上 下
30 / 34

第30話 ダンジョン探索をしよう! ⑧

しおりを挟む
 金色の髪は長く、腰の辺りでユラユラと揺れている。

 性別は不明。 顔からは男女の判断がつかない。 

 ただ、彫刻のように美しく、麗人と言う言葉が良く似合ってる。

 ダンジョンでありながら、身に付けている物は装備と言えない黒いケープのみ。

 つまり――――異常な存在だ。

「何者だ? ……いや、魔族なのはわかるよ。俺が言いたいのは、つまり……おたく悪い事しようとしてない?」

 相手は正体と目的が不明な魔族だ。 俺は言葉選びを悩みながら、聞いた。

 魔族は、キョトンとしている。 

 だろうな、どう考えても戦闘が始まる雰囲気だったからな。

 だが、

 「知り合いだ」と意外な方向から援護が来た。それはハンニバルの言葉だった。

「コイツの名前は、ノヴァ。魔族側のスキル研究者で、意見交換を何度か交わした事がある」

「うん、久しいねハンニバル」とノヴァと呼ばれた魔族は、片手を上げて挨拶をしていた。

 まるで人間が行う挨拶と同じ動きで違和感がない。 どれほど、人間の文化に精通すれば、そうなるのだろうか?

「少し、老けたかい? 健康には気を付けないといけないよ。人間の寿命は短いのだから」

「お前は老けないな」とハンニバルは苦笑しているように見えた。

「だが、こちらも言わせてもらうと……こんな危険な場所に来たらダメだ。 ダンジョンは人間の領域だぞ」

 ダンジョンは人間の領域である。 知識の高いモンスターが消えば驚きの発言かも知れない。

 だが、事実である。 魔王と勇者の戦い――――それを俺自身が語るには若干の抵抗はある。

 結果だけ述べると、俺の手によって魔王は討ち取られた。 首席を失った魔族は魔界の統治維持と発展を目標にして、内に、内に……領土拡大を諦めてる。

「そんなものは、研究の邪魔だ。 お前にもわかるだろう?」

 そう言って、ノヴァは微笑んだ。 同族に向けるような慈愛が含まれているのは気のせいではないだろう。 

 だが、ハンニバルは否定した。 

「少し前なら同調していただろう。だが、今のお前は俺の邪魔だ」 

 構えと取る……

「……いや、待て。お前、戦うつもりか!」

 俺の知る限り、ハンニバルに戦闘能力はない。  それなのに、なぜ前に出る?

「うむ、隠していた事がある。こんな事もあろうかと、戦う準備をしていたのだよ」

「準備ってあれ? あの体力作りの健康運動みたいな……」

「ふふふっ、あれはジョークだよ。研究者ジョークだ」

 そう言うと、空の手をノヴァに向ける。 いや、いつの間にか、なにかを握っていた。

 木箱? 片手で掴んで持てるようなサイズ。 

 いったい、いつの間に……いや、俺が気づかない動作などあり得ない。

 ならば、『スキル』を使ったのだ。

「研究者とは過去の失敗から学ぶ者。 今の俺は魔物使い見習いなのだ」

「はぁ?」

『魔物使い』とは職業である。  モンスターに命令して戦闘をさせる者。

 職業なのだから、やろうと思えば誰でもなれる。

 極端な話、剣術道場に通い始めた者が初日で「俺は剣士だ!」と宣言しても間違いではないだろ?

 けれども、ハンニバルが過去の失敗から学んで『魔物使い』になったと言うならば……

「あの木箱の中身……まさか」

「まさかミミックか!」と言い切るよりも早く木箱をノヴァに投げつけた。

ハンニバルのミミックはスキルを持っている。 『収集空間《アイテムボックス》』のスキル。

 従来、アイテムを保存しておくためためだけスキルである。

 しかし、ミミックの認識では、人間を含めた生物は食べ物のジャンル。
 そのため、本来は収集できないはずの生物を『収集空間』に問答無用で閉じ込める。

『絶対封印』のスキルに変化している。

 それに対して、ノヴァはケープからナイフと取り出した。

 小さなナイフだった。 しかし――――

「このナイフには『会心の一撃クリティカル率増加』を付与している」 

 ただ、宙に向かってナイフを2度振っただけ。  まるで武器を操る技として洗礼されておらず、タイミングも、距離感も、的外れ……そう俺の目には見えた。

 しかし、結果としてナイフはミミックが入った小箱を空中で切り払い、そのスキル『絶対封印』を発動すらさせなかった。

「相変わらず物に『スキル』を付加させるのが得意だな」

「あぁ、おかげさまで。今じゃダンジョンにスキルを付与させることができるくらいだ」

 やはり、そうなのか。 このダンジョンに奇妙な事があるのは、この魔族ノヴァがダンジョンそのものに『スキル』を付与させる荒業を行ったからか!

「貴様ら愚かな人間共が、我が実験の礎になることを感謝するがよい! どうだった? 我がスキル『モンスターの知力+3ゾーン』の効果は!」

「……いや、今のなんて言った?」

 しかし、俺の声は聞こえなかったようだ。 それほどにハンニバルとノヴァは互いの存在に熱中している。

「やるな。だが、私のミミックは二段構え! 死亡した事でスキル『絶対封印』の解除による特殊召喚だ」

 ミミックの死体からガラスが割れるような音が響いた。

 現れたのはキマイラだ。 尾は蛇。肉体に獅子でありながら山羊の頭部を兼ね持っている。

「注意しろよ」とハンニバル。

「あいにく、そいつの調教を終わっていない。と言うか見習いの俺には制御不能だ」

「そんな物を特殊召喚するな」とノヴァは当たり前の事を言った。

 どうやら、旧友同士での戦い。

 魔物使いにジョブチェンジしたハンニバルと魔族のノヴァの戦いはしばらく続きそうだ。 
   
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...