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第17話 ダンジョンの裏側
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「妹さん……緋炎アオイさんは私の知ってる姿とは違うわ」
そう言われたアオイは、ピクッと両肩を上げた。
「妹は病気で……その……」
「黒髪は金髪に、黒目は碧眼に、そして髪で隠してある耳」
「――――ッ!」と俺は何も言えなくなる。彼女は、ムラサキさんは事前に調べてきているのだろう。
「ダンジョン病……それもエルフ化が進んでいる」
「はい、半年前から……」
「うん、知っているわ」とムラサキさんは続けた。
「緋炎アオイ……登録名は、火川アカイ。誰もが知るトップ配信者の1人ね」
その通りだった。俺の妹 緋炎アオイはダンジョン配信者として才能があった。
いや、俺とは違って……眩しくなるほどの才能の持ち主であり、12才の頃……中学生に入る前には、既にトップ配信者と言える人気と実力を兼ねそろえていた。
しかし、15才になる前————今から半年ほど前か? 彼女の、アオイの体に変化が現れた。
黒髪は金髪に、
黒い瞳は碧眼に、
なにより、耳が大きく尖り始めた。
ダンジョン病だ。
ダンジョン内に流れる膨大な魔力。それを浴び続けると、膨大な力と引き換えに風貌が変化してしまう病気。
ほら、ゲームでは転職したり、レベルアップを繰り返すと見た目が変わる事があるだろ? それと同じさ。それと同じことが現実でも起きるようになった……それだけ。
けれども、彼女は――――アオイは、それを酷く怖がった。
彼女曰く――――
『毎日、鏡を見るのが怖いの。自分が自分じゃなくなっていく』
だから、だから俺は――――
「ダンジョンの深層にある薬草……あらゆる病気に効果を発揮すると言われる。それを手に入れるためにヒカリくんは冒険者になった。そうよね?」
「はい、そのお通りです、ムラサキさん」と頷いた。
「他の人には理解できないと思います。ダンジョン病は力を手に入れた証明。それなのに治療しようとしてる感覚……」
「いえ、わかります。 私たちダンジョン安心保全委員会でも多くの相談は来ています」
「え?」と俺は驚いた。 ダンジョンの影響……それによる肉体の変化の悩み。そんな話を他では――――
「驚いたと思います。けれども、情報規制……ダンジョンにネガティブなイメージを感じる情報は世間に広まらないようになっている。そういう仕組みがあるのです」
「そんな……」と俺は次の言葉が出てこなかった。
「それじゃ行ってみない?」
「え? どこにですか?」
「どこって……そりゃ当然、ダンジョンの深部だよ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
俺は言われるまま車に乗る。 ムラサキさんが運転する彼女の車のようだ。
そうして、ダンジョンの前に到着した。
普段、そこには検問がある。
ダンジョンへ入る事は誰にでも可能だ。 しかし、行方不明者あるいは死者の把握のために、入り口では個人情報の記入を求められる。
そして、出る時にはドロップアイテム……貴重である採取品を確認させられる。
そんな厳しい監視の目がある場所————ダンジョン配信者にとっては、そんな場所であったはずだ。しかし――――
「お疲れ様です」と検問の監視員は最敬礼を持って、俺とムラサキさんを通した。
「はい、お疲れちゃん」とムラサキさんは慣れたように入るが、俺にとっては初めての経験にドギマギする。
「さあ、乗って」と用意されたのはセグウェイだった。
重心移動に反応して動く乗り物。初めて乗るけど、何とか……
「あっ、これ市販の物より速度出るように改造されているから気をつけてね。最高速度は100キロよ」
「は、早く! もっと早く言ってくださいよ!」
時速100キロで転倒したらシャレにならない。普通に大怪我だ。
そんなやり取りも交えながら、目的地が見えてきた。
「この先は――――ダンジョンの裏側ですか?」
ダンジョンの入り口は正面から1つのみ。
それ以外はない。 無理やり入り込む輩が出ないようにダンジョンは高い壁に囲まれている。
だから、ダンジョンの周囲を歩く意味はない。そのはずだった。
「これは? 入口ですか?」
「えぇ」とムラサキさんはいたずらっ子のように悪い笑みを浮かべた。
「ダンジョンの裏側には非公開の入り口がある。興奮してこない?」
そう言われたアオイは、ピクッと両肩を上げた。
「妹は病気で……その……」
「黒髪は金髪に、黒目は碧眼に、そして髪で隠してある耳」
「――――ッ!」と俺は何も言えなくなる。彼女は、ムラサキさんは事前に調べてきているのだろう。
「ダンジョン病……それもエルフ化が進んでいる」
「はい、半年前から……」
「うん、知っているわ」とムラサキさんは続けた。
「緋炎アオイ……登録名は、火川アカイ。誰もが知るトップ配信者の1人ね」
その通りだった。俺の妹 緋炎アオイはダンジョン配信者として才能があった。
いや、俺とは違って……眩しくなるほどの才能の持ち主であり、12才の頃……中学生に入る前には、既にトップ配信者と言える人気と実力を兼ねそろえていた。
しかし、15才になる前————今から半年ほど前か? 彼女の、アオイの体に変化が現れた。
黒髪は金髪に、
黒い瞳は碧眼に、
なにより、耳が大きく尖り始めた。
ダンジョン病だ。
ダンジョン内に流れる膨大な魔力。それを浴び続けると、膨大な力と引き換えに風貌が変化してしまう病気。
ほら、ゲームでは転職したり、レベルアップを繰り返すと見た目が変わる事があるだろ? それと同じさ。それと同じことが現実でも起きるようになった……それだけ。
けれども、彼女は――――アオイは、それを酷く怖がった。
彼女曰く――――
『毎日、鏡を見るのが怖いの。自分が自分じゃなくなっていく』
だから、だから俺は――――
「ダンジョンの深層にある薬草……あらゆる病気に効果を発揮すると言われる。それを手に入れるためにヒカリくんは冒険者になった。そうよね?」
「はい、そのお通りです、ムラサキさん」と頷いた。
「他の人には理解できないと思います。ダンジョン病は力を手に入れた証明。それなのに治療しようとしてる感覚……」
「いえ、わかります。 私たちダンジョン安心保全委員会でも多くの相談は来ています」
「え?」と俺は驚いた。 ダンジョンの影響……それによる肉体の変化の悩み。そんな話を他では――――
「驚いたと思います。けれども、情報規制……ダンジョンにネガティブなイメージを感じる情報は世間に広まらないようになっている。そういう仕組みがあるのです」
「そんな……」と俺は次の言葉が出てこなかった。
「それじゃ行ってみない?」
「え? どこにですか?」
「どこって……そりゃ当然、ダンジョンの深部だよ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
俺は言われるまま車に乗る。 ムラサキさんが運転する彼女の車のようだ。
そうして、ダンジョンの前に到着した。
普段、そこには検問がある。
ダンジョンへ入る事は誰にでも可能だ。 しかし、行方不明者あるいは死者の把握のために、入り口では個人情報の記入を求められる。
そして、出る時にはドロップアイテム……貴重である採取品を確認させられる。
そんな厳しい監視の目がある場所————ダンジョン配信者にとっては、そんな場所であったはずだ。しかし――――
「お疲れ様です」と検問の監視員は最敬礼を持って、俺とムラサキさんを通した。
「はい、お疲れちゃん」とムラサキさんは慣れたように入るが、俺にとっては初めての経験にドギマギする。
「さあ、乗って」と用意されたのはセグウェイだった。
重心移動に反応して動く乗り物。初めて乗るけど、何とか……
「あっ、これ市販の物より速度出るように改造されているから気をつけてね。最高速度は100キロよ」
「は、早く! もっと早く言ってくださいよ!」
時速100キロで転倒したらシャレにならない。普通に大怪我だ。
そんなやり取りも交えながら、目的地が見えてきた。
「この先は――――ダンジョンの裏側ですか?」
ダンジョンの入り口は正面から1つのみ。
それ以外はない。 無理やり入り込む輩が出ないようにダンジョンは高い壁に囲まれている。
だから、ダンジョンの周囲を歩く意味はない。そのはずだった。
「これは? 入口ですか?」
「えぇ」とムラサキさんはいたずらっ子のように悪い笑みを浮かべた。
「ダンジョンの裏側には非公開の入り口がある。興奮してこない?」
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