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第4話 異能バトル『スキル』
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応接室。
依頼人は説明を始めた。
「私は、研究者だ。ある研究のため、モンスターを使っていた」
「ある研究ですか?」
俺の質問に依頼人はマッドサイエンスらしい笑みを浮かべて話を始めた。
「あぁ、『スキル』の研究だ。 どうすれば、特定のスキルを発動できるか。それを私は調べている」
「へぇ、それは凄い。俺もスキルを持っていないからな」
『スキル』
それは神秘の力だ。魔法とは似て非なる力……
要するに少年漫画の主人公が持ってる特殊能力を想像してほしい。
「気」だったり、「呪力」だったり、「霊力」だったり、「チャクラ」だったり……
より近いのは「スタンド能力」か「念能力」だろうか?
例えば、ある者は特殊な空間を生み出す能力を持ち、別の者は自然の力を操る能力を持っているかもしれない。
その能力は個々の人間の個性や経験、感情によって形が作られる。
そして、それらは、魔法のように才能、知識、鍛錬によって身につく物ではない。
個人の才能に大きく左右される。
生まれながら『スキル』を持つ者。 ある日、突然10個以上の『スキル』に目覚める者もいる。
逆に俺みたいに30歳前まで1つも『スキル』を持ってない者もいる。
しかし、依頼人の話にアリッサは、何かに気づいたらしい。
ギョッ! と酷く驚いた顔をしたかと思うと……
「まさか……どうすれば『スキル』を発動するのか。モンスターで実験してたのですか!?」
「――――な!?」と俺も絶句するしかなかった。
前提としてスキルは人間にしか使えない。 モンスターはもちろん、魔族と言われる連中ですらスキルの使い手はいなかった。
「えぇ、おかしい事ですか? モンスターの強靭な体力と魔力。実験には適した存在ですよ」
「いや、それは、そうかも知れないけどさぁ」
モンスターに特殊な力を与える。それは非常に危険な事じゃないか?
今、実際に、モンスターが暴走しているわけで……
「とにかく、奴を退治してくれ。 実験対象に命を狙われたら、実験の続きもできない」
「わかった」と俺は呆れながらも頷いた。こういう輩は、何を言っても無駄だ。
俺ではなく、冒険者ギルドから然るべき所に連絡してもらい、罰して貰うしかないだろう。
「それで、そのモンスターの情報は? どの種類のモンスターで、本当にスキルを使うなら、どんなスキルを使って来るんだ?」
それらの情報を俺たちは冒険者ギルドから聞かされていない。 緊急性と気密性の高い依頼だからか?
「あぁ、あのモンスターに発現したスキルは1つだけ。それは――――」
次の瞬間、依頼者の声は途絶えた。
「え?」とアリッサの声だけ残った。 きっと彼女には、何が起きたのか、正確に判断できなかったのだろう。
「消えた? 依頼者が目の前から急に?」
「いや、違う」と断じる。 何が起きたのか? 俺の動体視力は捉えていた。
「椅子の隙間。背中と腰の間にある隙間に吸い込まれていった」
「す、吸い込まれた……ですか? あの隙間に?」
「忘れたのか? 敵はスキルを使うんだぞ」
俺は腰の剣に手を伸ばし、抜刀しようとして止めた。
(血の臭いがしない。依頼人はまだ生きてる)
もっとも、空間を作るスキル。対象を強制移動させるようなスキルでなければ……だ。
「生きてるなら、椅子を切断するわけにはいかないな。このまま破壊する」
肉体強化の魔法を発動させ、拳で椅子を叩き壊した。 椅子の中にいる依頼人にもダメージが入るかもしれないが、多少は許してほしい。
だが――――
「何もありません。椅子の中には、依頼人も、モンスターもいません!」
「逃げられたか。やっぱりスキルの情報がないと厄介だな」
「どうします? 早く逃げないと私たちだけじゃ危険です!」
「いや、落ち着け。冷静に観察をするんだ。そうしなければ勝てるものも勝てなくなるぞ」
「冷静に……観察を……」
「そうだ。依頼人は俺たち新人冒険者で十分だと判断していた。スキル持ちのモンスター自身は戦闘能力が低い。あと、気になることは?」
「気になる事ですか? そうですね」とアリッサは冷静さを取り戻した。
「依頼の条件には複数人必須が入っていました。モンスターのスキルは複数人に効果が薄いのではないでしょうか?」
「つまり、敵モンスターは戦闘力が低い奇襲特化型だと考えていい」
「奇襲特化型……確かにそうですよね。 モンスターは、椅子の中に隠れて依頼人さんを攻撃しました。姿を消すスキルでしょうか?」
「あぁ、そうかも知れないな」と俺は言いながらも別の可能性も考えていた。
依頼人の言葉を信じるなら、敵のスキル1つだけ。 だが、依頼人が襲われた時……
敵は、
依頼人を吸い込む。
椅子の中に隠れる。
その2つを行っていた。 ならば、どちらかがスキルの力。 どちらかがモンスターとしての特殊能力か?
姿を消したり、隠したり…… それらの能力を持つモンスターは珍しくない。
俺は確かめるように応接室を出て、廊下を覗き込んだ。
「なるほど……少しわかった気がするぞ」
アリッサも俺の真似をするように廊下を覗き込んだが、よくわかってない様子だ。
頭の上に「?」と疑問符が浮かんでいるように見えた。
「依頼人がモンスターを閉じ込めるために作ったバリケード……本棚がなくなっている」
「あっ! 確かにあんな大きな物がなくなっているのに気づかないなんて! それじゃモンスターのスキルは変身する能力?」
「いや、違う。 モンスターの正体がわかったぞ。アリッサ……この室内に火を放ってくれ」
「え? 何を言っているのですか? 他人の家の中で炎系の魔法を使うんですか?」
「……使えないのか? 確かギルドの情報だと、複数の攻撃魔法を習得していたはずだが?」
「いえ、そうではなく……わかりました。責任は取ってくださいね」
アリッサは握った杖に魔力を込めていく。 やがて空中に火が浮かび上がる。
「行きます――――幽冥炎舞《ゴースト・フレイムダンス》」
小さな炎が妖精のような姿に変身すると、室内を飛び回って火をばら撒いて行く。
なんだか、その中二ぽい魔法名だったのは、触れない方が良かったのだろうか?
「こ、これ大丈夫なんですか? 鎮火するなら、すぐに水魔法を――――」
「問題ない。むしろ、水魔法を使うとモンスターを活性化させるぞ」
「え?」と今日、何度目かの疑問符を浮かべている彼女だったが、すぐに室内で変化が訪れた。
ガタガタ……と異音がする場所は意外! 窓の付近。カーテンから聞こえてくる。
「も、もしかして、そこに隠れているのですか? モンスターが?」
「正解だ、アリッサ。モンスターの正体はミミックだ。 椅子や本棚、そして今はカーテンと一体化して隠れている」
俺たちが、この家に来た時には閉じ込められていた部屋から抜け出していた。そのままバリケードの一部に紛れて隠れていたのだ。
今、カーテンに火が燃え移っている。ついに限界を向かえたのだろう。
ミミックの中身。ヤドカニみたいな本体が飛び出して来た。
「わかるぜ。お前のスキルが……お前にとって人間はエサだからな。 『収納空間《アイテムボックス》』でも人間を閉じ込める事ができるんだろ?」
俺が破壊した椅子も、スキルを使い別の椅子と素早く入れ替わっただろう。
恐ろしい相手だった。 だが、勝負は決していた。
すでにミミックの体は炎に包まれている。 それでも俺に飛び掛かって体の鋏を突き立てようとしてきた。
「死ねば諸共ってか? いまどきは流行らねぇぜ。いや、違うな……」
見えた。 ミミックの鋏が開いて行く瞬間、空間が広がっていく。
「なるほど、その鋏の中が『収納空間』の入り口になっているんだな。だが、遅すぎた。お前の敵は俺1人だけじゃないんだぞ」
すでにアリッサは、攻撃魔法の体勢に入っている。
『幽冥炎舞《ゴースト・フレイムダンス》』
今度は、部屋を燃やすためではない。炎の妖精たちは、弾丸のような速度でミミックに叩き込まれていった。
「やれやれ、やっぱり強力な後衛がいたら戦闘が楽でいい。おっと! 危ない、危ない。鋏まで破壊されたら依頼人が助けられなくなるかもしれないからな」
俺は体が崩れていくミミックの鋏を素手で掴み、捻じり取った。
「これで依頼は達成かな?」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ユウキさん、本当に良いんですか?」
アリッサは止めるが、俺は依頼人が失神している間に廊下の奥に進んだ。
バリケードをどかして、ドアを開ける。 中では――――
「これは酷いな。さすがに俺でもモンスターに同情するぜ……」
後ろではアリッサも「ひぃ!」と悲鳴をあげるレベルだった。
「モンスターが魔石にならないように、生かさず殺さずか。えげつない実験をしてやがる」
俺は「……」と無言で確認するように進んで行く。
「い、いくらモンスターと言ってもこれは酷過ぎます」
「あぁ、俺もそう思う。それじゃどうする? ここを破壊するか?」
「――――なっ! そんな真似は!」
「できないかい?」と俺は微笑んで見せた。
あぁ、俺は嫌な奴だ。彼女を試している。
どこまで彼女が正しい人間なのか……
「私は、ここが嫌いです。だから……でも……」
「だから、壊しちまおうぜ」
「――――っ!」と彼女は鋭い目を睨みつけてきた。 それから気味良い音が俺の頬からなった。
あえて、彼女の平手打ちを受けた。 それが礼儀な気がしたからだ。
「あなた、私を揺さぶって、試そうとして……最低です」
彼女は、怒って部屋を出て行った。 残された俺は目的の物を――――
「あった、あった。実験のデータの資料……これを置いて帰ると同じ事件が何度でも起きそうだからな」
資料を仕舞い込んで、アリッサの後を追いかける。それから思い出したかのように、
「あぁ、こういう時は決まりのセリフがあったな…… へっ、面白れぇ女」
依頼人は説明を始めた。
「私は、研究者だ。ある研究のため、モンスターを使っていた」
「ある研究ですか?」
俺の質問に依頼人はマッドサイエンスらしい笑みを浮かべて話を始めた。
「あぁ、『スキル』の研究だ。 どうすれば、特定のスキルを発動できるか。それを私は調べている」
「へぇ、それは凄い。俺もスキルを持っていないからな」
『スキル』
それは神秘の力だ。魔法とは似て非なる力……
要するに少年漫画の主人公が持ってる特殊能力を想像してほしい。
「気」だったり、「呪力」だったり、「霊力」だったり、「チャクラ」だったり……
より近いのは「スタンド能力」か「念能力」だろうか?
例えば、ある者は特殊な空間を生み出す能力を持ち、別の者は自然の力を操る能力を持っているかもしれない。
その能力は個々の人間の個性や経験、感情によって形が作られる。
そして、それらは、魔法のように才能、知識、鍛錬によって身につく物ではない。
個人の才能に大きく左右される。
生まれながら『スキル』を持つ者。 ある日、突然10個以上の『スキル』に目覚める者もいる。
逆に俺みたいに30歳前まで1つも『スキル』を持ってない者もいる。
しかし、依頼人の話にアリッサは、何かに気づいたらしい。
ギョッ! と酷く驚いた顔をしたかと思うと……
「まさか……どうすれば『スキル』を発動するのか。モンスターで実験してたのですか!?」
「――――な!?」と俺も絶句するしかなかった。
前提としてスキルは人間にしか使えない。 モンスターはもちろん、魔族と言われる連中ですらスキルの使い手はいなかった。
「えぇ、おかしい事ですか? モンスターの強靭な体力と魔力。実験には適した存在ですよ」
「いや、それは、そうかも知れないけどさぁ」
モンスターに特殊な力を与える。それは非常に危険な事じゃないか?
今、実際に、モンスターが暴走しているわけで……
「とにかく、奴を退治してくれ。 実験対象に命を狙われたら、実験の続きもできない」
「わかった」と俺は呆れながらも頷いた。こういう輩は、何を言っても無駄だ。
俺ではなく、冒険者ギルドから然るべき所に連絡してもらい、罰して貰うしかないだろう。
「それで、そのモンスターの情報は? どの種類のモンスターで、本当にスキルを使うなら、どんなスキルを使って来るんだ?」
それらの情報を俺たちは冒険者ギルドから聞かされていない。 緊急性と気密性の高い依頼だからか?
「あぁ、あのモンスターに発現したスキルは1つだけ。それは――――」
次の瞬間、依頼者の声は途絶えた。
「え?」とアリッサの声だけ残った。 きっと彼女には、何が起きたのか、正確に判断できなかったのだろう。
「消えた? 依頼者が目の前から急に?」
「いや、違う」と断じる。 何が起きたのか? 俺の動体視力は捉えていた。
「椅子の隙間。背中と腰の間にある隙間に吸い込まれていった」
「す、吸い込まれた……ですか? あの隙間に?」
「忘れたのか? 敵はスキルを使うんだぞ」
俺は腰の剣に手を伸ばし、抜刀しようとして止めた。
(血の臭いがしない。依頼人はまだ生きてる)
もっとも、空間を作るスキル。対象を強制移動させるようなスキルでなければ……だ。
「生きてるなら、椅子を切断するわけにはいかないな。このまま破壊する」
肉体強化の魔法を発動させ、拳で椅子を叩き壊した。 椅子の中にいる依頼人にもダメージが入るかもしれないが、多少は許してほしい。
だが――――
「何もありません。椅子の中には、依頼人も、モンスターもいません!」
「逃げられたか。やっぱりスキルの情報がないと厄介だな」
「どうします? 早く逃げないと私たちだけじゃ危険です!」
「いや、落ち着け。冷静に観察をするんだ。そうしなければ勝てるものも勝てなくなるぞ」
「冷静に……観察を……」
「そうだ。依頼人は俺たち新人冒険者で十分だと判断していた。スキル持ちのモンスター自身は戦闘能力が低い。あと、気になることは?」
「気になる事ですか? そうですね」とアリッサは冷静さを取り戻した。
「依頼の条件には複数人必須が入っていました。モンスターのスキルは複数人に効果が薄いのではないでしょうか?」
「つまり、敵モンスターは戦闘力が低い奇襲特化型だと考えていい」
「奇襲特化型……確かにそうですよね。 モンスターは、椅子の中に隠れて依頼人さんを攻撃しました。姿を消すスキルでしょうか?」
「あぁ、そうかも知れないな」と俺は言いながらも別の可能性も考えていた。
依頼人の言葉を信じるなら、敵のスキル1つだけ。 だが、依頼人が襲われた時……
敵は、
依頼人を吸い込む。
椅子の中に隠れる。
その2つを行っていた。 ならば、どちらかがスキルの力。 どちらかがモンスターとしての特殊能力か?
姿を消したり、隠したり…… それらの能力を持つモンスターは珍しくない。
俺は確かめるように応接室を出て、廊下を覗き込んだ。
「なるほど……少しわかった気がするぞ」
アリッサも俺の真似をするように廊下を覗き込んだが、よくわかってない様子だ。
頭の上に「?」と疑問符が浮かんでいるように見えた。
「依頼人がモンスターを閉じ込めるために作ったバリケード……本棚がなくなっている」
「あっ! 確かにあんな大きな物がなくなっているのに気づかないなんて! それじゃモンスターのスキルは変身する能力?」
「いや、違う。 モンスターの正体がわかったぞ。アリッサ……この室内に火を放ってくれ」
「え? 何を言っているのですか? 他人の家の中で炎系の魔法を使うんですか?」
「……使えないのか? 確かギルドの情報だと、複数の攻撃魔法を習得していたはずだが?」
「いえ、そうではなく……わかりました。責任は取ってくださいね」
アリッサは握った杖に魔力を込めていく。 やがて空中に火が浮かび上がる。
「行きます――――幽冥炎舞《ゴースト・フレイムダンス》」
小さな炎が妖精のような姿に変身すると、室内を飛び回って火をばら撒いて行く。
なんだか、その中二ぽい魔法名だったのは、触れない方が良かったのだろうか?
「こ、これ大丈夫なんですか? 鎮火するなら、すぐに水魔法を――――」
「問題ない。むしろ、水魔法を使うとモンスターを活性化させるぞ」
「え?」と今日、何度目かの疑問符を浮かべている彼女だったが、すぐに室内で変化が訪れた。
ガタガタ……と異音がする場所は意外! 窓の付近。カーテンから聞こえてくる。
「も、もしかして、そこに隠れているのですか? モンスターが?」
「正解だ、アリッサ。モンスターの正体はミミックだ。 椅子や本棚、そして今はカーテンと一体化して隠れている」
俺たちが、この家に来た時には閉じ込められていた部屋から抜け出していた。そのままバリケードの一部に紛れて隠れていたのだ。
今、カーテンに火が燃え移っている。ついに限界を向かえたのだろう。
ミミックの中身。ヤドカニみたいな本体が飛び出して来た。
「わかるぜ。お前のスキルが……お前にとって人間はエサだからな。 『収納空間《アイテムボックス》』でも人間を閉じ込める事ができるんだろ?」
俺が破壊した椅子も、スキルを使い別の椅子と素早く入れ替わっただろう。
恐ろしい相手だった。 だが、勝負は決していた。
すでにミミックの体は炎に包まれている。 それでも俺に飛び掛かって体の鋏を突き立てようとしてきた。
「死ねば諸共ってか? いまどきは流行らねぇぜ。いや、違うな……」
見えた。 ミミックの鋏が開いて行く瞬間、空間が広がっていく。
「なるほど、その鋏の中が『収納空間』の入り口になっているんだな。だが、遅すぎた。お前の敵は俺1人だけじゃないんだぞ」
すでにアリッサは、攻撃魔法の体勢に入っている。
『幽冥炎舞《ゴースト・フレイムダンス》』
今度は、部屋を燃やすためではない。炎の妖精たちは、弾丸のような速度でミミックに叩き込まれていった。
「やれやれ、やっぱり強力な後衛がいたら戦闘が楽でいい。おっと! 危ない、危ない。鋏まで破壊されたら依頼人が助けられなくなるかもしれないからな」
俺は体が崩れていくミミックの鋏を素手で掴み、捻じり取った。
「これで依頼は達成かな?」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ユウキさん、本当に良いんですか?」
アリッサは止めるが、俺は依頼人が失神している間に廊下の奥に進んだ。
バリケードをどかして、ドアを開ける。 中では――――
「これは酷いな。さすがに俺でもモンスターに同情するぜ……」
後ろではアリッサも「ひぃ!」と悲鳴をあげるレベルだった。
「モンスターが魔石にならないように、生かさず殺さずか。えげつない実験をしてやがる」
俺は「……」と無言で確認するように進んで行く。
「い、いくらモンスターと言ってもこれは酷過ぎます」
「あぁ、俺もそう思う。それじゃどうする? ここを破壊するか?」
「――――なっ! そんな真似は!」
「できないかい?」と俺は微笑んで見せた。
あぁ、俺は嫌な奴だ。彼女を試している。
どこまで彼女が正しい人間なのか……
「私は、ここが嫌いです。だから……でも……」
「だから、壊しちまおうぜ」
「――――っ!」と彼女は鋭い目を睨みつけてきた。 それから気味良い音が俺の頬からなった。
あえて、彼女の平手打ちを受けた。 それが礼儀な気がしたからだ。
「あなた、私を揺さぶって、試そうとして……最低です」
彼女は、怒って部屋を出て行った。 残された俺は目的の物を――――
「あった、あった。実験のデータの資料……これを置いて帰ると同じ事件が何度でも起きそうだからな」
資料を仕舞い込んで、アリッサの後を追いかける。それから思い出したかのように、
「あぁ、こういう時は決まりのセリフがあったな…… へっ、面白れぇ女」
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