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第4話 クロの魔物退治
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クロの魔力が彼の持つ釣り竿を赤く輝かせる。
そして、対峙する魔物へ――――袈裟斬り。
斜めに、肩から腰に向かって、釣り竿――――いや、もうソレは釣り竿ではなく魔剣だ。クロは、その魔剣を振り落とした。
斬られた跡、魔物に赤い線が残る。どうやら、それは血の色ではないみたいだ。
(あの赤色……斬った部分に魔力が残っている。その魔力が魔物の体に、何か悪さをしているんだわ)
アリスの予想は正しかった。 クロの剣技は、斬った物から生命力や体力、あるいは魔力を奪う効果――――エナジードレイン。
しかし、魔物は斬られた痛みから、野生の獰猛性を向上させていた。
ただの破壊の権化。それが、純度の高い暴力がクロを襲う。しかし――――
『肉体強化』
今度は剣だけではなく、クロの魔力が彼自身を覆った。
アリスの目には追えない素早い動き。 速さに翻弄されるのは彼女だけではなく、目前で戦う魔物も同じ――――
「ごめん。命を奪わせてもらう」
クロの剣が魔物の首を通り抜けた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
倒れた魔物を前にクロは深呼吸を3回。
戦いの恐怖。 生への執着。
深い呼吸は、その2つを忘れて、精神を通常時に戻すための儀式。
それでも彼の両手は震えていた。 まだ恐怖を追い出す作業がうまくいって――――
「やった! 凄いじゃない!」
「え? う、うわぁ!」とクロは驚いた。
体当たりのようにアリスに抱きつかれたからだ。 力を抜いていた彼は耐えきれずにアリスと一緒に地面に転がった。
「凄い! 本当に凄かったよ、クロ!」
「あはははは……そりゃどうも。感動してもらって俺も嬉しいよ」
「お嬢さま! どちらにおいででしょうか?」
森の中、アリスの呼ぶ声が聞こえて来た。
「この声は……メイだわ。私のメイドが探してるのみたい。来て! 紹介するから!」
アリスはクロの手を取って、走り出す。
「お嬢様、ご無事でしたか! 森には危険な魔物が徘徊してると聞いて、慌てて飛び出してきましたよ」
「心配させてごめんなさい。この子に助けてもらったの」
後ろに隠れていたクロを紹介しようとした。しかし、メイの表情は険しいものに変わった。それは、一緒に生活してたアリスも初めて見る彼女の顔だった。
「何者ですか?」
彼女の言葉には、敵意が見え隠れしていた。
「……答えれないみたいですね。失礼ながら、お嬢様をたぶらかす賊と思われても仕方ありませんよ?」
「いや、俺は――――」
「問答無用です」とメイは短剣を取り出して構えた。
森に出る時の護身用に持っていた短剣だ。
それをアリスは止める。
「ちょ、ちょっと、クロは私の新しい友達なのよ。それに賊には見えないじゃない?」
「お嬢様……それは私には判断できません。邪悪な魔法使いは、姿を変えて子供を――――貴族のご子息、ご息女を拐《かどわ》かすと聞きます」
「それじゃ、どうやって俺は、邪悪な魔法使いじゃないって証明したら良い?」
刃物を向けらた緊張感も見せながら、クロは敵意を見せないように手を上げながら訪ねた。
「証明……ですか? そんな事は不要です。あなたが、この場から離れてくれば良いだけの話ですよ」
「わかった、わかった。それじゃ俺はここで――――」
「いや、だめよ。私はちゃんとした形でクロにお礼をしたいわ」
「お嬢様……」とメイ。「アリス……」とクロ。
2人とも、似た表情をしていることが、さらに彼女を悲しませる。
そんな時――――
「どうも、お困りでしょうか?」
新しい人物の声。 声と同時に現れたのは大人の男だった。
そして、対峙する魔物へ――――袈裟斬り。
斜めに、肩から腰に向かって、釣り竿――――いや、もうソレは釣り竿ではなく魔剣だ。クロは、その魔剣を振り落とした。
斬られた跡、魔物に赤い線が残る。どうやら、それは血の色ではないみたいだ。
(あの赤色……斬った部分に魔力が残っている。その魔力が魔物の体に、何か悪さをしているんだわ)
アリスの予想は正しかった。 クロの剣技は、斬った物から生命力や体力、あるいは魔力を奪う効果――――エナジードレイン。
しかし、魔物は斬られた痛みから、野生の獰猛性を向上させていた。
ただの破壊の権化。それが、純度の高い暴力がクロを襲う。しかし――――
『肉体強化』
今度は剣だけではなく、クロの魔力が彼自身を覆った。
アリスの目には追えない素早い動き。 速さに翻弄されるのは彼女だけではなく、目前で戦う魔物も同じ――――
「ごめん。命を奪わせてもらう」
クロの剣が魔物の首を通り抜けた。
・・・
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倒れた魔物を前にクロは深呼吸を3回。
戦いの恐怖。 生への執着。
深い呼吸は、その2つを忘れて、精神を通常時に戻すための儀式。
それでも彼の両手は震えていた。 まだ恐怖を追い出す作業がうまくいって――――
「やった! 凄いじゃない!」
「え? う、うわぁ!」とクロは驚いた。
体当たりのようにアリスに抱きつかれたからだ。 力を抜いていた彼は耐えきれずにアリスと一緒に地面に転がった。
「凄い! 本当に凄かったよ、クロ!」
「あはははは……そりゃどうも。感動してもらって俺も嬉しいよ」
「お嬢さま! どちらにおいででしょうか?」
森の中、アリスの呼ぶ声が聞こえて来た。
「この声は……メイだわ。私のメイドが探してるのみたい。来て! 紹介するから!」
アリスはクロの手を取って、走り出す。
「お嬢様、ご無事でしたか! 森には危険な魔物が徘徊してると聞いて、慌てて飛び出してきましたよ」
「心配させてごめんなさい。この子に助けてもらったの」
後ろに隠れていたクロを紹介しようとした。しかし、メイの表情は険しいものに変わった。それは、一緒に生活してたアリスも初めて見る彼女の顔だった。
「何者ですか?」
彼女の言葉には、敵意が見え隠れしていた。
「……答えれないみたいですね。失礼ながら、お嬢様をたぶらかす賊と思われても仕方ありませんよ?」
「いや、俺は――――」
「問答無用です」とメイは短剣を取り出して構えた。
森に出る時の護身用に持っていた短剣だ。
それをアリスは止める。
「ちょ、ちょっと、クロは私の新しい友達なのよ。それに賊には見えないじゃない?」
「お嬢様……それは私には判断できません。邪悪な魔法使いは、姿を変えて子供を――――貴族のご子息、ご息女を拐《かどわ》かすと聞きます」
「それじゃ、どうやって俺は、邪悪な魔法使いじゃないって証明したら良い?」
刃物を向けらた緊張感も見せながら、クロは敵意を見せないように手を上げながら訪ねた。
「証明……ですか? そんな事は不要です。あなたが、この場から離れてくれば良いだけの話ですよ」
「わかった、わかった。それじゃ俺はここで――――」
「いや、だめよ。私はちゃんとした形でクロにお礼をしたいわ」
「お嬢様……」とメイ。「アリス……」とクロ。
2人とも、似た表情をしていることが、さらに彼女を悲しませる。
そんな時――――
「どうも、お困りでしょうか?」
新しい人物の声。 声と同時に現れたのは大人の男だった。
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