交わらない心

なめめ

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近づきたい

近づきたい③

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あと少しなのに吉岡に触れられない·····。
それは自分がはっきりと吉岡に「好きだと」示してないからだ。


吉岡は真面目だから、ひとつひとつ段階を踏むタイプ何じゃなんじゃないだろうか。

そう考えたら先程、手を除けられた理由も納得がいく。俺たちはまだ唯の友達。

眉を潜めてこちらを見ている彼の視線が何を考えているのか分からなくて怖気づきそうになったが、俺は静かに息を吐いて顔をあげると吉岡を見た。

この関係を保持するために冗談だったなんて逃げることはできるけど
、それだとその先へ進むことができず平行線のまま。こんなに吉岡のことが好きなのにそれは嫌だった。

もっと一歩先に行きたい.......。

「吉岡.......。俺が.......俺が付き合ってって言ったらどうする?」


「..............どういうこと?」

「だから·····俺が吉岡と友達じゃなくて·····好きだから付き合って欲しいって言ったら.......」

優作なりの精一杯の告白だった。
握る掌に更に力が入る。「嬉しい、優がいいなら付き合おう」と返ってくるだろうか.......。返ってきてほしい.......。俺も同じ気持ちだって.......期待で胸が踊る。


「それは本気?」

「えっ·····うん」

吉岡の瞳孔が驚いていると物語ってるかのように開かれたかと思えば、目を伏せて此方を見ようとしてくれなかった。

「優、そういう冗談は良くないよ。優は篠崎に振られたり水澤のことあったりで寂しくて人肌恋しくなってるのかもしれないけど、だからってそれは良くない」


「違う。お前となら友達じゃなくてちゃんとそういう·····関係でもいいって.......」

「違わないよ。俺を利用していいとは言ったけどそういう風には使って欲しくない。妥協して俺なんて、優はちゃんと好きな人見つけて幸せになってよ。優に好きな人ができても友達は辞めないからさっ.......」

「·····だから好きな人は·····」

足音が此方へ向かってくる声が聴こえ、上下ジャージの生徒指導の教員と目が合う。
向こうも人が居ないと思っていたのか、驚いた表情をしては、俺たちを見るなり「お前らさっさと帰れ」と促されてしまう。

吉岡は酷くお退けた表情をして「すみませーん」と謝っては、教員を横切ると優作も一礼して彼の後について行くしかなかった。

帰り道、吉岡と一緒に帰って嬉しいはずなのに心ここに在らず。先程のことがなかったかのように普段と変わらない口調で話してくる吉岡。

自分も吉岡が好きだと言ったら、簡単に恋人になれるものだと思っていた。
人の心なんてスグに変わってしまうものだと思っていたけど、吉岡の心も変わり始めてるんじゃないだろうか.......。 


バスで吉岡が先に降りていく姿を見ては急に寂しくなり前の座席の手すりを掴んでは手の甲に額を付けて俯いた。

近くにいるのに遠くて、こんなにも想いは届かないものなのだろうか·····。


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