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 北国の拠点

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ドワーフのトムは寡黙な男だった。

 借りていた馬車を商人に返し、戻ってきたシズクに対しても、

 「……」と無言で腕を差し出していた。

 多くのドワーフは、鍛冶で生計を立てていた。

 利き腕を差し出し、握手をするという行為は、ドワーフにしてみたら最大の友好表現。

 しかし、その光景に「?」とジェルは違和感を持った。

(なんだろう? 普通の光景のはずなのに――――)
 
 結局、その違和感の正体を看破する事はなく、胸にモヤモヤした感情を抱いたまま、準備は進んだ。
 
・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

『北国迷宮』

 北の国にダンジョンは数あれど、国の名がつくほどの代表的ダンジョン。

 周囲は冒険者に栄えているわけではない。────むしろ、逆。

 人の気配のない雪道を進む。 時折、すれ違う人がいる。

 彼等は冒険者だ。面構えでわかる。

 北国迷宮は、貴重な鉱山や植物といった資源が豊富として有名ではない。

 むしろ、過酷さが有名。

 通常のダンジョンに挑戦する事に飽きた求道者タイプの冒険者が挑む。  

(すれ違った冒険者たち……B級以上。もしかしたら、S級冒険者かもしれない)

 ジェルは自己評価の低さがあるとはいえ、B級冒険者。それに加え、古代魔道具で実力が底上げされている。

 それにも関わらず、北国迷宮の難易度に挑戦前から飲まれて――――

「いや、今の連中は強そうだったな。けど、余裕がないって感じだった。大丈夫か、あんな感じで?」

 さらに「実際に戦ってみたら私等とどっちが強いかなぁ?」と軽口をシズクは言った。

「あぁ……シズク、君にはそう思えるのか?」

「ん? ソイツは、どういう意味だい?」

「さっき、すれ違った連中と俺たちが戦ったら、どっちが強いか? そう思えるのか?」

「……いや、意味がわからねぇぜ? そんなに不思議か? 連中と私たち――――正直、言えば私たちの方が強いまであると思ったけどなぁ」

 そんな呑気さが含まれているようなシズクの言葉にジェルは、笑った。

 思わず、笑いが止めれなくなるほどだった。それから――――

「そっか、俺も気づかない内に強くなってるのかもしれないな」

 何かが吹っ切れたような言葉。

 シズクは、何を言っているのか理解できないように小首を傾げた。

 やがて……ドワーフのトムが足を止める。

「……そこだ。お主たちが拠点として使う小屋」と指した。

 それから、足早に近づこうとするジェルたちを止めた。

「待て……ここの魔物は賢い。人の住む家には、温かさと餌があると学習している。隙があれば、ひっそりと入り込むぞ。まずは周囲の確認を」

 ゆっくりを小屋の周りをトムは歩き始めた。

「問題はない」と確認し終えたトムは、ドアに向かう。

 ドアには釘が打ち付けられていて、入れないようになっていた。

「これは?」とジェル。

「最近、出没する魔物は――――白い人狼だ。簡単に入れないように、長い時間の留守の時は釘でドアを打ち付けるのさ」

 その言葉に、とんでもない場所に来てしまったと再確認するジェルだった。  

  
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