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人魚との競争
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人魚《マーメイド》は伝説の存在である。
魔物なのか? それとも亜人なのか?
専門家でもわからない。
魔法と魔物を研究する専門家――――その最高峰である宮廷魔法使い ミゲール・コットであってもわからない。
要研究対象。 獣の紋章を使い、人魚の力を再現することに成功したミゲールであっても、実物であり本物。
生きている人魚と競争するのは、初めてのこと。
その感想は――――
(やっぱり、速い! 海の王者――――ここ何百年も人によって捕獲された歴史すら残ってない幻の存在。だから、私は捕まえて見せる!)
ミゲールは加速した。
(水中戦。必ずとも、苦手じゃない――――とは言え)
海という舞台。水圧をかき分けて泳ぐ。
人魚に変身したミゲールではあったが、ここは初めて泳ぐ場所。
予想外に急激な水流。 水面下で隠れた障害物。
おそらく、ここで生きて来た人魚と競争するにはあまりにも不利。
(だけど、なめるな。世界最強の魔法使いってのは伊達じゃないだぜ!)
人魚は振り向いた。 そして驚く。
真後ろに追跡する者を確認したから。
相手は人間だったはず。しかし、その人物は、同胞の姿に変身している。
(確かに人間だったはず……しかし、今の姿……仲間なのか?)
人魚は警戒しながらも、その可能性を考えた。
しかし、わからない。 そういう者――――捕獲対処に変身して襲う生物は珍しくない。
だから、彼女はこう思う――――
(逃げねば……全力で!)
背後から接近する人魚《ミゲール》。それは同胞の泳ぎとは明らかに違っていることに人魚は気づく。
空気の震動である音。それを阻害する水面でありながら、轟音が伝わる。
(周囲に音をまき散らすなんて……どんな泳ぎ?)
その印象を言うならば破壊的……そう、破壊的な泳ぎだった。
再び、距離を確認するために振り向く彼女は、再び驚愕した。
「追いついてたぜ」
聞こえぬはずの声がする。背後にはミゲール。
人魚は最大の加速に集中する。泳ぐことに特化したはずの肉体。
それでも振り切れぬ未知の存在。 この日、初めて――――人魚は恐怖を感じた。
(振り切れない。なんで? こいつ? 同胞じゃないくせに!)
この時、自分を追いかける存在が人魚ではないことを彼女は察していた。
(同胞ではない。コイツは――――怪物だ!)
そして彼女には勝算があった。 ここからは複雑な水流や障害物がなくなる。
純粋な直線。 純粋なスピード勝負。
ならば――――
(なら、私が――――人魚が負けるだけない!)
彼女が超加速を見せる。十分すぎる勝算を確信して――――しかし、背後にはミゲール。
なぜ? なぜ、彼女がついてこれているのか? それは単純にして、世界の真理と言える回答がある。
単純に彼女の肉体が強いからだ。
世界最強の魔法使い。彼女は肉体も世界最強であり、単純に泳ぎも速い。
例え、人魚に変身などしなくても泳ぎは速い。それが泳ぎに特化した人魚の肉体に変身しているのだ。 泳ぎが遅いはずもない。
純粋な人魚ですら凌駕するほどの速度を有していても、不思議はない。
「残念だったな、人魚! 楽しい楽しい水中鬼ごっこも、ここで閉幕だ。大人しく、私の実験対象になりな!」
ミゲールの手が伸びる。 伸ばした先には人魚の尻尾が――――
空振り。彼女の伸ばした手が宙を切る。
人魚はフェイントをかけての急旋回。 ミゲールの猛攻を躱した。
(うまい! だが、まだ――――)
そこでミゲールの体に異変が起きる。 彼女の体から急激に水圧が軽減される。
知らない海。激しい水流内のデッドヒート。
その結果、方向感覚が乱れる。
(空! 空気!? 水が下に? 偶然……いや、こうなるように誘導されたか!)
ミゲールは勢いよく水面から飛びだした。 空中に飛び出したことで、強制的に減速させられる。
水面に戻るまでの滞空時間が煩わしい。1秒……2秒……3秒……
いや、数秒の体感時間だが、実際には数秒も経過していない刹那の時間。
「チッ! それでも――――」と忌々しく、ミゲールは悪態をつく。
彼女が水面に戻った時には、人魚の姿は消えていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「嫌だ! 私は、ここに住む!」
まるで子供のように、駄々をこねるミゲール。
人魚と遭遇してから、すでに数日が経過している。
アリスたちが釣りをしている間、ミゲールは人魚の探索に時間を費やしていたが、成果はなかった。
「ここに住んで、人魚を生け捕りにするんだい!」
「先生、もう十分な釣果は達成しました。早く新しい食材を持ち帰って調理しないとヨルマガさんも困ってしまいますよ」
未知の食材の調達。ミゲールが請けた依頼は、それまでの護衛がメインだ。
現時点で新大陸での護衛は完了となる。
「むむむ……」とそれでも、嫌がるミゲールだったが、
「また、来ましょうよ。今度は長期滞在で人魚捕獲を目標にして」
アリスの説得もあって、ようやくミゲールは重い腰を上げた。
魔物なのか? それとも亜人なのか?
専門家でもわからない。
魔法と魔物を研究する専門家――――その最高峰である宮廷魔法使い ミゲール・コットであってもわからない。
要研究対象。 獣の紋章を使い、人魚の力を再現することに成功したミゲールであっても、実物であり本物。
生きている人魚と競争するのは、初めてのこと。
その感想は――――
(やっぱり、速い! 海の王者――――ここ何百年も人によって捕獲された歴史すら残ってない幻の存在。だから、私は捕まえて見せる!)
ミゲールは加速した。
(水中戦。必ずとも、苦手じゃない――――とは言え)
海という舞台。水圧をかき分けて泳ぐ。
人魚に変身したミゲールではあったが、ここは初めて泳ぐ場所。
予想外に急激な水流。 水面下で隠れた障害物。
おそらく、ここで生きて来た人魚と競争するにはあまりにも不利。
(だけど、なめるな。世界最強の魔法使いってのは伊達じゃないだぜ!)
人魚は振り向いた。 そして驚く。
真後ろに追跡する者を確認したから。
相手は人間だったはず。しかし、その人物は、同胞の姿に変身している。
(確かに人間だったはず……しかし、今の姿……仲間なのか?)
人魚は警戒しながらも、その可能性を考えた。
しかし、わからない。 そういう者――――捕獲対処に変身して襲う生物は珍しくない。
だから、彼女はこう思う――――
(逃げねば……全力で!)
背後から接近する人魚《ミゲール》。それは同胞の泳ぎとは明らかに違っていることに人魚は気づく。
空気の震動である音。それを阻害する水面でありながら、轟音が伝わる。
(周囲に音をまき散らすなんて……どんな泳ぎ?)
その印象を言うならば破壊的……そう、破壊的な泳ぎだった。
再び、距離を確認するために振り向く彼女は、再び驚愕した。
「追いついてたぜ」
聞こえぬはずの声がする。背後にはミゲール。
人魚は最大の加速に集中する。泳ぐことに特化したはずの肉体。
それでも振り切れぬ未知の存在。 この日、初めて――――人魚は恐怖を感じた。
(振り切れない。なんで? こいつ? 同胞じゃないくせに!)
この時、自分を追いかける存在が人魚ではないことを彼女は察していた。
(同胞ではない。コイツは――――怪物だ!)
そして彼女には勝算があった。 ここからは複雑な水流や障害物がなくなる。
純粋な直線。 純粋なスピード勝負。
ならば――――
(なら、私が――――人魚が負けるだけない!)
彼女が超加速を見せる。十分すぎる勝算を確信して――――しかし、背後にはミゲール。
なぜ? なぜ、彼女がついてこれているのか? それは単純にして、世界の真理と言える回答がある。
単純に彼女の肉体が強いからだ。
世界最強の魔法使い。彼女は肉体も世界最強であり、単純に泳ぎも速い。
例え、人魚に変身などしなくても泳ぎは速い。それが泳ぎに特化した人魚の肉体に変身しているのだ。 泳ぎが遅いはずもない。
純粋な人魚ですら凌駕するほどの速度を有していても、不思議はない。
「残念だったな、人魚! 楽しい楽しい水中鬼ごっこも、ここで閉幕だ。大人しく、私の実験対象になりな!」
ミゲールの手が伸びる。 伸ばした先には人魚の尻尾が――――
空振り。彼女の伸ばした手が宙を切る。
人魚はフェイントをかけての急旋回。 ミゲールの猛攻を躱した。
(うまい! だが、まだ――――)
そこでミゲールの体に異変が起きる。 彼女の体から急激に水圧が軽減される。
知らない海。激しい水流内のデッドヒート。
その結果、方向感覚が乱れる。
(空! 空気!? 水が下に? 偶然……いや、こうなるように誘導されたか!)
ミゲールは勢いよく水面から飛びだした。 空中に飛び出したことで、強制的に減速させられる。
水面に戻るまでの滞空時間が煩わしい。1秒……2秒……3秒……
いや、数秒の体感時間だが、実際には数秒も経過していない刹那の時間。
「チッ! それでも――――」と忌々しく、ミゲールは悪態をつく。
彼女が水面に戻った時には、人魚の姿は消えていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「嫌だ! 私は、ここに住む!」
まるで子供のように、駄々をこねるミゲール。
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アリスたちが釣りをしている間、ミゲールは人魚の探索に時間を費やしていたが、成果はなかった。
「ここに住んで、人魚を生け捕りにするんだい!」
「先生、もう十分な釣果は達成しました。早く新しい食材を持ち帰って調理しないとヨルマガさんも困ってしまいますよ」
未知の食材の調達。ミゲールが請けた依頼は、それまでの護衛がメインだ。
現時点で新大陸での護衛は完了となる。
「むむむ……」とそれでも、嫌がるミゲールだったが、
「また、来ましょうよ。今度は長期滞在で人魚捕獲を目標にして」
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