上 下
46 / 144

シズクの目標

しおりを挟む
 それは純粋な疑問だった。 

 その言葉に悪意はない。あるはずもない。

「君は……巨大な力を得て何がしたいんだ?」 

 だが、そこ言葉を発した後、ジェルから湧き出たものは後悔だった。

 空気がヒリつく。

 シズクが纏った感情は怒気……いや、違う。

 怒気を間違うほどに圧倒的な熱量――――より正確には熱意だった。

「私の目的は――――」と言いかけて彼女は視線を空に向ける。

「一言で説明するのは難しい。けど、強いていうならば私を増やすって事だな」

「シズクを増やす? それは種の繁栄って意味かい?」

 ジェルは聞き返しながらも、納得していた。

 種の繁栄。それは生物が持つ本能だ。

 増して、シズクのような特別怪物《エクストラモンスター》……

(今となってみれば、とても怪物として認識できなくなっているシズクに、その言葉を当てはめる事に違和感があるのだけれども……)

 そう思いながら……しかし、そのジェルの考えをシズクは否定した。

「違う、そうじゃないのさ」

「え?」

「種の繁栄じゃない。なんて言うか仲間かな? あの古代魔道具《アーティファクト》みたいな物が存在している以上。同胞……みたいな連中がたくさん隠れているに違いないだろ?」

「あぁ、そうだな。君みたいな連中がたくさんいるなら、人間と魔物も仲良くできるかもしれないな」

「――――」とシズクは目を大きく見開いて驚いていた。それから……

「私は、憧れていたのかもしれないな。人間の仲間ってやつに」

「仲間……」とジェルは悲しそうに微笑んだ。その言葉は、ジェルに取って重い。

「だからかもしれない。あの日、仲間から傷つけられて、置き去りにされたお前を見た瞬間。私は怒った。それから――――お前の仲間になりたいって思った」

「――――っ!?」と今度は、ジェルが驚かされる番だった。

(何か言わなければ)

 ジェルの考えとは裏腹に出てくるのは「――――」と言葉にできない音だけだった。

 そんなジェルをニヤニヤと笑いながらシズクは、

 「さぁて、そろそろ目標が見えて来たぜ。殲滅戦だ、準備はOKか?」

 彼女は空を指す。旋回するワイバーンの群れ。

 周辺は薄暗い。

 なぜなら、空を飛ぶワイバーンたちの影が太陽の光を覆い隠すからだ。

 ワイバーンたちの羽に隠され、隙間から極僅かに空の青が見えている。

 要するに――――

「滅茶苦茶だ」とジェル。

「見た事もない数のワイバーン……本当にやれるのか?」

「やれるさ」とシズクは笑って返す。

「私とお前……2人なら、このくらい余裕って感じだろ?」

「あぁ、分かったよ」とジェル。彼は肩にかけた雑嚢に手を入れる。

 中から取り出したのは本だった。

 一冊の本。当然、ただの本のはずもなく――――

『雷撃上昇の魔導書』

 それは、ジェルが迷宮深くで古代魔道具《アーティファクト》から手にした魔導書。

(剣聖ガチャのハズレではあるけれど……使うなら今がベスト)

 ジェルが本を開く。 黄色い光が中から飛びだして彼の体を覆い始めた。

 その光は雷撃の魔力。 魔導書に書かれた文字は、魔法発動時の詠唱と同等の効果を発揮させる。 
   
「行くぜジェル! その魔力を私に寄越せ!」

 まず、最初にシズクが発動した魔法は『フライト』

 ジェルも習得している飛翔魔法を使用して、天空を舞うワイバーンの位置まで飛翔していく。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

神を助けて異世界へ〜自重知らずの転生ライフ〜

MINAMI
ファンタジー
主人公は通り魔に刺されそうな女の子を助けた 「はじめまして、海神の息子様。私は地球神ティエラです。残念ながら貴方はなくなりました。」 「……や、知ってますけど…」 これは無駄死にした主人公が異世界転生してチートで無双するというテンプレな話です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...