35 / 42
ミライの隠していた目的
しおりを挟む
3日前 アリスたちの住む国が正式に国教として認める教会の総本山。
聖地と言われる場所で少年――――ミライの声が響く。
「これよる振るうは、心の刃……我が腕に宿るは漆黒の闇。 放て 邪業暗黒波動!」
「……」と何も起きない。これは歳相当のごっこ遊び。
「ふう……今日の修行はここまでにしておこうか」とミライはひとりごちる。
「……気は済みましたか、ミライさま?」
離れて見てたのだろう。 従者の1人が近づいて来た。
従者と言っても、教会の聖地で暮らす者――――神父の恰好をしている。
(やっぱり、コイツは俺のことを馬鹿にしているんだろうな)
ミライは、教皇の息子。 まだ7才とは言え、立場がある。
父親の跡を継ぎ、次代の教皇――――は難しいとしても、相当の地位は得られる目安は高い。
だから、ミライは自分に取り入ろうとする人間に敏感だ。
「……それで、あのミゲールとヨルマガが旅に出るそうです」
「へぇ」とミライは興味なさそうに答えた。しかし――――
「えっと……気になりませんか? あの、最強の魔法使いと武神が旅に出ると……」
ミライは歳の割に聡い。 それでいて、宗教家として才能があった。
宗教家としての才能とは、人の心を読み解き、他者の懐に入り込むための洞察力。
それが生来の才能としてミライにはできた。
(コイツ、俺をミゲールとヨルマガ……だったけ? 一度、会った記憶もあるが……ソイツ等と結び付けたい理由があるのか? 混乱を起こさせたい? それとも――――)
しかし、その才能を使いこなすには幼さがあった。 もしも、ミライが大人……いや、十代前半の年齢に達していたら、危険なことを躊躇する。
今のミライは――――自らを危険に向かわせる冒険心。 そして、並みの大人でも敵わない魔力があった。
「それは興味深いな……もう少し詳しく話せよ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そして、現在。 新大陸に向かう途中の島。
ミライは、ミゲール一行と合流した。
「ふ~ん、要するにお前に付けられた従者が企んでいる。それを炙り出すために出て来た……よくやるよ。7歳の小僧が」
「小僧って言うな、ミゲール! 俺にはミライって名前がある!」
「威勢がいいな。気に入ったぞ! 演技とは言え、私とヨルマガを殺してやるって意気込みがいい!」
「演技ではない。隙があれば……ごにゃごにゃ」とミライの言葉は、よく聞こえなかった。
「どうする?」とミゲールはヨルマガに訊ねた。
この旅はヨルマガの依頼によるものだ。 彼が責任者とも言える。
「流石に教皇さまのご子息をほっておくわけにはいかないでいしょう」と肩をすくめた。
「教会に連絡をする手段は?」と訊ねた相手は船長だった。
「この島は緊急避難用じゃ。魔石を利用した通信機が……」
「いや、待てよ」と船長は小走り。島に設置されている小屋に飛び込んだ。それから――――
「ダメじゃ、ダメじゃ! 例の殺人鬼が、斧で叩き壊してるわ」
深夜の戦い。 仮面をつけた神官が破壊活動に勤しんでいたことを失念していた。
「おいおい、やっぱり送り帰そうぜ? コイツ、連れて行ったら私らが誘拐犯扱いだぜ?」
「――――心配しなくてもいい」とミライ。
「ん? なんか手を打っているのか、小僧?」
「こうするのさ」とミライは口笛を吹いた。すると、水平線の向こうから飛んで来る白い影が接近してきた。
「へぇ、使い魔か。鳥型にしては、いい魔力が込められているじゃねぇか」
ミゲールが言う通り、ミライが呼んだのは本物の鳥ではない。
鳥を模っているが、魔力によって動いている使い魔。あるいは魔導生物と言われる物。
「コイツの足に手紙を括りつけて、父上に送る」
「そいつはいい。不穏分子は教皇さまに直通密告ってか」
「笑うな。まだ従者が悪い事を企んでいると決まったわけではない」
「なるほど、この旅で明らかにするってか? だが、私等が行く場所は新大陸だぜ、わかっているか?」
「……わかっている。足手まといにはならない。それくらいには強いつもりだ」
ミライは腕を見せる。 そこに刻まれた水の紋章。しかし――――
「おいおいおい、水属性の魔法が使えるなんて、こっちは見飽きているだぜ? 私は宮廷魔法使いで世界最強なんぜ? もっと、面白いものをみせろよ」
「どうすればいい?」
「そうだな……私の弟子、世界最強の私が育てている最中の弟子を相手にして強さを見せつけて見ろよ」
「俺は、構わない。それで?」
「それで?」
「……いや、その弟子はどこにいるのだ?」
「どこって……ここに。私の横に最初からいるが?」
ミゲールの言う通り、彼女の横にはアリスが控えていた。それも、ずっと……
「なっ! お前がミゲールの弟子……全然、強そうに見えないじゃないか?」
「おいおい、魔法使いを見た目で判断するやつがいるか。私が弟子入りを認めた逸材だぞ。アリスも何か言ってやれ!」
「あっ、よろしくお願いします」
「よろしくってお前……」
「え? だって……相手は、まだ小さな男の子じゃないですか?」
「ん? いや、ミライの年齢は確か、お前と……」
「私はお姉さんとして、優しく指導してあげますよ!」
「――――それは、俺がちびって言ってるのか?」
人間、どこに逆鱗があるかわからない。 どうやら、アリスはミライの逆鱗を大きく傷つけたらしい。
聖地と言われる場所で少年――――ミライの声が響く。
「これよる振るうは、心の刃……我が腕に宿るは漆黒の闇。 放て 邪業暗黒波動!」
「……」と何も起きない。これは歳相当のごっこ遊び。
「ふう……今日の修行はここまでにしておこうか」とミライはひとりごちる。
「……気は済みましたか、ミライさま?」
離れて見てたのだろう。 従者の1人が近づいて来た。
従者と言っても、教会の聖地で暮らす者――――神父の恰好をしている。
(やっぱり、コイツは俺のことを馬鹿にしているんだろうな)
ミライは、教皇の息子。 まだ7才とは言え、立場がある。
父親の跡を継ぎ、次代の教皇――――は難しいとしても、相当の地位は得られる目安は高い。
だから、ミライは自分に取り入ろうとする人間に敏感だ。
「……それで、あのミゲールとヨルマガが旅に出るそうです」
「へぇ」とミライは興味なさそうに答えた。しかし――――
「えっと……気になりませんか? あの、最強の魔法使いと武神が旅に出ると……」
ミライは歳の割に聡い。 それでいて、宗教家として才能があった。
宗教家としての才能とは、人の心を読み解き、他者の懐に入り込むための洞察力。
それが生来の才能としてミライにはできた。
(コイツ、俺をミゲールとヨルマガ……だったけ? 一度、会った記憶もあるが……ソイツ等と結び付けたい理由があるのか? 混乱を起こさせたい? それとも――――)
しかし、その才能を使いこなすには幼さがあった。 もしも、ミライが大人……いや、十代前半の年齢に達していたら、危険なことを躊躇する。
今のミライは――――自らを危険に向かわせる冒険心。 そして、並みの大人でも敵わない魔力があった。
「それは興味深いな……もう少し詳しく話せよ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そして、現在。 新大陸に向かう途中の島。
ミライは、ミゲール一行と合流した。
「ふ~ん、要するにお前に付けられた従者が企んでいる。それを炙り出すために出て来た……よくやるよ。7歳の小僧が」
「小僧って言うな、ミゲール! 俺にはミライって名前がある!」
「威勢がいいな。気に入ったぞ! 演技とは言え、私とヨルマガを殺してやるって意気込みがいい!」
「演技ではない。隙があれば……ごにゃごにゃ」とミライの言葉は、よく聞こえなかった。
「どうする?」とミゲールはヨルマガに訊ねた。
この旅はヨルマガの依頼によるものだ。 彼が責任者とも言える。
「流石に教皇さまのご子息をほっておくわけにはいかないでいしょう」と肩をすくめた。
「教会に連絡をする手段は?」と訊ねた相手は船長だった。
「この島は緊急避難用じゃ。魔石を利用した通信機が……」
「いや、待てよ」と船長は小走り。島に設置されている小屋に飛び込んだ。それから――――
「ダメじゃ、ダメじゃ! 例の殺人鬼が、斧で叩き壊してるわ」
深夜の戦い。 仮面をつけた神官が破壊活動に勤しんでいたことを失念していた。
「おいおい、やっぱり送り帰そうぜ? コイツ、連れて行ったら私らが誘拐犯扱いだぜ?」
「――――心配しなくてもいい」とミライ。
「ん? なんか手を打っているのか、小僧?」
「こうするのさ」とミライは口笛を吹いた。すると、水平線の向こうから飛んで来る白い影が接近してきた。
「へぇ、使い魔か。鳥型にしては、いい魔力が込められているじゃねぇか」
ミゲールが言う通り、ミライが呼んだのは本物の鳥ではない。
鳥を模っているが、魔力によって動いている使い魔。あるいは魔導生物と言われる物。
「コイツの足に手紙を括りつけて、父上に送る」
「そいつはいい。不穏分子は教皇さまに直通密告ってか」
「笑うな。まだ従者が悪い事を企んでいると決まったわけではない」
「なるほど、この旅で明らかにするってか? だが、私等が行く場所は新大陸だぜ、わかっているか?」
「……わかっている。足手まといにはならない。それくらいには強いつもりだ」
ミライは腕を見せる。 そこに刻まれた水の紋章。しかし――――
「おいおいおい、水属性の魔法が使えるなんて、こっちは見飽きているだぜ? 私は宮廷魔法使いで世界最強なんぜ? もっと、面白いものをみせろよ」
「どうすればいい?」
「そうだな……私の弟子、世界最強の私が育てている最中の弟子を相手にして強さを見せつけて見ろよ」
「俺は、構わない。それで?」
「それで?」
「……いや、その弟子はどこにいるのだ?」
「どこって……ここに。私の横に最初からいるが?」
ミゲールの言う通り、彼女の横にはアリスが控えていた。それも、ずっと……
「なっ! お前がミゲールの弟子……全然、強そうに見えないじゃないか?」
「おいおい、魔法使いを見た目で判断するやつがいるか。私が弟子入りを認めた逸材だぞ。アリスも何か言ってやれ!」
「あっ、よろしくお願いします」
「よろしくってお前……」
「え? だって……相手は、まだ小さな男の子じゃないですか?」
「ん? いや、ミライの年齢は確か、お前と……」
「私はお姉さんとして、優しく指導してあげますよ!」
「――――それは、俺がちびって言ってるのか?」
人間、どこに逆鱗があるかわからない。 どうやら、アリスはミライの逆鱗を大きく傷つけたらしい。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる