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役に立ちたい
役に立ちたい②
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「ねぇ吉岡くんって今日、用事ある?」
赤い矢羽模様の着物を身に付けた國枝が下駄の音を響かせながら、吉岡に向かってきて話しかけてくる。
俺は國枝がきた途端に吉岡が文化祭の自由時間に誘われているのかと思ってドキリとし、顔を顰めていた。
「今日は辻本のステージの手伝いしなきゃいけないんだけど、どうした?」
壁に寄りかかってスマホを眺めていた吉岡は目線を國枝に向けると一歩前に出た。
俺も自然と寄りかかるのを止めると彼の背中を眺めて不安になりながらも國枝の次の言葉を待つ。
「一人欠席しちゃって·····ホールが足りないの。みんなに頼んでも用事あるって断られちゃって、この際男子でもいいかなーって·····」
優作の不安は単なる杞憂に終わり、人員不足のお願いだと分かるとホッする。
吉岡が女子を好きになってもおかしくないだけに押されたら簡単に流れそうな気がして····。
前に恋した時みたいに好きな人が別の人の事が好きで一喜一憂してる姿はもう見たくないから……。
「ごめん。代わりに別のやつにも声掛けてあげようか?」
普通ならごめんで終わる話だが、吉岡は代わりの奴を探すという。
自分は忙しいはずなのにお人好しにも程がある。
吉岡らしいのは分かっているけど、吉岡の優しさで惚れるやつが居そうで、俺にとっては不安の要因でしかない。
優しさの安売りなんてして欲しくなかった。
「そう?頼んでもいい?」
吉岡に任せられる安心感からか、國枝の表情が軽くなった気がした。
「うん」
そう頷いていたが心做しか困惑した表情の吉岡。あてなんてあるのだろうか·····。
辻本と飯田はダメだろうし、片っ端から声掛けるにしてもみんな準備で構内に散らばっていてすぐなんて見つからない·····。
もし出れる人がいなかったら多忙でも自分が出るといい出すんだろうか。
「俺、出てもいいよ」
「えっ、優?」
吉岡が振り返り、目を丸くしながら此方を見てくる。同じく國枝も突然の優作の発言に驚いているようだった。
「昼までなら俺、暇だし」
「ほんとっ?!桜田くんが出てくれたら助かる
!」
國枝が顔をキラキラさせては期待の眼差しで此方を両手を拝むように見てくる。
「和風喫茶だし衣装とかどうすんの。女子用しかないんでしょ?」
「あ·····」
吉岡の指摘から國枝は思い出したように固まってはガクリと肩を落とす。
「男用の着物ある人なんてないよねー今から作るの間に合わないし·····。やっぱり女の子で探すべきかなあー」
「楓なら着物持ってるだろうから心配ないけど」
楓は仕事とプライベート問わずいつも着物を着ている。元々男だし、きっと男用の着物を持っている気がした。
「ほんとっ!家に着物あるの?楓ってもしかしてお姉さん?呉服店とかだったりするの?」
國枝が食い気味になりながら質問を次から次へと投げかけてくるのに圧倒されて一歩引く。
「國枝、食い気味になりすぎ。優、引いてるよ」
「ごめん。桜田くんって不思議なことが多いからちょっと気になっちゃって」
確かに吉岡以外の奴と関わって来なかったから、俺の内情に興味が湧くのは人間の自然な心理なんだろうが
人に内情を訊かれるのは得意ではないだけに返答に困っていた。
吉岡に注意をされて頭を下げた國枝は「桜田くん、それじゃ、よろしくね!」と言ってはその場を去っていく。
國枝が去った後、吉岡と目が合う。
自分がここまで学校行事に積極的になることはないからなんだか気恥しくて直ぐに目を逸らした。
でも、吉岡の為になるならと思って引き受けたこと。どんな些細なことでも吉岡の為になることをしたい·····。
「優、ありがとう!楓さんにもお礼しなきゃね」
吉岡に笑顔でそう御礼を言われた時、心底引き受けて良かったと思った。
赤い矢羽模様の着物を身に付けた國枝が下駄の音を響かせながら、吉岡に向かってきて話しかけてくる。
俺は國枝がきた途端に吉岡が文化祭の自由時間に誘われているのかと思ってドキリとし、顔を顰めていた。
「今日は辻本のステージの手伝いしなきゃいけないんだけど、どうした?」
壁に寄りかかってスマホを眺めていた吉岡は目線を國枝に向けると一歩前に出た。
俺も自然と寄りかかるのを止めると彼の背中を眺めて不安になりながらも國枝の次の言葉を待つ。
「一人欠席しちゃって·····ホールが足りないの。みんなに頼んでも用事あるって断られちゃって、この際男子でもいいかなーって·····」
優作の不安は単なる杞憂に終わり、人員不足のお願いだと分かるとホッする。
吉岡が女子を好きになってもおかしくないだけに押されたら簡単に流れそうな気がして····。
前に恋した時みたいに好きな人が別の人の事が好きで一喜一憂してる姿はもう見たくないから……。
「ごめん。代わりに別のやつにも声掛けてあげようか?」
普通ならごめんで終わる話だが、吉岡は代わりの奴を探すという。
自分は忙しいはずなのにお人好しにも程がある。
吉岡らしいのは分かっているけど、吉岡の優しさで惚れるやつが居そうで、俺にとっては不安の要因でしかない。
優しさの安売りなんてして欲しくなかった。
「そう?頼んでもいい?」
吉岡に任せられる安心感からか、國枝の表情が軽くなった気がした。
「うん」
そう頷いていたが心做しか困惑した表情の吉岡。あてなんてあるのだろうか·····。
辻本と飯田はダメだろうし、片っ端から声掛けるにしてもみんな準備で構内に散らばっていてすぐなんて見つからない·····。
もし出れる人がいなかったら多忙でも自分が出るといい出すんだろうか。
「俺、出てもいいよ」
「えっ、優?」
吉岡が振り返り、目を丸くしながら此方を見てくる。同じく國枝も突然の優作の発言に驚いているようだった。
「昼までなら俺、暇だし」
「ほんとっ?!桜田くんが出てくれたら助かる
!」
國枝が顔をキラキラさせては期待の眼差しで此方を両手を拝むように見てくる。
「和風喫茶だし衣装とかどうすんの。女子用しかないんでしょ?」
「あ·····」
吉岡の指摘から國枝は思い出したように固まってはガクリと肩を落とす。
「男用の着物ある人なんてないよねー今から作るの間に合わないし·····。やっぱり女の子で探すべきかなあー」
「楓なら着物持ってるだろうから心配ないけど」
楓は仕事とプライベート問わずいつも着物を着ている。元々男だし、きっと男用の着物を持っている気がした。
「ほんとっ!家に着物あるの?楓ってもしかしてお姉さん?呉服店とかだったりするの?」
國枝が食い気味になりながら質問を次から次へと投げかけてくるのに圧倒されて一歩引く。
「國枝、食い気味になりすぎ。優、引いてるよ」
「ごめん。桜田くんって不思議なことが多いからちょっと気になっちゃって」
確かに吉岡以外の奴と関わって来なかったから、俺の内情に興味が湧くのは人間の自然な心理なんだろうが
人に内情を訊かれるのは得意ではないだけに返答に困っていた。
吉岡に注意をされて頭を下げた國枝は「桜田くん、それじゃ、よろしくね!」と言ってはその場を去っていく。
國枝が去った後、吉岡と目が合う。
自分がここまで学校行事に積極的になることはないからなんだか気恥しくて直ぐに目を逸らした。
でも、吉岡の為になるならと思って引き受けたこと。どんな些細なことでも吉岡の為になることをしたい·····。
「優、ありがとう!楓さんにもお礼しなきゃね」
吉岡に笑顔でそう御礼を言われた時、心底引き受けて良かったと思った。
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