へいこう日誌

神山小夜

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第38話 成人式

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 あれから五年……。
 私は専門学校二年生の二十歳になっていた。
 介護福祉士になるため、国家試験の勉強に励んでいる。
 今日は、市主催の成人式。
 私は青色の振り袖を身にまとい、母と一緒に会場に玄関前に立っていた。

「なっつー?」

 振り向くと、オレンジ色の振り袖を着た千秋が母親と一緒にこちらに向かって歩いてきていた。

「久しぶりー! 高校生の時以来だねー」

 千秋とは高校生の時、通学の電車が一緒の時間に乗っていたため、高校三年間朝と夕方はしょっちゅう会っていた。
 高校卒業後、千秋は県外にある漫画家の専門学校に進学したため、二年間は会っていなかった。
 
「なっつ、変わってないからすぐに見つけれたよー。あとはふーか……」
「そうだねー。あいつ、相変わらず、ギリギリだなー」
「変わってないね」
「てか、お前の方こそ変わってないからな!」
「うちは、そう簡単には変わんないよー」

 そう言っていると、遠くから私達の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「なっつー! ちあきー! ごめーん! おくれた~」

 白色の振り袖を着たふーが猛ダッシュで走って来た。
 まるで猛獣が獲物を目掛けて走っているようだ……。

「いや~。今年暖冬で雪積もっていないから、走りやすい! 走りやすい!」

 着物が乱れていることを指摘しようとすると、後方から猛ダッシュでふーのお母さんが走ってきた。

「ちょっと、ふーちゃん! 走らないの! 着物ちゃんと着付けてもらったのに、乱れちゃったじゃない!!!」

 ふーのお母さんは追いつくと、いきなり雷を落としてきた。

「ごめんなしゃ~い」
「ふーも相変わらずだね……」
「千秋もね! なっつも背、変わんないね!」
「この歳になれば背なんて、もう期待できないっしょ……。てか、五年ぶりに会っておいて、いきなり背のことを言ってくるとは……。もっとこう、他にも言うことあるだろ?」
「う~ん……」

 考えるな……。
 私はそう心の中でツッコんだのであった。
 ふーは高専五年生だ。
 バイオテクノロジーの勉強をしている。
 私達は会場に入り、成人式に出席した。
 成人式では、出身中学校ごとに席が分かれていた。
 席に着くと、千秋が話し掛けてきた。

「そういえば、今晩、近くのお店でみんなで夕食食べるんだよね? 本当に先生達来れるのかな?」
「大丈夫! 川村先生も内藤先生も来れるってさ!」

 今晩の食事会に担任だった川村先生も呼んでいたのだ。
 歴代の姫乃森中学校の先輩達は成人式後の食事会で中学校の時の担任の先生を呼んで、会食をしていた。
 姫乃森の風習みたいな感じである。
 その風習に習って、ふーが川村先生にアポを取ってくれて、会食の準備をしてくれていたのだ。

 川村先生を呼んだはずであったのだが、なぜかもれなく内藤先生もついてきた。
 川村先生と仲が良かったからだろう。
 呼んだのもきっと川村先生だろう。
 成人式終了後、予約していたお店の前まで移動した。
 お店の前で先生達と待ち合わせをしていたのだ。
 私達が到着すると、まもなく先生達が来た。

「久しぶりー!」

 相変わらずのお相撲さん体型の内藤先生と……。ん?
 川村先生の様子がちょっと違って見える。

「ご無沙汰しています。あの~、川村先生。髪、染めました?」

 明らかに茶髪から黒に染めているのが分かる!
 川村先生に会ってすぐ、私は思わず聞いてしまった。

「あ~、これね~。話せば長くなるから、とりあえず、お店に入ろうか」

 私達は店の中に入って、予約席に座った。
 予約をしていたこともあって、テーブルには既に鍋の準備がしてあった。

「みんな、成人おめでとう! あれから五年かぁ~。みんなあんまり変わってないねー」
「いやいやいやいや……。川村先生、どうしたんですか!? なんでそんなに真面目になっちゃったんですか!?」

 ふーが目を大きくして言った。

「オレ、真面目でクールでナイスガイだからぁ……」
「えぇ……」

 私達三人は思わず引いてしまった……。

「まぁーまぁー、三人とも。川村先生もいろいろあったんだよー」

 内藤先生が間に入って川村先生のフォローをした。
 内藤先生も相変わらずだ。
 川村先生の保護者役は健在のようだ。

「そうなんだよー。オレ、姫乃森中学校から町外の中学校に赴任したじゃん。その赴任先の中学校でさー、出勤初日にいきなり校長室に呼ばれてさー。そしたら、校長先生から『赴任式の前までに髪を黒に染めてきて下さい』って言われてさー。ショックだったよ~。あの髪型気に入っていたのにぃ……。ありえないよねッ!?」

「うん……うん。それはですねー。姫乃森だったからこそ、問題なかったことであって、やっぱ、他のところでは通用しなかったってことで……。てか、姫乃森の校長先生が優しかっただけですよ」
 
 千秋が冷静にツッコんでくれた。
 私とふーは呆れすぎていて言葉が出てこなかった。
 今度は髪型のことだけではなく仕事のことまで愚痴り始めた。

「あとさー、姫乃森の時はさー。人数が少なかったからテストの採点も直ぐに終わったし、成績もつけやすかったから、仕事が早く終わって楽だったのに……。異動したらさー、人数が多くてテストの採点も時間かかって残業したり、休みでも学校に行って仕事したりしなきゃいけないしー。成績もさー、人数多くて一人ひとりが分かんなくなってつけるのが大変でさー。姫乃森は楽しかったな~。休み時間に生徒達と一緒にバスケやバレーとかやって遊べたしー」
 
 内藤先生も川村先生の話を聞いて大きく頷いていた。
 たしかに……。
 小さい学校に慣れてしまった先生は大変だろうな……。
 そう思っていると、注文していた飲みの物が届いた。

「さー! 今日は無礼講ですよ! 食べて飲んで楽しみましょー!」

 ふーはテンションを上げて言った。
 私はお酒が飲めないため、メロンソーダを注文した。
 他のみんなはお酒を飲めるようでお酒を頼んでいた。

「なっつ、おこちゃまだねー」

 ふーが言ってきた。

「うるせー。チャレンジしたことはあるんだけど、動悸がして体が受け付けなくてな」
「さぁー、乾杯しよう!」

 千秋が音頭をとるように言った。

「成人おめでとう! 先生もマンモス校に行ってもガンバー! かんぱーい!」
「かんぱーい!」

 私達はご馳走を食べてながら再会を楽しんだ。
 ご馳走を食べるごとにお酒も進む。
 そう……。
 お酒も進むのだ……。

「ねぇ、ふー。本当に大丈夫?」

 千秋が心配そうにふーに話し掛けていた。

「大丈夫! 大丈夫!」
「だって、ペース早すぎだよ……。」
「大丈夫だってさー! 無礼講! 無礼講! あ、すみませーん! レモンサワーひとつぅ!」

 千秋の言う通り、確かに酒を飲むペースが早いようにも思える。
 顔もなかなか赤く見える。

「おい、ふー。明日タイムカプセル堀りに行くんだろ? 明日に備えて、もうそのへんにしたほうが……」

 私がそう言うと、いきなりふーが席を立った。
 なんか、手で口元を抑えている。

「ごめん、後ろ通る……」
「あー、良いよ。トイレ?」

 と言い、私が席をずらすと

「おえぇーーーーーーーーーーーーーー」
「おいぃーーーーーーーーーーーッ!!!」

 やってしまった……。
 もう少しで頼んでいたレモンサワーがテーブルに到着するところだったのに……。
 席を離れた瞬間、ふーは床に盛大なキラキラを放ってしまったのであった。

 レモンサワーを運んできた定員さんが、慣れた手つきで清掃道具を瞬時に持ってきて清掃を始め、応援に来たもうひとりの定員さんが、ふーのことをトイレまで案内してくれた。
 私と千秋は店員さん達に何度も謝罪をした。
 そういえば、近くで親達が会食していたな。

「千秋。ちょっと親達に電話するわー」
「その方が良いかもね。頼むわー」

 私は母の携帯に電話を掛けた。

「あー、もしもし? あのさー、今ふーがさー、酒飲みすぎて吐いちゃってさー」
「えっ!? ふーちゃん、吐いたの!?」

 その瞬間、電話口でふーのお母さんが

「えー! まったくあの子は……。あれほど、ほどほどにしろって言ったのに……」

 と、呆れた声で言っているのが聞こえた。

「ご飯食べ終わったの?」
「うん。ちょうど食べ終わったところ」
「んじゃー、今から迎えに行くから」
「あー、分かったー」

 母との電話を切ると、ふーが清々しい顔でトイレから帰ってきた。

「ごめんごめーん! いやぁ~、すっきりしたぁ~!!!」

 ごめんじゃねーよ。
 いきなり目の前で吐かれた私達の身にもなってみろ……。
 そう、私と千秋は思ったのであった。

「ふー、お母さん達今から迎えに来るってー。会計も済ませておいたから玄関で待っていよう」

 そう言うと、一気にふーの顔色が変わった。
 こいつ、またキラキラを放つつもりか!?

「なっつ、お母さんに言ったの……?」
「うん。もう、ご飯も食べ終わったところだったし」
「お母さんなんか言ってた?」
「電話口で呆れたとか言ってたのは聞こえたけど……」
「怒ってた?」
「分かんねー。会ってみないと……」

 ふーは母親に怒られると思っているようだ。
 そりゃー、忠告されていたにも関わらず無礼講してしまったのだから……。
 店の外で待っていると親達が来た。
 いくら辺りが夜で暗くても分かる。
 ふーのお母さんが怒っている様子が……。

「ふーちゃん! あれだけ、お酒はほどほどにって言ったのに! あら~、先生方、ご無沙汰しています。ご迷惑おかけしました」
「なー、千秋」
「なんだ? なっつ」
「今日私、ふーのお母さんがふーに怒っているところしか見ていないような気がする」
「まぁー、いつものことでしょ。一番変わっていなかったのは、ふーなのかもしれないね」
「そうだね……」

 時計の針は二十一時を指していた。
 私は先生達の方を向いて挨拶をした。

「明日も早いし帰ろうか。先生、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、呼んでくれてありがとうね。元気で頑張ってね」
「はい! ありがとうございます! また会食しましょうね」
「そうだね。じゃーまたねー」

 そう言って、川村先生と内藤先生は、運転代行の車に乗って帰って行った。

「私達も解散しようか。えーっと。私が千秋と、ふーのことを車で迎えに行って中学校まで行けば良いんだよね?」
「そうそう。運転よろしくね」
「はいよー」
「なっつの運転する車に乗るの楽しみー!」

 母親に怒られていたふーが話に加わってきた。

「ふーは実家まで迎えに行くのだから、車に乗ってる時間は二十秒ぐらいでしょ? 何なら、学校まで歩いて来いよ」
「えー。なっつが運転している車に乗りたい!」
「はいはい。分かりました。二人共、明日はよろしくね」
「はーい」
「じゃー、おやすみー。気をつけて帰ってね」

 こうして私達は帰宅の途に着いたのであった。
 明日は五年越しの約束の日……。
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