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冒険者を蹴散らした

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 地面に倒れたラカン。 彼よりも上の冒険者となれば……

 自然と視線はリンカーに向けられる。

「え? あっしですか!? 無理無理無理!」と首を激しく左右に振る。

 この老人の評価はラカンよりも高い。

 レオがいなくなった今、実質的なトップと言える。

 しかし、彼は魔法使い。 ラカンのように武術的な力ではなく、超威力の魔法を連射させる強さ。

 それは、決して対人戦闘能力と結びつくわけではない。

 リンカーが対戦を拒否した事で、誰もシズクと戦う者はいなくなった。

 間違いなく、この場にいる誰よりも彼女が強い。 そう認めざる得ない状況になったが、それすら彼女は満足しなかった。

「次は? 誰もいないのか? それじゃ――――全員でもいいぜ?」


 シズクの言葉に「――――」と冒険者たちは口を閉ざして沈黙した。

 その直後だった。

「――――ふ、ふざけるな!」

 誰かが叫ぶと周辺の冒険者たちも、同調する声を上げる。

 彼らは本気だった。 本気で、集団でシズク1人に襲い掛かろうとしている。

 殺気と罵倒を一身に受けるシズクだったが、彼女は――――

(やはり、わかりやすい。彼女が言っていた通りだ)

 シズクが思い出していたの冒険者ギルド受付嬢の言葉だった。

(冒険者は善くも悪くも正直か。要するに子供……いや、その本質は私たち魔物に近い。ならば――――)

「かかってこいよ、冒険者ども。誰が強者で、誰が弱者かわからせてやるからな」

 その言葉で十分だった。 ギリギリまで堪えていた感情が爆発する。

 暴徒と化した冒険者たちが手にしたのは、自らの腰に帯びた剣。

 刃引きした物ではなく、文字通りの真剣。

 それを持ってシズクに――――

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「そ、それを全員やっつけたのか?」

「おう、誉めてくれても良いんだぜ?」 

 事の顛末を聞いたジェルは天井を見上げた。

 この町の冒険者全員と戦い、勝った。

「無茶苦茶過ぎで、これからどうなる想像もできないや」

「けど、この町のボスが誰か、心に刻み付けてきたぞ」

「……念のために聞くけど、誰も殺してないよね?」

「もちろんだ。念のために倒れた連中に治癒魔法をかけて帰ってきたわ」

 自信満々で行われたシズクの勝利報告。

 最初は困惑していたジェルだったが……

(シズクの行動は正体がバレる危険性をわかっていてやったことだ。それほどまで冒険者になる事に拘っているって事なんだろう)

「よし! 気を取り直して、明日からは本格的にギルドで依頼をこなしていこう」

「いいぜ? こんだけ、コテンパンにしてやったんだ。明日のギルドは、がら空きで依頼を選びたい放題だ」

「――――」

「ん? なんだよ、ジェル。そんなに見つめて?」

「もしかして、それも計算してた?」

「嫌だなぁ、そんなわけ……少しはあるんだけどね」  
  
  
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