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第30話 ダンジョン探索をしよう! ⑧
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金色の髪は長く、腰の辺りでユラユラと揺れている。
性別は不明。 顔からは男女の判断がつかない。
ただ、彫刻のように美しく、麗人と言う言葉が良く似合ってる。
ダンジョンでありながら、身に付けている物は装備と言えない黒いケープのみ。
つまり――――異常な存在だ。
「何者だ? ……いや、魔族なのはわかるよ。俺が言いたいのは、つまり……おたく悪い事しようとしてない?」
相手は正体と目的が不明な魔族だ。 俺は言葉選びを悩みながら、聞いた。
魔族は、キョトンとしている。
だろうな、どう考えても戦闘が始まる雰囲気だったからな。
だが、
「知り合いだ」と意外な方向から援護が来た。それはハンニバルの言葉だった。
「コイツの名前は、ノヴァ。魔族側のスキル研究者で、意見交換を何度か交わした事がある」
「うん、久しいねハンニバル」とノヴァと呼ばれた魔族は、片手を上げて挨拶をしていた。
まるで人間が行う挨拶と同じ動きで違和感がない。 どれほど、人間の文化に精通すれば、そうなるのだろうか?
「少し、老けたかい? 健康には気を付けないといけないよ。人間の寿命は短いのだから」
「お前は老けないな」とハンニバルは苦笑しているように見えた。
「だが、こちらも言わせてもらうと……こんな危険な場所に来たらダメだ。 ダンジョンは人間の領域だぞ」
ダンジョンは人間の領域である。 知識の高いモンスターが消えば驚きの発言かも知れない。
だが、事実である。 魔王と勇者の戦い――――それを俺自身が語るには若干の抵抗はある。
結果だけ述べると、俺の手によって魔王は討ち取られた。 首席を失った魔族は魔界の統治維持と発展を目標にして、内に、内に……領土拡大を諦めてる。
「そんなものは、研究の邪魔だ。 お前にもわかるだろう?」
そう言って、ノヴァは微笑んだ。 同族に向けるような慈愛が含まれているのは気のせいではないだろう。
だが、ハンニバルは否定した。
「少し前なら同調していただろう。だが、今のお前は俺の邪魔だ」
構えと取る……
「……いや、待て。お前、戦うつもりか!」
俺の知る限り、ハンニバルに戦闘能力はない。 それなのに、なぜ前に出る?
「うむ、隠していた事がある。こんな事もあろうかと、戦う準備をしていたのだよ」
「準備ってあれ? あの体力作りの健康運動みたいな……」
「ふふふっ、あれはジョークだよ。研究者ジョークだ」
そう言うと、空の手をノヴァに向ける。 いや、いつの間にか、なにかを握っていた。
木箱? 片手で掴んで持てるようなサイズ。
いったい、いつの間に……いや、俺が気づかない動作などあり得ない。
ならば、『スキル』を使ったのだ。
「研究者とは過去の失敗から学ぶ者。 今の俺は魔物使い見習いなのだ」
「はぁ?」
『魔物使い』とは職業である。 モンスターに命令して戦闘をさせる者。
職業なのだから、やろうと思えば誰でもなれる。
極端な話、剣術道場に通い始めた者が初日で「俺は剣士だ!」と宣言しても間違いではないだろ?
けれども、ハンニバルが過去の失敗から学んで『魔物使い』になったと言うならば……
「あの木箱の中身……まさか」
「まさかミミックか!」と言い切るよりも早く木箱をノヴァに投げつけた。
ハンニバルのミミックはスキルを持っている。 『収集空間《アイテムボックス》』のスキル。
従来、アイテムを保存しておくためためだけスキルである。
しかし、ミミックの認識では、人間を含めた生物は食べ物のジャンル。
そのため、本来は収集できないはずの生物を『収集空間』に問答無用で閉じ込める。
『絶対封印』のスキルに変化している。
それに対して、ノヴァはケープからナイフと取り出した。
小さなナイフだった。 しかし――――
「このナイフには『会心の一撃』を付与している」
ただ、宙に向かってナイフを2度振っただけ。 まるで武器を操る技として洗礼されておらず、タイミングも、距離感も、的外れ……そう俺の目には見えた。
しかし、結果としてナイフはミミックが入った小箱を空中で切り払い、そのスキル『絶対封印』を発動すらさせなかった。
「相変わらず物に『スキル』を付加させるのが得意だな」
「あぁ、おかげさまで。今じゃダンジョンにスキルを付与させることができるくらいだ」
やはり、そうなのか。 このダンジョンに奇妙な事があるのは、この魔族ノヴァがダンジョンそのものに『スキル』を付与させる荒業を行ったからか!
「貴様ら愚かな人間共が、我が実験の礎になることを感謝するがよい! どうだった? 我がスキル『モンスターの知力+3ゾーン』の効果は!」
「……いや、今のなんて言った?」
しかし、俺の声は聞こえなかったようだ。 それほどにハンニバルとノヴァは互いの存在に熱中している。
「やるな。だが、私のミミックは二段構え! 死亡した事でスキル『絶対封印』の解除による特殊召喚だ」
ミミックの死体からガラスが割れるような音が響いた。
現れたのはキマイラだ。 尾は蛇。肉体に獅子でありながら山羊の頭部を兼ね持っている。
「注意しろよ」とハンニバル。
「あいにく、そいつの調教を終わっていない。と言うか見習いの俺には制御不能だ」
「そんな物を特殊召喚するな」とノヴァは当たり前の事を言った。
どうやら、旧友同士での戦い。
魔物使いにジョブチェンジしたハンニバルと魔族のノヴァの戦いはしばらく続きそうだ。
性別は不明。 顔からは男女の判断がつかない。
ただ、彫刻のように美しく、麗人と言う言葉が良く似合ってる。
ダンジョンでありながら、身に付けている物は装備と言えない黒いケープのみ。
つまり――――異常な存在だ。
「何者だ? ……いや、魔族なのはわかるよ。俺が言いたいのは、つまり……おたく悪い事しようとしてない?」
相手は正体と目的が不明な魔族だ。 俺は言葉選びを悩みながら、聞いた。
魔族は、キョトンとしている。
だろうな、どう考えても戦闘が始まる雰囲気だったからな。
だが、
「知り合いだ」と意外な方向から援護が来た。それはハンニバルの言葉だった。
「コイツの名前は、ノヴァ。魔族側のスキル研究者で、意見交換を何度か交わした事がある」
「うん、久しいねハンニバル」とノヴァと呼ばれた魔族は、片手を上げて挨拶をしていた。
まるで人間が行う挨拶と同じ動きで違和感がない。 どれほど、人間の文化に精通すれば、そうなるのだろうか?
「少し、老けたかい? 健康には気を付けないといけないよ。人間の寿命は短いのだから」
「お前は老けないな」とハンニバルは苦笑しているように見えた。
「だが、こちらも言わせてもらうと……こんな危険な場所に来たらダメだ。 ダンジョンは人間の領域だぞ」
ダンジョンは人間の領域である。 知識の高いモンスターが消えば驚きの発言かも知れない。
だが、事実である。 魔王と勇者の戦い――――それを俺自身が語るには若干の抵抗はある。
結果だけ述べると、俺の手によって魔王は討ち取られた。 首席を失った魔族は魔界の統治維持と発展を目標にして、内に、内に……領土拡大を諦めてる。
「そんなものは、研究の邪魔だ。 お前にもわかるだろう?」
そう言って、ノヴァは微笑んだ。 同族に向けるような慈愛が含まれているのは気のせいではないだろう。
だが、ハンニバルは否定した。
「少し前なら同調していただろう。だが、今のお前は俺の邪魔だ」
構えと取る……
「……いや、待て。お前、戦うつもりか!」
俺の知る限り、ハンニバルに戦闘能力はない。 それなのに、なぜ前に出る?
「うむ、隠していた事がある。こんな事もあろうかと、戦う準備をしていたのだよ」
「準備ってあれ? あの体力作りの健康運動みたいな……」
「ふふふっ、あれはジョークだよ。研究者ジョークだ」
そう言うと、空の手をノヴァに向ける。 いや、いつの間にか、なにかを握っていた。
木箱? 片手で掴んで持てるようなサイズ。
いったい、いつの間に……いや、俺が気づかない動作などあり得ない。
ならば、『スキル』を使ったのだ。
「研究者とは過去の失敗から学ぶ者。 今の俺は魔物使い見習いなのだ」
「はぁ?」
『魔物使い』とは職業である。 モンスターに命令して戦闘をさせる者。
職業なのだから、やろうと思えば誰でもなれる。
極端な話、剣術道場に通い始めた者が初日で「俺は剣士だ!」と宣言しても間違いではないだろ?
けれども、ハンニバルが過去の失敗から学んで『魔物使い』になったと言うならば……
「あの木箱の中身……まさか」
「まさかミミックか!」と言い切るよりも早く木箱をノヴァに投げつけた。
ハンニバルのミミックはスキルを持っている。 『収集空間《アイテムボックス》』のスキル。
従来、アイテムを保存しておくためためだけスキルである。
しかし、ミミックの認識では、人間を含めた生物は食べ物のジャンル。
そのため、本来は収集できないはずの生物を『収集空間』に問答無用で閉じ込める。
『絶対封印』のスキルに変化している。
それに対して、ノヴァはケープからナイフと取り出した。
小さなナイフだった。 しかし――――
「このナイフには『会心の一撃』を付与している」
ただ、宙に向かってナイフを2度振っただけ。 まるで武器を操る技として洗礼されておらず、タイミングも、距離感も、的外れ……そう俺の目には見えた。
しかし、結果としてナイフはミミックが入った小箱を空中で切り払い、そのスキル『絶対封印』を発動すらさせなかった。
「相変わらず物に『スキル』を付加させるのが得意だな」
「あぁ、おかげさまで。今じゃダンジョンにスキルを付与させることができるくらいだ」
やはり、そうなのか。 このダンジョンに奇妙な事があるのは、この魔族ノヴァがダンジョンそのものに『スキル』を付与させる荒業を行ったからか!
「貴様ら愚かな人間共が、我が実験の礎になることを感謝するがよい! どうだった? 我がスキル『モンスターの知力+3ゾーン』の効果は!」
「……いや、今のなんて言った?」
しかし、俺の声は聞こえなかったようだ。 それほどにハンニバルとノヴァは互いの存在に熱中している。
「やるな。だが、私のミミックは二段構え! 死亡した事でスキル『絶対封印』の解除による特殊召喚だ」
ミミックの死体からガラスが割れるような音が響いた。
現れたのはキマイラだ。 尾は蛇。肉体に獅子でありながら山羊の頭部を兼ね持っている。
「注意しろよ」とハンニバル。
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