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 満月の夜に

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「さて、どうするか……」

 ジェルは力なく呟いた。

 理屈はわかる。 

 シズクは、古代魔道具の力によって、高い知能を手に入れた。
 姿も人間と言うより、エルフのような神秘的な美しさまで有している。

 それほどの特別な力があると知って、地図という手がかりもある。

 だから、シズクは世界を旅して迷宮に潜る。

 そして、手下にしたゴブリンの軍勢で古代魔道具の捜索を繰り返してきた。

 しかし、この手段には限界がある。 なぜなら────
 
「いくら古代魔道具そのものを発見しても、人の金がないと意味がない」

「金を稼ぐために冒険者になりたいのか!」

 そうジェルは語尾を強めた。

「無謀だ。魔物が人のふりをして冒険者になる? そいつは、危険過ぎる」

 だが、シズクはこう言い返すのだ。

「危険は承知さ。けど、そんな危険を冒してでも得られる物は、大きいだろ?」
 
「……」とそれについては無言で同意するしかなかった。

 だからジェルは

「わかったよ。その考えは立派な冒険者の信念そのものだからな」
 
 そんなやり取りを交わしたのだったが1つ大きな問題がある。

(シズクが冒険者になるって事は町に戻る事だ。気が重いなぁ……)

 緊急事態とは言え、自分を迷宮に置き去りにした冒険者仲間たち。レオたちと顔を合わせないいけない。

 (どんな顔して再開すればいい?)

 もちろん────

『彼らを恨んでないのか?』

 そう問われて、「恨みはない」と答えるほど聖人君子ではない。
 
 けれども────

『復讐をしたいか?』

 そう問われて「是非に」と答えるのも違和感があった。

 ジェルは、そう考えるが……

 それは、さておき町に戻る事は優先すべきことだ。

 ジェルにだって町での生活がある。

 夜

 目立たないよう、シズクを連れて町に入る。

 慣れているはずの道が普段違うように感じる。

 それは、隣にシズクが歩いているからか?

 バレてはならないと緊張感……いや、どうやらそれだけではないようだ。

 しかし、その感情がなにか? 

 ジェルは沸き上がる奇妙な感情に名前をつけれずにいた。
 
 そんな時だった。

 かつての仲間、シオンの後ろ姿を見たのは

 「シズク、少し待ってくれ」

 そう言って1人、シオンの後を追う。

 斥候として気配を殺す術を身につけている。

 (それでも、シオンは気づいているだろう)

 誰が後ろにいる。 偶然、向かう道が同じ?
 
 いや、違う。 自由に歩いているならば歩幅の乱れは生じない。

 そこまでわかるはずだ。 

 日常が戦場であり、日常が鍛練。 

 シオンはそういう女性だから……

 ジェルは不意に見上げる。

 夜空には星。そして巨大な満月があった。


 月には人を狂わせる魔力がある。

 果たして彼は気づいているのか? 気付き、それでも知らないふりをしているのか?

 ジェルが腰に帯びた妖刀。

 それが不気味に薄紫の光を発していることに────


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