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第17話 一方、ミカエル達は――――③

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ミカエルは1人でキング・ヒュドラの猛攻を受ける。

「やれ! ケイデン!」

 その言葉を受けて、側面に移動していたケイデンが攻撃を開始する。

 『剣聖《ソードマスター》』ケイデンの攻撃。

 人間離れした身体能力は、キング・ヒュドラの首まで飛び上がり、剣を振るう。

 A級冒険者が使用する剣は、最高級の品物。 キング・ヒュドラとの戦いも初めてではなく、何度も首を刎ねてきた。 しかし――――

「――――っ!?」とケイデンは奇妙な手ごたえを感じた。

(首が切断できない。頑丈さが通常のキング・ヒュドラとは別物なのか?)

 考えてみれば、ダンジョンの主である魔物が出入口付近を徘徊していたのだ。

(通常のソレとは違う。ダンジョン内部で、何か起きているのか?)

 ケイデンはそう感じながらも――――今度は本気で『剣聖』の技を振るう。

 今度こそ、切断されたキング・ヒュドラの首が1つ落ちる。

 しかし、この魔物の首は9つ。切断できたのは、まだ1つだけ――――

 まだ防御に集中していたミカエルは、次の指示を出す。 

「エリザ、聖水を使え!」

「はい!」と彼女は作ったばかりの聖水をキング・ヒュドラに投げつける。

 聖職者が作れる聖水は魔を祓う。 周囲に振りかければ、魔物が寄ってこない。

 さらにダンジョンの主と言われる魔物は、魔法陣によって仲間を召喚する。 

 聖水には、それを阻害する力がある。

 加えて、魔物に取っては猛毒だ。 彼女が狙って、投げつけた場所は、ケイデンの攻撃で切断された首の跡。 

 キング・ヒュドラの超回復能力だが、聖水に濡れて回復速度が目に見えて低下していく。

 首を切断され、聖水と言われる猛毒を投げつけられ、魔物は怒る。

 怒りのまま、顎を開いた。 

「来るぞ、毒属性の範囲魔法だ……レイン」

 彼女に不信感を持ち始めていたミカエルだったが、今は戦いの最中だ。感情を振り払って指示を飛ばす。

「はいはい、既に狙いは――――定めているわ」

 彼女は弓兵。 それも『高弓兵《ハイ・スナイパー》』と言われる特別職。

 矢を速射――――キング・ヒュドラの残された8つの口に次々に射抜いていく。

「これはついでよ!」と彼女はさらに、その目を正確に射抜き始めた。

 8つの口に16の目。 合計24の箇所に命中させてみせる。

「す、凄い……これがA級冒険者の戦い方ですか」

 そう呟くオリビアの声。 それはミカエルの耳に届いていたみたいだ。

「君も、その一員だ。さぁ……とどめを!」

「は、はい! では!」と彼女は詠唱を始めた。

「詠唱 雷霆の力を我に与え 今こそ地の落ちろ――――落雷撃《フルグル トニトゥルス》」

 詠唱にミカエル以外の仲間たちは、一瞬だけ動きを止めた。

 その詠唱と魔法は、かつて追放した仲間が使用していた魔法と同じもの。

 そして、その威力は――――

 轟音が響き、ダンジョン内で魔法の雷が魔物を貫き、全身を焼き焦がした。

 その魔法の威力を知る彼等は、勝利を確信した。

「勝ちましたね……それにしても、どうしてダンジョンの主がこんな所で?」

 エリザが警戒しながら、倒したキング・ヒュドラに近づく。

 間違いなく絶命している。 それを確認するのと、素材を取るためだ。

 それぞれが素材を採取する間、この奇妙な出来事の原因が何か? それを探っている。
 
 高額で冒険者ギルドに売れる素材を採取し終えると――――

「――――これは想像だが」とミカエルは口を開いた。

「このキング・ヒュドラは、主《ボス》の座から追われて、逃げ出した個体ではないのか?」 
 
「待て」と彼の意見に口を出したのはケイデンだ。 彼が自分の意見を言うのは非常に珍しいことだ。

「コイツは俺の剣でも、一撃で首を刎ねれなかった。通常のキング・ヒュドラよりも強い。ミカエルがそう思うなら、根拠を尋ねたい」

「……」とミカエルは無言になる。思わぬ反論に言葉を失った――――わけではない。
 
 彼は歩き出し「みんな、ここを見てくれ」と指した場所。そこには異変があるようには見えないが……

「よく見てくれ。きづかないか? ここに傷がある」

「――――」とミカエル以外は顔を見合わせた。

 キング・ヒュドラの超回復。それでも完全回復していない一撃を負っている証拠。

 それも魔物の牙の跡。ならば――――

「早く、ここを離れた方がいい。もしも、この傷をつけたものがいるなら、近くまできている」

 ミカエルは撤退を指示する。しかし、既に遅いようだ。

 耳に地面を這う音が届いて来た。 このキング・ヒュドラに傷を負わせて、追ってきた魔物が近づいてきているのだ。

 そして、それは姿を見せた。

 先ほど倒してキング・ヒュドラと同類の魔物――――しかし、それは巨獣と表現されるキング・ヒュドラよりも遥かに巨大だった。
 
 つまり、強化種のキング・ヒュドラ。 

 強化種とは、ダンジョンが気まぐれで生み出す魔物。通常の魔物よりも遥かに強化されているが――――

「馬鹿な―――――ダンジョンの主が強化種として生み出された? そんな前例は――――ない!」

 明らかにダンジョンで起きた異変。 ミカエルたちに戦うという選択肢は生まれない。

 頭目たるミカエルが指示するまでもなく、全員が背を向けて走りだした。
 
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