上 下
103 / 118
第2章

第103話 時を刻むゴーレム

しおりを挟む
「詠唱 凍てつく極寒の風よ 静かに我の敵を閉ざせ――――冬嵐《ヒエムステンペスタス》」
 
 シンプルな回答だ。倒せないなら封印すれば良い。

 ゴーレムが再び動き出す前に氷付けにしてやる。不死身の怪物を倒すセオリーであるが……

 氷の塊になったゴーレムから、なにやら軋む音が聞こえてくる。

「うそ……だろ…? コイツ、まだ動き続けるのか?」
 
 ついに封印の氷は砕け散る。 またしてもゴーレムは――――

「いや、弱点があるな、コイツ……」

 ・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

「……さて、次に行くか」

 破壊されているゴーレムは回復が進んでいる。しかし、その回復速度が遅い。

 ユウトが考えた対策。それは回復速度を遅らせるため、できるだけゴーレムを粉々に砕いて氷付けにした。

 倒し切れない、封印できない。

 なら、すぐに戦闘再開できなくしてやれば良い。無理に倒さず、次に進む事にしたユウトだったが……

「冗談だろ? またゴーレムかよ!」

 さらに進んだ通路の先、2体目のゴーレムがいた。だが、その奥には……

 「扉が1つ。俺の探索魔法が弾かれる……どうやら、扉の先にいるみたいだな。『強欲』って、やつは!」

 ユウトの声に反応したのかもしれない。眠るようにうずくまっていたゴーレムの目が光った。

 起動音。それから駆動音が広めの通路に響く。

 立ち上がったゴーレム。大きさは、先ほど戦った1体目よりも大きい。

 その体には数々の時計がはめられている。しかし、どれも正確な時間を刻んでいるようには見えない。

「まさか、正しい時計だけを破壊しないと倒せない仕掛けじゃないよな?」

『炎剣《イグニスグラディウス》』

 炎の刃を放った。しかし、ユウトの魔法攻撃は空中で静止した。

「いっ! 時間を加速させてる空間で、別の時間操作系魔法を組み込まれている? できるのか? そんな複雑な魔法の構成を!」

 対象の時間を加速させる魔法ならともかく、攻撃として急接近する物質――――魔法攻撃を停止するほどの強い魔力

「……どうやって倒すんだ? こいつ?」

 ユウトは少し考える。ゴーレムの猛攻を避けながら……

(時間操作で攻撃魔法を静止させるほどの魔力量。この通路の仕掛け……時間操作で魔力の源である魔素を無理矢理にでも収集。このゴーレムを動かすためにしては……妙だな)

 何か違和感がある。うまく言葉のはできないが……

「さて」とユウトはいろいろ試してみる事にした。 
 
 コツコツと地面を蹴る。甲高い音が鳴った。

「地面は空洞か。さらに地下室があるわけじゃないだろうが……」

 ユウトは天井を差して詠唱を開始する。

「詠唱 雷霆の力を我に与え 今こそ地に落ちろ――――落雷撃《フルグル トニトゥルス》」

 巨大な雷の一撃。

 ゴーレムに直撃した。しかし、ゴーレムは動き続けて……

「やれやれ。雷を利用して電磁波とか、時計を乱すとか…… 鉱物の影響を与えるとか…… まぁ、穴が開けば良いか」

 天井を貫くほどの貫通力。

 巨大で重量感のあるゴーレムを支える床にも衝撃を与えた。

 その位置には、大穴が生まれた。当然ながら、ゴーレムは重力に従って落下していった。

「よし、蓋をしよう――――『炎壁《イグニスムルス》』 」

 炎の壁で穴を塞いだ。

「これで出てこれないはず―――いや!」

 炎の防御壁。今まで、あらゆる攻撃を防いだ防御魔法だったが、ゴーレムの腕が貫いた。

 そのまま穴から顔を、それから上半身を出した。

『炎剣《イグニスグラディウス》』

「落ちろ!」とゴーレムを穴底の落とすため炎の魔法を連発する。

 だが、その攻撃にどれほど意味があったのだろうか?

 ゴーレムは穴から這い上がってきた。

「魔法防壁を力で突き破って無効化した!? どうやって、このゴーレムを作ったんだ!」

(さすがに戦慄する。 ここまで強いのは想定外だ)

 どうやら相手は、本当に無敵のゴーレムらしい。
 
 だが――――「だが、弱点はある!」

「詠唱 凍てつく極寒の風よ 静かに我の敵を閉ざせ――――冬嵐《ヒエムステンペスタス》」

 1体目のゴーレムには効果が薄かった氷結の魔法。

 このゴーレムは、自身への攻撃速度を減退化させてる。

(それなら周囲から閉じ込めるように氷付けにしたら?)

 まさか、熱伝導そのものを時間操作で無効化はできないだろう。

 一瞬だけ、ゴーレムは動きを止める。 

 しかし、それは一瞬だけだ。 封印代わりの氷が軋む音を上げて、落ちていく。

「だが、それで十分だ。今まで何発の炎系魔法を受けてきた?」

 直撃は数える程度のはず。 なんせ、急接近する攻撃の速度を遅くする魔法が常時発動しているゴーレム。

 しかし、直撃はなくとも全身に高熱を浴びている。 そこで、急激に冷却されたら?

 金属は破壊される。

「やはり、想像通りだ。 時間操作系の魔法を使うため、特殊な金属を使わていたか」

 ゴーレムの全身に亀裂が入って行く。 そして、割れるような音。

 中身が見える。 そこには――――

「……誰だ?」

 内部には人がいた。————嫌、正確には死体だった。

 ゴーレムの中にはミイラが内臓されていたのだ。  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

奴隷と呼ばれた俺、追放先で無双する

宮富タマジ
ファンタジー
「レオ、お前は奴隷なのだから、勇者パーティから追放する!」 王子アレンは鋭い声で叫んだ。 奴隷でありながら、勇者パーティの最強として君臨していたレオだったが。 王子アレンを中心とした新たな勇者パーティが結成されることになり レオは追放される運命に陥った。 王子アレンは続けて 「レオの身分は奴隷なので、パーティのイメージを損なう! 国民の前では王族だけの勇者パーティがふさわしい」 と主張したのだった。

女王直属女体拷問吏

那羽都レン
ファンタジー
女王直属女体拷問吏……それは女王直々の命を受けて、敵国のスパイや国内の不穏分子の女性に対して性的な拷問を行う役職だ。 異世界に転生し「相手の弱点が分かる」力を手に入れた青年セオドールは、その能力を活かして今日も囚われの身となった美少女達の女体の弱点をピンポイントに責め立てる。

転生した最強の死霊使いは平凡な日々を求めるが……

橋真和高
ファンタジー
古の時代、勇者率いる人族と魔王率いる魔族、それと謎の死霊使いが三つ巴の戦いを繰り広げていた。 勇者と魔王はこの死霊使いに嫌気がさして急遽会合を開くことにした。 そこで死霊使いは戦いに飽きたと告白して、未来で恋をして平凡な毎日を送りたいと願い未来に転生する。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...