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第34話 宴!(第一部完)

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 狩りを終えた俺は、戦利品を見せびらかすように掲げながら、冒険者ギルドへ向かった。

 今日は特別な日だ。大量の獲物を持ち帰ることができたのはもちろん、ダンジョンという死線で、特別な依頼を達成することができたのだから、祝う権利はもちろんある。

「というわけで宴を行いたい。ギルドの鍛錬場を貸してほしい」
 
「……正気かい?」

 リリティは俺の言葉に呆れていた。

「冒険者が鍛錬を、そう簡単に飲食の場に貸した出す事は――――」

「ちなみに、こちらは高級牛肉も出す準備はしている」

「――――ちなみに参加者に私は入っているかい?」

「無論!」

 それを聞いたリリティは机から紙を取り出した。

『鍛錬場使用許可書』

 そう書かれた紙に彼女は、大きなハンコを押して――――

「はい、許可!」

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・
 
  鍛錬場には既に大きな焚き火が用意している。

 「ここが火気厳禁か、どうかは知らないけど……まぁ、魔法使いも火魔法を使うくらいだから問題ないだろう!」

 火の周りに机と椅子を並べる。 

 宴――――すなわち、肉を食らい、酒を飲み、祝い事を祝う。

 つまり、BBQバーべーキューだ!

 今夜の準備は万端だ。持ち帰った鹿、猪、鳥の肉を手際よく準備していこうじゃないか。

 まずは鹿肉から取り掛かる。鹿肉は筋が少なく、柔らかい赤身が特徴だ。そのまま焼いても美味しいが、今回は特製のマリネ液を用意した。

 マリネ液とはなんぞな? 

 要するに肉を柔らかく、風味を増してくれる調味料と思ってくれ。

 ほら、肉をワインに浸して柔らかくする調理法があるだろ? この場合だとワインがマリネ液となる。

「さて、俺の場合は――――」と

 ローズマリー、タイム、バジル、オレガノ、パプリカ……ハーブやスパイスを用意している。

 そして少量のオリーブオイルを混ぜ合わせ、肉にしっかりと塗り込む

「次に猪肉だ」

 猪肉は風味が強く、噛むほどに旨味が広がる。

「今回は、味付けはシンプルで勝負だ」

 塩と胡椒で味付けし、じっくりと焼くのが一番だ。

 塩は粗塩を使い、胡椒は挽きたてを使うことで、香りが一層引き立つ。肉の表面に塩と胡椒をまぶし、少し寝かせて味を染み込ませる。

 鳥肉は、串焼きだ。

「みんな大好きだろ? 焼き鳥!」

 鶏肉の柔らかい部分を一口大に切り分け、竹串に刺していく。

 塩と胡椒でシンプルに味付けし、焚き火で焼くことで外はカリッと、中はジューシーに仕上がる。

「どんな感じですか?」と声をかけられ作業を止める。

 声の主は受付嬢さんだった。

「もう、始めようと思えば、始めれますよ」

 見渡せば、アリッサやサトル……木の影に隠れてチラチラと様子を窺っているのはリリティだろう。

「既に全員集合か? 流石に、ハンニバルは来ないみたいだな」  

 持ち帰った鹿、猪、鳥の肉を手際よく準備を終えた。

「何か手伝う事はありますか?」と受付嬢さん。

「あっ! 私も手伝います!」とアリッサも駆けつけてきた。

「それじゃ頼むよ。 2人共、そっちの鹿肉をもっと薄く切ってくれ。焼きやすくするためにさ」

 俺は手本を見せるように、鹿肉を手に取り、ナイフを使って丁寧にスライスする。

 厚さを均一にすることで、焼いた時にちょうどいい食感になるのだ。俺たち冒険者に取って必要な事は――――

 ① 戦闘技術

 ② 狩猟技術

 ③ 調理技術

 俺はそう思っている。そう思って、戦闘や狩りの技術だけでなく料理の技術も磨いてきた。

 冒険者にとって、食事は大切なエネルギー源だからね!

「サトル、猪の方はどうだ?」

「バッチリだよ! あとは焼くだけだね」

 猪肉も適切な厚さにスライスし、鳥肉は串に刺して焚き火の周りに並べる。

 焚き火がぱちぱちと音を立て、焼き上がる肉の香ばしい匂いが漂う

 食欲をそそるこの香りは、冒険の疲れを癒し、俺たちの心を和ませてくれるのだ。

 肉の中にまで火が通り、赤色が消えていく。  つまり、完成というわけだ。

「まずは俺が……」

 鹿肉は焼けた表面がこんがりと焦げ目をつけ、肉汁が滴る。

 口に運ぶ。最初の印象は、とにかく柔らかさ……いや、柔らかさの中に確かな弾力も存在していた。

 次に、淡白でありながらもしっかりとした旨味の訪れだ。
 
 俺は満足そうに頷いた。

 「控えめにいって……最高だ!」

 「さぁ、みんなも――――」と言い終えるよりも早く、みんなは食べ始めた。


 アリッサは猪の串焼きを手に取り、その香ばしい香りに思わず顔をほころばせた。

「これは絶品ね、ユウキ。スパイスの加減がちょうどいいわ」

 彼女の目は輝いていた。

 貴族出身のアリッサ。きっと家に専属の料理人がいて、その舌は確かな物だろう。

 そんな彼女を唸らせるような出来。 思わず、俺は心中でガッツポーズを披露した。
 

 サトルは焼き鳥を手に取り、その香ばしい匂いに鼻を鳴らした。

 「俺、鳥が大好物なんだよな!」と、串から一口大の肉を外して口に放り込む。

 まぁ、食べ方は自由なので……と思ってら、彼(もしくは彼女)の姉である受付嬢さんからマナーを咎められていた。

「コラ! 口の中に投げ込むように食べないの!」  
 
「えぇ! だって!」

 そんな家族のやりとり。少しだけ、転生前の生活を俺に思い出させてくれたのだった。

 そんな受付嬢は、焼き上がった猪のスペアリブを手に取り、その大きさに目を見開いた。

 「すごいわ。 こんなに大きいなんて……」と驚きの声。恍惚とした表情を見せながら――――

 一口かじる。

「柔らかい! 骨から肉がほろりと外れ、口の中でとろけるような味わいが広がっていく」

 彼女も大満足のようだ。

 みんなの食べてる様子を見ていると、クイクイと袖を引っ張られた。

「ん?」と見れば、袖を握っているのはリリティだった。

「どうした、リリティ? てっきり、サトルの悪戯かと思うところだったぞ」

 だが、彼女が見に纏っている感情は怒気。 何か空気が歪んで見えるくらいの強烈な感情だった。

「――――まさか、約束を違えるつもりじゃないでしょうね?」

 何の事だ? 何か怒らせるような真似をしたのか?

 そんな恐怖にも、怯えにも似た感情が芽生え始めた時に理解した。

「あぁ例のブツか。 これは秘密だぞ、みんなに分からないように隠れて焼いて食べろよ」

「ふっふっふ……これを待っていたのよ」

 手渡した袋の中身を確認した彼女は――――

「コイツは極上のブツだわ」とだけ言い残して、周囲を警戒しながら離れて行った。

 まるでご禁制品の取引のように見えるかもしれないが……約束していた高級牛肉を渡しただけだ。
 
 まぁ、全員分の牛肉を用意をしているのは、まだ彼女には秘密だぜ。
 
 そして皆がそれぞれの肉を楽しんでいる間に、俺たちは次々と焼き上げていく。

 鹿肉、猪肉、鳥肉、それぞれが異なる風味を持ち、仲間たちの笑顔が絶えない。

「ちなみに酒の用意もある」

 前世なら、サトルもアリッサも未成年の年頃になるはずだ(この世界、見た目は年齢を推測するのにあてにならないが)。

 けれども、この世界には年齢によって飲酒を禁止する法律はない。 
 
 まぁ、あまり良くない事とはされているので2人には酒を出さないようにしている。

  木製のマグカップ。まるで小さな酒樽のようなコップにエール(ビールの事だ)を注いだ。

 転生する前の俺はビールが苦手だった。 あの苦味がダメだったのだ。 

 だが、今は平気だ。

 体が変わったことで味覚にも変化があっただろう……そう思っていたが、違った。

 この時代のビールには苦味を加えるホップという植物が使われてないだけだった。

 ついでに、何か甘い。

 ビールの樽から注がれたエールを手に取り、

「「「乾杯」」」

 ちなみに未成年組には、甘めの果実から作られたジュースを用意した。

 肉を食べながら、エールを口に運ぶと――――

「これは極上だぜ…… なんて言うか、生きてるってのが実感される」

 焚き火の温かさと肉の香ばしさに包まれた中庭で、俺たちは笑い合い、語り合いながら――――気がつけば、星空。

 夜の焚火は、不思議と非日常が演出され、楽しい夜を過ごした。

 冒険の疲れも忘れ、最高の仲間たちと共に、美味しい料理と時間を堪能する夜だった。

 その夜、俺は満たされた気持ちで眠りに就いた。

 明日からは新たな冒険が待っているに違いない。

 だが、どんな困難が待ち受けていようとも、乗り越えられると俺は信じている。次の冒険の準備を整え、心を新たにして前へ進むのだ! 

 そして、いつの通り、この冒険者ギルドに戻り、また同じように仲間たちと宴を開ける日を楽しみにしている。

 その時は、もっと大きな戦利品を持ち帰り、もっと盛大な宴を開こうじゃないか!

 そう心に誓いながら、俺は深い眠りに落ちていった。

 それがまさか――――あんな事になろうなんて、この時の俺は知るよりもなかったのだった。 

 第一部完
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