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第2章

第104話 『強欲』の登場 魔導書の正体

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「解せない。一体、何者だ?」

 ゴーレムの中に人がいた。 それも干からびたミイラの状態だ。

「このゴーレムは時間操作の魔法を常時発動していた。膨大な魔力が必要になる」

 ユウトは周囲を見渡す。 

 ここは時間の流れが早い通路。大量の魔力を集めるための仕掛けだ。

「それをゴーレムに使っていた形跡はない。ゴーレムの内部……このミイラの魔力を使っていた?」

 死して、魔力を流す装置になっていたとでもいうのだろうか? ならば、この人物の正体は────

「まさか、こいつが『強欲』……本人か?」

 状況証拠というべきだろうか? この通路……通常の人間が通れるような構造ではない。

 ユウトだって、メリスとレインの支援を受けてここまでたどり着けた。

 ならば、ここにいる人物は『強欲』だけのはず……

「……いや、『強欲』がゴーレムを動かすために連れてきた人物って可能性もある」

「いや」と自分の言葉を否定する。

「侵入者を防ぐために他者を犠牲にするような人物なら、こんな通路を作らない」

「そんな気がする」とユウトは独りごちる。

 自然と視線はミイラから背いていた。ならば、次に視線がたどり着く場所は、最奥の扉になる。

「行く……しかないのか?」とユウトは扉に手をかけた。

 まるで機械仕掛けの扉のように、手応えすらなく開いた。

 扉の先には―――

「何もない……」

 本当に何もなかった。伽藍堂の空間? しかし、ユウトは何かを感じた。

 それは、彼の本職が魔法使いだからかもしれない。

「魔素の流れ。確かに魔力は、ここの集中している。まるで魔力の吹き溜まりだ」

 想定した通りとも言えた。

 魔力の源である魔素。 自然に生み出されるそれらを時間操作の魔法を利用して、この部屋に集めている。

 それも――――
「自然発生する魔力の数百年分。しかし、集めているだけ……まるで目的がわからない」
 
 本来、魔法使いの住み家となると、持ち主の個性が出る。

 どんな魔法を使うのか? どうやって魔力を高めるのか?
 
 床には魔法陣。

 壁には、儀式に使う道具。

 机に毒物にしか見えない液体がガラス瓶に封じられている。

 そんな、魔法使いのイメージをそのままに……

「だが、ここにはそれがない。本当に魔力を集める装置としか作られていない」 

 美学も、

 流儀も、

 思想も、

 心情も、

 価値観ですら存在しない。
 
(目的がわからない。そもそも、目的がないとしか……)

 そんなことを考えている最中だった。 室内で異変が起きる。

 僅か魔力の乱れ。 何か事前に仕掛けられていた魔法の発動。
 
 しかし、ユウトに動揺はない。 感じれたのは微小な魔力だ。

(この魔力、何かのメッセージか?)

 目前に人影が写る。魔力による投影だ。  

 長い髪を後ろに束ねている男性。中年の年頃だろうか? 

 魔法使いと言うよりも研究者を連想させる風貌の男だった。

 きっと彼が『強欲』なのだろう。映像の彼はユウトに喋り始めた。

「俺は、お前が誰だからわからない。なぜなら、このメッセージが誰かの目に止まる時、俺の死んでいるからだ」

「……やっぱり」とユウトは納得する。 「あの遺体……ミイラは『強欲』自身だったのか」

「できるなら、このメッセージは俺と同じ魔導書使いであって貰いたい。さて――――」

『強欲』は、疑問に答えるように――――

「当然、疑問に思っているだろう。なぜ、俺がこの部屋を作ったのか? それは俺が発見した魔導書の秘密を開示しよう。備えよ――――今から始まる戦闘に」

『強欲』の言葉に反応したのだろうか? 室内の魔力が一ヶ所に集中していく。   
 
 そして、その場所には――――魔導書が浮いていた。

 強欲の魔導書。それに膨大な魔力が――――数百年の魔力が流れ込んでいく。

「君たちが持っている魔導書。それは怪物だ……比喩ではない。この戦争で最終的に魔力を奪い尽くした結果を疑似的に再現した」

『強欲』の言葉通りだった。 魔導書は――――怪物に変身した。  
 
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