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第41話 ケンタウロスのニクシア その②

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 戦場に置いて、ハルバードを代表とした長物を武器とするケンタウロスを最強候補になると言う者の理論では――――

 馬の迅速さと力強さ

 長物の長射程と突進力

 驚異的な戦闘力と制圧力

 馬の高さと攻撃範囲

 これらを脅威として挙げる。 それが、今――――ユウトを襲っていた。

 槍による刺突――――それをケンタウロスが行うのは人間のそれと別物だ。

 ただでさえ高い位置からの攻撃は強力と言われる。

 さらに騎馬の速度で加速して、飛び上がる事で馬の体重を加えた一撃。

 その先端が突き刺さる直前、ユウトの詠唱が間に合った。 

 「詠唱 灼熱の炎よ、我が身を包み込み、敵の攻撃を跳ね返せ――――『炎壁《イグニスムルス》』 

 空間が歪み、現れた防御壁が炎に覆われ、ニクシアの刺突を弾いた。

 詠唱による魔法の強化が加わり、彼の防御壁が辛うじて彼女の攻撃を防げる強度が得られたのだ。

(真っ向勝負だとジリ貧……戦うならば――――)

 この時、ユウトの脳裏に浮かんだのは蛇女《ラミア》との戦い。

 毒をばら撒く彼女たちとの戦いは、陣取り合戦に例えられている。

(だったら――――罠の設置。罠として使える俺の魔法は……)

 考え終わるよりも早く、距離を取ったニクシアが駆け出してくる。

 彼女の瞳には自信が宿っている。

「我が一撃に二度目の失敗はない。我は誓ってみせよう――――次は、その魔法防御壁ごと貫いて見せる!」

 十分に加速を得たケンタウロスの一撃。

 彼女が宣言するように、今度は魔法防御壁を破壊しかねない。

「ならば!」とユウトは魔法を発動させた。

 『大地の震えテラトレメンス

 駆け出しているケンタウロスのニンシアに対して、ユウトが行ったのは魔法によって地面を変動させる事。 平坦だった地面は大きく乱れる。

 ユウトが有する魔法で、陣取り合戦――――罠によって敵の機動力を削ぐ事に使えるのは、この『大地の震えテラトレメンス』のみ。

 少なくとも、思いついたのは、この魔法だけ。その効果は――――確かにあったのだろう。

「このっ! 小細工をして!」と彼女は悪態をつきながら、飛び上がる。

 それは誘い。彼女の飛翔はユウトが狙って誘導したものだ。

 だから、当然――――空中の彼女は無防備。それは魔法使いを相手には命取りだ。

『炎剣《イグニスグラディウス》』
 
 空中にいるニクシアに魔法を連発して叩き込んだ。

 通常の魔物なら十分に倒し切れる威力と数だ。しかし――――

「くっ! この程度の攻撃で我を仕留められると思ったか!」 

 あの黄金の鎧には、強い魔法耐久があるのかもしれない。 何発も撃ち込まれても、大きなダメージを受けてる様子がない。

 さらに彼女は斧槍《ハルバード》を振り回し始めた。 鎧と同等の効果があるのだろうか?
 
 彼女の武器 斧槍は魔法が直撃するのを防いでいく。

 そして―――― 僅かな攻撃の継間。 ユウトの魔法攻撃による連撃の中、一瞬の隙を見つけたのだろう。

 彼女の反撃が――――文字通り――――飛んで来る!

 高所からの落下攻撃。

 斧槍の斧部分がユウトに向かって振られた。 それは號――――と音のみで破壊力を測るには十分な轟音。 素っ首を刎ね飛ばすギロチンに例えても、足りないかもしれない。

 ユウトは死の恐怖に惑わされる事なく回避運動を行った。 
 
 ギリギリで身を屈めて、やり過ごすユウト。 再び両者は対峙する。

「参ったなぁ……ここまで相性が悪いなんてな」

 ユウトは呟いた。 改めて彼女――――ニクシアの戦力を分析する。

 ケンタウロスの加速力は、魔法の遠距離攻撃を許さない。

 離れて間合いを取っても、すぐさま潰してくる。

 振り回されるハルバード。その細腕から信じられない膂力。

 さらに――――

 魔法の威力を減少させる黄金の鎧

「いや、待て。相性が悪いってレベルじゃないぞ。 完全に魔法使い殺しじゃないか!」   

 そんなユウトにニクシアは、

「呆れた奴め……」と本当に呆れたように言う。

「いまさら自分の不利に気づくとは、なんて――――強者だ」

「え? なんの皮肉だ?」

「フン、何が皮肉なものか。ここまで戦ってようやく自分の不利に気づくような立ち回りとしていたのだろ?」

「――――確かに! そう言われる悪い気はしないぜ」

 2人は示し合わせるように笑う。 たっぷりと笑い合うと――――

「決着だ。覚悟を決めるが良い、魔法使い!」

「あぁ、かかってこい、ケンタウロス!」 
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