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第2話  新人冒険者の仕事

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「新人冒険者の朝は早い!」

 王都シュタットから100キロの距離にある地方都市ゲルベルク。

 町を中心に複数の迷宮が存在している町であり、 新人冒険者である俺、ユウキ・ライトの住む場所だ。

 冒険者ギルドの掲示板から新人冒険者の仕事を物色した俺は薬草集めを選択した。

「薬草集めは新人の仕事。それに町から離れた場所の地理も知っておきたい……そう思っていたのだがな」

 俺は思わず苦笑した。既にモンスターに取り囲まれていたからだ。

 薬草が採取できる森。 それがわかっていて、わざわざ冒険者ギルドに依頼するのは危険が伴うってことだろう。

 当然、モンスターの出現率は高い。

「囲まれるほどの数となれば……他の新人冒険者ならひとたまりもないだろうなぁ」

 俺は、ゴブリンたちに囲まれていた。 

 ゴブリンを知らない人のために説明すると、緑色した小さな人間型のモンスターだ。

 小鬼とも呼ばれ、最弱候補にされるモンスターではあるが……甘く見てはならない。

 その手には、棍棒や槍……まるで原始人の石器だが武器を持ってる。

 原始的な武器でも突き刺されたり、殴られれば……人間は簡単に死ぬ。

 そんなゴブリンたちに囲まれながら、  

「暴力はいけないと教えてくださった、お父さん、お母さん、恩師のみなさん……過酷な異世界生活で、すっかり俺は、野蛮人になりました」

 昔は、モンスターを殺す事に抵抗があった。しかし、それは過去の事だ。

 勇者として生きた俺には、モンスターに対する慈悲ってのは欠如している。

「よっこいしょ!」と軽く剣を振る。

「ギャァ!」 「ギギッ!」とゴブリンたちは次々に倒れていく。

 ほんの1分に満たない時間で、ゴブリンたちは全滅した。

 ゴブリンたちの死体は黒いモヤに包まれて消滅した。

 普通の生物と違い、モンスターは死ぬと遺体を残さず消滅する。それから魔力を内包した方式――――通称 魔石を落とす。

 俺は、落ちてる魔石を拾い集めた。

「そう言えば魔族たちは死んでも完全に消滅まではしなかったなぁ」

 自然と過去の激戦を思い出す。

 魔族たちは死ぬと、吸血鬼のように塵になるタイプもいれば、大量の塩になったり……

「あの気持ち悪い奴は、大量の花びらになって死んだなぁ……」

 そんな事を考えているとガサガサと音が聞こえてきた。 

 警戒しながら音の方が確認すると……

「魔物じゃない。どうやら普通の鳥のようだな。 ……よし! やるか!」と俺は背中に手に回して弓を取る。

 勇者として冒険の旅。 さまざまな経験をしてきた俺は弓の使える。

 ぶっちゃけ、森の民であるエルフ直伝の弓技――――人間なら神技の部類だと自負してる。

「ぐっぎゃ!」と鳴き声を上げた鳥は、ドサッと音を立てて落下した。

 しっかりと鳥の体に命中させたのだ。

「今日は豪華にジビエ料理だぜ!」と俺は食料を手に入れた。

 俺には世界を救うための過酷な旅の経験がある。 もちろん、簡単な料理くらいならできる。

 具体的に言えば、獲物の解体だ。

「けど、鳥は面倒なんだよな」と血抜きをした鳥の羽を毟り取っていく。

「毟り取る…… 毟り取る…… 毟り取る……」

 無心で羽を取っていく。 淡々と続く作業。

 それが終わると、お尻なら内臓を取って……

「お父さん、お母さん、やっぱり俺は逞しく成長しました!」

 鳥の解体が終わった。

 鶏肉を串(そこ辺の枝を削って作った串だ)に刺し、起した火で焼いて行く。

 焼き鳥……ただし、味付けは持参していた香辛料のみ。

「やれやれ、簡単なタレでも作れれば良いだけど……今度、作り方を調べて見るか?」

 これは後でわかる事だが、焼き鳥のタレは醤油、みりん、砂糖が必要になる。 

 砂糖はともかく、醤油とみりんは、この異世界で生活して約30年間の間に見たことがないのだが……。

「さて、食べるか! いただきます!」と、焼き鳥を口に運ぶ。

 自分で調達した鶏肉を、自分で解体して作った料理だ。 素朴で淡白な味のはずだが……
 
 豪快に頬張ると「熱ぃ! あちちち!」と口を火傷しそうになった。

 慌てず、「フーフー」と口で息を吹いた。少しでも熱を冷まして、改めて口に運び直した。

 その味は――――

「美味い!!」

 野生で引き締まった肉だからか? 中々、しっかりとした歯応え。

 脂も少なく万人受けする味ではないのかもしれないが、だからと言って、妙なクセもない。

「……少なくとも俺は好きな味してるな。次に見かけても、絶対獲るぞ」

 苦労した分、味にバフ(強化)がかかっているのかもしれない。 感動もひとしおってやつだ。

「味を変えるのに……どこに置いたかな?」と雑嚢を探る。 

 世の中には『収納空間《アイテムボックス》』なんて、便利なスキルがあったりするが、残念ながら俺にはそんなスキルはもってない。

「やべぇ、見つからない」と荷物をひっくり返して、ようやく見つかった。

 目的の品物はチーズの塊だ!

 チーズをナイフで薄くスライスする。 それを熱した焼き鳥に乗せて行った。

「焼き鳥のチーズ串。これで完成だ!」

 とろけたチーズが、こんがりと焼けた鳥肉と一体化している。 

 はたして、その味は? チーズと鳥肉の旨みが口の中に広がっていった。

「うん、これはいける!」

 チーズのコクと塩味が絶妙にマッチし、鳥肉のジューシーさが味わいを深める。

 焼きたての熱々の鳥のチーズ焼きは、まさに至福の一品だ。

 自然と食べる速度が速くなっていく。 どんどん量が減っていくのが、悲しくなるほどだ。

「ごちそうさま! ……よし。家に戻ったら、材料を買い込んで大量に作るか」
  
 それを考えると自然と口元が緩んでいった。

 料理を完食すると、砂で火を消した。 

「さて――――」と立ち上がる。

 木々が茂る森の中。枝々の僅かな隙間から空を見上げて時間帯を推測した。

 出発したのは朝早くだったはずだが、今は昼くらいだ。

「俺の仕事はゴブリン退治でも、鳥の狩猟でもない。薬草取りだ。少し予定より遅れている」

 道中でゴブリンのようなモンスターと何度となく戦闘を繰り返したのが時間ロスの原因だろう。

 ゴブリンが多く出没する森……本当に初心者向けの依頼か怪しく思えた。

 それはさておき――――

「急がないと、日が暮れてる。さすがにモンスターが出るような森で準備もなしに野宿はキツイ」  

 だが、茂みからガサガサと音がした。 

(野生動物か? 大きめの猪なら嬉しいが……新手のモンスターのようだな)

 最初に鎧兜が見えた。 だから俺は、構えた弓矢を外した。

(間違っても人間を射抜くわけにはいかないからな。だが、コイツは――――)

 だが、ソイツは人間ではなかったようだ。 

 ソイツの正体はゴブリン。それも武装したゴブリン――――ゴブリンウォーリア―だ。

 なぜ、人間の鎧や武器を装備しているのか? 答えは単純だ。
 
(冒険者を殺して奪った鹵獲品を装備してやがる。罠なり、不意打ちなり、冒険者を殺害して奪ったゴブリン。こうなってくると侮れるモンスターではなくなる)

幸いにして、俺の存在に気づいてない。 奇襲攻撃のチャンスではある。もっとも、ゴブリンウォーリア―が1匹だけならの話だ。

(続けて、2匹、3匹……ワラワラ出てきた。これは戦士《ウォーリア―》だけじゃなくて、君主)ロードもいるな)

 ゴブリンウォーリアーの装備は、人間から奪った物。 小柄なゴブリンが無理をして装備している。

 だが、ゴブリンロードは違う。 

 大鬼への先祖帰りだろうか? 躰は巨躯と言える。武器も戦斧《バトルアックス》を持っていた。
 
「やれやれ、本当に冒険者ギルドの情報精度が低すぎるのか? どう見ても、新人冒険者に進める森じゃないぞ」

 今なら気づかれていない。 戦闘を回避する方が利口なのだろうが……

「俺が倒さないと、別の冒険者が襲われるからな」

 俺が使える魔法は2つ。 1つは、身体能力の強化。もう1つは、戦闘に役に立たない魔法だ。

「――――だが、俺の身体能力強化は特別だ。なんせ、これだけで魔王を討ち取ってみせたのだからな!」

 君主《ロード》を守る戦士《ウォーリア》

 まずは戦士の数を減らすのが定石なのだろうが……

 俺は最初に君主を狙う。 配下を失って逃走されれば厄介だ。

 剣を走らせる。 俺が本気を出せば、鉄の防具も関係ない。

 一振り……たった一振りで十分だ。ゴブリンロードの防具ごと、その体を切り裂いてみせた。

 ゴブリンロードは自分の身に何が起きたか分からなかっただろう。

 君主を失った戦士たちは、ただの敗残兵だ。 そうなれば逃げるのが当然なのだが……

「逃がさない。1匹たりとも! お前等が生き延びて、次の君主になれば何も変わらないからな」

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 冒険者ギルドに戻ってきた。 外までガヤガヤと騒音が聞こえてきたはずだが、俺が入って来たと同時に騒ぎが鎮まる。

 初日で荒くれ者をKO勝ちした事が広まっているのだろう。

 小声で

「おい、見ろよ」

「アイツが噂の……」 

「目を合わせるなよ。喧嘩を売られたら、やられるぞ」

 なぜか、喧嘩で暴れ狂うヤバイ奴扱いされてる。

「喧嘩で『スキル』を使われた被害者であるはずなんだがな」

 気にしていないフリをして、受付嬢の前に向かった。

 気が重い。 なんせ、俺は依頼の失敗を報告しなければならないからだ。

「え? 失敗ですか?」と受付嬢に本気で驚かれた。 少しショックだ。

「何か、あったのですか? モンスターの出現率も低くて、薬草を採取するだけの依頼だったはずですよ?」 
  
 そう言われて、俺は説明した。

「ゴブリンの群れ? ゴブリンロードまで!? それで森の奥に薬草の群生地が見つからなかったのですか?」

 受付嬢は「?」と疑問符を大量に浮かべていた。 なぜか、話が嚙み合わない。

「少し整理したいので、報告書を記入してもらっても構いませんか?」

「あぁ」と俺は頷いた。 始末書、顛末書、報告書、そういうのは苦手じゃない。

『今後、二度とこのような事がないように確認を徹底していきますので、
 なにとぞ、寛大な処置をよろしくお願いします』

 だが、それを受け取った受付嬢は怪訝な表情を見せて――――

「これ、本当に……? 単独で君主の討伐を?」

「一応、証拠の魔石は持って帰ってる」

 俺は雑嚢からゴブリンロードの魔石。続けてゴブリンウォーリア―たちの魔石を取り出した。

「確かに本物ですね。ユウキさん? もしかして、森の場所を間違えてませんか?」

「なに?」と俺は慌てて地図を広げた。

「ほら、ここ。手前の森が依頼のあった薬草の群生地。ゴブリンロードの目撃例がある森は、この奥にある森です」

「……気づかないうちに森を縦断して、別の森を進んでいたのか?」

「この森は初心者向けどころか上級者向け……それにゴブリンロード討伐に特別に国が懸賞金を出そうって話が出ていたのですよ!」

「そうか、それじゃ懸賞金を取り逃した事になるのか、それは残念だ」

「あははは……」と笑って誤魔化そうとしたが、ダメだったらしい。

 受付嬢はジト目で俺を見て来る。 

「ユウキさん……あなた何者ですか?」

「俺? 俺は新人の冒険者ユウキ・ライト。何者でもないさ」

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