまるで別物。

 巨大な二足歩行の亀――――むしろ人間に近しいフォルム。

 そして、武器を持っていた――――いや、違う。

 黒い剣に見えるのは、鋭利な爪だろうか?

 とにかく、そんな未知の怪物が2人の前に出現したのだ。
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