魔法令嬢アリスは星空に舞いたい

チョーカ-

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 狂剣のサンピエール

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「しかし、何かを忘れているかのような……」

 ミゲールの独り言にヨルマガも同調を始めた。

「あなたもですか? 実は私も、何かを忘れているような気がしてならないのです」

「う~ん」と両者揃って首を捻っていると、船長が船から顔を出した。

「おい、そろそろ出発の時間じゃぞ。はよ船に乗るんじゃ!」

 彼女たちは忘れていた。

 それほどまでに、この新大陸までの出来事が予想外、想定外の連続だったのだが……

 新大陸を離れて暫くの時間が経過すると――――

「なんじゃ、あの船は?」

 最初にソレを発見した船長が驚きのあまり口を広げた。

 これまでの航海で、

 仮面の殺人鬼

 大量の手足が生えた陸を走る幽霊船

 クラーケンの大軍

 さらに新大陸の未知の生物。

 それでも「おもしれぇじゃねぇか!」と不敵な笑みすら浮かべていた老獪な船長ですら驚く船は――――

「あれじゃ、船と言うよりも、まるで闘技場じゃ!」

 闘技場と見間違う船。 

 単純に大きな船の上に円型闘技場《アンフィテアトルム》を取り付けた――――およそ、船の常識に逆らうような形状――――そんな船。

 奥に椅子がある。 

一応、雨から身を守るように傘――――それも日差しから守るような日傘のような程度――――がある。

 海上の激しい潮風や嵐を想定しているとは思えない。 

 そんな、海を舐めた船――――いや、舐め切った船に人がいる。

 最奥の椅子に座っている人物。 それはミゲールやヨルマガも知っている人物だった。

「――――狂剣のサンピエール。どうしてここに?」

 狂剣のサンピエール。 

 ミゲールやヨルマガが所属している国の重要人物。

 国の立場では、将軍の立場を与えられている。 戦争となれば兵を引き連れ暴れ回る猛将。 

 時折、兵を捨て去ると単騎で敵軍に向かって行く狂戦士の部類。

 なぜ、彼がここに―――― そんな疑問にサンピエールは呆れたように言う。

「なぜ、俺がここにいるのかわからないのか? アホめ……お前らの船に誰が乗っている」

「誰? 誰って……」てミゲールは、乗っているメンバーを確認した。

「私、ヨツマガ、アリスに船長とミライ……なるほど、そういうことか」

「わかったか。ならば俺と――――」

「船長が元海賊ってのが問題になったのか。それじゃ本国に帰って縛り首にでも――――」

「違うわ。その男が大海賊アデンなのは周知だろ。いまさら、問題になどなるか!」

「……船長。有名人だったのか?」

「ワシの昔話はいいじゃろ」と顔を背ける船長に若干の照れが見えた。

「それじゃ……アリスか。マクレイガー公爵のご令嬢を国外に連れ出したのが――――」

「相変らず、話が通じぬ奴め! 問題は教皇の息子だ」

「お、俺ぇ?」とミライは意外そうな表情だった。

「宗教という、国の力が発揮し難い所を突かれたのだよ。お前等、2人は教皇の息子を攫ったことになっている」

「へぇ……」とミゲールの視線が険しいものに変わった。

「私は陰謀なんてものを真っ向から捻り潰してきた。文字通り、企んだ主犯格はボロボロになるまで捻ってやった。今度は誰を捻り潰せばいい?」

「まぁ、教皇の息子を唆《そそのか》して、新大陸にまで誘導した奴だな。付き人の1人が、何らかの思惑があってだろうが――――その前に俺と戦え」

「……なるほど、これは一種の?」

「そうだ。今から始まるは『決闘裁判』だ。文字通り、俺から無実を勝ち取って見せろ!」

 『決闘裁判』

 罪に問われる者が納得しない場合、剣を持ってでも無実を勝ち取れば良い。

 その思想で行われる野蛮な解決法として忌み嫌われる裁判法の1つ。

「やれやれ、私と戦いたい! ってなら最初から、そう言えよ。こんな仰々しい船を持ち出しやがって!」

「この船は、見世物の決闘用として作れられたが、使われることもなく眠っているものを俺が買い取った自慢の品だ。こういう時でないと披露する機会もないのでな。許せよ」

「はいはい、つまりは自慢したかったってことだろ? すごい、すごい」

「殺す相手には、自慢の品を見せてやることにしている。冥土の土産話になるように」

「ケッ! 自分が殺される覚悟はねぇのかよ」とミゲールは悪態をついた。

「あいにく、殺される経験がなかったのでな」

 サンピエールは、立ち上がる。

 座っていた椅子の後ろに備えていた剣を取り出した。

 特殊な剣。 

(長い刀身。大剣の部類だが、それ以上に目を引くのは柄――――持つ部分が長い)

 東洋では長巻術と言われる種類の剣。 薙刀と同類視される武器だ。

「まずはミゲール……1人だけか? 別に全員でかかってきてもぞ?」

「そいつはありがたい申し出だが、私1人で十分だぜ」

「……そうか」とサンピエールは構える。

 刀身を横に、下に――――始めから横薙ぎを想定した構え。

 離れた位置。 

 何も言わず戦いは始まり――――瞬時に間合いを詰めたサンピエール。

 彼の斬撃が、ミゲールの胴へ襲い掛かった。
 
   
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