転生勇者のマイルド冒険者ライフ〜趣味ときどき異能バトル!?~

チョーカ-

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第15話 チキチキ冒険者昇格試験

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 冒険者ギルドは活気に溢れていた。 

 テーブルのあちらこちらでは、仲間たちが集まり騒いでいる。

 ワイワイと楽しそうな話題の中心といえば……  

「おい、聞いたか?」

「あぁ、スキルの件だろ? お前だったら、何のスキルが欲しい?」

「もちろん、戦闘系スキルよ! 大幅に戦闘能力が向上すれば、冒険者ランクも1級まで……いや、夢の特級冒険者も夢じゃないぜ!」

「あら、戦闘系だけじゃなくて、補助スキルも視野に入れるべきよ。魔法じゃ再現できないスキルもいいわね」

「剣が得意な魔法使い、魔法が得意な剣士。魔法剣士みたいな難しい職業も簡単になれるスっよ! 少なくとも弱くなる事はなし!」

「フッ、甘いな、お前たち! 俺が望むスキルは、そのものズバリ……『全知全能』だぁ!」

「なにが『全知全能』よ。神話クラスどころか神話そのものじゃない。 それじゃ、私は『神殺し』のスキルを習得してあげる」

「お、俺への殺意が強い! なんでいつも!」

「「「鈍感な奴!」」」

「オ、オデ! 催眠スキルは欲しいでオ! ソレで、ソレで、モテモテになるでお!」

「「「誰だ、おまえ!」」」 

 ……なんて、にぎやかな限りだ。 ともあれ、『スキル』の神秘。

 それがハンニバルの功績というべきか…… ある程度、秘密が解き明かされ来た。

 事実として、彼はモンスターに対して『収集空間』や『経験値1000倍』を付与させることに成功していた。

 もう実験の最終段階と言えるだろう。誰でも『スキル』が使える時代が来たのだ。

 とは言え、安全を保障する検証実験などなどを考慮するとしたら、実用まで2~3年といったところだろうか?

 それでも、夢のある話に違いはない。だから夢を見る連中が増加傾向になっている。
 
 要するに、新人冒険者の大幅増加現象だ。

「うわぁ、渋滞しているな。見ない顔も連中も多い、新人ばかりだ」

 なんて、偉そうに言う俺も新人冒険者の枠ではある。

「こんなデキる男感を振りまいている新人がいるか!」

 ……って突っ込まれそうではあるが、事実として俺は新人冒険者。

 まだ、冒険者になって半年も経過していない。選べる依頼にも制限があったりするのだ。
 
 普通の新人冒険者がギルドに来てやることやる事は決まっている。

 掲示板に貼られた依頼書から選んだ依頼を受容するだけ。しかし――――

『ゴブリン退治』

『ダンジョン探索』 

『商人護衛』

「見事に新人が『冒険者になったら、これをやってみたい!』って憧れの依頼から消えていっているなぁ。これ、俺が受けれる仕事は残っていないんじゃ……」

 残り物に福があるなんて言うけれども、俺が掲示板の前にたどり着いた頃には新人向けの依頼は消えていた。

「これは困ったな。 ここ数日間、まともに働けていないぞ」 

 冒険者が依頼を受けれないってのは文字通りの死活問題。

 いや、俺は前職で得た資産によって金銭的余裕のある立場ではあるが……

 ちょっとした刺激を求めて冒険者になったんだ。 金が問題じゃないんだよな、金じゃ……

「ん~ 受けて見るか昇格試験ってやつを……」

 俺の冒険者ランクは最底辺である5級冒険者だ。

 昇格試験を受ければ4級、3級と新人向けではない依頼も受けれる。

 チラッと壁に貼られた昇格試験のチラシを見た。

「おやおや、ユウキさん。昇格試験にご興味が?」

 振り返れば、受付嬢さんは眼鏡を輝かせていた。 

 なるほど、冒険者の階級が上がれば冒険者ギルドにも利益が生じるのか。それはつまり、受付嬢さんへの評価も上がるってことだ。

「いえ、冒険者の昇格試験はギルド職員にとって娯楽のようなものなので」

「違った! 俺たちの事を娯楽として見てるだけだ、この人!」

 デスゲームの運営側かよ! というか、自然に俺の心を読んでなかったか、この人? 
  
「ひ、人聞きが悪いですよ。 地域によっては、過酷な試験はありますが、うちのギルドは安全です! 安全のはずです……」

「そこで言い淀むと、本当に、ヤバい感じになっちゃうだろ」

 俺は1人で少しだけ悩んだ。

「本当に死者が出るほど厳しいんだ……ん~」

 冒険者ギルドの試験って、進学や就職の面接みたいで苦手なんだよな。

 ほら、一流企業の面接って

 『富士山を動かすのにどうしますか?』

 みたいな変な問題が出てくるだろ? それを体で動かしながら答えるイメージなんだよな、冒険者の昇格試験って。 

 いや、超一流企業の入社試験なら良いんだよ。マイクロ○フトとか、アッ○ルとか、○ーグルとか……

 でもなぁ、日本のブラック企業が面接で真似すんじゃねぇ! 

 ……おっと、前世の嫌な記憶が甦ってきた。自重しなければ。
 
「まぁ、一応は受けて見るか。一番試験が近い日にちは……」

「今日ですね」と受付嬢さんはニッコリと答えてくれた。 

「今日!? 流石に準備も何もしていないので無理じゃないかな」

「大丈夫です! 4級への昇格試験ですよ? そんなに難しくありません!」

 受付嬢さんの気迫には凄まじい物を感じた俺は、促されるままに昇格試験を受ける事になった

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「なんだこりゃ?」

 試験会場は、ギルドの裏にある鍛練場だった。 しかし……

「どういうことだ? 確かに昨日までは鍛練場だったはずなんだが…… 土で城が作られている」

 土の城。

 城って言うと王様が住んでるような王城を思い浮かべる人が多いだろう。

 しかし、戦場で20~30人程度が寝泊まりするような拠点。これも城である。

 ギルド裏に1日で誕生した城は、当然ながら後者のサイズ感だ。

 公園にありそうな子供向き遊具の城よりもちょっと大きいくらい……そう表現したら分かりやすいだろうか?

  俺は、ペタペタと直接触れて確かめると気づいたことがあった。

「魔力の痕跡が残ってる。あぁ、土を操る魔法を使って作ったのか。そりゃ、さすがに人力で1日じゃ作れないか」

 この世界じゃ土魔法の使用者は重宝される。その理由がこれだ。

 例えば、戦場で兵士同士がぶつかり合っている近くに拠点となる場所を瞬時に作れるなら、どれほど有利になるか。

 戦場だけではない。 ダンジョン探索の最中だって、モンスターの奇襲を恐れずに眠れる場所が作れるなら、疲労回復に大きな差が生まれるだろう。

「しかし、誰がこんな立派な城を作ったんだ……あれ? この魔力の流れは、1人でつくったわけじゃないのか」

「あんた凄いね! そんなこともわかるんだ」

 急に声をかけられて振り向いたが「――――ッ!」と俺は絶句した。

 声の主は、おそらく少年なのだろう。もしかしたら、少女なのかもしれないが、見た目では判断がつかなかった。

 なぜなら、その若者は土と泥で顔まで汚れていたからだ。

「お前、どうしたんだ……いや、まさか!」と俺はあることを思い付いた。

「まさか、これが冒険者の昇格試験のか?」 

「あぁ、その通りだ。これは昨日の昇格試験の課題だ。参加者は時間制限がある中、全員でこれを作らされたよ」

「おぉ……」と俺は少年の心中を察した。 

 昨日の受験者が、今日もいる。つまり、不合格だっただけだ。

 加えて、昨日の試験で作られた城が、そのまま試験会場に放置されている。

 つまり……

「せっかくなので、この城を壊さずに、翌日の昇格試験でも使いましょう!」

 受付嬢さんの声が脳内で再生された気がした。

 しばらくしていると試験開始の時間になった。

 まずはギルド長であるリリティが最初に姿をみせる。リリティは当然ながら老婆に変装状態だ。 

 彼女《リリティ》に従うように、受付嬢さんも他の同僚たちと現れた。

 それまで騒いでいた冒険者たちは一斉に口を閉じた。  

 きっと、冒険者ギルドのギルド長である彼女の貫禄に気圧されたのだろう。 

 受験者たちは、静けさと緊張に支配されている。 

 それを見計らったリリティは口を開いて、昇格試験の開始を宣言した。

「今より、第1006回! チキチキ第4級冒険者昇格試験を開始する!」

 えぇ……(ドン引き) 
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