31 / 118
第31話 レインの誘惑 そして――――
しおりを挟む
「毒だって? 救出まできて、毒を飲まそうとするはずないだろ!」
ユウトは叫ぶ。しかし、レインは冷笑みで答える。
「騙されたらいけないわ、ミカエル。どうして、ユウトがここまで来たと思ってるの? 貴方を殺すために決まっているじゃない?」
「殺す? 俺にそんな恨みはない!」
「その通りです。どれほどの想いを背負って、ユウトは、あなた達を助けに来たと思っているのですか! 」
「隣にいるのはメイヴ……S級冒険者ね。そんな大物を連れて2人だけ、私たち3人を騙し討ちにするには丁度いいチャンスね」
「2人?」と一瞬、ユウトは不思議に思った。 どうやら、本当に聖樹の化身であるエイムは他者に見えないようだ。 しかし、その表情をレインは――――
「ほら、ごらんなさい。動揺が顔に出た……隠れている3人目がいるね?」
いる。確かに3人目が……しかし、隠しているわけではなく、彼女たちの目には見えてないだけだ。
しかし、それを説明することが難しかった。
「ほら、ミカエル。貴方は私だけを信じればいいのよ」
「レイン? だが、俺は――――」とミカエル。
彼にもわかっている。 彼女が荒唐無稽な話をしていることぐらいは……
しかし、問題はなぜ彼女が、そんな事を言うのかわからない。
「いいの? 貴方の矜持は? ここで貴族の貴方が平民のユウトに助けられたら、実家であるシャドウ家に泥を塗る事になるわよ?」
「――――っ!」とミカエルは目を見開いた。
貴族の矜持。 実家に泥を塗る。
その言葉は、彼にとって弱点であった。 彼は、激しい動揺を見せる。
冷静になれば、今はそのような事を考える場合ではない。 しかし――――彼は冷静ではなくなっていた。
「私だけよ。貴方の気持ちがわかるのは同じ貴族である私だけよ」
「ほら」と彼女はミカエルに瓶を投げ渡す。
「これは、もしものために隠していた回復薬よ。私を信じるなら、それを飲んで見せてよ」
だが、レインが渡した回復薬《ポーション》は、明らかに通常の物ではない。
見ているだけで禍々しさが伝わってくる。
「止めろ、飲むなミカエル。 俺と一緒に街に帰ろう」
「飲みなさい。貴方が貴方らしく、貴族の使命を全うするなら、それを飲んで――――超越者になるのよ」
「うぅ…… うぅ…… 俺は……俺は……」と手を震わしながら、レインの回復薬に口を――――
しかし、その直前に大地が揺れた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
新たな主《ボス》 キング・ヒュドラ
ダンジョン『炎氷の地下牢』に生まれて間もないはず……
しかし、高い知識と本能による行動。 それによって罠をしかけていた。
彼には、逃げて隠れているミカエルたちの位置が分かっていた。
キング・ヒュドラが持つ能力。
熱感知や赤外線感知に特化した特殊な感覚器官――――ピット器官をもっている。
熱を感知する。だから、人間が彼から逃げ隠れる事は、そもそも不可能なのだ。
それは、蛇系の魔物が環境に適応し、捕食行動や生存戦略を発展させる上で重要な役割を果たす能力。
では、なぜ? なぜ、ミカエルたちの居場所が分かっていて襲わなかったのか?
理由が単純である。 他の冒険者たちが救援が来るのを待っていたのだ。
彼は本能によって知っている。 自分を殺そうとする生物――――冒険者たちは、逃がして、生かしていると他の冒険者たちが――――餌が自ら集まって来る事を。
そんな怪物が、ユウトたちの前に姿を現した。 餌である彼等を捕食するために――――
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
姿を現したキング・ヒュドラ―――― その存在は英雄の試練と言える存在だ。
キング・ヒュドラは人々に畏怖と恐怖を与えるのだ。
その姿……見た者は、放たれる恐怖により言葉を失い、ただただその威圧感に圧倒される。
だが――――
「ちっ! このタイミングで襲ってくるなんて!」と意外な事に最初に動き出したのはレインだった。
一度、戦った経験。それに怪我を負ってない余裕。
そこから他の面々よりも、恐怖心が薄まっていたのだろう。
彼女は弓を構えて、キング・ヒュドラの目を狙う。
しかし、キング・ヒュドラは口から猛毒を吐いた。
「主《ボス》とは言え、やっぱり蛇ね。ここまで毒が届くはずが――――」
彼女は最後まで言えなかった。 キング・ヒュドラは攻撃のために毒を吐いたのではない。
「煙幕? こっちが遠距離攻撃を察して、姿を隠した? そんな頭脳があるはずがないでしょ!」
「――――逃げろ! 距離を取れ、レイン!」とミカエルは声を張り上げる。
前衛として、キング・ヒュドラと文字通りにぶつかり合った彼にはわかる。
その巨体に反して、異常とも言える俊敏さ。 安全な距離を取ったと思っても、すぐに距離を詰めてくる。
だから、レインの目前――――煙幕を切り裂いてキング・ヒュドラの牙が彼女を頭から飲みこもうと大きく開かれた。
しかし、もう1つ。 毒の煙幕を切り裂く物は飛来していく。
その正体は――――
『炎剣《イグニスグラディウス》』
魔力によって具現化された炎の剣――――ユウトの魔法だった。
ユウトは叫ぶ。しかし、レインは冷笑みで答える。
「騙されたらいけないわ、ミカエル。どうして、ユウトがここまで来たと思ってるの? 貴方を殺すために決まっているじゃない?」
「殺す? 俺にそんな恨みはない!」
「その通りです。どれほどの想いを背負って、ユウトは、あなた達を助けに来たと思っているのですか! 」
「隣にいるのはメイヴ……S級冒険者ね。そんな大物を連れて2人だけ、私たち3人を騙し討ちにするには丁度いいチャンスね」
「2人?」と一瞬、ユウトは不思議に思った。 どうやら、本当に聖樹の化身であるエイムは他者に見えないようだ。 しかし、その表情をレインは――――
「ほら、ごらんなさい。動揺が顔に出た……隠れている3人目がいるね?」
いる。確かに3人目が……しかし、隠しているわけではなく、彼女たちの目には見えてないだけだ。
しかし、それを説明することが難しかった。
「ほら、ミカエル。貴方は私だけを信じればいいのよ」
「レイン? だが、俺は――――」とミカエル。
彼にもわかっている。 彼女が荒唐無稽な話をしていることぐらいは……
しかし、問題はなぜ彼女が、そんな事を言うのかわからない。
「いいの? 貴方の矜持は? ここで貴族の貴方が平民のユウトに助けられたら、実家であるシャドウ家に泥を塗る事になるわよ?」
「――――っ!」とミカエルは目を見開いた。
貴族の矜持。 実家に泥を塗る。
その言葉は、彼にとって弱点であった。 彼は、激しい動揺を見せる。
冷静になれば、今はそのような事を考える場合ではない。 しかし――――彼は冷静ではなくなっていた。
「私だけよ。貴方の気持ちがわかるのは同じ貴族である私だけよ」
「ほら」と彼女はミカエルに瓶を投げ渡す。
「これは、もしものために隠していた回復薬よ。私を信じるなら、それを飲んで見せてよ」
だが、レインが渡した回復薬《ポーション》は、明らかに通常の物ではない。
見ているだけで禍々しさが伝わってくる。
「止めろ、飲むなミカエル。 俺と一緒に街に帰ろう」
「飲みなさい。貴方が貴方らしく、貴族の使命を全うするなら、それを飲んで――――超越者になるのよ」
「うぅ…… うぅ…… 俺は……俺は……」と手を震わしながら、レインの回復薬に口を――――
しかし、その直前に大地が揺れた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
新たな主《ボス》 キング・ヒュドラ
ダンジョン『炎氷の地下牢』に生まれて間もないはず……
しかし、高い知識と本能による行動。 それによって罠をしかけていた。
彼には、逃げて隠れているミカエルたちの位置が分かっていた。
キング・ヒュドラが持つ能力。
熱感知や赤外線感知に特化した特殊な感覚器官――――ピット器官をもっている。
熱を感知する。だから、人間が彼から逃げ隠れる事は、そもそも不可能なのだ。
それは、蛇系の魔物が環境に適応し、捕食行動や生存戦略を発展させる上で重要な役割を果たす能力。
では、なぜ? なぜ、ミカエルたちの居場所が分かっていて襲わなかったのか?
理由が単純である。 他の冒険者たちが救援が来るのを待っていたのだ。
彼は本能によって知っている。 自分を殺そうとする生物――――冒険者たちは、逃がして、生かしていると他の冒険者たちが――――餌が自ら集まって来る事を。
そんな怪物が、ユウトたちの前に姿を現した。 餌である彼等を捕食するために――――
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
姿を現したキング・ヒュドラ―――― その存在は英雄の試練と言える存在だ。
キング・ヒュドラは人々に畏怖と恐怖を与えるのだ。
その姿……見た者は、放たれる恐怖により言葉を失い、ただただその威圧感に圧倒される。
だが――――
「ちっ! このタイミングで襲ってくるなんて!」と意外な事に最初に動き出したのはレインだった。
一度、戦った経験。それに怪我を負ってない余裕。
そこから他の面々よりも、恐怖心が薄まっていたのだろう。
彼女は弓を構えて、キング・ヒュドラの目を狙う。
しかし、キング・ヒュドラは口から猛毒を吐いた。
「主《ボス》とは言え、やっぱり蛇ね。ここまで毒が届くはずが――――」
彼女は最後まで言えなかった。 キング・ヒュドラは攻撃のために毒を吐いたのではない。
「煙幕? こっちが遠距離攻撃を察して、姿を隠した? そんな頭脳があるはずがないでしょ!」
「――――逃げろ! 距離を取れ、レイン!」とミカエルは声を張り上げる。
前衛として、キング・ヒュドラと文字通りにぶつかり合った彼にはわかる。
その巨体に反して、異常とも言える俊敏さ。 安全な距離を取ったと思っても、すぐに距離を詰めてくる。
だから、レインの目前――――煙幕を切り裂いてキング・ヒュドラの牙が彼女を頭から飲みこもうと大きく開かれた。
しかし、もう1つ。 毒の煙幕を切り裂く物は飛来していく。
その正体は――――
『炎剣《イグニスグラディウス》』
魔力によって具現化された炎の剣――――ユウトの魔法だった。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
婚約者を奪われて冤罪で追放されたので薬屋を開いたところ、隣国の殿下が常連になりました
今川幸乃
ファンタジー
病気がちな母を持つセシリアは将来母の病気を治せる薬を調合出来るようにと薬の勉強をしていた。
しかし婚約者のクロードは幼馴染のエリエと浮気しており、セシリアが毒を盛ったという冤罪を着せて追放させてしまう。
追放されたセシリアは薬の勉強を続けるために新しい街でセシルと名前を変えて薬屋を開き、そこでこれまでの知識を使って様々な薬を作り、人々に親しまれていく。
さらにたまたまこの国に訪れた隣国の王子エドモンドと出会い、その腕を認められた。
一方、クロードは相思相愛であったエリエと結ばれるが、持病に効く薬を作れるのはセシリアだけだったことに気づき、慌てて彼女を探し始めるのだった。
※医学・薬学関係の記述はすべて妄想です
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。
名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる